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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子惚れられ中

 美唯ちゃんと体が入れ替わった次の日の朝の多摩川。キラキラと水面が光り、秋の爽やかな風の吹く河原。俺が毎日のようにジョギングで通りかかるその場所に集合したのは、


「……今度は美唯と入れ替わったとはね。確かにあの子、いつも私に濃厚に接触してくるから、いつかそんなことになるかもとは思っていたけれど」


 まずは、喜多見美亜(あいつ)。俺が最初に体が入れ替わった相手で、その後、今だに再度入れ替わることのできてない唯一の相手。

 つまり、まだ俺の体に入ったままになっている(元?)リア充女子高生。


「美唯ちゃんって、柿生と同じクラスなんですよね。柿生に何かできることがあればいいのですが」


 もう一人は百合ちゃん。同じく、俺が以前俺が入れ替わった人……いや天使か。

 いろいろ事情を抱えてクラスでひとりぼっちとなっていたのだけれど、生田緑(いくたみどり)和泉珠琴(いずみたまき)のリア充トップグループが普通に接し始めたので、クラスの中でもなんとなく居場所ができてきたこの頃となっている。

 もちろん、前に、百合ちゃんの立場が弱い頃にいじめまがいのことをしてた連中とは相変わらず微妙な様子だが……。そんな連中とは無理に付き合う必要もないしね。

 ——と、そういう話はともかく、


「柿生くんがいるだけでも心強いけど……でも直接なにかフォローして貰うには……」

「美唯さんが、別の人と体が入れ替わっているなんて言うわけにはいかないですよね。言っても柿生が信じてくれないと思うし……」


 いつも朝の運動(ジョギング)を欠かさない喜多見美亜(あいつ)の他に、百合ちゃんにも早朝に集まってもらったのは、弟の柿生(かきお)くんが美唯ちゃんと同じクラスなので、彼に何か助けがもらえないかと思ってのことであった。

 まあ、同じクラスであるとしても、体入れ替わりのことを知っていないとあまり直接的なサポートは難しいかもしれないのは今のやりとりの通りであるが、

「でも、何かクラスの様子とか事前に知ってれば……」

 というのが俺のお願い。

「ええ。柿生から、普段聞いてる話では……」

 学校に行く前に、普段のクラスの様子を知っておけば、行ってからの失敗を未然に防げるのではと俺は思ったのだった。

 一応、昨日の夜、美唯ちゃんにクラスの様子はヒアリング済みではある。

 とてもみんな仲の良い、和気藹々とした良い一年B組だと言うことだが……。

 正直、美唯ちゃんが捉えたクラスと、真実のクラスの違いがもあるかもしれないって思うんだよね。美唯ちゃんは、頭も性格もとても良い子であるが、良い子すぎて多分周りがあまり彼女には辛く当たらないだろうし、少しくらい嫌なことをされても肯定的に捉えてしまいそうな気がするのだった。

 嫌味や妬みを言われても、真摯にありがたい忠告と受け取ってしまったりしそうである。

「……美唯ちゃん、この間、体育の陸上でクラスで一番百メートル早かったらしいんだけど、——その後の算数のテストでもクラス一番取った時に『どうせ、まぐれだろ』って嫌味ったらしい口調でぼそっと言われて……」

 まあ、普通は、ああ嫉妬での、典型的な当てこすりかなって、ちょっとムッしてしまうか、嫌な気持ちになるのだろうと思うけど、


『今度はまぐれではないうおうに、頑張ります!』


 ってなんの裏もない満面の笑顔で答えて、クラス中が毒気抜かれてしまったそうだ。

 ……良い子というかかなり天然入ってるな。

 まあ、喜多見美亜(あいつ)の妹だからな。

 姉の方は、リア充目指してからかなりひねくれて地を隠して、気配りのできる意識高いスーパー女子高生みたいなふりをしてるが、元の天然なところは体が入れ替わってからのいろんな、事件を通して知ったことだ。

 まだ、リア充がどうこうなんていう歳でない、美唯ちゃんは元の天真爛漫な状態でいれるということか。

 でも、

「あんたは、中学一年生のクラスで美唯と同じような反応しなければいけないんだけど……? できる?」

 うう……。正直、自信ないぞ。

 まだまだ心も体も成長してないちびっこどもになんか言われても無視をすることくらいは余裕だと思うが、そこでまるで悪意を感じさせない天然な反応を求められるというのは……。

 とてもできかねます——だ。

「でも、一日だけの約束だからな……」

「だね……」

 今日だけ乗り切ればなんとなる。美唯ちゃんは、お姉ちゃんの生活を一日体験したならば元に戻ってくれると言っているのだった。

 中学生どもから嫌味まがいのことを言われても、あからさまにキレたりしなければ、顔がムッとしてたりしても、一日くらいなら、少し調子悪いのかぐらいでなんとかなるのではと俺は思うのだった。

「……じゃあまあ、今日は気楽に行こうか。あまり根詰めると、過剰な反応してしまうかもよ」

 そうだな。自然体であまり深く考えないで、致命的な失敗しないように、クラスでは大人しくしていよう。

「……柿生にも、そこはかとなく今日は美唯ちゃんは具合悪いようよ——と言っておきすますね。何かあったらそう言ってクラスでフォローしてくれるように……」

 柿生くんも、突然そんな話がいわれて何事なのかとおもうかもしれないが、あの子なら姉の言うことに、少し疑問を思いつつもきっと真摯に対応してくれるに違いない。

 子供の頃からの足の障害をもつ柿生くんを、ずっと世話をしてきた百合ちゃん。二人は、とても深い信頼と愛情に結ばれた姉弟(きょうだい)なのだった。

 以心伝心、拈華微笑(ねんげみしょう)

 姉が、直接話せない内容も意を組んでくれるにちがいない。


 というわけで、その日は、無難にやりすごうそうと方針が固まった朝の河原の会議の後、俺は中学に登校。予想通り、自分が巻き込まれている巻き込まれていないにかかかわらず、中学生どもの子供っぽい言動や行動に、かなり頭痛のする一日だったのだけど、当番になっている黒板の清掃とか、全校集会での体育館での並ぶ順番とか、俺がわからずに呆然としているところへの柿生くんのさりげないサポートなどもあり、慌てず騒がずで無難に過ごしてなんとか一日を終えることができたのだった。

 いや、あ……、片瀬セナのキス事件はあったが、まああれはおかしく思われるのはセナの方で、美唯ちゃんの方じゃないだろうし。親友のメグちゃんの方とちょっと不穏になった感じはしたが——まあ元に戻ればセナの方も(中身が俺じゃなくなれば)ちょっかいもださないだろうし、元の状態にすぐ戻るだろう……と思うことにした。

 本当のところは、どうせ、今日で元に戻るのだから。あとは任せたというか、おれではどうしようもないというのもあるし……。


 まあ、あまり考えてもしょうがない。


 俺は、久々の中学生としての一日を終え、具合悪そうと言うことで部活の剣道もサボり、さっさと喜多見家に帰ると喜多見美亜(あいつ)の部屋にこもって録り貯めた深夜アニメでも見ながら、美唯ちゃんの帰宅をじっと待っているうちに、いつのまにかベットで眠りこけてしまっていたのだった。

 そして、


「……お姉ちゃん。起きてる?」


 あれ?

 俺がベットから飛び起きるのと、部屋のドアが開くのが同時であった。

 あれ? 俺は寝ぼけ眼をこすってベット横のテーブルに置いた目覚し時計を手にとって見る。

 もう夜の十時か……。

 ちょっと遅めでだが、美唯ちゃん、高校生になって気が大きくなって、姉のリア充仲間とどこか行ってたのかな? とはいえ、流石に美唯ちゃんに、がっついた高校男子の相手はきついと思って、今日は合コンとかないのは確認してるし、生田緑にも事情は共有済みなので、めったなことはないはずであるが……。

 中身が中学1年生だと思えば、こんな時間まで出歩いているのはちょっと心配な感じがしないでもない。

 というか、なんか悪い予感がするんだよね。どうにも、素直にこのまま体を入れ替えさせてくれなさそうな予感がしてならないというか……。

「お姉ちゃん……実はお願いあるんだけど」

 ほら来た。

「今日で元に戻ると言ったけど……もうちょっとこのままで良いかな? 明日……土曜日……もしかして日曜くらいまで……」

 でも、なんで?

「あのね……ちょっとしたいことというか……なんというか……」

 なんというか……なんなんだ?

「気になることというか……人というか……」

 人?

「……もう少し親しくなってみたい人いて……それに協力してほしいというか……体元に戻ったあとの美唯とも親しくなるようにしてほしいというか……」

 なんか、聞いてると好きな人でもできたような言い方だが、今日は合コンないはずだよな? 街中でナンパでもされたのか? それともクラスの男子の誰かが気になったのか?

「その人って、お姉ちゃんも知ってる人で……家に来た来たこともあるというか……」

 は? この家に来た事がある男子だなんて、少なくとも、俺が入れ替わってからあとの話で言うならば、一人しかいなくて。


 それは……、


「向ヶ丘勇さんって言うの」


 なんでだよ!


 そりゃ俺だ……じゃなくて、中身はお前の姉だ!


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