表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
190/332

俺、今、女子敗戦処理中

 さて、下北沢花奈(メガネっ娘)の投入の最終局面となったOBAKE作戦であったが……。

 結論から言うと失敗した。

 ——大失敗した。

 せっかく事前に練り上げた作戦を急に変更したのが悪かったのかもしれない。

 最初は下北沢花奈の役どころは、元カノで考えていた。俺——向ヶ丘勇と嫌な感じで別れた恨みを持ってる女性、これを、それじゃインパクト弱いと今カノ設定に変えた上の……失敗だった。

 まあ、もちろん、本当の俺は彼女どころか、肉親以外の女性との会話回数さえ覚えられてる範囲に軽く抑えられているような非モテくんであった。例のジョ◯ョの有名なシーンを読んでいた時、もしディオに『おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?』と言われたら『女性と話した回数なら覚えてます』と返してひかせてやろうと瞬間的に思ったほどの俺である。

 まあ、もちろんこの体入れ替わり現象に巻き込まれて否応なくリア充生活に巻き込まれてからは女性との関わりが増えたというか、自分が女性になってしまっているわけだが、——ともかく元カノなんてとんでもない!

 でも、美唯ちゃんに俺——向ヶ丘勇を嫌いになってもらうためには元カノが現れて罵倒するというのは良いんじゃないかなと思ったのだった。

 という、作戦をたてたのだった。

 そんなろくでなし男は愛想つかした——となって欲しかったのである。

 で、作戦を始める前は、そんな方向で下北沢花奈と入念に打ち合わせて台本を作っていたのだが……。

 ——今日の流れから見て、それじゃ弱いなと不安になった。

 もし元カノからネガキャン情報を流されたとしても、それがうまくダメージとして通らなないのではないか? 恋は盲目というじゃないか。元カノ(設定のメガネっ娘)が騒ぎ立てても、今日のアキバデートの途中でフォール・イン的な美唯ちゃんの、恋愛プロテクターがすべて弾き飛ばしてしまうのでは?

 と思ってしまったのだった。

 だから下北沢花奈の役どころ——設定を今カノに変えた。

 さすがに、彼女がいるならあきらめるだろうと思ったのだが、


『自分が彼女だと思い込んでる少しヤバイ人でしょあれ』


 デートの帰り、美唯ちゃんが喜多見美亜(あいつ)に話した言葉だそうだ。


 正直——今日の下北沢花奈の行動では否定できない。

 『泥棒猫発言』から始まり、『私の勇に近づかないで』とか、『お勇ちゃんどいて! そいつ殺せない!』とか……。

 作戦途中の役柄変更のため、ほぼアドリブとなるのだが……、自信ありそうだから任せてみたが、オタ充女子の考える熱烈彼女は、少し一般ピーポーの常識とはかけ離れてしまっていた。よく考えたらあのメガネっ娘(下北沢花奈)、恋愛経験なんてなさそうで、すべて自分の同人活動の延長で演技をしてしまったような。

 喜多見美亜(あいつ)もあきらかに引いた顔をしていたし、人が少なかったはずの神田明神境内のどこからこんな? といったくらい群衆(モブ)が集まって来て……。

 早々に、作戦終了の命令を出した俺であった。

 負け戦と分かったら、被害が深刻化しないうちに撤退がセオリーだ。

 壁に耳あり、障子に目あり。

 俺——向ヶ丘勇が公共の場のど真ん中で修羅場となっていたなんて噂が広がるのは嫌だ。誰か知り合いが近くにいないとも限らないし、この頃では見ず知らずの人のSNSの投稿から足がついて、なんていうのもありえる。写真まで取られなくても、面白おかしく書かれてバズっちゃえば『修羅場カップルいた』ぐらいのコメントから、本人特定までの流れまで行かないとも限らない。

 だから、これはもうだめだと思った俺は、SNSとかでなく下北沢花奈に直電。さすがに俺からかかってきたら緊急事態と思って出たメガネっ娘は、


『サー、イエッサー!』


 と言うと唖然とした喜多見姉妹を境内に残すと、中腰、というかへっぴり腰気味の妙な体制で忍者みたいな走法でさっさと消え去ったのであった。


   *


 そして、次の日。日曜の朝。またまた緊急対策会議の俺達であった。

 場所はいつものあまり人気のない神社。喜多見美亜(あいつ)と俺が日に一度、キスで入れ替わったのだからキスをすれば戻らないのかトライを続けている場所だ。

 まあ、あいつ以外に入れ替わっているときは、更にキスで入れ替わってしまったら話がさらにややこしくなるからしてないが、そんなときはそんな時でこうやって打ち合わせの場所に使ったりもするので訪問率の多い場所である。

 境内自体は、その中に林もあったりして結構広いのだが、昨日の神田明神とは違って、小さな本堂がぽつんとあるだけの無人の小さな神社なので、特に、朝早くだと、近くの人の犬の散歩くらいでしか人が来ない。

 なので、こんな作戦会議にもピッタリの場所となるのだった。

「昨日は失敗だった」

 俺は自らの反省の意も込めて、みんなに頭を下げながら言う。

「いえ、私たちも力足らずで」

 百合ちゃんも申し訳なさそうに目を伏せる。

「やっぱり今カノ役はわたしがやるべきだったね。そのほうがぴったりだったもの」

「あ、お母さんずるい。お父さんの彼氏役はセナなんだよ」

「だめだめ、そういうのは親に譲るものよセナ」

 なんだか、いつも脳天気な片瀬母子(?)であった。昨日の失敗もまるで気にしてなさそうなのはある意味ポジティブか。

「ともかく、失敗してしまったものはしょうがないじゃない。この後、どうするかが問題でしょ」

 おっと喜多見美亜(こっち)もポジティブだな。

 ただこいつは勢いで突っ走る傾向があるから、

「なるほど、こういうことになっていたわけね……」

 いつも冷静な女帝——生田緑を今日は呼んでいる。

 というか、一度俺と入れ替わっていて、事情をよく知る女帝なので、本当は昨日のOBAKE——お兄ちゃんの、バカ、アホ、嫌い、縁を切る——作戦に参加してもらったほうが良かったのだが……。

 やっぱ怖いじゃん女帝。前よりだいぶ打ち解けているとはいえ。

「……昨日も私が入っていたら、そんな馬鹿な作戦はさせていなかったのに」

 いや、その通りでございます。

 なので、今日はご指導ご鞭撻賜るべく、恐怖心を乗り越えて、ご足労願たっというわけでございます。という所存に存じます。

「あたしも、途中からこれはどうかなって思ってたけど……美唯と一緒にブラブラするの久しぶりで面白くて、なんか別に良いかなって……」

 あいつの最愛の妹だからね美唯ちゃん。体入れ替わり起きてから、一緒に出かけることもなくて、妹成分が足りていなかったのかもしれない。まあ、その妹が入っている体は自分自身であるが。やはり、姿は変わっても心が感じられるものなのか、それとも、自分妹が中に入った自分の姿は成長した美唯ちゃんに見えたのか。

 ——どちらにしても昨日の作戦は失敗であったという事実は動かしがたい。いまさらだが、最後を下北沢花奈——あの後、徹夜で同人誌作成をしえいたので今は欠席——以外でやってたらどうかと考えないでもない。

 が、結局、俺が、俺であることで美唯ちゃんに嫌われようと思ったOBAKE作戦は、俺でない虚偽の人物を作って嫌ってもらおうと言う方向に走った時点で失敗が約束されてしまったのかもしれないなって思う。

 美唯ちゃんの純粋な瞳は、付け焼き刃ではごまかせない。なので、オタッキーデートで嫌われなかった時点で昨日は失敗であったのだろう。嫌われるにしても、俺、他に芸無いしね。

「で……、今日はどうするかだが」

 体を元に戻すのは週末過ぎるまで待ってほしいというのが美唯ちゃんの希望であった。

 そのあいだなるべく俺——中身は喜多見美亜(あいつ)——と触れ合って、満足したら入れ替わるからという約束だ。それなら、どうせ会わないと行けないのなら、この後、向ヶ丘勇のことなんて興味が無くなるほどに嫌われてしまえば良いというのが俺の考えた方針だったのだが、

「むしろ、下手なことしないで、ただだらだらデートして別れれば良いと思うわ。今日も会わないといけないのなら」

 まるで反対の意見の生田緑であった。

「……取ってつけたように変なことしても失敗しちゃうのは昨日で身にしみたんでしょ。なら、やれることで何ができるのか考えないと」

 確かに、そのとおりである。

 でも、なら、何をするのかというと、

「ああ、そうだ。満足させればいいんだよね、美唯を。その上で後をひかなければ良い」

 ん? 確かにその通りだが、言うは易しだぞ……。喜多見美亜(あいつ)になにかアイディアあるのか?

 こいつ、ノリだけで言うことあるから、信用して良いのだろうかとと思いつつ、俺は、我に策あり的に不敵に微笑むあいつを、藁にもすがる的な気分で眺めるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ