俺、今、女子糾弾中(魔法少女を)
なんで、今ここに?
俺は目の前に現れた喜多見美亜を見ながら思った。現実では、もうとっくに学校が始まって始まっている時間だと思うのだが、復活の神殿で再生したパチモン魔法少女——あいつのアバターであった。
「あれ、あんたなんでここに」
あいつは俺、……が入れ替わったゲームの中のキャラクター聖騎士ユウ・ランドを見つけて、びっくりしたような顔で言う。
いや、それはこっちのセリフだと思いつつ、
「昨夜ゆうべ……」
『ああ、殺られたのね』
首肯する俺。
そして、昨夜の行動を説明する。パーティ仲間との飲み会のあと、ゲームでは知っていても現実となってからは初めてとなる、聖都ルクスの夜の様子を探っていたこと。そしたら、悪い連中にさらわれそうになっていたエルフの幼女がいたから助けようとしたら、実はその幼女がさらに悪い奴で俺は刺されて死んだこと。そして女神に説教受けてから生き返ったこと。
ああ、女神がなぜか俺を『お父さん』と呼ぶこと。そして、その女神は前に温泉で会った片瀬セナという少女本人であったこと、——なんとなく話ややこしくなりそうだから話さなかったけど。
「ゲームが現実になっても……、大丈夫だったんだ」
ほっとしたような表情で魔法少女が言う。
うん、俺も、そこんとこ心配だった。
俺は今ゲームとして異世界ここにいるわけじゃない。現実としてこの剣と魔法の世界を生きている。
それなら、もしかして、死んたらそのままになってしまってもおかしくはなかった。何しろ、現実での死とはそういうものだから。少なくとも俺の生まれ育ったその世界の現実では。
しかし、異世界ここの現実では、
「死んても……蘇ることができるみたいだ。ゲームのように」
「そう……良かった……」
そう言った瞬間、魂が抜けたようなホッとした表情を浮かべる喜多見美亜……。というかあいつのゲームでのアバターであるパチもん魔法少女。
「ごめん……」
こりゃ、こいつ、本気で心配してくれたな。ゲームキャラクターは、そんな微妙な表情出せなかったよなと思いつつも、今それを現実として見る俺には、体が入れ替わってからいろいろとあって、随分と心の機微も知るようになったあいつの表情の微妙な変化に気づく。
しかし、
「まあ……あんたみたいなボッチオタクなんて……こんな異世界ところで野垂れ死んでもらっても一向に構わないのだけれど……入れ替わりを元に戻してからじゃないとあたしも困るわけだし……」
「……」
まあ、あいつがいかにも、『私はあんたのことなんて心配してるんじゃ無いからね』ってふうな口調で言うのだが、——その言葉も、目に涙を浮かべたままで言うと、説得力がないというか、そんなふうに心配してくれているのはとてもうれしいなっていうか……。
「どうしたのよ無言になって?」
「いや……」
でもゲームのCGキャラしか見てないあいつは、自分の感情がそんなふうに俺にだだ漏れになっていることは知らない訳で、
「何でも……」
ここは、からかったり、軽口を叩いたりするとこじゃなく、あいつの思いにぐ感謝して、ぐっと口をつぐむ場面だなって思う俺なのであった。
「ん? ……まあいいけど。じゃあ、私そろそろ行くね。急いで戻らないと。ちょっと今、良いとこだったから……」
「いや! ちょっと待て!」
でも、こっちの方は突っ込まずにいられない。
「何よ?」
「お前なんでこんな時間に、ここにいる?」
「……」
*
と言うわけで、問い詰めれば、学校にも行かず、ずっとゲームをやっていたというリア充様であった。いや、こりゃ元リア充のゲームオタか。いや、アニオタも患ってるようだが。
「だって、あの子の方は緑任せといたらなんとかなりそうだし、私はこっちであんたの助けしといたほうが良いかなって……そのためにはまずレベルあげなくちゃって思って……」
それは、嬉しいが、学校休んでまでやるようなことか。
「で、チャットしてもあんた反応ないから寝てるのかなって思ったので、一人で都の周りの狩にでかけて……そしたらスライムっぽいのやっつけて……始めてレベル上がって……それから楽しくてやめられなくて……ジョギングも休んじゃって……そしたらそれにびっくりしたあなたのお母さんが具合悪いのかって聞くから……これ幸いと具合悪いことにして……」
つまり仮病ね。
単に、ゲームやり始めたら、やめられなくなって、それで学校も休んじゃったと。
まあ、気持ちはわからんでもないが……。
それで、大事な俺——向ヶ丘勇の出席日数を削ってしまったと。
「悪いと思うわよ。相談もせずに勝手に休んじゃって。あんた、学校での存在感なんてちゃんと休まずに学校にくることくらいしかないもんね。いや、前は、あんなボッチ状態に耐えて、休まず、凄い精神力だと思うわ……」
ふん。余計なお世話だわい。
いや、でも『前は』ってのは、いまはボッチじゃないと言うことなんだろうな。体入れ替わりのせいで、いやおうなく喜多見美亜らとつるむようになって、俺の孤高もだいぶ汚されたと言える。
「まあ、明日はみんなに、休んだ反応確かめて、何か問題あったら緑も使ってフォローしとくから許して……」
いや、やめて!
汚された孤高でも、まだ孤高すぎて、みんな休んだのにも気づいてなかったら、俺の精神力がガリガリ削れれるから。こんな異世界でHPなくすのまずいから。
「そう? じゃあ、反応見るのはよしとくけど……」
なんだか、それで良いのか? っていう不思議そうな顔の喜多見美亜であった。
いいの! 放っておいてほしいの!
リア充連中みたいに、俺はクラスの連中と仲間仲間しないと生きてけないわけではないんだよ!
「……良いなら良いんだけど。私、本気で悪いとは思っていることは知ってて欲しいな……って」
ああ、もちろんこいつが人のことをなんとも思わないで自分の利ばかりに走る奴じゃないことはわかっている。
今回は、特別だろう。
なにしろ、こいつが毎朝のジョギングを休んでもゲームをしていたんだ。これは、相当に凄いことなんだろう。
喜多見美亜は、いわゆる健康のためには死んでも良い、ってな感じの健康バカだ。自分の体でもないのに、——人の体でも気をぬくと自分の体にも悪い影響が出かねないって、根拠不明の精神論で、入れ替わった俺の体も鍛えに鍛え抜いて、小太り体型だった俺のダイエットを成功させた喜多見美亜だ。そんな奴が健康よりゲームを優先させたのは正直びっくりしてしまう。
相当な、どハマり具合だったのだろう。夏休み最後の一週間をこのゲームに、何かに取り憑かれたかのように費やしてしまった俺から言えた義理ではないが、
「ともかく……休んじゃったものは仕方ない」
「そう。せっかくだから今日は有効利用したいのだけど……まあ、一人で狩するよりあんたが一緒の方が安心だけど……でもどこ行ったらいいかな」
まあ、俺をまいて、一人でレベル上げに行こうとした様子がありありだったけど、学校休んだのがバレたらもう隠すものはないから一緒に行った方がよいか。
うん。合理的な判断だ。
「それなら……」
俺は、ならば合理的なレベルげをこいつにしてもらおうかと思い、ある提案をするのだった。
「……ダンジョン潜ってみるか」
——と。




