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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子同人ショップ監視中

 さて、ついに作戦も本番——第一の戦場の同人ショップ(トラなんとか)に喜多見姉妹が到達。

 となれば、俺らは水晶玉に映る二人の姿に注目するのだった。

 俺らの様子が変わったのに気づいたのか、ローゼさんも、下北沢花奈の掛け合い漫才まがいの会話を止めて言う。

「ほう、ついに本番開始と言ったようすじゃが……本屋? ここがそんな重要なのかえ? もし美唯とやらばが本好きならば、デートの場所にふさわしいかもしれんが、……別に行っちゃ悪いともいわんがの、特に変わった場所でもないじゃろ?」

「……そりゃ、普通の本屋だったら、そうかもですが……」

 俺は、水晶玉の中でズームアップされた平積みの本の表紙を指し示す。

「お、妾の本なのか?」

 映っているのは、ゲーム、プライマル・マジカル・ワールドのマップの一つ、ブラッディワールドにおける魔法帝国側の長、ブラッディー・ローゼが表紙に描かれた本だった。ローゼさんはそのコスプレをして、なりきって自分がブラッディー・ローゼそのものであるような気持ちになってしまっている……だけだよな。たぶん。

「でも……なんか本が薄いのじゃな。妾のことを本にするとは、どんなものなのか興味はあるが、あんな薄くて内容はあるのじゃろうか」

 カメラ(?)はパンして積まれた本を横から映す。内容は……まあ、薄いなりではあるだろうが、ここは一般向けフロアだから、過激なエロでは無いと思う。

 が、表紙は、

「はて? 妾の衣装はあんな布が少なかったかいな?」

 一般向けギリギリ狙ってる感じのようだが、逆にこれ恥ずかしいよな。

 本当のエロは勇気なくて、でもエロいの欲しいみたいな勇気のなさが見え隠れする。

 ——というビビリ具合もかなりのマイナスポイント。

 良いぞ!

 普通なら、女の子とデートでこんな場所くるのなんて、あり得ないのだろうけど……。

 今日にはベストスポットだ。

 何しろ、美唯ちゃんに嫌われるために秋葉に来ているんだからな。

 そのためのOBAKE作戦。

 そのための第一番目の戦場(と◯の◯な)なのだ。

 ここで、美唯ちゃんが、向ヶ丘勇お兄ちゃんはエッチでいやらしいと思ってもらい、軽蔑してもらわないといけないのだ。現実の女性でなく、2次元好きで、それも微エロくらいから先にはいけないビビリであると思われないといけないのだ。

 それこそが、ここに来た目的なのだ。

 そういうのって、きっと女子は嫌いだったりするよね?

 まあ、女性どころか、男もろく友だちがいないというか皆無な俺の乏しい対人経験上より、そう予測している……だけとも言えるが。リア充ども——和泉珠琴(いずみたまき)なんかが、よくオタクやエッチな男子毛嫌いしてるから間違いないと思うのだが……、

 でも生田緑(いくたみどり)なんかは正直高校男子程度は自分おり数段したに見てそうだからどうでも良さそうな様子だし、百合ちゃんは人を趣味で差別しない。

 前に入れ替わった経堂萌夏(きょうどうもえか)のお姉さんなんかはアニソンリミックス通じてオタク文化にも理解あったし、下北沢花奈(しもきたざわはな)をはじめとする斉藤フラメンコの面々はそもそもガチオタだし、稲田初美(いなだたはつみ)先生は比較対象にする年齢……すみません。

 ——ともかく。

 あれ、意外と、オタク差別する女子少なくね? と思わないでもないが、たまたま、俺の周りがそうだっただけかもしれない。でも、美唯ちゃんとは喜多見美亜(あいつ)と入れ替わって半年も一緒に住んでて、オタク文化にハマっている様子は見受けられないから、少なくとも、好意的には思われないと思うが、


『……どうだい美唯ちゃん。こういう店きたことある』


 おっと、喜多見美亜(あいつ)が攻め始めたな。

 水晶玉の中の映像からの声が聞こえる。

『あ、こういうところ? 無いですけど……」

 美唯ちゃんが喋るのも聞こえる。

 水晶玉には、特にスピーカーらしきものもなそうだが、ほんと、これどういう仕組なんだ? まあローゼさんの謎を気にしてたらそれだけで日が暮れそうだから……。

 それよりも、二人の会話だ。

『素敵な本がいっぱいあるでしょ? 俺はこういう本が好きなんだよな。へへへ』

 お、喜多見美亜(あいつ)名演技だぞ。結構、自然にキモさを醸し出しているな。いや、演技でなくて俺の()を出しているようにもみえるが……。

『……素敵……ですかね」

 美唯ちゃんは、なんか思うところあるように目をそらす。まあ、嫌なんだろうな。

 当たり前だよな。

 純粋無垢な女子中学生に微エロイラスト見せて喜んでる男子高校生。

 おまわりさん、犯人はここです案件だよなこれ。

 と俺は、喜多見美亜(あいつ)の演じる、どこからどう見ても俺でしかない、俺自身姿を演じる見せつけられて、精神力をガリガリと削られてしまっているのだが、

『そ、でしょ! やっぱり良いよね。こ、これ、大好きな先生が書いてるだよね、斉藤フラメンコって知ってる?』

 さらに攻めるあいつ。

『いえ、それは……」

 知ってるわけがないだろ! いくら同人界隈で有名でも、一般人がわかるわけないよな。

 って、これオタクあるあるだ。

 自分が知ってる知識がみんな知ってると思って自慢して無視されるとか、——それで自分が優位に立てると思ってしまうんだよね。

 なわけないよね。

 みんな大好きなマウントの取り合いで、なぜ相手が自分の興味もない分野の知識で自ら下になってくれると思う?

 人は、自分の優位を脅かすような様子の、わけの分からないものは、差別し、嘲笑し、それでも消えないのならば弾圧するんだよね。人の、その心の弱さ的に。だから俺は若くして孤高のボッチを選んだんだよ。

 今、喜多見美亜(こいつ)の演じる俺のいる場所は2000日前に本物の俺は通過したんだよ。

 しかし、

『どする? 買ってく。これ新刊なんだよ。どする?』

 これも俺っぽいよな。とっくに捨てたはずと思っているのに何処かに残っている人とのつながりを求める心。でもやり方がおかしい。

『私もですか……』

 そうそう。

 相手が欲しがるわけもないものを、自分が好きだからってなんの疑問も思わずに勧めてしまう。美味しいケーキ見つけたとか言うのと違うんだから。

 空気読めよ——俺。

 あと、声のトーンがあがって早口なるのも客観的に見るとキモいな。あいつ、俺の特徴良くつかんでるな。俺そのままなので文句は言えないがなんかムッとくる。

『大人気の作家の本だからここで買い逃がすとしばらく買えないかもしれないよ』

『……』

 美唯ちゃんがますます下向いてしまっている。これ、きっと、困って目を合わせられなんだよな。

 そもそも欲しくないもの無理やり買わせようとして、俺の好感度はダダ下がりだよな。

 まあ、それが今日の目的なので、この状況は願ったりかなったりなのであるが、自分がこう嫌われている様子はやはり結構精神的にくるものがあるなあと俺が、頭を抱えながら水晶玉から目をそらしそうになっていたところに、

『あの……ちょっと値段見て良いですか』

 え?

 同人誌を手に取り裏返す美唯ちゃん。

 そして見ているのは、

『……ああ、このくらいなら』

 値段?

 悩んでたのは、もしかして、それなのか?

『私、これ買います!』

 と、驚く水晶玉の向こうの俺が入れ替わった自分の身体があるとはわかるわけもなく、となりで呆然とする喜多見美亜(あいつ)を尻目にすたすたとレジに向かう美唯ちゃんなのであった。

 なんじゃこりゃ!


   *


 後で聞いた話であるが……。

 当時、何でも、病的なほどの姉ラブな美唯ちゃんは、時々あいつの部屋に忍び込んで持ち物を物色する悪癖があったらしい。

 そこでいつもの様に洋服をスーハーするつもりで姉のクローゼットを開けたところ、奥に不自然な毛布の膨らみを発見し、何かと思って中にあった段ボールを開ければ……。

 そこには俺が集めた同人誌がみっちりと入っていたのだという。

 つまり喜多見美亜(あいつ)に入れ替わっていた時の俺が集めてた同人誌ということである。それを見つけた、姉のすることならば何でも真似してみたい年頃の美唯ちゃんは、これは読んで良いものかと迷いながらも、姉の集めた本を読み始めてしまう。

 なかにはこれはついてけないとか、意味がわからんといったものも随分と多かったようなのだが、少なくとも斉藤フラメンコーー下北沢花奈の入っている同人サークルーーの作品にはぐいぐいと心が引き込まれたようで、その頃には大ファンになっていて、ーーそろそろ次の本が読みたいな、姉が早く買ってこないかなと日課の部屋チェックの途中でしみみじみ思うまでになっていた……。

 それに、この時の美唯ちゃんは、姉と入れ替わって姉のふりをしなければと思っていたので、姉の同人誌コレクションにいっぱい含まれていた斉藤フラメンコの本を買わないのは不自然だと思ったとのことだった。

 まあ、といわけで、美唯ちゃんの行動の意味は後になって判明するのだが、その時は、ともかく、失敗したということだけしかわからない。

 しかし、それくらいで落ち込むような俺ではない。

 俺を、俺のイケてなさを舐めてもらっては困る。

「何をしたかったのかを、そもそも理解しておらんのじゃが、ともかく、何か失敗したようじゃの」

「いえ……」

 一緒に水晶玉を覗きこみながら、慰めるような口調で言うローゼさんに、俺は歯をキラリとさせるような、爽やかな笑顔でこたえる。

「……俺のキモさは決して同人誌だけではないですから」

 ——と。



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