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俺、今、女子リア充  作者: 時野マモ
俺、今、女子騎士
129/332

俺、今、女子帰還中

 というわけで……。


 俺——向ヶ丘勇は戻ってきた。

 日本へ。

 俺の、……じゃなくて喜多見美亜(あいつ)の部屋に。

 つまりあいつの体の中に。


 目の前のパソコンの画面の中では、びっくりしたような表情の聖騎士ユウ・ランドがじっと俺を見つめていた。

 ユウ・ランド——俺がネットゲーム「プライマル・マジカル・ワールド」を遊ぶにあたって作り出したキャラクター。……のはずだったのだが、


「あ、そうか。操作しないと何も動けないよな」


 俺が入れ替わってゲームの世界に入っていた間は()の意思で自由自在にゲーム内を動いていたが、ゲーム内の架空のキャラクターであるお前(ランド)は操作されないと指先一本動くことはできない……。


 いや、建前は良いか。


「自由にしてみろよユウ・ランド。お前は、できる(・・・)んだろ」


 画面の中の女子騎士の口元が、気のせいかニヤリと笑ったような気がした。

 もしかしたら俺の手が無意識にマウスをくりっくしていたりしたかもしれない。

 でも、誓って言うけれど、自分では何にも操作したつもりがない。

 しかし、聖騎士ユウ・ランドは、またちょっと顔をニヤリとさせると、振り返り、俺に背中を向けるとそのまま戦場に向かって進み出す。

 聖剣を持ち、空中浮遊の魔法を使い、城壁の上から飛び出して、閃光をまといながら戦いの中に自分を投じて行く。

 その後は……、俺は何も操作することなくゲームの画面を閉じた。


 これが、俺と聖騎士ユウ・ランドとのお別れだった。


 そして……。


「で、君はだれなの?」 


 俺は、体が元に戻ってからユウ・ランドとのお別れまでの一連のあれこれがひと段落して、初めて部屋にいるもう一人の人物に気づいた。

 振り返ると、後ろのベットに腰掛けて、ニッコリと微笑む美少女。

 見知らぬ高校のものっぽい制服に、美しい長い髪を垂らし、その間の清楚で知的な顔を窓から差し込む光が聖女のように浮かびあがらせる。


「片瀬セリナです。初めまして、……と言わなきゃいけないんでしょうけど」


 片瀬……、あああの謎の少女というか幼女、片瀬セナの関係の人かなんかか……。

 まてよ、セリナ? 確か、あの子が「ママ」とか呼んでいた人のことじゃなかったっけ?


「……セナが言ったことはあんまり深く考えないでくださいね。私は、来週から(ユウ)さんと同じ高校に転入してくる女子高生。それ以上でも、それ以下の存在でもありません」


 ん? この人、俺のことを勇って呼んだな。今は、喜多見美亜(あいつ)の体の中にいるのに。


「はい。知ってますよ。その体の中に誰がいるのか」


 やはり。でも、誰から知ったんだろ。

 転校してくるとか言ってたから、下北沢花奈の時みたいにいつの間にかみられてたとか女帝——生田緑の時みたいに監視されてたとかではないだろうけど。他、経堂萌夏さん、百合ちゃん。誰も軽々しくこの秘密を漏らしたりするような奴はいないと思うのだけど。まさか喜多見美亜(あいつ)……もないな。


「ええ、誰も話してなんかいませんよ。私に……」


 そうだな。セナも、誰に聞いたわけでもなく俺の体入れ替わりのことを知っていた風だった。もし、セナの関係者であるなら彼女から聞いたか、……そもそも知る力を持っている?


「ふふ、どうでしょう……」


 なんだか意味深に笑うセリナと言う少女。

 というか、


「あんた、さっきから俺の心読んで発言してない?」


「…………!」


「ねえ?」

「…………」


「ねえ?」

「…………」


「…………?」

「…………!」


「…………??」

「…………!!」


「…………???」

「…………!!!」


「いや、いや、俺は心読めないから……」

「はて、なんのことでしょう?」


「……って」


 根負けした俺。


「まあ、いいや……」

「ええ、話を続けましょう」

「そうだな……、まずは……」


 この人一体何者かは聞いてもはぐらかされそうだし、


「なんで、この部屋にいるの?」

「それは喜多見美亜さんのお母様に、お子様の友達なのでお部屋にお通しいただけるようにお頼み申し上げましたら快く……」

 え、あのしっかりしたお母さんが見ず知らずの人を娘に確認もせずに勝手に部屋に通すか? 

「いえ、快く(・・)

 だから、心読むなって!

「……これは、失礼しました」

 って、本当に読んでるじゃんこの人。

「はて?」

「……まあいいや」

 追求するだけ疲れそうなので、ひとまずは放っておこう。

「……それより、聞きたいのは、どうやって入ったのかのではなく、なぜ(・・)入ったのかなんだけど? 『初めまして』の人が、この(・・)部屋に、この(・・)瞬間、なんでちょうどよくいるの?」

 俺が、たまたま体が入れ替わった瞬間に居合わせた少女。そんな偶然があるわけもなく、

「もちろん、目的があってやってきましたよ。別に私は不要に女子高生の部屋に侵入して回るのが趣味の不審者ではないですから」

「じゃあ、その目的は……」

「はい。それも別に秘密ではないですよ。ここらでユウ・ランドさんに元に戻っていただかなくては、かなり計画(・・)に歪み出ることが前回(・・)わかりまりましたので。お願い(・・・)に」

 ——前回?

「あまり、深く考えて貰わない方が嬉しいのですが……あのまま勇たん……ゲホッ……いえ勇さんが異世界に残ってそのまま冒険を続けてると、結構行くとこまでいっちゃってしまうんですよね」

 ——行くとこまで?

「途中、うっかりミスしてオークの群に囲まれちゃったりのピンチもありましたがそれも脱したら、いつのまにかそのままあの世界じゃ並ぶもののない戦士にまで到達して……ついには世界を越え、宇宙をまたにかけ活躍する。……それって、もともとユウ・ランド嬢の運命なんですよね。それじゃ勇たん……ゲホッ……いえ勇さんであるって言えませんよねその人生の主人公は」

 ——はあ?

「……今は話せません」

 だから、やっぱりこの人心読んでるよね。本当何者なの?

「まあ、良いではないですか。そんな瑣末なこと。今は、ただ、やっと再会(・・)できたことを喜ぼうではないですが」

「再会って……えっ!」


 俺は、一瞬前には少し離れたベットに座っていたはずの片瀬セリナがいつの間にか目の間に顔を近づけ、ニッコリと笑っている姿にびっくりとしてしまう。

 そして、


「ああ、愛しき人(ダーリン)


 彼女は、そう言うと、


 ——チュ!


 俺に熱烈なキスをするのであった。


   *

 

 そして、週明け。

 予告通り、俺の通う高校に転校生が来た。

 それは、もちろん、あの片瀬セリナその人であった。

 隣のクラスにすごい美人が転校してきたと言う噂で持ちきりの月曜の昼休みの教室で、俺は、いつの間にかすでに接触を済ませてきたらしい生田緑からその名前を聞く。

 驚きはない。

 やはり彼女だった。と思っただけだった。

 片瀬セナに続いて、俺とキスをしても体が入れ替わらない特異体質な人物二人目。

 いや、体入れ替わらないことを特異体質と言うのもなんだが、事実、俺とキスしてしまった人は今まで入れ替わってしまっているからな。

 入れ替わった後に戻らな行くてこまることはあったが。 

 ——ともかく、何かある。

 あの片瀬を名乗る二人。

 異世界で女神アルバイトをやっていたセナという子も只者ではないが、今度のセリナと言う転校生はそれどころでない何かを感じる。

 それは……。

 ああ、ここから先は、完全に単なる俺の妄想に過ぎないのかもしれないが、——この体入れ替わり現象の根本にこの子が絡んでいる。

 そんな気がしてならないのだった。


 でも、まあ、今のところはなんの証拠もない、俺がなんかそう思えるという感覚だけで言っている話だ。でも、どうにも、切り捨てるわけには行かない可能性。

 だから、


「あっ!」


 昼休み、午後の授業が始まる前に用を……お花をつみに、トイレから出て来たその時、目の前の廊下の突き当たりの角に、その片瀬セリナ本人が一人で歩いているのを見て、知らないうちに駆け出してしまっていたのだった。この間は、キスされたあとキョトンとしてた俺を残して、さっさと消えてしまった彼女に問いたいことが沢山あったのだった。


「——ちょっと君! この間の話の続きを……えっ……!」


 ——ガッシャーン!


 しかし、焦って駆け出したので、俺は廊下に置いてあったバケツに気づかずに足をとられ、


「あれ、喜多見さん、危ない!」


 転校生の校内の案内で、ちょうど片瀬セリナの後ろを歩いていた隣のクラスの担任の稲田先生が俺の倒れこむ真ん前にいて、


「きゃー!」


 ぶつかる体。

 あれ、これってまずいパターンかも。


 と、俺が思うも時すでに遅し……。


 ——チュ!


 俺は、今度はアラサー女子教師と体が入れ替わってしまったのだった。


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