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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子ランチ中

 OBAKE作戦決行前の腹ごしらえと思ったのにちょうど良いのが見つからず、秋葉原でランチ難民になりかけた俺たちであったが、片瀬セリナが良い店を知ってるとにことで向かったのが魔女ローゼの占いビストロ。

 それは、森と化した(?)秋葉原のビジネスビルの屋上に建つ、レンガ造りのこぢんまりとした建物であった。


「皆のもの、妾の館にようこそ。歓迎するぞ……」


 店主のローゼさんは、俺たちにそう声をかけると、建物の中に俺たちを案内する。長身でものすごいプロポーションの大人の女性。なるほど、店名に偽りなしというか、先に歩くその後ろ姿は魔女ローゼそのものであった。

 魔女ローゼ。今大人気のネットゲーム、プライマル・マジカル・ワールドにおける最近話題の追加ステージブラッディ・ワールドにおける魔法帝国陣営の長。ゲームの中のローゼそのものが今目の前にいるのだった。

 いや、もちろん、コスプレだよな?

 俺は、前の女性のあまりのローゼなりきりぶりに、そんなことがあるわけがないと思いつつ、もしかしてと思ってしまうのだった。

 だって……、あまりに本人なんだけど。

 そっくり具合が神懸かっているというか、ゲームの中の3Dイメージそのままの女性が目の前にいて、これが本人でなければ誰が魔女ローゼなんだろうというような感じである。

「うわ、本人だよねこれ」

 件のゲーム(プラ・マジ)のヘビープレイヤーである下北沢花奈から思わずそんな言葉が漏れる。

 うん。俺もそう思う。

 ほんと、ゲームの中の人物が現実に抜け出してきたとしか思えないような、——現実離れした、怖くなるくらいの美貌の女性であった。

 で、俺が、なんとも不思議な気持ちになりながらローゼ(?)さんを見ていると、

「……ふ、なるほど随分と魂がしあがったようじゃな」

「……?」

 突然振り返り、何がうれしいのか謎の笑みを浮かべるローゼ。

「ああ、勇タンはまだ気にしなくて良いから。ローゼさん、そういう(・・・・)のは今日は無しで……」

「……そうかの? 相変わらずセリナは、まどろっこしいのう」

 あわてて、俺とローゼさんの間に入って、小声で謎の会話をするセリナであった。 

 いったい、魂がが何に『しあがった』というのであろうか?

「もう、(そら)に連れて行ってしまえば良いじゃないか。そのためにお主は無数の生を重ねたのであろう?」

「だからこそです」

「ほう」

「……だからこそ、この生は無駄にはできません。まだ完全では無いのです」

「一片の違いも許さんと言うことのか?」

「はい。ここまでそのためにがんばったのですから」

「……その完璧を求める性分があだとならねばよいがの。まあ。どちらにしても、御身のことじゃ。御身の好きなようにすればよいとしか言いようがないのじゃが……」

 なんだか、ますますよくわからない会話になっている二人。

 ただ、なんとなく、その話されている内容は、どうも俺のことを言っているようにしか思えなく。それならと、会話につながるような何かあるのではと、俺は、それ(・・)を探して、心の奥底まで記憶を探るのだが……。


「——っ!」


 突然、頭に走った激痛に思わずうずくまる俺。

「大丈夫?」

 すると、すぐに身を屈めて、転がりかけた俺を支えるセリナ。

「……無理しない方がよいから。今は、まだ……」

 耳元でささやかれ、その言葉のままに、考えること(・・・・・)やめれば、頭痛は見る見るうちにひいていき、

「……?」

 何が起きたの、かわけがわからないまま、

「ともかく、中に行きましょう」

「……ああ」

 立ち上がった俺は、ちらりと後ろを見て、何が起きたのか、不思議そうに俺を見つめるみんなの視線から逃れるように店の中に歩いていくのだった。

 そして……。


「うわー。中も素敵だね。豪華なのに、嫌みじゃなくて、渋いというか……きっと良い物なんだよねみんな」

「なんか全部高そう。僕緊張しちゃうな」

「ソファーも、こんな座りやすい物座ったことありません」


 女子たちに大人気の魔女ローゼの占いビストロであった。占いと聞いて大盛り上がりであった彼女たちだったが、その前に店の内装だけで大興奮なようであった。

 確かに、すごいなこれ。どうみても高級そうな調度品や椅子やテーブルなんかが無造作に並べられているのだが、派手なのに落ち着いた絶妙な亜色合いの連続が、とても趣味の良い空間を作りだしている。ちょっとでも間違ったら、破綻しそうなインテリアの選択が、ぎりぎりで最高の効果を上げている。

 とても年期を経た渋いアンティークなのに意匠は花柄だったりの。微妙に乙女趣味なところも女子たちが一発で心を持って行かれた理由か。

「所詮、浮世の物など、一時の借り物にすぎぬ。汚すのも気にせずにくつろぐが良い。セリナの学友たちのご来訪じゃ。存分に歓待せねば魔女王ローゼの名が廃るというものじゃ」

「……それじゃ、遠慮なく」

 と言いながらもおそるおそる、ソファーに体を預ける喜多見美亜(あいつ)

 それを見て、同じようにゆっくりと背を傾ける下北沢花奈と百合ちゃん。

「確かにすごい座りごごちだな」

 俺もソファーに座れば、余りの心地よさに、このまま一生ここから動きたくないと思ってしまうほど。さらに深く身を預ければ、もはや夢見心地。

 セリナとセナはソファーでなく瀟洒な彫り模様のついた木のきれいな椅子にすわっているが、あっちも座りやすそうだな。

「……ふむ。それでは、皆、寛いでくれているところで昼餉の準備としようぞ。メニューは……」


「「「「え?」」」」


 何も持っていなっかたはずのローゼさんの手元に突然現れる羊皮紙のロール。

「手品……かな……」

 驚く俺たちの反応は無視して、優美な手つきで広げられたメニューをテーブルに置くローゼさん。

 しかし、


「「「「え……」」」」


「店主おすすめ……比内地鶏の鶏カツ丼……『がっつりドンとこいどんぶり』……」

「サワラの西京味噌焼き……『最強焼き魚定食』……」

「日本全国契約農家の旬の野菜天ぷら……『てんでばらばら産地てんぷら定食』……」

「北海道産じゃがいも使用……『ほくほく肉じゃが定食』……」


 いかにもヨーロッパ風の店構えに反した料理のメニューに虚を突かれて、ただ呆然と順番に読み上げてしまう俺たち。

 微妙にいけてないダジャレっぽい言葉がなんかむかっとくる。最後のメニューなんて中世風世界が舞台である魔女ローゼの住むゲーム世界観に喧嘩売るようにジャガイモである。

 こんなんで、ポテトマポリスが来たらどうするんだと思うが、そもそも中世ヨーロッパに比内鶏も西京焼きも天ぷらもないだろうが……。


「……なるほど、カツ丼に焼き魚にてんぷらと肉じゃがじゃな。承知した……」


「「「「え……」」」」


 ただ読み上げたつもりが、ローゼさんは注文されたと思ってしまったようだ。

「……何か問題でも?」

「「「「いえ……」」」」

 とはいえ、今更否定するのもなんなので、そのまま注文することにしてしまう俺たちであった。ちなみに、順番に喜多見美亜(あいつ)、下北沢花奈、百合ちゃん、俺な。


「じゃあ、私は、白身魚のポアレ、プロヴァンス風ね」

「セナは、子羊のロースト、オレンジソースかけ」


「「「「え……」」」」


 確かにメニューの下の方にはフレンチっぽい料理が結構ラインナップされていた。そりゃここは「占いビストロ」だもんな。「占い定食屋」ではない。店の雰囲気にあった方でなく、トラップのように仕掛けられていた和食をうっかり頼んでしまって残念そうな女子たちであるが、


「まあ、料理ができるまでは、茶でも飲むが良い」


 気づくとテーブルの上に、また、まるで魔法のように湯気を立てるポットが現れて、


「「「「美味しい!」」」」


 注がれた紅茶を飲んでいっせいに感嘆の声をあげる。

 確かに、こんな美味しい紅茶飲んだことは今まででないぞ。

 上品な紅茶に様々な花やスパイスのフレイバーが混ざり、それらが作り出す味とアロマのハーモニーがまるでこれが天上の飲み物(ネクトール)かというような感動を与える。

「ああ、自分が昔のヨーロッパに旅したような気分になる」

「僕の生涯の思い出になるかも……最高の中世は現代にあったんだ……」

「素敵な紅茶がこんな美しい部屋で飲めるなんて……時間を超えた感動です」

 女子三人にも凄い喜んでいる。

 だが、

「まあ、ヨーロッパ中世に紅茶なんてないんだけどね」 

 こら、セリナ。よけいなことは言わんでよろしい。みんな、せっかく、雰囲気に酔ってるんだから。現実に戻らせるようなよけいなことは、

「おお……料理の方もできたようじゃ」

 ローゼさんが杖を一振り。すると、テーブルには、いつのまにか、各自の頼んだ料理が並ぶ。

 まあ、せっかくの紅茶で盛り上がった欧州気分がぶちこわしの和食が俺たちの前に並ぶのだが、


「「「「え……」」」」


 今日何度目の驚きだろうか。

 店に雰囲気に合わない和食だが、いままで食べたこともないようなおいしさであった。

 前に生田緑(じょてい)に入れ替わった時に、見合いで新宿のホテルの高級和食食べたことがあるが、あんなもの目じゃあいくらいに美味しい。

 俺が食べてるのは肉じゃがだよ。

 肉じゃがなのに……いつの間にか目からは自然と涙が流れ、


「「「「なんちゅうもんを食わせてくれたんや…なんちゅうもんを…」」」」


 どうやらみんな同じ気持ちだったようだ。

 ほんと、すごいなここ。なんでもっと有名にならないんだろう。知る人ぞ知るレストランということだが、


「知ってる人にしか知ってほしくない場所ですので」


 そう言いながら片瀬セリナは俺に意味ありげなウィンクをするのであった。

 俺は、その意味を一瞬考えるのだが、味の良くしみたジャガイモを食べるうちにどうでも良くなって……。


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