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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と人間7号
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人間7号誕生 ⑥ 樺VSハイエナ兄弟(後編)

キバ組織のヒレとロースにさらわれた咲を救出する為、樺は単身で、ヒレ達の隠れ家に向かった・・・

「随分と勇敢な彼氏がいるもんだな。

 何で、ここが分かった?」


 ヒレがニヤニヤ笑いながら話を続けた。

 樺は黙って、二人のシマハイエナを見ていた。


 背後にいる咲はまだ眠っている。


 樺は背中にかけていた水鉄砲を外し、ヒレとロースに向けて撃った。


 だが、簡単に避けられた。


 ヒレとロースは樺に襲いかかった。


 樺は咲から離れた。


 ヒレは樺の右腕に、ロースは左足に噛みついた。

 ヒレは樺の肩につかまる状態になった。


「クッ!」

 樺は右手から水鉄砲が落ちた。


 窓がある壁にもたれ、樺は何とか立ち姿勢を保った。

 倒れてしまえばハイエナ達の思うつぼだ。


「結構タフだね、あんた。

 血の味も悪くない」

 ズボッと、樺の右腕に食い込ませていた牙を抜き、ヒレが言った。


 樺の右腕からは血が流れ、パーカーが赤く染まっていった。


 バシュッ!


 ヒレの言葉を遮るように、樺は左手でベルトに提げていた小型銃をヒレに撃った。


 ヒレは銃口を向けられた瞬間に、樺から離れた。

 樺は左足元にいたロースにも撃ったが、これもかわされた。


 ロースは離れる際、デニムごと樺の皮膚も食いちぎっていった。

 激痛に、樺は顔をひどく歪ませた。


「ヒレ、ひるむ必要はない。

 威力は強いが、ただの水鉄砲だ」

 ロースが、樺が撃った先を見ながら言った。

 床は化け解除の液体で濡れいているだけだった。


「麻酔銃か何かだろうが、俺達に効くような強いものを持っているとは思えない」


 ロースの話を聞きながら、樺はキバ組織が狩りを遂行するために、特殊な訓練を受けていると聞いたことがあるのを思い出した。


 まだ若い動物だが、任務に参加する以上、素人ではないのだ。


 ロースはペッと口から何かを吐き出した。

 血にまみれた樺が着ていたデニムの切れ端だった。


「あー! お前、先に味見してんじゃねぇよ!」


「違うよ・・・」

 ロースは冷たく言った。


「俺も、食いてー!

 ヒトォ! 生きて帰れると思うなよ!」

 ヒレは興奮しながら、再び樺に飛びかかった。


 ヒレは口をガバッと開けながら飛んできた。


 樺は左フックで、ヒレの横っ面を殴り飛ばした。

 ヒレは涎を垂らしながら、床に叩きつけられた。


 ヒレが攻撃を受けたタイミングで、ロースが突進した。


 樺は怪我をした左足をロースめがけて振り上げた。

 つま先がロースの腹に直撃した。


 ロースは「ウッ」と唸りつつも、爪でえぐれた樺の左すねを削った。


「こいつ、結構やるな!」

 ヒレが言った。

 ロースも黙っているが、少し口元が笑っている。


 樺は必死で抵抗する一方、シマハイエナ達は楽しそうにしていた。


     ◇◆◇


 何度もヒレとロースは樺に飛び掛かり、樺はそれを避けたり振り払ったりを繰り返した。


 身体のあちこちで血が滲む。

 呼吸も荒くなってきた。


 徐々に体力が奪われ、立っているのも辛くなってきた。

 視界もぼやけている気がする。


 樺は頭を振り、奥歯を噛みしめた。


 このまま続けていても、負けは見えている。

 正直、元の姿に戻れば、ハイエナ二人くらい簡単に倒せる。

 しかし、ヒトに化けられることをキバ組織に知られるのは面倒だ。


「ん・・・」

 樺がいるところから十メートル程離れた壁際で、咲がもぞもぞと身体を動かした。


 目が覚め、咲はゆっくり上体を起こした。


 辺りを見渡すと、全く知らない場所に自分はいた。

 しかも、目の前には、見知らぬハイエナとヒト。

 ヒトは血まみれで立っている。


「な、なんなのよ?」


「咲さん、逃げて!」

 樺が大声で言った。


 ドンッ!


 樺が咲の方に気を取られていた隙に、ヒレが樺の脇腹に体当たりした。


 痛みに耐えきれず、樺は遂に膝をついた。


「ハハハ! ざまぁみろ!」

 ヒレははしゃぎながら、樺の周囲を走り回った。


 助走をつけ、タタンッと壁をつたって、高い位置から樺に向かって飛んだ。


 ぐわぁば


「へっ?」

 ヒレの眼前に突然、巨大なピンク色の口腔が現れた。

 下顎の両端に自分の腕も軽く上回りそうな太さと長さの牙が生えている。


 バグッ!


 元の姿、しかも本来の大きさ(普段はヒトの時と同じ180センチ程に調整している)に戻った樺は、飛んできたヒレを口で受け止めた。


 ロースは驚き、退いた。


 しゃがみこんだヒトが、突然、丈は倍以上、幅は三倍近くに脹れあがった。

 急激な巨大化に追い付かず、ピンク色のパーカーはビリビリに破れた。


 そして、ヒレは飲み込まれた。

 かろうじて、バタつく足がはみ出ている。


「樺さん・・・?」

 立ち上がった咲がカバを見てつぶやいたのを、ロースは見逃さなかった。

 ロースは素早く二足歩行姿に戻り、咲に近寄った。


「おい、デブ! ヒレを吐き出せ!

 さもないと、この女を噛み殺すぞ!」

 ロースは咲を捕まえ、左手の爪を咲の首に食い込ませ、自分の顔も首元に近づけた状態で言った。


 ハイエナとしては体長があるロースは、二足歩行になると、咲よりも少し背は高くなる。


 樺はヒレを口に入れたまま、ロースの方を見た。

 ヒュッとヒレ全部を口に入れた。

 器用に舌を動かしヒレの位置を移動させた。


 モゴモゴ口を動かす樺を見て、ロースは鳥肌が立ちそうになった。


 ニュッと樺の口の真ん中から、ヒレの顔だけが出てきた。

 唾液まみれのヒレは横向きで、顔に、樺の上顎の牙が当たっている。


「仲間を殺されたくなかったら、彼女を解放しろ」

 ヒレを口に入れた状態で、樺は口元をほとんど動かさずに言った。


 元々、樺は喋る時に、パクパクと口を動かしていない。

 その為、口を閉ざしていても通常の会話が出来る。


 動物界で言語を発する動物達は、全ての種が口を動かして発声している訳ではない。

 樺ほど大きな口の動物がいちいち口を開け閉めしていられない。

 しかし、どのように発声しているかは解明されていない。

 多分、樺もよく分かっていない。


「黙れ! とっとと吐き出せ!

 この女が死んでもいいのか!?」

 ロースはカブッと咲の首筋を咥えた。


「お前がその口に力を入れた瞬間に、僕はこいつの頭を噛み潰す。

 一瞬だ。

 お前が彼女の首を食いちぎる前に終わる」


 樺の声は落ち着いていた。

 ロースはギリギリと樺を睨んだ。

 無意識に、口に力が入る。


「アグッ!」

 ヒレが叫んだ。


 樺が牙に力を入れたのだ。

 ロースは慌てて、口を離した。


「早くしろ!

 さもないと、頭を潰す前に、こいつは窒息するぞ!」


 ヒレは苦しそうな表情をして動かない。

 中で相当締め付けられているのだろう。


 ロースは咲をバッと手放した。

 咲はロースと樺の方を見ながら、その場でオロオロしていた。


「逃げろ!」

 樺に言われ、咲はドアから廊下に出て行った。


「言われた通りにした。

 早く、ヒレを吐き出せ!」

 ロースは言った。


 樺はのっそり体勢を整えた。

 今の背丈では立ち上がれないので、腰を下ろした状態で、グンッと頭を横に反らした。


 一旦、ヒレを丸ごと口に入れる。


 そして、顔を元の位置に戻す勢いを使って、ロースめがけてヒレを吐き飛ばした。


「!?」


 ロースは飛んできたヒレを避けられず一緒に吹き飛んだ。


 そのまま壁に激突し、二人はズズズと壁から床に倒れ込み、動かなくなった。


     ◇◆◇


 樺はポンッとヒトに化けた。


 右腕と左足を中心に、出血が始まった。

 姿を変えても、細胞の裂傷はそのまま引き継いでしまう。

 皮膚が厚いカバの時は、一時的に出血は抑えられていたが、ヒトに戻り、かえって悪化したようだ。

 

 水鉄砲と麻酔薬ボールを拾い、樺は廊下に出た。


 廊下で待っていた咲が樺に寄ってきた。

「か、樺さんなのよね?

 大丈夫なの?」


 咲が近づくと、樺は力が抜けたように、咲にもたれかかった。


「キャッ」


 背の高い逞しい男性が自分に倒れ掛かってきた為、咲は少しドキッとした。


 樺の腕の傷を見て、すぐに冷静になり、サッと化け治療で止血した。

 彼女はタカシの様に、完全に治癒できる程の技術は持っていなかった。


 樺は咲の肩を借りて廊下を歩いた。

 侵入に使った窓のところへ行き、窓を開けた。


「下の階に動物がいるかもしれないので、ここから出ましょう」

 樺が言った。

 咲は樺が足からも出血しているのにも気づき、しゃがんで止血を行った。


「ひどい傷・・・。

 病院に行かなきゃ」

「僕のことは良いから。

 早く、窓から出てください」

 樺に言われて、咲は窓枠に手をやった。


 三階なので結構高い。

 向かいの階段に移れと言われても、窓と階段の間がある。


「ここから・・・」

 咲が戸惑っていると、誰かが階段を上ってきた。


 ゴンザレスだった。


 ゴンザレスも一階からは入れないことを知り、ここまで来たのだろう。


「咲さん、樺さん!」

 ゴンザレスは手を伸ばし、咲を窓から階段に移るのを手伝った。


 咲はそのまま一階まで降りた。

 ビルの前にはオレンジの軽自動車が駐車していた。


 続いて樺が、ゴンザレスの補助を受けながら、階段に移った。

 普段のカバの姿では、この窓枠は抜けられなかった。


「ひどい怪我だ。

 早く包産婦人科に行って、タカシさんに治してもらおう」

 樺は静かにうなづいた。


 ゴンザレスと一緒に階段を降りた樺は、リュックを持ち、車に乗った。


 オレンジの軽自動車が静かなエンジン音と共に、走り出した。


 日が沈みかけている。

 通りの店舗やビルの入口が開き、動物が出入りし、明かりがついた。

 夜の準備が始まった。

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