俺、今、女子復活中
朝。ロリ女神に説教食らってから意識が朦朧となり、気がつけば復活の神殿の大理石のベットの上で目が覚めた俺であった。
——あ、日が昇ってるんだなもう。
ステンドグラス越しに差し込む日差しで俺はそれを知る。
——あのエルフ幼女に殺されたのは真夜中過ぎ。それから朝まで、俺はここで眠っていた?
——結構時間たったかな?
この世界での一日が何時間なのか、日の出や日の入りが何時なのか、季節でそれは違ったりするのか? 異世界一日目の初心者にとってそれは全て未知の内容であるのだが……。
まあ、日本と同じだろうな。昨日一日の経験によれば……で、これから変わらないとは断言できないけど、ゲームとしてのこの世界は基本的には日本の同じ時期の季節に合わせた日の出日の入りの時間。ただし午後十時くらいからの、もっともゲーマーが遊ぶ時間を日中時間帯にするため、日の入りが遅い。そのくらい時差がある。冬の日の入りの早い時期はどうなるのかは調べてなかったが、少なくとも、やっと厳しい夏も陰りが見えて来たかなという、九月になったばかりの今の時期では、向こうの連中が、もうだめ、もう寝るといったあたりに日暮れの時間をあわしているようだった。
ルンたちと酒場で別れた——向こうからしたらログアウトした——のがもう午前三時くらいだったと思うから、それから数時間以上いるとすると……、もうすっかり朝だね。
ああ、まずいな。喜多見美亜が朝にログインするとか言ってたけど、すっぽかしちゃったな。このゲーム——今の俺にとっては現実——を昨日始めたばかりで、まだ右も左もわからないのに一人でログインしたのか。あいつ、ネットで色々調べるとかめんどくさくてやらないタイプだしな。その上、妙に行動力はあるから、きっとあちこち動き回って、いろんな人に声かけて……。
異世界に迷惑かけてないといいけど——。
……しかし、まあ、今は、そんなことを考えていてもしょうがない。日本はもうすっかり朝というか、学校も始まっている時間だろうし、喜多見美亜はもうここにはいないだろう。あいつの行動の心配をしても、それは後の祭り……ということで。
「起きるか」
なので、とりもとりあえず、俺は寝ていた大理石のベットから立ち上がることにした。
でも、
「いてて……」
起き上がる時に感じる体の節々の痛み。
こりゃ、やっぱり数時間ここで寝てたんだなって感じだ。
そりゃ石の上に三年でなくて、三時間……どころじゃなく寝てたんだろうから、体もあちこち痛くなるよな。
でも、なんだろう——ゲームの時は蘇る時に復活の神殿で寝てるなんて設定はなかったけどな。
もし、この俺が今いる異世界での復活の方法がが、ゲームとおなじシステムならば、女神に説教食らって復活の神殿でよみがえる、その時間はせいぜい十分かそこらのもののはずだ。
『おお勇者よ……』
もうこんなところに来るんじゃないですよ、とか言われてそのまま復活の神殿で蘇ればそのまますぐにゲームに戻ることができる。もちろんデスペナルティでのHPやMP減なんかはあるけれど基本は、そのままプレイを続行できるのだ。
でも、この明らかに硬い床で爆睡してましたっていう体の痛みから考えると、この異世界を現実として生きる俺は、復活の後眠りこけていた……?
いや、それ、本当に寝てたんだろうな。
ただ単に寝ていた。
復活するやいなや、そのまま寝落ちした。
——ってことだろう。
まあ、ゲームでなら……。
深夜までプレイして、いい加減眠気もマックスな時にデスペナくらって、ああ、もうやってられない! 寝てしまおう! ってあれだな。
今ゲームじゃないけど。これが現実だけど。
でも同じだよな。もう限界。寝てしまおうってことだ。
今日はいろいろあって疲れてた俺は、復活するなり、そのまま動けなくなって寝てしまったと言うことではないか。
というか、そもそも昨日ほとんど寝てないままこの異世界にやってきてしまったからな。横たわったらそのまま寝てしまったというのも宜なるかな。
そういや、なんとなくうっすらと、復活した瞬間の灯火に照らされた神殿の様子、眠気を誘うゆらゆらと揺れる光をみたような記憶が……。
「まあ、しかし、ともかく、生き返ってよかった」
俺は、立ち上がったあと、幼女エルフに刺された腹の辺りをさする。
服を切り裂き、ぶっすりとつきたてられたナイフの傷跡はすっかりと消えているようだ。
服も元どおり。
うん、ゲームと同じだな。ゲームの世界が現実となった今の俺も、ゲームの時と同じように蘇ることができるようだ。
俺は、ゲームで死んだ時のことを思い出す。
といっても、まだ一週間まえくらいのことであるが、ほとんど眠りもせずにふた晩がたち、少しレベルがアップして腕に覚えも出て来た頃、聖都の防衛ミッションで迂闊にオークを深追いしたら、奥に飛龍が控えていて……。
「でも、ゲームと同じように——迂闊に死ぬのはよくないな」
現実では死んだら終わり。それに比べたら、何度でもやりかえせるゲーム、異世界でもそのチートを継続するなんて、ずいぶんとヌルい現実だ。死んでも、生きかえって戻れるだけでも、この世界の本当の住民に比べれば、俺は随分と優位にたっているのだろう。
でも、むやみに死ぬのはよくないと思う。
体に残る、どっとした疲れ。こりゃHPやMPを相当持ってかれてるな(ゲームだったら半減)。もしこれが、魔法帝国の侵攻とかのクリティカルなミッションの前であったら俺は戦力外通知になってしまうし、そもそも今回は生き返れたが、現実として生きるゲームの世界で俺が何度も生き返れるものかは正直なんともいえない。それになりより……、
「あんな痛みはもうごめんだからな」
俺は、エルフに刺された時の激痛その苦しみを思い出しながら、いくら生き返れるからといっても、あんなのはもうごめんだと強く思うのだった。やっぱり現実怖え。
「さて……それはともかく」
というわけで、デスペナへの深く反省と今後に向けての心構えを深く心に誓う俺であるが、いつまでも神殿でダラダラしているわけにもいかない。
宿には、飲みに行くと伝えてから出てきたので、俺と同い年(の設定)のユウ・ランドはこっちの世界ではもう成人で、なにより聖騎士の隊長様となれば、一晩帰ってこないくらいで騒がれることもなだろうが、一応聖騎士としての毎日の勤めがあるんじゃないかな? 昼には。
ゲームの時は好き勝手にやりたいときにやりたいミッションこなしてたらよかったけど。どうもゲーム設定的には神殿につかえて、その警備とか日々の庶務とかあるとかなっていたから、現実では少なくとも神殿に顔出しくらいはしとかなくちゃだめなのでは? ゲームの時には、それは俺がゲームから離れたときに勝手に進行してたことになっていたけれど。
まあ、どっちにしても現実としてのこの世界はまだ二日目の俺だ。悪目立ちしないように慎重にことは進めたほうが良い。
さっさと宿に戻ったら、そのあと聖騎士の担当の詰所に行こう、と俺は思ったのだったが、
「あれ?」
俺が寝て居た石のベットの横、そこにうっすらと光の粒子がたちのぼり、それが漂い、ぐるぐると周り、次第に人の形になっていき、
「ああ、もう! なによあの性悪女神。『あんたなんて生きさえさせる価値なんてないけど、これも仕事だから仕方ない』ってなによ! なによ、このゲーム! 運営どういうホスピタリティなのよ! もてなしの心はないの! まったく、あのロリっ子ダ女神こそ死ねば……あれ?」
俺の目の前に現れたのは、どうやらデスペナルティを受けたらしい、喜多見美亜なのであった。




