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黎明のヘリオドール  作者: 御堂 蒼士
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87 師弟懇談

 一通り話し終えたリーンフェルトは、顎に手をやり無精ひげを指先で弄っているカインローズへと視線を向ける。


「ん? ああちゃんと話は聞いていたぜ。しかし聞けば聞くほど絶望的な戦力差だな。水魔法なんぞでアンデッドは消滅してはくれねぇぞ」

「あっでも聖騎士団ですから、聖水での攻撃かもしれませんよ?」

「あぁ? 聖水だ? んな物作ってる暇があるのなら、自慢の武器で一撃くれてやった方がよっぽど効率的だろうよ」

「そうなると主力は冒険者達になりそうですね」

「ああ、聖騎士どもはどちらかと言えば拠点防御に回した方がいいだろうな。鎧も重装備だし」


 各教会の女神の祝福を受けた重装備歩兵というのが聖騎士団の見た目であり、女神の僕として忠実かつ屈強である事が求められる。

 彼等の仕事は主に魔物討伐や教会に仇成す存在への対処などだ。

 よって今回の様な宗教絡みであれば戦場に現れる。

 サエス国内の惨状を見るに、王国としての兵力は復興などに振り分けられており防衛に向かった兵士は、資料を見る限りギリギリ持ちこたえられるかどうかのラインだろう。


「最小限の兵力と教会の騎士団、そして冒険者で防衛ラインを維持しつつ送り込んだジェイド達で何かするつもりなんだろうな。サエスの女王様は」

「カインさんもそう考えますか……ではシャル達に何を命じたと思いますか?」


 一瞬の間の後、リーンフェルトと変わらない見解を述べる。


「そりゃ教皇の暗殺ってのが手っ取り早い選択肢じゃねぇか? 教皇さえいなければあの国の指揮系統は麻痺するだろう。アンデッド共にそれが通じるか分からねぇが、指揮系統の崩れた軍ってのは時として格下の相手や兵力が劣っている者にすら負ける事がある。混乱を齎し、且つこの戦争を終結に向かわせるのであれば教皇の暗殺は最も効果な手段と考える」


 いつになくやたら真面目な声色で返事をした彼に、リーンフェルトは男への感想が自然と漏れる。


「……大変です、カインさんが頭を使って話している……」


 弟子からの言葉にカインローズは、内心少しナメられているなぁと思い少々不機嫌な声が出てしまう。


「おいおい……これでも一軍を預かる身だぞ? 兵法が多少なりとも分かっていないと務まらんだろうに」

「そうでした。そういえばカインさんアルガス王国との戦いの時も一軍の将でしたものね」

「それを言うならお前だって将校だったろうに」

「それは……確かにそうなのですが、兵を率いた実績になるかと言えば疑問ですね。本当に短時間でしたし」


 曲がりなりにも一軍を預かる上で最低限は兵士の統率の仕方であったり、策略の読み合いなどカインローズもそこそこ勉強したのだろう。リーンフェルトは士官学校でだが、果たしてカインローズは一体どこから学んだと言うのだろうか。

 そんな事を考えていた彼女に気が付かず、彼は真顔のまま話を続ける。


「でもまぁ……教皇の暗殺が成ってしまえば、戦局は一気にサエス側に有利になるんじゃねぇか」

「やはり暗殺が目的しょうか。どうしてこんなに危ない事に首を突っ込んでるの……。シャル……本当に大丈夫なのかしらあの子」

「そこはジェイド次第だろうな。トラブルもあったし当初の計画から変更を余儀なくされている事だろうな」


 ちょっと棘のある彼の言葉に彼女は視線を落とす。


「ああ……彼の腕を私が落としさえしなければ……」

「そこは仕方ない話だろう。勝率はかなり下がってるんじゃないか、何せ腕を失くすほど深手を負っているんだ。普通に考えればジェイドが魔法で援護、嬢ちゃんが切り込んで戦うってくらいしか作戦の立てようがない」

「くっ……あの子前衛なんて出来るの……?」


 未だ目の前で起こった事を正しく認識できていない彼女に、カインローズは指摘を入れる。


「リン。良く思い出せ。去り際のスピードを見る限り身体能力系統の魔法じゃないか? 嬢ちゃんの魔法は」

「身体能力操作……そうなるとシャルは光魔法を使える事になりますが……でもあの子魔法が本当に出来なくて」

「いんや、嬢ちゃんは魔法を使っていた。若しくはそれに準じるほど高性能な魔道具を所持しているぜ。でなきゃ小さい体で男を担いであのスピードとか、どんだけ怪力なんだよって話なんだ。だからそこは確信を持って断言できる、嬢ちゃんは魔法が使える様になっているぜ」


 確かにシャルロットの事を思考から外していたのかもしれない。

 もしくは使えないという先入観が抜けていなかったのも原因の一つだろう。


「そんな……シャルが魔法を使えただなんて」

「もっと臨機応変に考えてみろよ。絶対におかしいだろ?」

「それは、その……確かにそうなのですが」

「例えばこうだ。冒険者として戦いに身を置いた事によって魔法の才能が開花したとか、ジェイドが魔法を教えた可能性だってある」

「生まれてずっと魔法が使えない事に悩んでいたシャルが魔法を使える様にしてもらったのならば……」

「まぁ……大恩人だったりする可能性があるわな」

「私は……本当にどうしたら……」


 もしシャルロットが魔法を使える様にしてくれたのならば、それは妹の宿願であり彼女の人生でどれだけの価値があったかは想像に難くない。

 そう考えれば、仲が良かったと自負している姉妹間で、あんなに冷たい眼差しを向けられる事も納得のいく話である。

 小さい頃一緒に魔法の練習をしたりもしたが、とうとう使う事が出来なかった彼女の事を思うと胸が痛い。

 子供なりに丁寧に教えたつもりだし、理論的な事を言っても幼い妹には理解できないだろうと随分擬音語が多かったようにも思うが、それでも姉とて一生懸命に教えた事は事実なだけに何となく悔しい気分を味わう。

 そして妹の闇に光を差し入れたジェイドに対する申し訳なさが込み上げてくる。


 唇をキッと結んで感情を抑える。

 吐き出したい言葉は沢山あるが、それは彼に言っても意味を成さない。

 多分表情に出てしまっていたのだろう、カインローズが気が付いて殊更明るめの口調で彼女に質問をする。


「取り敢えずなんか考えてるんだろ? 謝罪だけで済むかどうかは俺にもわからんが」

「普通腕一本切り落とされたら一生恨みますよね」

「そりゃなぁ……」

「シャハルから腕を戻せるだけの魔力を貯めて、回復魔法を掛けてみようという話になりましたけど……いつ会えるかわかりませんし、その魔力が何時貯まるかもかも分かりません」

「んじゃまずは黙って魔力を貯めようぜ。戦場で魔力を吸ったら誰もが魔力を失う状態だ。魔導師の編成がある所なら確実に混乱させる事が出来るだろうよ」

「そうでしょうか……。そんなに上手くいきますか?」


 何時になく弱気な声を出す彼女に、カインローズは上手い言葉で励まそうとするが、結果それも思い浮かばず自分の言葉で話す事になった。


「そりゃ、やってみないと分からんのが勝敗ってもんだ。ただ成功率を上げる為にいろいろ手は打つ必要があるだろうがな」

「せめて所在だけでも掴む事が出来れば、魔力が溜まり次第、謝りに行けるのですが……」

「ん? 居所ってのも情報だ。居るだろ? それに長けている奴が組織にいるじゃねぇか」


 その言葉にはっと気が付き彼女は顔を上げて、その人物の名前をポツリと声に出す。


「……アダマンティスさん」

「そういうこった。背格好や嬢ちゃんの特徴だけでも伝えておけ。目ざとく如何なる情報でも拾ってくるだろうよ。あの性悪爺さんは」


 少し弟子の思考が前向きになった事を感じたカインローズはニカッと爽やか目に笑う。


「アダマンティスさんいい人なのですけどね。きっとカインさんの態度とか気に食わないんじゃないですか?」

「ふん。別にあんな爺さんに好かれる事はねぇわな」


 そう啖呵を切ったカインローズが何となく面白く、リーンフェルトはクスッと笑う。


「よし少し余裕が出来たみたいで何よりだ」


 カインローズも弟子の久々の明るい表情に、安心したのか少々笑みを浮かべて見せた。

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