楽園への道
『だってクレハは他人じゃないでしょ!』
『ありがとね!大事にする。』
「ミカ…ごめんな…」
あれからどうなったのだろう。気を失って、誰かに発見された後病院にでも入れられたのだろうか。それとも…
「う、ん…?」
(生きてる?あぁ、生きちまったか…とするとここは何処だろう?)
クレハが目覚めたそこは、少なくともあの惨劇があった裏路地では無い。というよりも、現代の何処かというのすら怪しい場所だ。全体的に青白く、地面は木やコンクリート等では無く綺麗な鏡のような鉱石で出来ている。その地面は円形になっており然程大きく無いようで、建物も全く無い。その為、地平線が見える。そして、真ん中には大きな泉が設置されてあった。
(夢、か?)
そう頭の整理をしていると、ある者が語りかける。
「おんや?ハローハロー。おはようさん!」
「ファッ!? お、おはよう!」
いきなりの挨拶にテンパり、声が裏返る。どうやら夢という線は薄いらしい。
「大丈夫かな?一応治療させて貰ったけど、痛い所とかある?あ、僕アザゼルっていうんだ!」
このアザゼルと名乗る少年、クレハが知るどの国のモノともつかないなりをしている。歳は10歳前後だろうか、赤い髪の毛を蓄え、何より目に入るのは、背中から勇ましく伸びる3対6枚の翼だ。
「ア、アザ…? えっと、俺はクレハ。よろしく?」
状況が飲み込めて無いが、取り敢えずと簡単な自己紹介を済ませる。
「知ってるよ。泡吹 紅葉さん!ここが何処だか分かる?」
「えっと……ごめん。何処?」
「んーそっかー。じゃあ教えるね。ただし、心して聞いて欲しい。決して落ち込まないで。」
そう言い、アザゼルは和かでフレンドリーな顔から神妙な面持ちへと変わる。
「え、何?ちょちょちょ怖いんですけど!?」
「クレハさん、貴方は死にました。ここは天界。これから貴方にはエデンの園に行ってもらいます。何か未練等はありますか?」
「…………」
「…………」
アザゼルからの衝撃の告白。からのしばしの沈黙が二人を包み込む。
「……」
(やっぱりそう来るよなぁ。死んだわけだ。とするとコイツは天使?なんか…ちゃちいな)
「……」
(凄く失礼な事を考えられてる気がする。)
そんな空気を打破したのはクレハであった。
「いや、別にいいよ。死んだのも、起きた時からそんな気がしてたしな!」
あまり落ち込んでいない様子を見て、アザゼルは安堵の顔を浮かべる。
「そっか!んじゃ、これから園に送ってくれる天使の所に案内するから、付いて来て!」
「ぁあ…」
その返事にはどこか悲壮が混ざり込み、肯定のソレだとは到底思えなかった。当然である。まだミカは現世に生きているのだから。しかし、だからと言って何も出来ない。クレハは死んだのだ。そうして、彼は楽園への道を歩み始める。