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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子ランチ難民中

 さて、そんなこんだで、土曜の午前も終わり近く、秋葉原を巡り、事前準備を終えた俺らOBAKE作戦本部兼実行舞台の面々であった。

 途中から、俺以外のもう一人の秋葉のプロ——昨日の夜も同人誌の制作をしていてので近くの仕事場から直接やってきた——下北沢花奈(しもきたざわはな)も合流して、さらに入念な下見も行い、もう今やれることはやった。細工(さいく)流流(りゅうりゅう)、後は仕上げを御覧(ごろう)じろであった。

 人事を尽くして天命を待つ。そんな気持ちで、作戦のスタート地点、秋葉原駅の中央通り口に戻って来た、今日の戦い(デート)にむけて俺が選んだ精鋭たち。皆、無言でこの場に立つ。それぞれが、それぞれの思いを胸に、この後の過酷な作戦(ミッション)を控え緊張に身を引き締めながら、


「結構、腹へってきたね」


 …………あれ?


 間の抜けた声で喜多見美亜(あいつ)が言う。

「確かに、随分と歩き回ったからね。結構空腹だな」

 途中参加で、皆の半分しか歩いていない下北沢花奈(しもきたざわはな)も調子に乗ってそんなことを言う。

「もうすぐ、お昼ですものね。私も少し……」

 百合ちゃんが言うのなら、そうかのかもしれないけど。

「では、みんなで食事しますか?」

「お父さん、お腹すいた!」

 お前ら、全然緊張し取らんな。

 本日の実体の事態の深刻さを理解しとらんな。

 と俺は、軽い憤りを感じないでもないのだが……。

 ——まあ良いか。

 腹が減っては戦はできないだもんな。昼は十分に栄養を取って、本日の過酷な任務に向けて、各自滋養強壮としてほしい。

 まだ11時をすごたばかりと、昼メシにはちょっと早めであるが、12時近くなって店が混んでランチ難民になってしまう可能性があると思えば、

「じゃあ、どこか食べに行くか」

 俺の言葉とともに、再び秋葉の街中に向かって動き出す皆なのであった。

 

   *


 しかしだな、

「どこへ行こうかな……」

 ぼそりとつぶやく俺であった。

「牛丼食べたいな」

「僕はカレーとか良いかと思うけど」

「なんでも良いのですが……できれば和食とか」

「勇タン……勇くんの手料理」

「お父さんを食べたい!」

 まさしく予想通り。

 各自の主張の強さに差はあるものの、見事に食べたいと思う物がバラバラである。あと、セリナとセナの片瀬家コンビは論外。

「……んん、なにが良いのかな。そうだな……」

 その後に言葉がつながらないで口ごもる俺。

 うっかりどこか食べに行くかとか、気軽に言ってしまったが、この様々な連中の妥協点をとることの難しさを痛感する。

 腹減ったと言い出したのは俺じゃないが、食べに行こうと言った。その、何となく言い出しっぺ的な立ち位置が、俺に、無用な責任感をかす。

 それに、下北沢花奈以外の、この街に縁がない連中からは、俺は秋葉のプロと思われてるだろうし、いつものリア充が行くようなおしゃれスポットではいつも土地勘がなくビクビクとして挙動不審気味の俺であるから、せめてこの街(アキバ)では皆より上に立ちたいという下心、——軽い虚栄心もあり、たとえオタク業界と直接は関係ないランチの話とはいえ、店を知らないなどとは言い出しにくい。

 ただ、頭の中をぐるぐると駆け巡る店は、この女子どもに紹介するにはどれもしっくりこない。一人で秋葉に来るときには、ラーメン屋や定食屋などが多く、その中にお気に入りや、他人におすすめできる店が無いわけではないが、こんな人数が入れる店が思いつかない。

「……そうだな、あれ……あれとか……」

 なので、俺は時々口ごもりながら、必死に店を考え続けるのだが、

「僕、コンビニ弁当ばかりで、あんまり外で食事しないんで……秋葉の店も知らないんだ」

 あ! 俺が店を思いつかないのかもと薄々感づいて、下北沢花奈をみんなが横目でちら見しはじめたとたんに、予防線はられた。

 再び、注目は俺の元に。腹が本気で減っているせいなのか、その期待に満ちた視線が痛いというか、少々怖い。

 とはいえだな。本気で、ちょうど良い場所が思いつかない。

 そもそも友達と団体で行動するようには俺は設計されてない。下手したら遺伝子レベルでおれはそう(・・)なのではないかと思う位である。

 なにしろ、喜多見美亜(リア充)と体が入れ替わり前までは、崇高なるボッチの徳を落とさないように俗世間との接触は最低限に抑えていた俺である。

 こんな団体で行動したのなんて、中学校の修学旅行以来? いやあの時も、俺と同じ班になった連中、いつのまにか理由付けて仲の良い友達のいる他の班に合流して、最終的に俺は一人で清水の舞台から京都の街並みを眺めていたな。

 まあ、神社仏閣の多い京都でさらに徳を積めてそれは良かったと考えることにしているが……。

 そんな俺の黒歴史の振り替えりはともかくとして、——こんな人数で、それも秋葉に来て良い店なんて思い浮かばないよ。


「そうだなあ……」


 俺は、もう思いつく店のストックも尽きて、頭の中が真っ白になっているのを悟られないように、いかにも考えている風に顔をしかめながら下を向くが……。

 これはあれだな。

 もう無理だな。

 ——潮時だ。

 俺の秋葉のプロという立ち位置をぐらつかせることになっても、気の利いた場所をにみんなを連れていくのはあきらめた方が良いかもな。このまま、さらにお腹の虫が暴れだして不機嫌になられるより、さっさとあきらめて、ファミレスにでも連れて行った方が良いかもしれぬ。

 満腹になれば、みんな細かいことなんて忘れるかもしれないし、そもそも、秋葉なら皆に負けないという自分にとっては尊き細事を保とうとしたけれど……。

 俺にそんな気の利いたランチなんてみんな期待してないような気がしてきた。

 みんなが座れて食べられる場所を見つけられれば、求められた役割としては必要にして十分なのかもしれない。

 ならばと、

「じゃあ、この人数だし……」

 俺は近くのファミレスに行くことを提案しかけるが、

「あ、勇タンちょっと待って!」

 片瀬セリナがその言葉に割って入る。

「差し出がましいかもしれないけれど……もし他に適当なところがなければ……行きたいところがあるの」

「……?」

「知り合いの魔女……でなくお姉さんがやっている店があって、そこならこの人数も入るんじゃないかなって思ってて……」

 片瀬セリナの知り合い?

 そのワードにおれは不穏な感覚が体の中を駆け抜けるのを抑えることができないが。

「どんな店なんですか?」

 百合ちゃんが聞くと、

「……ちょっと変わった店で。異国風内装のレストラン兼カフェで、もちろん食事も美味しいのだけど、目玉は店主のお姉さんによる……」

 セリナは一度もったいつけるように言葉を切ると、

「……占いなの」


「「「占い!」」」


 占いという女子の大好物を出されて興奮気味の喜多見美亜(あいつ)、百合ちゃん、下北沢花奈。

 というわけで、セリナの提案に、即決で俺らはその知り合いのやっているという店に向かうことになったのであったが、


「……そのお姉さんの名前はローゼっていうの」

「ん? 外国の人なのかな?」

「そうね……この国の人ではないわ」


 その『お姉さん』の名前になんとなく悪い予感がしないでもないのであったが、異国の占い師というなんとも怪しげだが魅力的な餌に食いついた女子たちの盛り上がりを見ると、もはや選択の余地はないよな。と、俺は、どうにも不安が残りながらも、片瀬セリナについて進む集団の後ろに渋々とついて行くのであった。


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