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黎明のヘリオドール  作者: 御堂 蒼士
30/192

30 武器を求めて

リーンフェルト達が食事を終えて解散した後、カインローズが捕まらず午前中は自由行動となった。

リーンフェルトはと言えば食後に温泉に入ろうとしたのだが、なぜか掃除中であり浴場の方はなにやら騒がしい。


少し待ってみたが掃除は終わらず、仕方がないので温泉が開くまでマイムの街へ出る事にした。

まずやるべき事として思いつくのがミランダへの支払いだろう。

商人ギルドからお金を下して、その足で払いに行けばいい。

次の案件としては自身の武器である。

カインローズが買ってきた模造刀で改めて認識させられる事になった己の武器の事だ。

魔導師としての腕にはそこそこ自信があったのだが、先日の襲撃者との戦いにおいて負傷してしまった事で、やはり魔法だけに頼るスタイルは自分には合わない事と痛感していた。

魔力で負けてしまえば、無力な小娘でしかない。

いくら器用に複数の属性の魔力を扱えたとしても、力で負けるのならどうしようもないのである。

ならば自分よりも魔力が強い者を相手にする時どうすればいいのか?

仮に魔導師相手という事に焦点を絞るのであれば、武器での攻撃は有効だろう。

動ける魔導師もいるが、半数は砲台である事がほとんどだ。

前衛の後ろから強力な魔法を放ってくるタイプは多く、魔導師はあまり武術が得意ではないというのはリーンフェルトの経験則である。

しかしアル・マナクには例外が多く、セプテントリオンの上位者はほぼ魔導師にしてなにかしら近接戦の術を持つ者がほとんどだ。

あのカインローズですら風と雷の魔力を自在に操る戦士であり、忘れがちだが四席とリーンフェルトよりも上位者である。

即席で構わないのであれば魔力から武器の形した物を生み出す事は出来るが、これは魔法であって武器ではない。


「良い武器に出会えるのは武人としての誉れ高い事だ」


と、カインローズがその昔言っていた事がある。

カインローズの武器は反りのある片刃の剣だが、驚くほど切れ味が良い。

なんでも先祖伝来の業物なのだとか。

先日襲撃者の魔法で折れてしまったレイピアは、士官学校時代から愛用していた物なのだが業物という訳ではなく、無骨なナックルガードが妙にしっくりときて手に馴染む代物だった。

出来ればそういう手に馴染むような物が欲しい。

浴衣から昨日買った服へと着替え、クライブからもらった布で髪を結い、アトロからもらったストールを身に着ければ寒さ対策も万全だろう。

宿から出たリーンフェルトは昨日訪れた商人ギルドへ行き金貨を二十枚を下す。

昨日の今日という事もありブラックのプレートでは驚かれなくなったが、ギルドに入った瞬間小さなどよめきがあった程度で問題なく金貨を手にしたリーンフェルトはその足でミランダの店に向かう。


「こんにちは。ミランダさん、いらっしゃいますか?」


店に入り声を出すがミランダの気配を感じない。

何かあったのだろうか?

一度店から出て、脇の小道から裏手に回ると山賊も驚くような悪人面の冒険者数名にミランダが取り囲まれている。


「ミランダさん!?」


咄嗟に声を出したリーンフェルトは、ミランダを守るように男達との間に割って入る。


「あ?なんだこのおん……」


リーダー格の冒険者が口を開き割って入ってきた彼女に何か言い終わる前にリーンフェルトは右手から風魔法で衝撃波を食らわせると、男は鳩尾を抑えて地面に突っ伏した。


「貴方達は何をしているのですか!ミランダさんを襲うつもりでしたね?許せません!」

「貴女は昨日の……?」

「ミランダさんお怪我はありませんか?私が来たからには手出しをさせません!」


そう言ってのけるリーンフェルトに、ミランダは溜息を吐くと首を左右に振る。


「ないわね全然。それよりもこの人達私の取引先の人達なのよね……人相悪いけど」

「え…私はてっきりミランダさんが襲われているのだとばかり……」


苦笑するミランダと男達数名に平謝りをするリーンフェルト。


「あの…申し訳ありませんでした。私ったらてっきり……」


申し訳なさそうに小さくなっているリーンフェルトの肩にミランダは手を置いた。


「そうよね。こいつらが群れて取り囲んでいたら私を襲ってるようにしか見えないわね」

「そ…そんな姐さんを襲う訳ないじゃないですか…大体俺達より強いじゃないですか!」


抗議の声を上げる男達にミランダはフフリと口元に笑みを作るとリーンフェルトに向かって彼らについて説明を始める。

要約するとこの悪人面の冒険者達はミランダを慕って素材を手に入れてくる仕事を請け負っているらしい元冒険者の仲間との事だ。

彼らには現役時代からもう少し身嗜みを整えるように言っていたらしいのだが、まったく聞く耳を持たれなかったらしい。

今回もまた頼んでいた品物を手に入れてきたという事で報告を受け、店の裏で納品作業をしていたのだという。


「あんたらもう少し見た目に気をつけなって何回も言ってるよね?だからこんな目に遭うんだよ!」

「面目ないです……」


ミランダに怒られ今度は冒険者達が小さくなってしまった。


「それで貴女はどうしてここに?」


店の裏手までやってきたリーンフェルトにミランダはそう尋ねる。

声は昨日と変わらずに怒っている様子もない。

少し安心したリーンフェルトはコートの内ポケットにしまってあった金貨入りの皮袋を取り出す。


「昨日のお支払いに来ました」


一瞬きょとんとしたミランダが笑い始める。


「あははは、ちょっとちょっと金貨十五枚よ?本当に?大丈夫なの貴女。どうやって用意したのよ。昨日の今日よ?」


ミランダは驚いた様子でリーンフェルトに聞き返す。

出所のやましい金ではない。

元々内戦くらいから士官待遇で給料が出ていたので、それを貯めていた事。

士官として戦いカインローズ預かりの捕虜になった時もさほど金を使う機会も無くそのままにしていたし、アル・マナク所属となってからはオリクトに魔力を込める仕事もしていたので組織から給料が出ている。

ケテルから持たされた黒のプレートには、そういった金も纏めて入っているのでそこそこの金額が貯まっていた。

しかし、普通の冒険者若しくは観光客がこの短時間で用意出来る金額でもないので不振がられるのは仕方のない事だ。

昨日のミランダの対応についてリーンフェルトは気に入ってもいたし、そんな人に疑われるのは正直嫌な気持ちだった。


「それはですね……」


リーンフェルトは優雅に貴族式の礼をしてみせるとミランダに名を名乗った。


「私はリーンフェルト・セラフィスと申します。ケフェイド大陸で公爵家に名を連ねる者です」


むやみやたらに貴族である事を話すのは、身の危険を招くが信用を得る為にミランダならば話しても大丈夫だろうとリーンフェルトは判断したのだ。


「公爵…ね。公爵……あらあらやっぱり貴族様だったのね。それなら納得だわ」


ミランダは金貨を確認し終えて巾着状になっている皮袋の口を締め、リーンフェルトへ視線を戻す。


「ですのでちゃんとお支払致します。やましいお金ではありませんので」

「そういう事なら確かに金貨十五枚、確かに受け取りましたわ」

「いえ、こちらこそとても素敵な服を有難う御座いました」


そう言って二人は握手を交わす。


「それにしても凄いわね貴女。超お嬢様じゃないの」

「いえ、今はアル・マナクという組織でオリクト事業に携わっています。ですので今はお嬢様はしていません」

「家を出ているって事かしら?それにしてもオリクトね。私もお世話になっているわ」


ミランダがオリクトを使用していると言うと、リーンフェルトの表情は明るくなる。


「そうなんですか!」

「でも…最近高いのよね……オリクト」

「あっ、それは……」


それはオリクトをちゃんと守れず破壊されてしまったからだ。

リーンフェルトは胸が苦しくなって、思わず眉を顰めてしまう。

それに気がついたミランダは、察してかおどけた調子てリーンフェルトを励ます。


「ちょっと。ほんとにちょっとなのよ?でも買えない訳じゃないし有るのと無いのとでは比べ物にならないくらい生活が豊かになったわ」

「なんだかすみません」

「良いのよ。可愛い子には笑っていて欲しいもの」


そう言ってミランダはリーンフェルトに笑いかける。


「私は別に可愛くなんか……」

「あらあら照れちゃって。皆もこの子可愛いと思うわよね?」


突然話を振られた悪人面の男達はワタワタとしながら、一様に頷く。

先程まで地面に倒れていた、リーンフェルトからの一撃を食らった冒険者が起き上がると話に参加してくる。


「姐さん可愛いと言うよりも、どちらかと言えば綺麗なのでは?」

「それもそうね。女は美しくなくちゃね」

「俺達には姐さんが一番だけどな」

「あらあら上手い事言ってもなんにも出ないわよ?」


満更でもないという風に笑うミランダに、場の雰囲気に慣れてきたリーンフェルトも笑う事が出来た。


「そういえば皆さん冒険者なのですよね?」

「私は元が付くけどね」


男達は頷き、ミランダは元冒険者だという。

冒険者にとって武器は必須である。

そんな武器を身近に扱う人達なら武器の事も何か知っているのではないかと思い、リーンフェルトは尋ねてみる事にした。


「あの皆さん。私今武器を探しているのですが…良いお店をご存知ですか?」

「あら防具の後は武器ってわけね。そうね…あっ、因みになんだけど得意な武器って何?」

「先日までレイピアを使っておりましたが、壊れてしまいまして……」


リーンフェルトがそう答えると男達とミランダの論戦が始まる。


「レイピア、レイピア…そうそう突剣のだな」

「突きに特化した剣か、嬢ちゃんそれしか扱えない感じか?」

「獲物を狩るならクレイモアなんかの大剣なんだが…嬢ちゃんの腕で持てるか?」

「いやいや、さっきの嬢ちゃんの動き見てなかったのかよお前らあれは双剣向きだぜ」

「あの嬢ちゃんに斧。ビジュアル的に斬新だろ」

「ビジュアル重視なんて素人のやる事さ。嬢ちゃんは中々の使い手と見たね」


男達は口々に意見を言うものだから収拾がつかない。


「お前らそれじゃ駄目だよ。いつも言ってるだろ人の話をちゃんと聞きなさい!」


結局ミランダの一喝で場が静まると、一つ咳払いをしたミランダが提案をする。


「武器屋という事だからまずは連れて行ってみたらいいじゃない?ねえ、そうでしょ?」

「「「確かに!」」」


凶悪な顔の男達から賛同を得たミランダは、号令を掛けるように声を張り上げる。


「いいか!まずは店を閉める。大人数でゾロゾロというのも先方に気が引けるから、私以外に後一名着いてきな!」


ミランダの一言で男達は俄然やる気が出てきたようだ。

見様によれば女性二人と男が一人。

憧れの姐さんと、乱入してきた公爵令嬢のお嬢様。見た目だけは両手に花で街中を歩けるとあれば、美人を従えてデート気分を満喫出来るに違いない。

男達の目の色が変わり取っ組み合いの喧嘩に発展し、事態はどんどん収束が付かない状態へと嵌ってゆくのだった


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