一緒に戦おう
「…………」
1粒、鏡のような綺麗な地面へと涙が落ちる。もう無理なのは分かっている。全ては自分の非力さ故。そんな事を考えれば、やがて涙は隠し切れなくなり、溢れ出る。
「悲しいの?」
アザゼルはやれやれといった顔でクレハに問いかける。
「悔しいんだ…!」
「?… どうして?」
「もうミカに会えない事も…“アイツ”にどうしてやる事も出来ない事も!」
「アイツ? 悪魔の事?」
「悪魔…アイツが悪魔…うっ、うっ!」
悪魔。ソレを聞き、今度は後悔の涙が溢れ出す。悪魔などに敵うわけが無いのだ。ミカが裏路地に入る前に、止めることが出来ていれば。後悔、そしてほんの少しの怒りが只管クレハを駆け回る。
「クレハさん。悪魔を…いや、ミカさんを助けたい?」
「何?おい、もしかして…!」
「本当に?本当の本当に助けたい?」
「助けたい! 本当に助けたい!」
「死んでも?」
「………!」
死ぬ。という言葉を聞いて一気にクールダウンする。クレハは一度死んでいる。人間の言う『死んでもやる』とは違い、酷く重い。だが…
「あぁ」
その程度で止まる様な思いでは無い。
「ふっ。それなら!一緒に戦おう!」
アザゼルが顔を輝かせる。クレハもまた顔を輝かている。
「た、戦う!? それは…天使になるって事…?」
「うん!そう。僕たち天使はあの悪魔達と戦ってるんだ。ミカさんは悪魔達に捕まった。もう死んでいるだろうけど、まだ霊魂は救える。天使になれば悪魔と戦う力が手に入る。いいね?」
「構わない。俺を天使にしてくれ!」
「そうなれば善は急げだ!悪魔は魂を喰らうけど、連れ去ったという事はきっと″器″にするつもりなんだろう。時間は余り無いけど、まだチャンスはある」
「器…!器にされたらどうなるんだ!?」
「悪魔が入り込む…って言ったら分かりやすいかな?一度器にされればもうエデンの園に行く事は出来ない。因みに、悪魔が器にするには1週間程掛かるね。」
それにしても、皮肉な事である。ミカが悪魔の器にふさわしき人材であった為に、クレハは悪魔に喰われずにこうして存在しているのだ。
「1週間…!それだけか!? 早くしよう!」
「はいはい!それじゃ、″契約″だ。案内する。」
そうして、クレハはアザゼルに連れられて、天使界を歩く。