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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と人間7号
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準備期間 ② それぞれの準備期間

 伝輝が化けを使えることを、まごころカンパニーに知られてしまった。そして、伝輝は「注意動物リスト」に登録されてしまった・・・

 次の日の放課後、伝輝が家に着くと、エミリーがフワリと現れた。

 伝輝はカバンを置きに居間へ行った。

 ちゃぶ台の上に夏美からの手紙があり「カレイさんとショッピングに行く」と書かれてあった。


 エミリーと駅に行き、貫田医院に向かった。

 前回同様に中に進んでいくと、ミラーボール照明キラキラの部屋で、睫毛バサバサのウコン(ヒトの姿)がソファに座っていた。


「あら、可愛いお客さん二人組ね」

 ウコンはミニスカート丈のナース服から出ている網タイツの脚を組み直した。

「診察室にどうぞ」


 伝輝とエミリーはウコンに案内され、診察室に入った。

 ポンコツ先生(ヒトの姿)がズズッとお茶をすすっていた。


「やぁ、エミリーちゃん。

 体調はいかがかい?」

 きっちり七三分けした髪形のポンコツ先生が立ち上がり、伝輝の肩に乗ってるエミリーに手を差し出した。


「今日は私じゃないわ。

 用があるのはこっちの伝輝の方よ」


「伝輝君?

 ああ、君の診察に一緒に来ていた人間だね。

 何かあったのかい?」

 ポンコツ先生は伝輝を椅子に座らせた。

 いざとなると緊張し、伝輝は何を話して良いか分からなくなった。


「伝輝を強くしてほしいの。

 キバ組織に対抗出来る位にね」

 エミリーが言うと、ポンコツ先生は少し目を見開いた。


「ほう! 随分大胆な相談だね。

 強くしてほしいというのは、化けの力って事かい?」

「そうよ。ほら、自分で言いなさいよ!」

 エミリーは尻尾でぺしっと伝輝の頬を叩いた。


「あ、俺もっと化け能力を使いこなせるようになりたいんだ。

 でも、どうやって訓練したら良いのか分からなくて・・・」


「なるほどね。

 ではまず、今の君がどれ程の能力か確認するね」

 ポンコツ先生はフッと伝輝の頭を撫でるように手を動かした。

 動かしただけで触れてはいない。


「分かった。

 丁度良い方法があるから、今度君に紹介するよ。

 それまでは無理をせず、今まで通りの訓練を続ける事。

 化けだけではなく、狩りの方でもね」


 ポンコツ先生はニコッと笑った。

 診察はこれで以上らしく、伝輝とエミリーは拍子抜けした。


「行った意味あったのかな?」

 駅へ戻る途中、伝輝は呟いた。


「すぐに強くなる方法なんて無いって事ね。

 私も診察があんなにすぐに終わって驚いたけど、あの先生は本物だと思うわ。

 一瞬で伝輝の化け能力について理解したもの。

 それに、伝輝は先生に狩りの特訓してることは言ってた?」


 伝輝はハッとした。


「ポンコツ先生から連絡もらうまでは、怪我しないようにしないとね」

 エミリーはそう言い終え、フワァとあくびをした。


     ◇◆◇


 数日経ったある日の土曜日。

 伝輝はこまち農場の裏山で、ドリスと源次郎とで、狩りの特訓をした。


 組み立て式の槍を持ち、伝輝は突進する源次郎(四足歩行姿)をかわし、背後に回った。


「グゥッ!」

 伝輝は源次郎の口に槍を無理矢理噛ませ、前足の付け根を自分の身体でガッシリ固定させた。


 力自体は源次郎がはるかに上回っているはずたが、伝輝の押さえるポイントが的確で、源次郎は動きたくても簡単に動けなかった。


 ドスン! バタン!


 源次郎はわざと何度か倒れたり立ち上がったりを繰り返したが、伝輝は手を離さなかった。

 ついに源次郎が観念し、横に寝転がり動かなくなった。


「スゲー、伝輝!」

 傍らで見ていたドリスが歓声を上げた。


 伝輝は源次郎から離れた。

 下着のタンクトップが泥々になり、所々破れていた。

 ドリスに服がボロボロになるから脱ぐよう勧められていたが、お腹の傷跡を見られたくないので断っていた。


「成長したな!

 正直俺、今の源次郎に勝てると思えないもん」

 伝輝とドリスは源次郎を見た。

 源次郎はのっそりと立ち上がり、二足歩行姿に戻った。


 源次郎の背は以前よりもかなり伸びており、伝輝を軽く越えていた。

 背中の瓜模様もすっかり消え、たくましい牙が口元に生えていた。


「本当に凄いよ、伝輝」

 源次郎は以前とは違う落ち着いた声色で言った。


 ドリスの家でシャワーを浴び、着替えを済ませた三人は、こまち農場にあるカフェでおやつを食べた。


「狩りに関しては、完全にドリスを越えたな、伝輝」

 源次郎が言った。

「俺は別にただの趣味だから良いの」

 ドリスはプイっと顔をそらした。


「でも、まだまだ足りない・・・」

 伝輝は小さく言った。


「おいおい、プロの狩人にでもなる気か?」

 源次郎はハハッと笑った。


「そう言えば、源次郎はもうすぐ卒業だよな。

 就職先どこだっけ?」

 ドリスが話題を変えた。


「親戚が管理している工場の製作ラインに入るんだ。

 こう見えて、細かい作業が好きでさ。効率化された作業を更に効率良く出来るようになりたいんだ。

 年明け入社だから、年内に卒業手続きをとるよ」

 源次郎はブラックコーヒーを飲みながら言った。


「寂しくなるね」

 伝輝が言うと、源次郎とドリスは少し不思議そうな顔をした。

「そうか?

 どうせすぐに新しい生徒が入ってくるんだぜ」

 ドリスはサラリと言った。


     ◇◆◇


 ある日、まごころカンパニー本社では、一部の動物達がざわついていた。


 その矛先を向けられたクッキーは、バンッと談話室のドアを開けた。


「やってらんないよ! 全く!」

「どうしたの、クッキー?

 てか、ここは談話室なんだから、もう少し静かに入ってきてよ」


 ワイヤーが昼休みのカプチーノタイムを邪魔され、少し不機嫌そうに言った。


「人間5号が病院を変えたんだ」

 談話室にいたワイヤー、バラ、ヒトの姿した動物が一斉にクッキーを見た。

 クッキーはイラつきながら乱暴にワイヤーの隣に座った。


「5号は人間界で病院に勤務していたから、大きな総合病院でVIP待遇していれば大丈夫だと思ってたんだけど、よりによって何で無名の開業医なんかのところに」

 クッキーは頭をクシャクシャ掻いた。

 ワイヤーは席を離れた。

 中央テーブルに戻り、クッキーの前に砂糖たっぷりのホットカフェオレをコトンと置いた。


「カンパニーの役員たちの間では、その話で持ちきりよ。

 上はキバ組織に任務を遂行するよう指示を出したわ」

「本当か!?」

 クッキーが顔を上げた。

 窓際のソファの背もたれに顔を出して聞いていたバラがニヤリと笑った。


 パーカーのフードを目深に被り顔が見えないヒトは、フッと中央テーブルを見て、すぐに目線を手元の携帯ゲームに戻した。


「今後はキバ組織全体で5号の観察を行い、食材確保の為に動くことになるわ」

「そうか・・・」

 クッキーが呟いた。

 少しホッとしたような口調だった。


「だからクッキー、今日は帰りなさいよ。

 相変わらず家に帰ってないんでしょ。

 私達に任せて、一旦休んでちょうだい」

 ワイヤーが優しく言った。


「そうだね、このまま悩んでも仕方ないから、そうさせてもらうよ」

 クッキーは少しぬるくなったカフェオレをグビグビと飲み干し、談話室を出た。


 ワイヤーは中央テーブルに肘をついて深くため息をついた。

「バラ、何ニヤニヤしているのよ。

 あなた、何かしたの?」

「別にぃ。

 俺は病院移せなんて言ってないぜ」

 バラはそう言って、スッと立ち上がった。


 隣のソファに座っているヒトに近づくと、突然ヒトの腕を持ち、グイッとパーカーの長袖を肘までめくって肌を出した。

 そして、腕の皮膚をベロリと舐めた。


 ヒトは声は発しなかったが、素早く腕をバラから離し、舐められた腕でバラの横顔を殴った。


「いってぇなぁ」


「何やってんのよ!」

 ワイヤーがイラつきながら言った。


「やっぱり違うんだよなぁ・・・」

 バラは頬をさすりながら中央テーブルの方に行った。

「舌触りが違うんだよな。

 やっぱりあれかな。年齢の違いかな?」


 ワイヤーの傍で、バラは立ち止まった。

「だとすれば、のんびりしてられないな。

 あれも数年経てば身体も変わる」


「バラ・・・?」

 ワイヤーはバラを見た。

 バラは振り向かずにそのまま談話室を出て行った。


 あの夜、久々に人間6号を見たが、脇腹を食いちぎった時から五ヶ月近く経ち、筋肉も骨格も少しだが成長していた。

 時間は思っている以上に短いだろう。

 ましてや、自分が一番味わいたい状態でいてくれる期間は、ほんのわずかだ。


 人間5号の出産と食材の捕獲。

 この機会を逃すもんか。

 人間6号、たっぷりと味わってやるさ。

 廊下を歩きながら、垂れ落ちる涎をバラは袖元でゴシッと拭った。

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