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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子渡河中

 やはり他力本願ではだめだったということか……。

 今、PCのパーツ屋で、喜多見美亜(あいつ)の気持ち悪いところを最大限に引き出して美唯ちゃんを呆れさせる作戦だったのだが、——さすが姉妹である。そんなキモいあいつの様子など、とっくに何度も見ているのだった。

 その上で重度の姉ラブなのが美唯ちゃんである。異常な行動に見えても、そんなことはまるで気にならないようなのだった。別に、萌えた対象がアニメキャラとかでも特に気にならないようだった。

 それは、たぶん、姉だからというよりは、多分アニメにそんな偏見ないんだな美唯ちゃん。彼女は、別にオタクだというわけでは無いと思うが、まだ中学一年。子供向けアニメなんかみてても別に子供っぽいとか言われない歳だよな。ならば、そもそも偏見もまだ生まれにくい。

 アニメ見てる人特殊な人的な、差別区別がまだ起きにくいかもしれないのだ。

 世にオタクとか言われてバカにされてる対象となっている人とかがいることは知ってるだろうが、その実例が、姉(が入れ替わっている男子高校生)の行動にあてはまるとは思っていないのだろう。

 うむ。

 それは……。

 つまりだな。


 ——困ったな。


 今日のOBAKE作戦——美唯ちゃんに嫌われるための我らのミッションにおいて、あんまりオタクアピールは効果がないかもしれないということであった。

 この後も、ゲームとか、アニメの円盤(DVD)とか、いろいろ一緒に回って呆れられようと思ってたのだけど、今なんとなく気になるお兄さん——本当は中身はお姉さん——たる俺——向ヶ丘勇の行動はただ憧れの大人の行動と思われちゃうかもしれないな。

 すると、一気に作戦の幅が狭まってしまうな。

 と、

「……ううむ」

 俺が悩んでいるところに、

「勇くん?」

「はい?」

 百合ちゃんが声をかけてくる。

「私……そろそろ行くね」

「あ、そうか」

 そろそろ天使(百合ちゃん)の出番である。

 いや、本当はちょっと早いのだが、仕込んでいたオタクコンテンツ系ショップ巡りは不発かもしれない——ならば自分の出番が早くなるのではと思っての発言であろう。

 相変わらず気が利く良い子である。

「……ちょっとめんどくさい役目だけど」

「いえ。向ヶ丘くんにはいろいろとしてもらったから……これくらいは……でも」

 でも?

「本当に良いのかな」

「なにが?」

「やっぱりちょっとひっっかるな」

「気にしないでくれ」

 たぶん、俺を嫌わせるという、そんな作戦ことに加担するのを嫌がっているのだと思うが、

「ううん。そういう意味でなくて……。確かに、向ヶ丘くんをわざわざ貶めるという今回のやり方には、——他に方法は無いのかと思うけど、考えつかないのでしょうがないと思ってて……」

 そうではなくて?

「美唯ちゃんが、本当(・・)の向ヶ丘くんのことを好きになっているわけでないのだから、そのねじれた今の状態のままにしておけないとおもうのだけれど……」

 なんだろう……?

「……本当の向ヶ丘くんを知った美唯ちゃんが、どう思うかって……」

「?」

「ああ、いいの。ともかく悩んでたってしかたないので……行ってきます」

 ふむ。

 何か気がかりなのか、いまいちはっきりとしなかったが、決心して出発する百合ちゃんの後ろ姿を見ながら、俺は漠然とした不安にとらわれるのであった。

 果たして、今日の作戦(ミッション)は根本的に何か方向を間違えていないかと。

 しかし、

「もう、始めたんでやるしか無いんだよな……」

 そういうことなのだ。

 かつてのローマ元老院と敵対することを決心したカエサルがルビコン川を前にした時のように、今、俺は戻れない一線を前にしているのかも知れない……。

 賽は投げられた。

 俺は心のなかでつぶやくのであったが、


「時に、その言葉はおかしくないのかの? なんで、まだ川を渡っていないのに、賽が投げられてしまってるのじゃ?」


「え? あ、それは……」

 また俺の心の声につっこんでくるローゼさんであるが、この人の不思議を詮索しているとそれだけで一日終わりそうなので、

「……確かにその疑問は昔からあったみたいで」

「ほう」

 そのまま会話を続けることにする。

「カエサルという歴史上の人物が……」

 と言いながら思ったが、ローゼさん、さすがカエサルは知ってるよね? 英語よみでシーザー。

「知らんの」

「え、そうですか……」

「なんとなくハゲの女たらしの姿が思い浮かぶのじゃがのう」

 知ってるんじゃないか!

「知らんのう。帝王切開の語源と関連してそうな予感がするがの」

「いや……それはドイツ人がラテン語からの翻訳で同じような発音する言葉でミスったという説が濃厚で……そのあとカエサルが帝王切開で生まれたから帝王と名前がついているという俗説広まりましたが、そもそも、その話も、カエサルは帝王になってないから間違っているというか……」

「ほうそうなのか。カエサルとやらは帝王になっておらぬのか」

「実質、ローマの帝政はカエサルが創始者なんでしょうし、ローマの皇帝伝にも乗ってるそうですが、完全にその野望を成し遂げる前に暗殺されたので、実際に初代皇帝なったのはカエサルの養子のオクタウィアヌスですよ」

「なるほど、実質戦国日本統一を成し遂げたのは織田信長じゃが、彼は関白でも、将軍でもないからの。つまり、そういうことじゃろ?」

「まあ、そうですが……」

 なんで西欧人に見えるローゼさんが、日本史は詳しいがローマ史は知らないのかわからないが、

「それは、高校で日本史を選択してな……」

 もしかしてローゼさんは日本生まれなのだろうか、

「いや、魔法帝国の生まれであるぞ」

「あ、それ今良いですから」

「そうかの……」

 これ以上脱線されても困るので、

「……話をルビコン川に戻しますが」

「うむ」

「カエサルが決心して渡ったその川は、当時のローマ本国とカエサルが遠征に言ってた属州との境の川で、そこを渡るということはローマへの叛意ありと見なされることから、自分の軍隊の意思をここで統一するために賽は投げられたという言葉を言ったと言われてます」

「それはわかった……のじゃが、それじゃ、川をわたる前に言うのはおかしかろう。川を渡って初めて『投げられた』じゃろ」

「そうなんですよ。そういう疑問は昔からあったようで、本当は『投げろ』なんじゃないか、もともとギリシアで、何か不退転の決意をする時に言う『賽は投げられるべし』ということわざがあったみたいで、それをカエサルの伝を書いた人が間違ったのではとか……」

「ありそうな話じゃの」

「別の文書なんかでは『賽は投げられるべし』になっている例もあるようですからね。ただカエサルがいい間違えただけかもしれないし、昔の話なんで何が正しいかはもうわからないですよね」

「確かに『賽は投げろ』と『賽は投げられるべし』はestとestoが違うだけじゃからの。いい間違いも、聞き間違いも、書き間違いもどれでもありそうなものじゃ」

「あ、さすが魔女をなのるだけのことはありますね。ラテン語ができるんですか」

「はて、ラテン語? 魔法帝国の公用語での話をしておるのじゃが、この世界ではラテン語とか呼ばれておるのかの?」

「いや……」

 もうこの人のペースにはにはのらんぞ。

 そんなことよりも、そろそろ作戦の監視に戻らないと……。

 会話に気をとられている間に、何か大事があるとまずい。

「なるほど、そうじゃな。それこそ……」

 俺は水晶玉の中のあいつの姿を見ながら、

「今、本当に賽は投げられたようじゃの」

 ローゼさんの言葉の意味を知るのだった。


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