表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と人間7号
64/84

人間7号計画 ② 記憶操作

人間界にあり、化けタヌキの貫田一族が経営する「たんぽぽカフェ」で、伝輝はキンイロジャッカルのクッキーから「記憶操作」という言葉を聞く・・・

 個室のドアをノックする音がし、マスターがメロンソーダ・アイスクリーム乗せを持ってきた。

 クッキーはアイスクリームを細長いスプーンでつつきながら、話を始めた。


「実験体について、過去の記録から、人間を動物界に完全に適応させるのは困難であると、まごころカンパニーは判断した。

 その為、動物界に連れ込む人間に対して、程度に差はあれど、記憶操作や催眠操作を行うことにした。


 人間4号が、今まで何の問題もなく動物界を受け入れ、人間界を行き来してきたのも、動物界の情報を人間界にばらさないように、動物界で反発しないように、記憶操作で脳をいじったからだ」


 伝輝は黙って聞いていた。

 昇平に対する疑問が一つ薄れた気がした。


「しかし、記憶操作にもいくつか難点がある。

 それは、子どもに対して使えないことだ。


 記憶操作は、動物界では非常に浸透している技術なんだ。

 最も一般的なのは、知識の植え付けだ。

 例えば膨大な知識量を必要とする、科学者や医者など、人間なら何年も勉強してそれを身に付ける。

 だが、寿命が短い動物がそれを目指そうとすれば、当然目指している間に死んでしまう。

 その場合、記憶操作で必要な知識を短時間で植え付けて、動物達はあらゆる分野で活躍できるようにする。

 しかし、記憶操作は脳に大きな負担をかける行為だから、成長過程の動物には使えないし、記憶操作自体、自己責任の元で行われている。


 話を戻すが、記憶操作を行っているのは人間4号だけで、5号に対しては、胎児のことを考慮して、ごく微量だ。

 そして、人間6号には一切記憶操作をしていない」


 反射的に伝輝は自分の頭をさすった。

 クッキーはズズズと音を立てながら、ストローでメロンソーダを飲んだ。


「子どもは、今後順応できる可能性があるということで、カンパニーは実験という意味もかねて、6号をそのままの状態で観察してきた。

 おかげで、6号を知る動物達は冷や汗かきまくりだったろうな」


 ゴンザレスと樺が互いに見合って、苦笑いした。

 彼らもクッキーが今話していることは既に知っているのだろう。


「5号の腹の中にいる赤ん坊。仮に人間7号とする。

 産まれてすぐ7号をカンパニーが回収しても、俺が5号の脳をいじれば、いくらでもごまかせる。


 今現在も、5号が全く疑問を抱かずにまごころ町で暮らしているのも、記憶操作によるものだ。

 5号はまごころ町で7号を出産するように、脳にインプットされている」


「なっ!」


 思わず、伝輝はその場で立ち上がった。

 テーブルが揺れ、グラスから振動で麦茶がこぼれた。


「そんなことさせるか!

 だったら、俺がお母さんを人間界に連れて行く!」


「それはできない。

 俺は6号には記憶操作をしていないが、ほとんど脳に影響しない催眠操作を施している。

 6号は、単独で人間界と接触をできないようになっている」


「え?」


 伝輝は言葉を失った。

 自分の脳も操作されているのか?


「今まで、お前はどうして、一人で(・・・)電車に乗ってまごころ動物園に行かなかったのか?

 どうして、人間界にいた知人と連絡をとらなかったのか?」


「それは、金がなかったし。ケータイも持ってないし、家にパソコンを置いてないし・・・」

 伝輝はたどたどしく答えた。


「まごころ荘前駅と動物園前駅間は無料だ。

 お前がケータイ持ってなくても、4号が持っているだろ」


 クッキーの発言に、伝輝はビクッと身体を震わした。

 確かに、行こうと思えば、いつでも動物園になら行ける。

 連絡をとるような友達はいないと思っていたが、本当にそうなのか?


「解除してほしいかもしれないだろうが、それは無理だ。

 解除するにも脳に負荷がかかる。

 胎児が成長している5号にも、まだまだ子どもの6号にも、解除はしない」

 そう言って、クッキーは溶けたアイスクリームごと、一気にメロンソーダを飲み干した。

 そして、バタンと立ち上がった。

 机に乱暴に小銭と折りたたんだ数枚の紙を置いた。


「話は以上だ。俺は帰るよ。

 美食会の準備がまだ残っているんだ」


「分かった。

 今日は話してくれて、ありがとう。クッキー」

 タカシが言った。


「別に、情報を流すことは構わないさ。

 ただ、今後はもっと前に声をかけてほしい。

 ヒトに化ける薬の効果が切れるまで、仕事に戻れないし」


「それはすまなかった。じゃあな」


 クッキーは何も言わずに個室を出て行った。

 ドアが閉まる音と同時に、伝輝は椅子に落ちるように座った。


     ◇◆◇


「大丈夫かい、伝輝君」

 樺が声をかけた。


 伝輝はクッキーの話の衝撃が強すぎて、視点が定まっていなかった。


「気の毒だが、これが事実だ。

 さ、本題はこれからだ。

 人間7号をどうやって助けるかだ」


 タカシがポンッと手を叩いた。

 ゴンザレスが驚いたように出っ歯の口をカパッと開けた。


「助けるって、人間7号をか?」


「そうだよ。

 その為に、今日は集まってもらったんだから」

 タカシは言った。

 すると、ゴンザレスが慌てたように言った。


「いやいや、そんなことしたら、まごころカンパニーに完全に刃向うことになる。

 今までの人間狩り退治は、クッキーが間に入ってくれていたから、ばれないようにできたけど。

 今回はきっとクッキーも協力はしないだろう。

 夏美さん達にとっては辛いかもしれないが、それも記憶操作で忘れられる訳だし」


「昇平さんと夏美さんは忘れられても、伝輝は忘れない。

 伝輝はまごころカンパニーに兄弟を殺されたことをずっと覚えている。

 後から記憶操作しようにも、伝輝なら抵抗できる」


 タカシは伝輝を見た。

 タカシの目を見て、伝輝の気持ちは少しずつ落ち着いてきた。


「伝輝が知った以上、もう見過ごすか防ぐしかないんだ。

 伝輝は防ぐ選択をした。俺もそうだ」


「リスクが大きい。

 カンパニーを敵に回せば、僕達は生きていけない」

 ゴンザレスは表情を厳しくした。


「カンパニーとっては、失敗も視野に入れた計画であるはずだ。

 そもそもどんなに医学が進歩しても、出産が百パーセント安全に成功するとは限らないんだ。

 7号を回収することができなくても、カンパニーにとっては、致命的にはならないだろう」


「しかし・・・」

 ゴンザレスの表情は変わらなかった。


「私は、カンパニーの考えに反対だわ。

 家畜ではない動物を、食材にするなんて、悪趣味だわ。

 狩りの日のルールにも当てはまらないし」

 エミリーはそう言って、伝輝の肩に飛び乗った。


「面と向かって、カンパニーに刃向うことに対しては、少々心配な部分があるけど。

 僕個人の感覚としては、7号を助ける方に賛成する」

 樺が言った。

「こう言っては皆に申し訳ないけど、カンパニーを敵に回しても、僕の場合、祖国に帰れば済むことだ」


「エミリーちゃん、樺さん・・・」

 伝輝はエミリーの頭を撫で、自分の頬でエミリーの顔をこすった。

 エミリーもそれに応じて、気持ちよさそうに体を動かした。


「ゴンザレスさん。

 人間狩りの時もそうだけど、情報収集や作戦の為の工作にはゴンザレスさんの力が必要なんだ。

 万が一、カンパニーに責められてもゴンザレスさんは脅されて仕方なく協力したってことにするからさ」


 タカシは身を乗り出し、ゴンザレスの方を見て言った。

 ゴンザレスは腕を組み、背もたれに深くもたれた。


「僕だって、美食会の計画は少々いただけないと思うよ。

 でも・・・」


「その時が来れば、伝輝は大急ぎで現場に向かうことになるだろう。

 早く移動できる手段が必要だ」


 タカシが静かに言った。

 ゴンザレスの口元が少し動いた。


「伝輝が使える、最速の移動手段と言えは、馬に乗る位しかないよな・・・」


 伝輝が嫌そうな声を出そうしたが、タカシがそれを止めた。

 ゴンザレスの口元が緩んでいる。


「馬なら何でも良いわけじゃない。

 ゴンザレスさんじゃないと、伝輝も安心して・・・」


「安心して・・・?」

 ゴンザレスが小さな声で言った。


「乗れないし、アレも振れない」と、タカシは言った。


 伝輝は下を向いた。

 ゴンザレスを見ないようにした。


「まぁ、そこまで言うなら・・・。

 仕方ないかな・・・」

 ゴンザレスが言った。


 エミリーが伝輝の耳元でこそっと囁いた。

「良かったわね。

 あんたも多少は協力してあげなさい。

 とりあえず、今はまだゴンザレスの方を見ないこと」


「さ! 意見は一致した!

 ここからが本当の本題だ!」


 タカシはクッキーが置いて行った紙切れを手に取り広げた。


「これから、夏美さんの出産に向けて、俺達はどう行動するかだ」

 タカシはザッと紙切れを読み終え、テーブルの中央に広げた。

 伝輝も含め、皆広げた紙切れを見た。


 全員真剣な面持ちで、それを読んでいる。

 ゴンザレスもだった。


 不安も恐怖も、まだまだ残っている。

 でも、この動物達がいるなら、自分は頑張れる、と伝輝は思った。


「ありがとう・・・」

 伝輝は思わずつぶやいた。


「礼を言うのは、まだ早いぜ。

 まずは作戦を考えないと」

 タカシがニッと笑って言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ