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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子婚活中
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俺、今、女子集合中

 武蔵さんと、その奥さんの状況はどんなものなのか?

 そういや、日曜の夜に武蔵さんに会った時に聞いた、その話をしてなかった。

 別居中とまでは言ってたと思うけど、その話から想像される通り……。

 ——まあ、有り体に言って離婚寸前ってとこで間違いないみたい。

 二人の住んでいるアパートを出ていった奥さんはもう一ヶ月も帰ってきていない。

 なんでそんなことになったのかと言えば、直接の原因は武蔵さんの方にあるとは言える。なんでも、口論になり、奥さんを罵倒するような言葉を吐いたとのことなのだった。

 とはいえ、聞く限りは、そんな離婚とまでは言えるほどのことを武蔵さんがしたわけではない。

 そんなすごいことしたわけじゃないいんだよ。単に、初めて、武蔵さんがまともに奥さんに反論したらそれが気に食わなくて奥さんは家を出て行ったってことだ。

 もちろん今武蔵さんの言い分によると、ということだし、ちょっと過ぎた罵倒があったとは武蔵さんも認めているのだけれど……。多分、そんなので別居だ、離婚だとなるのならば、うちの父母の普段の言い合いだったら世界大戦になっちゃうよ——ってくらいのやり取りだったようだ。

 聞くと、激昂したと言いながらも、武蔵さんは丁寧語でずっと喋っていたようだし、普通似考えれば議論をちゃんとしようって思って、節度のある言葉を武蔵さんは一貫して話していたようなのだった。

 ふざけるな、とか納得できないとかくらいの言葉はあったようだけど、相手からはもっとひどい言葉を言われての買い言葉的な流れだったらしいし、それで家を出ていくというのは正直過剰反応都市か思えない。——ともかく、そんなどんな夫婦の間にも始終ありそうな口喧嘩の結果、武蔵さんの奥さんは家を出て行ってしまったということなのだった。

 で、その、揉めた原因というのも、どっちか明日のゴミ出しをするかなんていうことだったらしく、会社の出張の都合でちょっと遅く家を出る事になった武蔵さんは、先に会社に行く奥さんに頼んだ……って、はたから見たらどうでも良いような事だったらしい。

 これで次の日仲直りしてるのならば、犬も食わないって程度の話でしかない。

 ——だがこれで夫婦の破局の一歩手前まで行ってしまったというのだ。

 ちょっと過剰反応というものではないだろうか。

 奥さんの方が。

 いや、そもそも、武蔵さんが結婚というのを甘く考えていたというのはある。

 流されるまま、深く考えることもなく、甘い気持ちで結婚してしまった武蔵さん。そのつけというか、当然の結論というか。そもそもそんな声楽家あっていたともいえない奥さんとは気づけば口論ばかりとなる。

 いや、口論といっても、一方的にまくし立てられて、ずっと武蔵さんが下を向いているという状態だった模様だが……。

 ともかく、そんな日乗に耐えかねて、もしかしたら一生で初めてかもしれない激昂しての反論というものをしてみたところーー家を出て行った奥さん。

 そんなつもりでは無かったとはSNSのメッセージ送ってはみるものの、今に至るまで未読。そんなこんなで別居生活はもう一ヶ月近くなり、その間に何回かかけた電話も二言三言ですげなく切られ、一体どうしたら良いのか糸口もつかめない。

 生来、気弱で人の良い武蔵さんにしてみれば、自分の不用意な一言が巻き起こしたこんな事態に対して反省することしきり。なんとか謝って奥さんに戻ってきてもらおう、やりなおそうと、焦燥感にかられて何度も連絡をとろうとするものの、何も話してくれないんではどうしようもない。

 そもそもだ。今の夫婦喧嘩、武蔵さんが一方的に悪いわけじゃないと言うか、奥さんの方も相当悪い。

 あの武蔵さんから、思わず拳がとびだしたなんてドメスティックバイオレンスなんてあったわけもないし、激しく罵倒したわけでもない。結婚以来、ずっと言われるがまま、バカにされるがままであった武蔵さんが、ついにちょっとだけ反論をしたら家を出て行かれて……。

 仲直りしたいと連絡するも無視され、


「流石にこれは悪いの奥さんじゃないの?」

「俺もそう思うけど……」


 放課後、昨日約束した時間と場所に合わせて、武蔵さんに会いに行く途中の会話である。

 で、俺も喜多見美亜(あいつ)と同じ意見だ。

 武蔵さん側だけからの話しか聞いてないのだけれど、彼の人となりから考えて、こんな話しで嘘をつけるわけもなく、概ね言ったとおりなのだと思う。

 でも、それでも、


「裁判とかになったらな……」


 俺はネットで調べた様々な離婚裁判の例を思い出しながら言う。

 精神的に傷ついたと妻が言った時、夫の抗弁はどこまで認められるか?

 裁判の前の協議で和解するかもしれないが、最悪そうなった時も考えて、


「今日は私もついてくんだよね?」


 俺はあいつの言葉に大きく頷いてこたえるのであった。


 別居中に男のほうが別の女と二人っきりで会ったって事実を作りたくなかったからね。あいつにはアリバイというか、目的の偽装のために、一緒についてきてもらおうと思ったのだった。

 いや、この後、稲田先生の命令に従って、略奪愛でもしようという状態なのに、そう見えないようにごまかそうというのだから、ちょっと罪の意識は感じるが、——しょうがないよね。そうじゃないと俺がアラサー婚活女子の体と入れ替わったままになってしまうのだから。

 そろそろ、公私含めて、のしかかるプレッシャーに押しつぶされてしまいそうな俺。だから、男子高校生——俺の体——と入れ替わっている喜多見美亜(あいつ)に横に座っていてもらって……。

 と思っていた俺の前に、


「は?」


「「「「「「「こんにちわー!」」」」」」」


 俺の目の前に現れたのは、見目麗しきも癖の強い女子七人。

 そう、この間も稲田先生の合コン相手の評価をしてもらった評議会(カウンシル)プラスして、生田緑と和泉珠琴の登場なのであった。


「へへ、——相談事なら人多いほうが良いアイディア出るよね!」


 と言いながら、自慢げに鼻孔を膨らますあいつ。

 いや、確かに相談事でと言ったが、お前を呼んだ意味合いは違うんだよ。

 相談そのものをしたいわけでなく、いるだけで意味があるというか、いることしか意味がないというか……。

 でも、


「まあ、いいか……」


「……?」


 なんだかあまり嬉しそうじゃない俺の顔を、不思議そうな表情で眺めるあいつに、俺は言うのだった。


「ならば、評議会(カウンシル)改め……審問会(インクイジション)の始まりだ」

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