蒼煇雄者 (ルチア・ソルジャー)サンダルフォン
一悶着を済ませ、クレハはようやく契約寸前まで辿り着いていた。
「じゃあクレハよ。契約を始めようか?」
「待ってました…って言うか具体的にどうするんだ?」
クレハはさも疲れきったという風に、ルシファーに問いかける。
「あぁ、先ず、手前にあった天使を測定する。んで『無事』見つけられたらそいつと契約して貰う。契約の仕方はその時教えてやるよ。」
「OK。んじゃさっさと測定しますか!」
「うし。なら早速始めるぞ。やれ!サンダルフォン!」
「イエスサー!!」
「…ッ!!」
「即時判断。参。」
クレハが理解するよりも余裕を持って早く、ガタイのいい男天使によって蹴り飛ばされていた。建物の壁に体を鞭打ちにされ、クレハは苦痛の声を漏らす。
「立て、クレハ。我輩が貴様の能力測定をしてやる。」
(成る程…『無事』ってのはこういうことか。しかもよく見たらコイツ…)
『アザゼル様のお客様様でしたか…失礼。不躾な挨拶、許してくれ。』
そう、この男。ウリエルと共に宮殿の中に居た天使なのだ。それはつまりウリエルと同等、あるいはそれ以上の天使である可能性が高いという事だ。
「なぁに、武器は無しだ。殺してしまう訳にはいかんからな。ガハハ!」
サンダルフォンが煽るように豪快に笑う。目を瞑り両手を腰に当てて絵に描いたような笑い方だ。はっきり言って隙だらけである。
「泣かす…!」
「ハ…?」
クレハが途端に背の壁を蹴り、サンダルフォンとの距離を殺す。その時間、刹那であった。
「らぁっ!!」
サンダルフォンの間近まで辿り着いたクレハは、地を鷲掴みにし、蹴りを天へと撃ち放つ。見事に顎に決まり。サンダルフォンを仰け反らす。
「おぉ!?」
それを見た天使達が次々と野次として群がってくる。
「戦闘。壱…か?」
「!?」
サンダルフォンが、仰け反った状態のままクレハを冷静に評価する。
「カッコいいぜ!ガキンチョ!」
そう歓呼し、逆立ちするクレハの軸となる腕を左足で攘う。そのまま踏みしめ、宙を遊ぶ顔に対して、エルボー。
「グハァッ!」
鼻なのか口なのか、血反吐を撒き散らし、数メートル弧を描いてぶっ飛ぶ。
「フン…軽い…な!」
サンダルフォンは高く舞い上がり、床を滑るクレハを天から狙う。
「!」
(踵落とし…!)
それを確認したクレハは、床の摩擦力を利用して体をスピンさせ、攻撃を避けつつ膝に蹴りを放つ。昔学校で流行った膝カックンを思い出したのだ。
「ぬぉ!?」
サンダルフォンは驚きの声を上げ派手にすっ転ぶ。それを見て幾らかの天使達が微かに笑う。
「やるじゃねぇか!」
「そのまま勝っちまえよ!」
どうやら空気もこちら側に来ているらしい。クレハは立ち上がり、ニヤリと笑う。
「こ、このぉ…!」
挑発に乗り、一直線にクレハへと駆け寄り、右ストレート。しかし、最小限の動きでかわされフックで顔が歪む。
「フン…重いな。ダイエットをお勧めする。」
(俺うぜぇぇぇwww)
「死ねぇぇぇ!」
「へっ。」
(なんでこいつらみんな殺そうとしてくるんだ…)
案の定、激怒して我武者羅に殴りかかってくる。それをクレハは受け流し、躱し、反撃。完全にクレハのペースだ。
「ダーッハッハッハ!だっせぇぇぇ!!」
二人の戦いを見張るルシファーは、爆笑中である。
「はぁ…はぁ…!」
どうやらエンジンが切れたようで、クレハから距離を取り、息を切らす。
「煽り…零!」
「ちょっと待て!なんだその評価は!?絶対今作っただろ!しかも最高ランク!?」
「うるせぇ!これは防げるかぁ!?」
突然サンダルフォンの拳が蒼く光り出す。これはどう見ても天使の力だ。
「ちょ、ムキになり過ぎだろ。」
「新入りスゲー!」
「おいサンダルフォン!止めろ!」
「雄者の革殴!!」
ルシファーの止める声も虚しく、攻撃が放たれる。
「ッ! 借りるぞ!」
「あ!ちょ…」
クレハは、咄嗟に後ろに居た天使の武器を奪い取る。どうやら剣のようだ。
「どうだぁ…ッ!どわぁぁ!!」
クレハはその剣で迫る蒼き煇に立ち向かう…が、やはり勢いを殺しきれず、光に覆い尽くされた。
「………………」
周りが騒めく中、ルシファーが緊張を顔に表しながら歩み寄る。
「あ、あの…ルシファー様…安否は…?」
クレハはと言うと、見るからに絶望的な状態であった。身体中血塗れである。サンダルフォンはウリエルレベルの上位天使だ。その割と本気の技を食らった人間がタダで済む、生きているとは到底思えない。
ただ、この主人公。泡吹紅葉がこんな序盤で死ぬのは有り得ない。有ってはならない事である。
「生きてるな。」
「んな″!?」
一同が驚愕の一声を上げる。
「そ、そんな!我輩のソル・ディサイシヴを受けた人間が生きてるですと…!?」
「なんだ。死んで欲しかったのか?」
ルシファーが声色を変えて睨みつける。お怒りのようだ。
「いや、そういう訳では…申し訳ありません!つい忘我してしまい…!」
「あぁ、分かった。手前にはこの席降りてもらう。」
「ハ…。」
「ぅ…!ってぇ…マジで痛え。」
「良く生き残ったな。中々面白かったぞ。」
「面白いって…」
「クレハ…。申し訳ない!我輩は規定違反を犯してしまった。そんな我輩が言うのも滅茶な事だが、いいセンスだ。応援している。」
「良いって!お陰で実戦の感覚が掴みやすいだろうし。ありがとな!頑張るよ。…あ!」
クレハは何かを思い出したように、軋む身体を立ち上がらせ。弾き飛ばされた剣を拾う。
「いきなり取ってごめん。返すよ。」
「良いわよ、別に。」
「ありがと…ミカ!?」
今回ゎちょっと長めになったんじゃなぃかなーと思ぃます。これからゎどんどん1話ずつぉ長くしてぃきます!(予定)
ミカちゃんktkr