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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と人間7号
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夏美と動物界 ④ 挑発

伝輝の前に現れたのは、伝輝を襲ったことのある、シマハイエナのバラだった・・・

 伝輝は凍りついたように体が動かなくなった。


「それって、つまり・・・」


「カンパニーとしては、枠さえ手に入れば、本人が実際にいようがいまいが関係ない。

 4号と5号は、まだ繁殖能力を持っている。

 一匹位いなくても、どうってことない」


 バラは、伝輝の反応を見ながら言った。


「そ、そんなことさせるか!」


 伝輝は右手をギュッと握りしめた。

 目の前にいる二本足で立つハイエナが、無性に憎くなった。


 右手がバチバチと熱くなった。


「よせ、伝輝」

 いつの間にいたのか、タカシ(犬の姿)が背後から伝輝の右腕を掴んだ。

「落ち着くんだ」


「俺は、別に構わないぜー。

 俺を殴りたかったら、殴ってこいよ。

 その瞬間、てめぇの首根っこを食いちぎってやるぜ!」


 バラは両手を広げ、舌をベロンと出し、伝輝を挑発した。


 伝輝はザッと一歩進み出た。


「よせって!」


 タカシがそれ以上進ませないように、右腕を引っ張った。

 身体は伝輝より小さいが、力はあった。


 ガチャッ


 カレイ宅の玄関ドアが開く音がした。


 バラは、フッと姿勢を正し、手を振りながら歩いてまごころ荘敷地を出て行った。


     ◇◆◇


 出てきたのは、ゴンザレスとエミリーだった。

 エミリーはゴンザレスの腕の中でウトウトしている。


「どうしたの? 二人とも。

 タカシさん、今帰ってきたんですか?」

 ゴンザレスがタカシに尋ねた。


「いや、その・・・」


「もしかして、前田さんが来てたから入り損ねたとか?」


 図星だったらしく、タカシの両耳がクニンと折れ曲がった。


「でも、正解だったと思いますよ。

 その後、まさかのカンパニーのクライアントがやって来て。

 本当にビビりましたよ。

 まだ今なら食べるものも残っているだろうから、タカシさんもどうぞ。

 僕はエミリーちゃんを部屋に寝かせに行ったら、すぐ戻りますので」


 そう言って、ゴンザレスはカンカンカンと階段を上って行った。


 伝輝の心臓はバクバクしていた。

 恐怖と怒りで、興奮していた。

 今すぐにでも暴れ出したいくらいだった。


「伝輝、落ち着け」


 タカシが静かに言った。


 パシッ!


 握りしめた拳から小さく破裂音がし、ポタポタと血が指の間からこぼれ落ちた。


 ポンッとタカシはヒトの姿に化け、優しく伝輝の右手を持ち、手を広げさせた。

 6の数字が浮かんだ手の平は血で滲んでいた。


 消滅の化けが、伝輝の手の平の皮膚を破壊させたのだ。


「カレイさんの家に行くタイミングを逃しちゃってさ。

 お前とバラのやりとりは、実は最初から全部聞いていた。

 お前が怒るのも分かる。

 ただ、以前クッキーが言っていたことがある。

 バラは自分の快楽を第一優先する男だ。

 お前に言った言葉も、お前を挑発する為に、口から出まかせを言ったのかもしれない」


 タカシは伝輝の右手の平を撫でた。

 傷が跡形もなく消えた。


「だが、もしバラの言ったことが真実なら、対策を考えないといけない。

 伝輝、俺は人間の味方だ。

 動物界の連中が、お腹の赤ちゃんを何と思っていようが、俺は全力で赤ちゃんを護る」


 タカシは伝輝の肩を握った。

 伝輝はタカシを見た。


「そして、お前もだ」


     ◇◆◇


 ゴンザレスが階段を降りてきた。

 「まだ、ここにいたの?」という表情をしたので、タカシはカレイ宅に向かった。

 伝輝は6号室に行き、風呂を沸かした。


 風呂の準備を終え、カレイ宅に戻った時、タカシがこそっと伝輝に話しかけた。


「他の誰にもさっきの話はするな。

 まずは、情報収集からだ。

 クッキーに聞いて、確認させてみよう」

 伝輝はコクリとうなづいた。


 昇平と夏美は、お互いに手を握って立ち上がった。

 昇平は夏美を気遣うようにしながら、一緒にダイニングテーブルを降りて行った。


 とても楽しそうに、にこやかに笑う両親。


 でも、そうやっていられるのは、まごころカンパニーが自分達を生かすという選択をしているからだ。

 そう思うと、悔しくて仕方が無かった。


 伝輝は手の平を見た。

 タカシが傷を治すときに、化けの膜を強くしたのだろうか、気持ちや体温は高ぶっているが、数字は浮かんでこなかった。


「絶対に、カンパニーの好きにはさせない」


 伝輝はつぶやいた。


 その言葉は、傍にいたタカシにも聞こえていた。


「ああ、全くだ」


 タカシは伝輝にも聞こえないような音量で、そう答えた。 

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