俺、今、女子作戦開始中
というわけで、ローゼさんが渋ったあいつの占いも結局終わったわけだが、
「セリナ残念じゃな。恋敵氏はまるでぶれなかったぞ」
「もちろん、こんなので終わる人だとは、思ってなかったですよ……」
「いや、終わるどころか、むしろ特異点は強化されたと見るべきじゃな」
「そりゃ魔女ローゼの言の葉に紛らわされないで自分の未来を見据えたのですからね。今まであったかもしれない、迷いが刈り取られて信念はより強くなったのでしょう。でも……ん?」
なんか、俺の横でこちょこちょと小声で喋っている、ローゼさんとセリナの会話がよくわからないのだが、
「……あまり気にしなくとも良いぞ」
「ダーリンは深く考えなくとも良いですよ」
といわれても……。なんか、気になるのだが、
「……」
「……」
なんだ?
「……」
「……」
二人が無言で見つめ合っているが?
「……」
「……」
こいつら、もしかして、心で会話しているのでは?
と思っていると、
「……ふむ」
「……はい」
なんか話がまとまったようだ。
どういう結論に至ったのか気になるが、
「まあ、気にしないことじゃ」
「知ったから、なにか変わるわけじゃないですしね」
俺の方にピクリとも振り向いてくれない。話の中身は教えてくれそうもないか。
なので、俺は諦めて、顔を元の方向に戻すと、
「……? どうしたの? 三人でごちゃごちゃと……」
喜多見美亜の不思議そうな顔が目の前にあった。
小声で話ししていた、ローゼさんとセリナの会話は、そばにいた俺にしか聞こえていなかったようだ。
でも、あいつが気にしているのは二人が何を話していたのかではなく、
「そんなことより、そろそろ時間やばいんじゃないの?」
おっと、その通りだった。美唯ちゃんが秋葉に来る時間が迫っている。
女子たちの占いで場が盛り上がって、今日のもともとの目的を忘れてしまっていたな。
まだ、ローゼさんとセリナが何を話ししていたのか——企んでいるのか気になるのだが、
「それじゃ開始だな……」
もう、確かに、動き出さないとやばい時間だ。
そう思い、俺は立ち上がり、まずは、今日の戦いに参加する我が精鋭たちを見渡す。
「……なによ」
「何か?」
「何でしょうか?」
「ん……」
「あっ、やっぱりお父さん素敵」
俺に見つめられた女子たちが、いきなり何なんだろうとという反応。ちょっとセナの反応がおかしい気もするが、それはいつものことなので置いといて、——いきなり無言になった俺を不可解に思ってるらしき女子たちであった。
まあ、ちょっと待てや。
いや、実はね、感慨深いなってちょっとだけ思ってね。
喜多見美亜と入れ替わる前には、孤高のボッチを気取っていた俺も変わったもんだなって思って……。
以前の俺はこんなふうに思っていた。
クラスの余計な序列の取り合いやら縄張り争いに巻き込まれたりしたり、人を信じて騙されたり、ちょっとした行き違いで生の感情をぶつけられて嫌な気持ちになるくらいなら……。
成長の完成していない高校生ぐらいのガキどもにはつきあってられないよ。
——って。
まあ、そんなことを思てった俺もそんなガキなんだろうけど、——それならばなおさら、ガキ同士では事態はひどくなるだけなのだろうから——俺は、クラスメイトからなるべく距離を取ろうとしていた。
しかし、こうやって色んな人と触れ合って、助け合ったり、時には喧嘩したりして、様々な経験をして……。
俺も変わるもんなんだなって。もちろんそれは良い方にで間違いなくて、——実は、俺は少し感動してるのだった。
だが、
「ともかく……もうそんなぼうっとしている暇なんてないんだから」
喜多見美亜の言うとおりだった。
今年の俺のことを思い返すのは年の瀬にでもでもすればよい。
それよりも、俺はその仲間たちに向かって言うのだった。
「それじゃOBAKE作戦始めるぞ!」
「「「「「おお!」」」」」
俺たちの今日のミッション——お兄ちゃんの、バカ、アホ、嫌い、縁を切る作戦——がついに始まるのであった。
*
といっても……。
俺は、そのままローゼさんのレストランにいる。
「なんかドキドキするね。作戦がついに始まるんだね」
「ああ」
出番がまだの下北沢花奈も一緒だ。
「でも、すごいですねローゼさんのこれ」
「ああ」
百合ちゃんもここにいる。
「お父さん……見て」
「ん?」
セナも残っているのだが、
「お、美唯ちゃんが来たようだな」
俺達が今見ているのはさっきローゼさんが占いに使った水晶玉。写っているのは喜多見美亜の姿——妹の未唯ちゃんが中の人——であった。そこに手を振りながら俺——あいつが中の人——が駆け寄ってくる。
「……どうやって映してるんだこれ」
場所は秋葉の駅の中。
水晶玉に映る風景は、喜多見姉妹の姿を遠景で捉え、パンして近づいていって、挨拶してあるき始めた姿を近くから追いかけながら写していく。
秋葉の駅にカメラでも仕掛けてるのか? それともドローンでも飛ばしているのか? この水晶玉は、中にプロジェクターでもしかけて映していると思えば良いけど……。
「あ、セリナさんも動きましたね」
カメラ(?)がまたぐっと動いて、駅構内の壁際にさり気なく背を預けていた片瀬セリナの姿を映し出す。セリナは、喜多見姉妹の後を追って、さもちょうど時間が来たというふうに腕時計をチラ見してから、さっと歩きだす。
セリナは今日のデートの喜多見姉妹のあとをつけて、その様子を伝える役目なのだが……ローゼさんのカメラ(?)がこんなに優秀なら、そんなの必要なかったんじゃないか?
今も、
『……今日はありがとうございます——じゃなくて、ありがとう。一日都合つけてもらって』
『はは、大丈夫だよ私——じゃなくて、俺も暇だったしさ』
声まで聞こえてくる。
マイクも二人の近くにあるのかな。
「さすが、セリナは優秀なカメラマンじゃな。はは、さすがじゃ、さすがじゃ。声も指向性マイクで遠くから拾えるようじゃな。はは、さすがじゃ、さすがじゃ!」
なんとも白々しい口調のローゼさんであるが、ではこれがセリナの撮影でなければなんなんだ……と考え出すと、他にもいろいろと考えないといけないことがでるため、今は深く考えないことにする。
それって、逃避というよりも、なんかローゼさんのことにあまり深入りしてもろくなことないような気がしてしまうんだよね。どちらかと言うと……自衛?
「おお……時に、勇どの、二人はこの後どこに向かうんじゃろな」
「あ、打ち合わせではまずは俺の秋葉巡回コースを辿って呆れられる予定ですね」
「ほう。いつもおぬしが向かっている場所か」
「ええ」
「それは女子ウケしなさそうじゃの」
「ほうっておいてください……それが今日の目的なので」
「ふむ。あの中学生に嫌われるためにやっていおるのかいな?」
ローゼさんは、水晶玉の中に移された喜多見美亜——もちろん中身はあいつの妹の美唯ちゃん——を指しながら言う。この人、やっぱり中身が中学生なの知ってるんだね。誰も話していないと思うけど。
「ええ」
でも、そんなことを疑問に思ってたら、この人とは会話が進まないような気がしてならないので、無視して話を進める。
「賑やかな場所じゃの……ここがこの国の都か?」
「ここが? 秋葉が?」
「秋葉というのかこの都の名前は?」
「え?」
「なんじゃ?」
ローゼさん、秋葉に店を持っているのに、秋葉のこと知らないのか? その名前さえ?
浮世離れにも程があるというものだが、
「……いえ、なんでもなくて」
気にしたら負けのようなきがするので、俺はそのまま話を続ける。
「秋葉も、首都の一部ですが、秋葉が首都というわけでは無いですよ」
「ん? 首都はもっと大きな街なのか? すごいの」
「ええ、東京と言いますが……」
ローゼさんは外国の人だから東京のこと知らない? 秋葉に店を構えているのに?
……まあ、いいや。無視無視。
俺は、やはり気にせずにスルーしょうとするが、
「でも、秋葉もある意味首都じゃないかな?」
下北沢花奈が混乱させるような茶々をいれる。
「……やはり都なのか?」
「別の都だね」
「別の?」
「オタクカルチャーの首都だね。それも世界の首都だよね」
「おおこの世界の首都なのかすごいぞ!」
「オタクのね……」
「なので外国の人も多いでしょ……あ、ローゼさんもその一人か」
「まて、妾は、なんとなく小太りメガネが多い外国人連中の仲間じゃないぞ」
なんだ、結構秋葉の状況知ってるじゃないかこの人。まあ、秋葉に店あれば当たり前かもしれないが。
「そりゃローゼさんはそういう感じではないけど……」
「なるほど。でも、もしかして妾が、秋葉で爆買いしたあとに、銀座を炊飯器をもったままうろついている人たちの仲間に思われてないかの……」
「いや、ローゼさんはそうは見えないとは思うけど……」
少し言いよどむ下北沢花奈。そりゃ、そうだよね。ローゼさんは、爆買いの人とかとはレベルが違って怪しいよな。観光客の人たちも、こんな怪しげな女性と一緒にされたらとても不服だと思うが、
「ところで、東京には他にも首都があるんだよ」
うまく話題をかえるメガネっ娘。
「ほう。首都にもう一つ首都があるだけでも驚いたのじゃが、他にもあるのかの?」
「そう。原宿は、可愛いファッションをしたひとが、この頃では世界中から集まるから世界のkawaiiの首都とか呼ばれたりもするよね」
「なるほど、それで多くの若者が原宿に集まるわけじゃな! 巣鴨がおばあさんの原宿と言われているわけが初めてわかったのじゃ! お主、感謝するぞ」
というか、巣鴨は知ってるのかいな!
「……都電荒川線をたまに利用するからじゃな。あのトコトコと可愛く街なか走る電車がたまらなく好きでな」
秋葉に店があるのに、中央通りの様子もろくに知らなさそうで、豊島区には詳しそうなのはなんでなんだ! あと、ローゼさん俺の心の中読んでるよね。
「ああ……ローゼさん、そっち系なんだ。池袋といったら乙女の聖地だもんね」
「年齢より若く見られる自覚はあるのじゃがの……。流石に乙女と言われるとこっぱずかしいの……」
「ふふふ、じゃなくて腐腐腐。大丈夫だよ。乙女に年齢は関係ないよ。ローゼさん、今度一緒に、池袋の乙女のロードに行かないかい?」
「うむ。このローゼ、森羅万象を知る魔女と思うたが、まだまだしらない世界があるようじゃの……」
「腐腐腐。ローゼさん、じゃあ僕と一緒に秘密の扉を開いて貴腐人になろうか」
「? 妾の様々な生の中で貴婦人と呼ばれたことはあるがの……どうも、おぬしが字を一文字間違っておるきがするのじゃが……」
「いやいや正しいよローゼさん。一緒に腐ろうよ。腐っちまえば世の中の全てが発酵して芳しく見えるようになるよ」
「なんか、怖いのじゃ! 妾が底なし沼に落ちてしまうような気がしてならないのじゃ!」
「……堕ちようよ。ローゼさん。その沼はとても甘美で……」
……。
なんか、残虐の魔女を別のものに変えかけているオタ充女子がいるが、ふたりとも今の状況を忘れていないだろうか? OBAKE作戦の途中なのだが。
今も喜多見姉妹は秋葉の中央通りを歩いている姿が、水晶玉に映し出されて、
「◯ORANONA? これは悪役レスラーの養成所じゃな。はて、日本支部は浜松町にあったのではなかったかの?」
どうやら二人は今日最初の戦場に到達したようなのであった。




