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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子中学生
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俺、今、女子中学生

 中学校の教室。

 それはとても騒がしい。

 というか、こんなアナーキーな場所だっけ。

 もうすぐ授業もはじめるというのに、あまりに混沌とした教室。

 女どもは、教室のあちこちでグループをつくってぺちゃくちゃとしゃべりまくるのをとめないし、男どもはぐるぐる走りまわったり、ぴょんぴょん跳ねたりの力余ってる奴も多数。

 これ、先生が入ってきたらうるさいって怒鳴られるパターンだな。

 静かにしろ! って。

 ——というか、今日、授業の度にずっとそんな光景が繰り返されているのだが。

 みんな……学習しないのだろうか。

 なんで怒られるとわかり切ったことを止められないのだろうか。

 中学生一年生。

 十三歳。

 そんな年齢であったこともあるな。

 数年前、俺もこんなもんだったろうか? まあ、中学校時代より、今の孤高の聖人(ボッチ)の片鱗があって、クラスの騒がしさなどとは無縁の俺のようなスーパー中学生と比較するのはかわいそうであろう。

 それでも、——教室って、もうちょっと落ち着いていたような気がする。

 こんな、幼い感じではなかったような気がするんだよね。

 いや、俺は、記憶を、改竄というか、自分に都合良いようにというか、少し色眼鏡で見てしまっているのかもなとは思う。俺的には、あの頃でも、自分が大人っぽく振る舞っていたと思っている、——そんな記憶が残っているが、今の自分から見るとやはりとても幼稚な感じだったのでは? とか、ちょっと思わないでもない。

 もし、そうならば……。

 この騒がしき同級生(・・・)たちにあきれる資格も今の(・・)の俺にはないかもしれない。

 三年間先に成長した、精神的チート(ずるっこ)を得て教室を見渡しているのだから。

 俺は、今、中身は高校生でありながら女子中学生(JC)——喜多見美唯(きたみみい)

 喜多見美亜(あいつ)の妹と入れ替わってしまったのだから。

 明らかに、まわりの中学生(ガキ)たちとは違った精神体として教室に俺はいるのだから。

 ならば、

「……なんか美唯元気なくない?」

「え?」

「元気がない……のじゃないのかもしれないけど……今日、変に落ち着いているよ」

 後ろの席から声をかけてきたのは鶴川(つるかわ)めぐ。

 事前に聞いていた、喜多見美唯の小学校からの親友である。

「そ……そうかな?」

「気のせいかもしれないけど。いつもの美唯と違うな……」

 ギクッ! そりゃ、今、このJCの中身はオタクボッチ男子高校生であるが……。

 長く深いつきあいの彼女からは、さすがに違和感に気づかれるのか。

 さすがに、心が別の人物に入れ替わっているなどという超常現象が起きているとまでは思わないだろうけど、

「……なんか、悩みあったら言ってよ。私たちそういう関係だよね……」

「あ、ありがと」

 その表情は、今日の喜多見美唯はかなり変なのではと疑っている。——心配している顔だ。

 でも、何でもないんだと言うと、

「……なんかへんな感じがするけど。まあ、いいわ。美唯にも人に言えない悩みくらいはあるかもしれないし……。けど……」

 私くらいには言って欲しいなというような悲しそうな顔。

 ……うう。

 なんて純粋なんだ。

 体入れ替わり現象のせいで、不本意にも関わらざるをえなくなった、俺の周りのリア充女子高生(JK)どもとはえらい違いだ。

 ひねくれてないというか、——まるで打算もない。あくまでも友を心配するだけの親友のその姿に、——心配されるべき喜多見美唯でない俺。

 と思えば……。

 罪の意識が体中に満ち満ちる俺であった。 

 こりゃ、今回は、早くもとに戻った方がよさそうだな。功利的でないが故に美しくも、純粋な心と心のふれあいが故に、なんとも脆く感じられる中学生の交友関係にひびを入れる前に。

 なるべく早く。

 実は、それは喜多見美唯も同意はしているのだけれど……。


「へへ、お父さん……それは(・・・)ちょっと待って欲しいかもね……」


「……」


 いつの間にか横にいて、俺にそっと耳打ちするのは片瀬セナ。

 なぜか俺のことを『お父さん』と呼ぶ、どうにもつかみどころのない謎の幼女。

 と思ってたんだけど……。

 ——お前中学生だったんかい!

「ひどいなあ。誰が、宇宙一どころか、多元世界一可愛い、女神どころから、女神の中の女神なのに、中一にしては少し小さすぎないかって……」

 いや。そんなことは言ってない。 

 というか、また人の心読んで会話するのかこいつ。

「……へへ、そうかな? そんな小さくないかな? セナって、8歳にしては背が大きい方だからね」

 は? 8歳は小学生のはずであるが?

 あと俺が言ってないのは、体が小さい方でなく、

「まあ、宇宙一って言われてもスケール大きくて今の(・・)お父さんが言われても困るよね。セナ、正直宇宙はどうでもよくて、要は、お父さんに可愛いっておもってもらえるかだけなのだけど。どうかな?」

 そりゃ、この頃関わり深いこの片瀬セナは、どうにも捉えどころないし、クソ生意気な感じではあるが、上目づかいにニッコリと微笑まれると、

「ふふ。そりゃ、可愛いに決まってるよね。なにしろ、お父さんの子供なんだからね!」

 悔しいが、あいかわらず可愛らしい謎の幼女であった。

 どう見ても中学生ではないのだが、本日、朝、喜多見美唯と同じクラスに転校してきた片瀬セナであった。今日、俺が喜多見美唯として中学校に来てみれば、朝一番で転校生として紹介されて挨拶していたセナを見たときは仰天した。

 ただ、落ち着いて考えてみれば、今更という感じはする。

 ——いつも神出鬼没というにもほどがあるセナである。

 そういえば、この間、ヤバい男から助けてもらって俺(稲田先生に入れ替わり中)が、セナの住むマンションに泊めてもらった時、すぐに引っ越しするような事を言ってた。引っ越すならすでに俺と同じ高校に転校してきた片瀬セリナとおなじ家に住むのだろう。

 セリナがセナの本当のお母さんであるのは年齢的にありえないにしても、二人が肉親なのは間違いなさそうだし。ならば、学区が重なるこの中学にくるのは不自然ではない。

 まるで俺が今日、喜多見美唯となってこの中学校に登校してくるのを知っていたかのような不自然さ、疑惑は残るが、それ以外は不自然ではない。

 偶然にしてはタイミングその他があいすぎであるが、喜多見美唯とも俺——向ヶ丘勇とも同じ学校となれるような地区に引っ越せば良いのだ。

 セナが異世界で女神アルバイトとして現れたことに比べれば、段違いに現実的な遭遇と言えるだろう。

 ただ、


「ねえ、片瀬さんって……美唯の知り合いなの?」


 現実的であれば、現実的なシチュエーションでこその問題も起きる。

「あ、それは……」

「はい。実は幼い頃からの知り合いで、家族以上(・・)の付き合いをしています」

 なんか挑発するようなセナの薄笑い。

「へえ……」

 あれ、怖い。メグちゃん怖いよ。純粋無垢なはずの中学一年生が、人殺せるような深い闇をまとちゃっているよ。

「でも、毎日会っているのは私だから」

「……でもこれからは毎日会えます。そしたら毎日こんなふうに……」

 俺——美唯ちゃん——に抱きついてくるセナ。


 そして……。


「え!」


「あ?」


「「「「「「「「「えええええええ!」」」」」」」」」


 ——チュッ!


 俺に、そのままキスをして騒然となる教室内なのであった。

 といっても、キスをしても俺が唯一入れ替わらないのが、この片瀬セナ(セリナもか)であったから、


「……毎日ラブラブです!」


 周囲に見せつけるように自慢げな顔をしながら俺の周りを飛び回る幼女なのであった。


 ああ、これは……。


「……ぐぬぬ」


 俺は背中に——なんかとてもドロドロした感情が突き刺さる——メグちゃん視線を感じ、今回の体入れ替わりも一筋縄ではいかないかもなと思いながら、昨日の夜のことを思い出しているのであった。


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