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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子婚活中
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俺、今、女子問い詰め中

 さて、やっとやって来たと思った週末はあっという間に終わってしまい、やってきたのは月曜日。アラサー女性と入れ替わってしまってはじめてのブルー・マンデイ……。

 いや、待って、ブルーって女性に入れ替わったからってそう言う意味じゃないからね。

 気持ちが冴えないブルーな月曜日ということで、生理用品会社が広めた婉曲語とはなん関係もなく……。


「……? どうしたの?」


「——いや、なんでもない」


 そんな憂鬱な週始めの昼休みの生徒指導室。俺の目の前に今いるのは喜多見美亜(あいつ)そっち(・・・)の方の憂鬱(ブルー)からも、他の女子の様々な面倒臭さからも開放され、俺と入れ替わって男子高校生として過ごしている元リア充様だが、

「……?」

 ブルーからはほど遠そうなぽかんとした感じで——というか、何か楽しそうなんだよなこいつ。

 体が入れ替わってから。

 気のせいじゃなきゃ。

 だんだんオタク化してきたので、俺の家のコレクションとか楽しくなってきてるかもしれないのはともかくとして、リア充が入れ替わって楽しい立場じゃないと思うんだけどな。俺の人生って。

 ——と、俺はあいつ……というか自分の顔をぼんやりと眺めるのだが、

「……で? 相談って? メールもらった話だよね? ん? 聞いてる?」

 おっと! って、余計なこと考えていたら、昼休み終わっちゃうな。

 この後もう一人生徒指導(・・・)があるので、こいつの現況の詮索は別の時として、

「……あ、悪い悪い、ちょっとぼうっとしてた」

 と俺は言う。

 すると、

「……何……しっかりしてよね。このあと午後授業あるんでしょ? 先生とあんた入れ替わったせいでみんなの成績下がっちゃ大変よ。そんなのバレたら、後々まで恨まれちゃうわよ」

 まあ、バレないがな。というか、体入れ替わり現象なんて、その当事者でもなけりゃとてもじゃないが信じることなんてできないだろうけどな。

 でも、確かに俺が稲田先生と入れ替わったせいで、せいでみんなの成績が落ちたりしたら、流石に罪の意識感じる。先週は、先生のアンチョコをこっそり読んだり、周小テストしたりしてなんとかごまかしたけど。ただの……というか、たいしてできが良いわけでもないただの高校生である俺が、教師のふりをし続けるのも限界がある。

 とにもかくにも、先生にはさっさと元の体に戻ってもらううのが吉なのである。学校のみんなの為にも……。なにより、アラサー社会人生活のプレッシャーに押しつぶされそうな俺の為にも。

 なので、

「……これが打開策になるのかはわからないけど……」

 俺は昼休みの生徒指導室にわざわざ呼び出したあいつに昨日の夜の武蔵さんの件を話し始めるのだった。


 そして……。


   *


 喜多見美亜(あいつ)との相談の終わったあとの次の生徒指導(・・・・)は片瀬セリナ。

「おお、勇たん……ゲホ、ゲホゲホ……勇くんと……毎日会えるとは……ゲホ、ホ、ゲ……」

「……だ、大丈夫か?」

 また今日も随分テンション高くて、話し出すやいなや、いきなりひどく咳き込むセリナ。

「だ、だいじょうび……ヒヒヒ……ゲホホホホ……!」

 喉に何かつまらせてむせている。

 眉間にシワを寄せ、目に薄っすらと涙を浮かべて、美人顔がだいなしだ。

「び……美人だなんて……おこがま……グォホ、ゲ、ホ、ホッ、ホッ……!」

 俺たちの学校に突然現れた知的で清楚な転校生(ニューフェイス)

 その恵まれた外見と、性格の良さが滲み出しているその立ち振る舞いで、これは学内リア充レースの新たな勝者となるのではと生徒たちの間でもっぱら話題の片瀬セリナ。

 だが、そのむせてる姿はとても無防備。間抜けな感じさえしてむしろ可愛い感じだ。

「かうぁいいなんて……そんな……ゲフォ、ホホホ!」

「……いや、無理してしゃべるな」

 あと、心を読むな。

「はて? なんのことでしょ……ウッ……ゲホッ、ゲホッ!」

「ほら、お茶、お茶……」

 俺は、テーブルの上に置いてあったペットボトルから紙コップにお茶を注いで渡す。



「……落ち着いたか?」

「はい……。すみません、取り乱しました……」

 で、お茶を一気に飲み干して、やっと一息ついた片瀬セリナ。

 これでやっと本題に入れるが、

「いえ、それは答えられません……」

 待て、まだ質問してないぞ。

「は! すみません、つい……」

 カッとしてやったみたいな感じで、未来を予知するな。

「……反省はしてます」

 それはもういいから、

「セナのことですね」

 あっと……その通りなので、ゆっくり首肯しながら俺は言う。

「何者なんだ? あの子」

 それにオマエモナー。

「フフフ……」

 笑ってごまかさないで。

「禁則事項ですから……」

 ということは未来人なの君ら。

「うっ……」

 こらこら、図星だったみたいに黙らないで。

 でも、どっっちかというと宇宙人のほうかなって思ってたんだけど。普通じゃない人達分類でいうと。

「うっ……」

 って、また図星かよ! ていう事は未来から来た宇宙人かよ。超能力もありそうでS●S団一人でフルコンプかよ!

「……それは、今は言えないので」

「まあ、いいや……」

 話が進まないので、

「セナちゃんと昨日会った……というか部屋に不法侵入してきたのだけど……」

 俺は本題を切り出す。

「ああ、あれはすみませんでした、きつく叱っておきたしたので……」

「不法侵入それ自体もあれだけど……窓から入ってくるなんて危なすぎるだろ……」

「はい、あの子も癖が抜けなくて……」

 なんの、何時(いつ)ついた癖なんだ……というのは、やっぱり答えてくれなさそうなので、突っ込まないこととして、

「武蔵さんのところにも現れたそうだよ……セナちゃん……」

「?」

「正確にいうと、夢の中にね」

 ああ、そのことか、といった顔のセリナ。

 昨日の武蔵さん、彼が住んでいるアパートは千葉の松戸のあたりらしいんだけど、そんな人が、東京を挟んで反対側の、何の用事もない郊外の駅前を歩いていたのは偶然にしてはできすぎで、——もちろんそんなはずはない。

「なんで、武蔵さんが俺らの地元駅前に来てたかと言うと、夢の中に、何度も幼女が現れて、あの駅前に週末行くべきだと諭すので……来てみたそうだよ武蔵さん」

「それは、……夢への介入はセーフなので」

 だから、何に対してセーフなんだよ! ——と問い詰めたい気持ちがむくむくと湧いてくるが、気にしてると話が進まなさそうなので、やっぱり無視をして、

「……君たちが仕組んでるの」

 俺のこの頃の超常現象の全て——体入れ替わり現象やらなんやら——は?

「……」

 沈黙は肯定ととって良いんだよな?

 どうせ答えてくれなささそうなので、俺は一方的にしゃべり続ける。

「何が目的なの? どう考えてもわからない。意味がないじゃん。俺みたいななんの取り柄も無いような一般人をこんなことに巻き込んで……」

 と、俺は、少し呆れ顔で言うのだが、

「違うんです!」

 必死の形相のセリナがそれを否定する。

 違う? 何が?

「違うんです……勇たんは……ただの人じゃないんです……少なくとも、私にとって……」

 セナの言葉の重さに、沈黙となる生徒指導室であった。

「そんなわけはない……というか……君とはまだあったばかりなのに……なんでそんなことを……」

 言うのか? 

「それは……いえ、言えないです。まだ……」

 やはり、その疑問には答えてくれないセリナ。

 ——正直俺はわけがわからなかったが……。それは——彼女の想いは——決して嘘ではない、何か俺に向かって重い想いがある。何がなんだかわからないながら、それだけは確信できた。

 でも、俺は、次に何を言えば良いのかがさっぱりとわからずに、

「……っ」

 言葉に詰まれば、

「……そろそろ時間ですよね」

「……あ」

 時間切れ引き分けというところだった。

「次の生徒がもう来てます。生徒指導室に……」

 俺は、今日、片瀬セリナとセナの二人が俺の周りの最近の超常現象に深く関わっているのだと確信を深めることはできたのだが、どのように関わっているのかまでは問い詰めることはできずに終わるのだった。

「では失礼します、先生(・・)……」

 そして、俺の一瞬の好きを見逃さずに、一礼して立ち上がるセリナ。その表情には、もう今日はこれ以上何も話してくれなさそうな決意が感じられた。

 ならば、深追いはすまい。今日のところは。

「あ、次の人に……」

 と俺が言いかけると、

「……すぐに入るように伝えます」

 とセリナが言葉を被せるようにして続け、小走りで、逃げるように部屋を出ていった後、——すぐにドアがノックされて、

「はい、入ってください」

 俺がそれにこたえれば、

「失礼します……」

 喜多見美亜(あいつ)——の体の中に入った稲田先生の登場なのであった。

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