俺、今、女子飲み会中(異世界で)
喜多見美亜がログアウトして消えたあと、異世界に一人取り残された俺。
ここがゲームの中の世界なのか、本物の異世界なのかは相変わらず判然としないが、ともかく俺の現実、——元いた世界との繋がりがこれで一旦断たれて、俺はこの世界にひとりぼっちとなった。
ああ、——あんな奴でもいないと不安だな。と俺は、あんな奴だからこそ不安になっていることにこの時はまだ気づかないまま、部屋のベットでこのあといったい何をしようかなと考えながらごろごろとする。
まあ、今日はいろいろあったし、急いで何かやらなきゃということも思いつかないから、もう寝て休んでしまえば良いのだが……。
——寝れない!
基本は早寝早起きの喜多見美亜が、もう日が変わりそうで眠気が耐えきれないらしくログアウトしたところからすると、日本はもう深夜。だが少し時間のずれがあるこっちの世界はまだ日が暮れたばかり。流石に寝るにはまだ早い時間であった。
俺の体内時計は向こうのほうでなく、この異世界で生きる聖騎士ユウ・ランドの方にあっているようで、ベットに転がってはみるものの、さっぱり眠くはならないのだった。まあ、それは体の持ち主の方に体内時計があうのは当たり前だよなとか納得するものの……。
——どうするか?
いや、正直いきなりの異世界(ゲームの中?)へ転移、……というか体入れ替わりで心身ともに疲れ果てているのでこのまま寝てしまって、現実も朝になるころに活動を始めるというのが一番良いのだと思うが、一応しばらくベットで目をつむって横になって見たが、やはり、さっぱり眠れる様子もない。
ならば、
——もう一度街出てみるか。
俺はそんな風に思うのであった。
*
夜の街は、昼とは違った趣があった。
というか、ちょっと下世話な感じ。
怪しげな店の前にはガラが悪そうな呼び込みがいたり、路地裏にはエッチな格好したお姉さんが今夜のカモを探している。
ゲームとしてこの世界を画面越しにみていた時にも確かにこんなふうな連中が繁華街をうろついていたなと、目の前の光景を見て思い出すが、——やっぱり現実として体験すると生々しいな。
というか、生々しさが変な風にリアルというか、——中世ヨーロッパ風の街並みなのに、日が暮れてから通る、地元駅前の飲屋街のあたりに雰囲気にてないでもないな。
それが、なんか妙な感じ。
本当の中世、……というか、俺の世界でのヨーロッパの中世がこういうものっだったのかはしらないが、なんかハードは中世なのにソフトは現代が入っているというか、なんか作り物めいた違和感があるというか……。
中世なんてよくわからないが、ゲーム製作者が身近の繁華街の建物や歩いている人の服装だけ中世にしたというか。こういうの見ると、やっぱりここってゲームの中の世界なのかな?
なんて、俺は、闇夜にネオンならぬ灯火がきらきら光る、この街を見ていると思うが、
「ああ、結局古今東西、人間のやることなんて同じようなものが出来上がるってことも考えられない?」
俺が、この街はなんか違和感があるようなことを言ったら、ドワーフのルンがそんな風に答えた。
あっ。今俺がいるのは、行きつけの酒場。といっても、ゲームのプレイで行きつけだったということで、現実としてくるのは昼にNPCとのコミュニケーションの確認のために寄って以来二度目であった。
街を無目的にうろついても、昼に見た時のそのままの中世風ファンダジー世界の典型的な風景だなという以上の情報は得られなかったので、酒場に行けば何かわからないかなと行ってみたのだった。
たぶん、日本では日が変わった頃、——ならば、その時間必ずログインしてくる知り合いがいるよな? そいつらと話してももう少し確かめたいことがある……。
と思ったらやっぱりいた二人。
一人は昼にもあったドワーフのルン。夜もまたいた。というか、この人、夕方にいなくなることもあるが、大抵いつもログインしてるような気がするが、一体何をしてる人なんだろうか?
「おっとここで中の人の話は無しだよ」
今日も、流れにまかせ、ノリで聞いてみても、やっぱり答えてくれない。あまり言いたくないのか、言えない事情でもあるのか……?
「ルンさんはいつも固いね。ゲームはゲームと思ってもっと楽しんだっていいじゃないか?」
「……」
ルンにそんな風に諭してくれるのは酒場で会えた知り合い二人目のエルフのヒュー。
俺が一週間ほど前にこのゲームをやり始めた時に、初心者で何をどうしたらよいのか? と途方に暮れていたときに、いろいろ親身になって教えて暮れた人(ああ亜人か)である。
俺が、この二人と話して、まず確かめたいことは、——変わりないかということであった。
昼にルン、そのあとに喜多見美亜——パチモン魔法少女と話せたことで、この俺が入りこんでしまった異世界は、(俺の)現実世界からはゲームとして認識されているということが分かった。また向こうからはチャットをしていると俺には普通に目の前のドワーフが話しているように聞こえるし、俺の言葉は向こうにはチャットの文字列に変換される。——ということが分かったが、果たして、少し時間の経った今もそのままなのか? なにか状況に変化はないかということを、確認したかったのだった。
少なくとも、俺がこの異世界(?)に入った時には、ゲームという形で俺の元の世界とこの異世界は繋がっていたのだが、……時間がたってその結びつきが解けてしまっていないか? 二人は単なるこの異世界の住人とあって、元の世界のゲーマーとの繋がりが断たれていないか? ——なんてことにはなっていないかと不安になったのだった。
まあ、ついさっきまで、喜多見美亜と話していたので、いきなりそんな風になることはないかなと思うが、あいつとはもともと体が入れ替わっているとか特別な関係でもあるので、ちょっと違う結びつきもあるのかなと思って、——念のためだ。
俺は、今も向こうから俺はゲームの中のキャラクターとして認識されているのか確かめるため、意図的に、メタな発言を繰り返して見た。
「そてでね——あっ、打ち間違えた。それでね……」
「ユウさん。焦らないで良いからね。ゆっくりキーボードを……」
「……」
「そういや、フューさん、忘れないうちに約束のアイテムを受け渡すので、メニューをクリックしてください」
「……お、悪いね」
「……」
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
「なんだ、突然。キーボードをダーですか。どうしたん?」
「……」
このゲーム中に現実の世界の話をあまりしたくないルンはその度に無言となるが、フューさんは俺のカマかけに丁寧に答えてくれる。現実の性格が偲ばれる律儀なフューさんに感謝だが……。
そろそろ、——決定だな。
俺と向こうはゲームをインターフェースとして繋がっている。
明日以降どうなっているのかはわからないが、少なくとも、今晩はまだ……。
俺の今いるこの世界がゲームの中の仮想世界なのか現実なのかは、まだわからないが、向こうからはゲームとして思われているそれはもう決定事項として扱ってよいだろう。
そして、その前提は忘れないようにしなければならない。俺の行動が向こうから不自然と思われないように。俺は、向こうの人と話す時は、向こうは俺をキャラクターだと思っているという前提で対応しなければならないということだ。逆に異世界の人と話す時は、俺は生身の実在の人物で、この世界も本物の世界でああるという前提で話さなければならないということだ。
その切り替えをうまくやらなければいけない。
まあ、流石に、ちょっとやそっと俺の言動がおかしいくらいで、ゲームの中のキャラクターと体が入れ替わった奴がいるとかの超常現象を考えたりはしないだろうしmこの世界の人に、ここはゲームの中の世界だと言っても、何を言われているのかそもそもわからないと思うだが……。奇行や虚言が多いと思われて、仲間から見放されるとこの世界での生活がやりにくくなる。
いや、この世界に、そんな長居するつもりはないのだが、俺と入れ替わった聖騎士ユウ・ランド、俺が作り出したキャラクター(のはず)が、どうもすぐに元に戻ってくれる様子じゃないようなので、異世界にしばらく居残ることになる可能性も考慮しなければならない。
特に、週末に予定されているイベント、——魔法帝国、悪逆非道の魔法使いローゼの軍勢が攻めてくる。なんでもネットの噂によれば、ローゼの腹心の人造人間サクアが率いた大軍団が俺の今いるこの聖都に攻め込んでくるという。もしかしたらこのゲーム史上で一番の戦いになるかもという……。
そもそも、生身(俺にはそうとしか感じられない)の状態でそんな大激戦の中に入り込んでしまうなんてごめんこうむりたい、それまでに元の世界に戻りたいのだが、少なくとも、結局戦いに参加することになってしまった時には、助けてくれる仲間は多い方が良いよね。
もちろん、喜多見美亜や百合ちゃんもこのあとゲームに参加してくれるそうだからいろいろ助けてくれそうだが、なにぶんまだ始めたばかり。かくいう俺も、初めて一週間ちょっととはいえ、夏休みの最後の一週間を粉骨砕身でゲームにつぎ込んでレベル上げができたのと違い、学校が始まってしまってから始めることになった二人は、週末までにはそんなにレベルあげれるとは思えない。戦いではむしろ俺が守らないといけなくなるんじゃないのかな? 他に、このゲームやりこんでてレベルも相当高いと言ってる下北沢花奈も協力してくれると言ってるが……。あいつはちょっと行動が読めんとこもあるしな。不安だ。
「まあ、緊張するなって。もうユウは聖騎士の小隊長様だ。精鋭と一緒に戦うんだ。心配しなくてもよいよ」
先のことを思い、少し暗くなった俺を励ますルン。
異世界に放り込まれて不安になっている俺には、こういう仲間がやっぱり必要なんだよな。
「そうですよ、ユウさん。どうせ戦いで死んでも、ゲームの中のことですし」
「……」
いや、それが不安なんだよ。と、フューさんに言いたくなるのをぐっと堪え、俺は黙る。だって、フューさん、俺生身なんだよ。今は、ゲームのキャラクターじゃないんだよ!
しかし、まあ、もしかして……もしかしてだけど。
ここでもし死んでしまったりしたら?
俺、——どうなるんだろう?




