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ロータス・ヴァレット  作者: 聖騎士・T
深淵の想い人
9/72

クレハの日常

「………」


時刻は21時を回っているだろうか。下界へと無事(・・)到着したクレハは、ある道場の前で立ち往生していた。玄関には「泡吹道場」と書かれた表札が貼ってある。そして今、その体が動き出す。


「ただいま〜…」


「それでさ〜!田中の奴………」


「えっと…父さん母さんただいま。」


「なんで帰って来たの?」


「ヘビィィィ!!」


クレハは頭を抱え、何かに射抜かれたの如く後ろにのめり倒れる。丁度イナバウアーの様な体制だ。


「冗談キツイぜマイマミィ!お!今日の晩御飯はチーズフォンデュですか。良いですねぇ。こんな寒い日にはハイ!チーズ!(?)なんつって!」


「………母さん。ビール頼むわ。」


「はーい。」


「ロンリィィィ!!」


クレハは頭を抱え(ry


「さっきから五月蝿いなお前は。」


「二人が酷い返事するからだろ…」


チャプ台を前に腰をかけ、チーズフォンデュに手を伸ばす。


「クレハ。アンタ昨日何処ほっつき歩いてたの?」


「えっとぉ…」

(そうだ…言い訳考えてなかった…どうしたもんかなぁ。あ…)


「ミカの家に泊めてもらってたんだ。」


「「な……………」」


クレハの一言を聞いた途端、両親の動きが固まる。まさに開いた口が塞がらないと言うやつだ。


「ん?な、なに…?」

(不味い、地雷踏んだか?)


「ま、まぁアレだ!しっかり対策すれば危険も無いし!?」


「そうそう!大丈夫よミカちゃんも貴方と凄く仲良いもの。きっと怒ってないわオホホホホ。」


「ちょ…違うって!!勝手に納得すんな!後何フォローしようとしてるんだよ!」


「クレハ帰ったのか〜?」


リビングがお祭り状態の中、二階から一人の青年がノソノソと降りてくる。クレハの兄だ。


「………何?クレハミカとヤっ」


「いけない!それ以上はいけない!!てかしてない!あ!嘘だよ嘘!本当は天羽の家に泊まってたんだ!」


「いいのよ…お父さんだって中学生が初めてだったんだから…」


「クレハ…俺は嬉しいぞ!ようこそ大人の世界へ☆」


「なぁなぁ、ミカ喜んでた?」


クレハの弁解も虚しく、完全に話が出来上がってしまった。もう彼の力ではどうすることも出来ないのだ…


「あの…マジすんませんしたぁッ!皿洗いでも何でもしますから許して下さいッ!!」


「「「ん?今何でもするって言ったよね?」」」


クレハの土下座を前に、三人は不敵な笑みを浮かべる。


「もう…死にたい…あ、死んでた…」


こうして泡吹一家の騒がしい晩餐は幕を閉じる。

…………………

翌日。クレハは制服を身を包み、朝の準備に耽る商店街を歩いていた。そして、『あの場所』の前に差し掛かり、その歩みを止める。


「………」


そんなクレハに迫る影が一つ…


「よっ!おはようクレハ!」


「!?なんだテンワか…脅かすなよ。」


この男。冽鎌天羽(すがわ てんわ)はクレハの通う空野星(からのぼし)学園のクラスメイトである。クレハとは中学2年生の頃、クレハの父の運営する道場で出会った。


「別に。お前がボーっとしてたんだろ。ていうか、今日はミカと一緒じゃ無いんだな。」


「おう、まぁな。」


少しの雑談を交えつつ、二人は肩を並べて着々と学校への距離を縮める。もう少しで校門、と言った所で事件は起きた。


「ほら早く出せって。」


「………」


「高校生がお金持ってないわけ無いでしょ〜?脳みそ入ってんのかコイツ(笑)」


コンビニの前で、空野星学園の男子生徒が二人のガラの悪そうな男達に囲まれていた。どう見てもカツアゲだ。私服を着ているのと、図体の大きさから大学生以上だろう。


「あちゃ〜、あいつら馬場先輩の取り巻きだな。関わりたく無いグループNo.1だぜ。やったぁ!」


「二人か…」


「ちょ、クレハ!?」


それを見かねたクレハは、カバンを地面に置き、集団に歩み寄る。


「おい。」


「? 何?俺ら今話してんだけど。」


「強奪は犯罪です。速やかに失せましょう。」


「………」


いつの間にかクレハは、二人の男達に挟まれる形になっていた。


「何やってんだよあいつ…」


「お前ケンカ売ってんのか?ボコんぞコラ!」


「フフw来いよw」


「オラァァァ!!」


この男達二人を立腹させるには、十分すぎる言葉だった様だ。二人が一斉に殴り掛かってくる。


「俺は…」


その迫る各拳を、両手で受け止める。


「な!?」


「その倍怒ってる!!」


「「がっ…!」」


そして、その腕を捻り、剛力で二人の体を地面に叩きつける。アスファルトに鞭打ちにされた二人の意識は何の障害も無く刈り取られる。


「す、凄い…」


それを見かねた被害者、空野星生は、ごくありふれた感想を漏らす。そう言うこの青年は、見るからに気弱そうで弱肉強食で言えば『食われる側』だろう。


「大丈夫?これからは友達と登下校するといいよ。」


「ありがとう。名前、教えてくれない?僕は姫向太陽(ひむかい たいよう)って言うんだ。3組なんだけど…」


「俺は泡吹紅葉。1組だよ。」


「俺テンワ!コイツと同じ1組だぜ!太陽かぁ、じゃあサンだな!」


さっきまで傍観していたテンワが、いきなり割って入ってくる。


「え…?」


「太陽だから、サン。あだ名的な?」


「なんか、キラキラネームみたい…」


タイヨウが気恥ずかしそうに俯く。その様子から、タイヨウの学校環境を何となく察したクレハは、ある提案をする。


「コイツのことはほっといと良いから!教室まで一緒に行く?タイヨウ。」


「うん!それと、サンでいいよ。あだ名とか呼ばれた事無いし…」


「そっか。行こうぜ、サン。」

………………………


学校西棟の二階。クレハとテンワは、サンと別れて1組の教室に入る。


「泡吹君!おはようございます!」


「お、来たなぁー!」


「おぉ!葉、伊吹。おはよう!」


クレハと挨拶を交わす女子が二人。友達にも丁寧口調で話す、見た目かなり幼なめで、R15映画すら見させてもらえなさそうな長髪サイドテールが黄花木葉(きばな このは)。皆からは(よう)と言う愛称で呼ばれている。対して、短髪でボーイッシュな女子が北条伊吹(ほうじょう いぶき)である。ここにミカを合わせた五人が、いつも連む仲良しグループだ。


「クレハ、昨日はどうしたのよ。ミカちゃんは一緒じゃ無いってことは、また休み?」


「あぁ、インフルエンザだってよ。1週間程休むってさ。」


「そっかぁー。じゃあ皆でお見舞いに行きませんか!?」


「いや、移したら悪いからいいってさ!」


「ミカちゃんに会えなくて寂しいんじゃ無いかー?クレハ君。」


イブキが付け込むように問う。かなり悪い笑みだ。


「いや、そんな事無いって…」


「安藤と古畑やったの誰だ出てこいやぁ!ゴルァ!!」


そんな友達との雑談を満喫するクラスに、ドアを蹴破るかの如く先輩と思しき生徒が多数乱入してくる。


「クレハ、あいつが馬場先輩だ。留年しまくってそこらのヤンキー牛耳ってるガキ大将だぜ。」


「はよ出てこんかい…1組なのは分かっとる。出てこんと全員いてまうぞ?」


馬場がドスの効いた声で威圧する。とても学生とは思えない。優に20歳は超えているだろう。


「何よアイツ…」


「朝、アイツの連れを気絶させた…」


「はぁ!?何やってんのよアンタ!」


「泡吹君凄い…!」


「おい。」


「ゲ…」


小声で話していた筈が、イブキのツッコミにより朝の一件が悟られてしまった。


「はぁ、そうだよ。俺がやった。『友達』が絡まれてたんでね。助けただけだ。」


「ほう。ええ肝しとる。」


この馬場と言う男。ルシファー程でも無いにしろそれ相応のプレッシャーを放っている。喧嘩はできる方なのだろう。だが…


「行くぞワレェ!!」


馬場が殴り掛かって来る。一直線だ。その向かってくる馬場の足に、体を沈めて回し蹴りを放って足払いをする。人間とは思えぬ俊敏な動きで回避と攻撃を一度に行う。無論避けることも出来ずに被弾する。すると、馬場の体が宙を遊んだのだ。優に3メートルは飛んだだろうか。天井スレスレまで舞い上がり、落ちる。地に落ちた時には、体の内側を痛みが駆け巡っていた。


「う、おぉおぉぉ…くそ!お前らっ!」


馬場が合図をすると共に侵入して来ていた取り巻き三人が喊声を上げてクレハに食ってかかる。


「ったく!鬱陶しい!」


まず初め二人の攻撃を最小限の動きで躱す。そして、ラストの攻撃は躱さずに受け、そのまま背負い投げ。窓をぶち破り、2階の教室から落下する。


すぐさま次の標的に詰め寄り、蹴りを放つ。何の変哲も無い蹴りであった、が、その蹴りを受けた生徒は猛烈な速度で水平飛行。今度はドアをぶち破り、廊下に倒れ伏す。


残るは一人、少々現実離れした光景を目の当たりにし、パニックを起こして得物を取り出す。ヌンチャクだ。


「そういう武器は素人が持たない方がいい…ぞ!」


迫り来るアルミ製のヌンチャクに対し、クレハは全くの素手で拮抗する。ヌンチャクと拳が打ち合った…が、結果は明白。ヌンチャクが衝撃により持ち手を離れて方向転換、見事に相手の鼻に直撃する。


「ん″ん″ん″ん″ん″!!」


余りの痛みに悶絶する。


「おい!何やってる!!」


そして先生のご登場だ。


「泡吹…ちょっと来い。」


「えぇ!?俺悪く無いっスよ!」


「………」


クレハによる『一方的な戦闘』を、クラス一同呆然と見ていた。


「えっと、何?ドッキリなのコレ?」


「泡吹君…本当に凄い…」


「いや凄すぎだろ。アイツ強いのは知ってたけど、人間ってあんなに飛ぶのか?」


「ちぇ!分かりましたよ…」

(やり過ぎた…まさかここまで強くなってるとは…)

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