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黎明のヘリオドール  作者: 御堂 蒼士
63/192

63 鳴動する大地

 大地の剣二射目の魔力が補充されるまでの短い間、アンリとカインローズはミーティングをしていた。


「一度目で大体の感覚は掴めた。扱う魔力の量は膨大だが、何とか最低ラインでの制御は可能なはずだ。次はグランヘレネの西端より少し行ったところで魔法を発動させる。カインには悪いが飛んで見て来てくれないか?」

「西の端ってここからどれくらい行った先だよ、アンリ?」

「海が見える辺りが大陸の終わりですよ。カインなら行って帰って来れるだろう」

「いや、答えになってないぞ? 本気で飛ぶとよ、結構疲れるんだぜ?」

「これも任務ですよ、疲れてください。それとも私と魔法の制御を変わりますか? 私は構いませんが変な所で発動させないでくださいね?」

「ったく無理な事言いやがって。分かった分かった、見て来てやるぜ。最速でだ」


 そう言うとカインローズは西に向かって、豪風をその身に纏いながら飛び去った。


 一方、二射目にあたりアウグストが付けた純血というキーワードについてグランヘレネの動きは迅速だった。

 純粋な土の魔力しか持ち合わせていないシュルク、グランヘレネの中でも特にヘレネに愛された優秀な土魔法使いを三千用意するのにたった五分で結論が出た。

 土の魔力しか持たない者をこの国では純血、ヘレネの寵愛を受けし者として優遇される。

 当然、支配層にそれが多く含まれている。

 そこから三千ものシュルクを刈り取るのだ。

 それだけでも国の機能に影響を及ぼしかねないのだが、誰もが熱狂で我を忘れている。

 本来は刈り取る事が異常な事なのだ。

 しかしそれに誰も気がつかない。

 教皇の住まう大聖堂に仕えるシュルクは純血である事が求められており、彼等を使えばよいと教皇は言った。

 確かに今から国内に呼びかけて人を集めるのは困難だろう。

 しかし大聖堂内で従事している純血ならば直ぐそこにいるのだ、今は時間が惜しいとばかりにシュルクをかき集めるように指示をした。

 ヘレネの福音と称して発動した魔法は不完全ながらも狂喜を持って迎え入れられた。

 敬愛してやまないヘレネの為に命を賭す事など、むしろ誉れであるとシュルクはあっという間に三千人を超えて集まったが定員は三千だ。

 早い者勝ちにすると純血達は処刑場となる建物へ次から次へと送り込む。


「女神の一助となりて、我が国を救いし英雄たらん者は力を貸して欲しい!」


 確かそんな送り出しの言葉だったとリーンフェルトは記憶している。

 今も刑場入口ではヘレネの狂信者がひしめき合って、我先にと群がっている。

 死ぬのは怖くは無いのだろうか。

 全てを擲って女神の下へ行くことが果たして幸せなのだろうか。

 穏やかな日々に未練などないのだろうか。


 処刑に使われた魔法陣を内包した白亜の建物は、狂信者の血の一滴、爪の一片すら残す事無く、土の魔力に変換したらしく二射目の大地の剣はヴィオール大陸に更なる揺れと女神への熱狂を齎した。


「これぞ、これぞ我が女神の力じゃ! 神敵であるサエスを滅ぼすのじゃ!」


 教皇の号令の下、指揮官達が慌ただしく動き回り鞍と鐙を取り付けた翼竜へと乗り込んでゆく。

 その一団がサエスに向かって飛び立ち始める。

 グランヘレネの軍隊が迅速に動けたのは、アウグストの召喚に合わせて編成を終えていた事が大きいようだ。


「あの翼竜達はもしかして……」


 何かがおかしい。

 次々に空へと飛び立つ翼竜達はどれもがボロボロなのだ。

 物によっては骨が剥き出しになっているものや、明らかに違う生き物の羽が移植された翼竜もちらほらと見かける。


「あれはもう死んで腐ってしまっているね」


 隣でケイが翼竜達を指差しながら目を細めた。


「つまり死者使役の方法を確立しているという事ですか……」

「見る限りはそうなるかな」

「それは闇の魔法なのでは……」

「さあ? 僕も詳しい事は分からないけど、あの騎乗用の翼竜達はとっくに死んで腐っているって事だけは間違いないかな」


 つまりグランヘレネの翼竜部隊は全ての翼竜が腐っていたのだ。

 辺りには鼻を劈く死臭が立ち込め、具合が悪くなる。


 エストリアルの水が溢れた件に続いて、次はグランヘレネによる地震である。

 二射目を終えたところで、アウグストとアンリが建物から出てきた。

 その表情は少々暗い。

 そして教皇にとって非常に残念な報告を上げた。


「猊下……先程の二射目で起こりました地震によって施設とヘリオドールを結んでいた魔力経路が純血に耐えられなかったようです。あの魔法陣からは後一度とお考えください」


 アウグストがそう教皇に告げると、わなわなと手を震わせながら老人とは思えない程の大きな声を上げて叫んだ。


「何という事だ……急いで次の魔法陣と施設を作るのじゃ! あれさえあればどの国も恐れるに足りん」

「とはいえ……アンリには魔法のコントロールという仕事もありますし、魔法陣を描く為の私の魔力も残り僅かです。ともあれサエスは壊滅的なダメージを負った事は間違えありますまい。後は猊下がサエスにヘレネ様の教えを広めてゆけば良いのです」

「ふむ……ならば最後の一撃でサエスの命運を断ち切ってくれようぞ。しかし、本当に惜しい。マディナムントへも一撃食らわせられれば良かったのじゃが……」

「それまでには我々の魔力も回復している事でしょう。その時はまたお手伝い致します。まずは目先にあるサエスの事から処理してしまおうではありませんか」

「ふむ、アウグスト殿の言うとおりですな。まずはサエスを滅ぼす事に注力するとしよう」

「恐縮です」

「さて状況はどうなっておるかな」


 教皇の言葉に答えたのはアンリである。


「はい、今斥候を放っております。時期に戻るでしょう。そろそろ……」


 その言葉を言い切る前に夜空が一瞬鮮明に光る。

 それは雷光の様にバリバリと鳴り響く。

 皆が一様に暗い空に目を向ければ、そこにはカインローズが驚いた表情と共にあった。

 斥候から戻っていたカインローズは、徐々にその高度を下げ、地に降り立つと大声で捲し立てた。


「アンリ! 何だあれは! 海から巨大な壁が現れやがった」


 そう報告するカインローズの声を聴きながら、リーンフェルトは状況について考える。

 恐らく地震が起きて海に巨大な壁という条件から導き出されるのは津波である。

 五大陸の内ケフェイドでは年に数回ほど、大きな物から小さい物まで様々な地震が起こる。

 女神ヘレネが大地を揺らして怒っているのだとする説がシュルクの中では通説となっている。

 その中でも怒りが激しい時には決まって津波が水の壁の様になって陸地に向かって来るのだ。

 クリノクロアも南の海に面している事から、何度か津波という物を体験している。

 尤も津波対策には優秀な土の魔法使いを多数揃えて、防波堤を作り上げるというやり方が一般的な対策方法である。

 魔力豊かなリーンフェルトも一度だけ防波堤づくりを経験している。

 上空から偵察してきたカインローズが壁と称する程の津波である、その規模は想像が出来ない。

 彼女の視線の先では教皇が心底愉快そうに声を出して笑っている。


「ははは、これは良いですな。まさか水のヘリオドールがあるサエスが津波に呑み込まれるなど、滑稽で仕方がありませんな」

「これも全てヘレネ様のお導きでしょう」

「アウグスト殿は口が上手い。さて我々はこれよりヴィオールの西端から魔法を行使してサエスへ進軍する事になるが、アル・マナクの面々はどうなさるおつもりか」

「それは決まっていますよ。土のヘリオドールより更なる福音を読み取りましょう」

「そうか、そうであったな。また有用なヘレネ様のお力を我らに授けてくだされ」

「善処致します」


 そんなやり取りの後、教皇は三射目の準備に掛かるべく動き出す。

 次の大地の剣であの白亜の建造物の中にある魔方陣はその効力を失うようだ。

 アウグストはこの場にアンリを残して、自身はヘリオドールの間へ戻るのだという。

 その護衛としてリーンフェルトとケイが移動を開始する。

 カインローズは斥候の疲れの為か、行儀悪く地面に大の字で倒れている。

 ヘリオドールへと続く螺旋階段を下り始めるとリーンフェルトはアウグストに質問を始める。


「あのアウグストさんお尋ねしたい事があるのですが」

「なんですかリンさん」

「大地の剣と言う魔法ですが、どのように発動されているのですか?」

「ふむ、それは実際に制御した者に聞いたら良いと思うよ」

「アンリさんに聞いて見たらという事ですね」

「そうなるね。魔法はセンスだと思うが流石アンリという感じだよ。やはり土魔法で右に出る者はいないね」


 詳しくアウグストから聞きたがったのだが、仕方ないのでアンリに聞く事にしたリーンフェルトであった。

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