表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
55/84

エミリーの災難 ⑤ 救出!

 化け能力が暴走したエミリーを救うため、タカシと伝輝は巨大化したエミリーの身体に飛び移る・・・

 伝輝はタカシと一緒にエミリーの尻尾の付け根の辺りに一旦落ち着いた。

 

「まずは、右足を引き剥がす。

 右足の方が、左足より少し小さい。

 お前の化け能力でヒト形の足の細胞を消滅させてくれ。

 右足が取れた後の傷口は俺が治すから、すぐに左足も同様に引き剥がすんだ。

 左足の方が胴体との接続が強いから、エミリーちゃんも暴れるだろうけど、何とか耐えるんだ」


 あっさり無茶苦茶なことを言うタカシだが、伝輝もすっかりそれを当たり前のように受け入れるようになっていた。

 タカシは伝輝の手の平に消毒液をかけた。

 伝輝は手の平を擦り、右拳をギュッと握った。

 ゆっくり手を開くと、6の数字が浮かんだ。


「準備はいいな、よし、頼むぞ!」


 伝輝は尻尾の付け根から離れ、エミリーの胴体の毛を左手でしっかり掴みながら右足の付け根の辺りに近づいた。

 胴体は上下に揺れるので、伝輝はほふく前進の様な体勢になった。


 左足もそうだが、ヒト形の足はエミリーの本来の足の外側についていた。

 伝輝は寝転がった状態で右足の付け根に抱きついた。

 足は地面に向かって伸びているので、伝輝の上半身はコウモリのように地面の方を向いた。


 伝輝は、ヒト形の足の付け根の傍にある、エミリーの本当の右足を見た。

 本当の右足の大きさは変わっていない。

 必死でばたついているが、巨大化した胴体にすら届いていなかった。


「早く、助けなくちゃ・・・」


 伝輝は右手に力を込めた。

 バチバチバチッと右手の平から電流のようなものが右足の周囲を走った。


「ギィィィヤァァァァァ!!!」


 エミリーが叫んだ。

 揺れが大きくなるが、伝輝は右足にしがみついたまま、細胞を消滅させていった。

 煙のようなものが立ち昇ってきた。


「良いぞ! 伝輝!

 そのまま、右足を引っ張れ!」


 伝輝は右足から離れ、上半身を起こした。

 右手で化けを発動したままで、両手でヒト形の右足の皮膚を無理やり掴み、強引に横にずらすように引っ張った。


 そこにタカシもやって来た。

 タカシも伝輝と同じ方向に、右足を押した。


 ブチブチブチ・・・・


 焦げた臭いと共に、徐々に右足の付け根から隙間が出来てきた。

 隙間から血が流れてきた。

 付け根が外れた跡は、ピンク色の皮膚が剥き出しだった。

 伝輝は思わず目をそらした。


「あと、もう少しだ!」

 タカシは仰向けになり、足の裏で付け根の辺りを押した。


 ビチビチビチビチ!


 ついに右足が完全に胴体から離れた。

 広範囲の傷口から血が胴体に流れてきた。


「次は、左足だ!

 俺がこれを治したら、すぐに行くから先に向かってくれ!」


 伝輝はうなづき、胴体の反対側へ向かおうとした。


     ◇◆◇


 ゴンザレスは全体の様子が見えるように少し離れた距離で待機していた。

 すると、今まで円を描いて歩いていたエミリーが、カーブを描くところで直進し始めた。

 右足を失い、左足を引きずるような状態で、木々の多い方向へ向かおうとしているようだ。

 ゴンザレスは慌ててエミリーの尻の辺りに向かった。


「タカシさん! 大変だ!

 早く、左足を外して歩けないようにしないと、森の中に入ろうとしている!」


「何だって!」

 タカシが大声で言った。

 治療を終え、タカシは胴体にしがみつきながら、反対側へ向かった。


 先にたどり着いた伝輝はすぐに左足に抱きつき、ジリジリと細胞を消滅させていった。


「うわぁ!」

 突然、エミリーは左足を蹴り上げ、尻を上げた。

 タカシは下にずり落ちそうになったが、尻尾の付け根で止まることができた。


 伝輝は左足が大きく動いたため、それに自分の身体がつられてしまい、胴体から離れてしまった。

 左足が元の位置に戻った時、伝輝は左足にしがみついたまま、ぶらさがった状態になった。


 それでも伝輝は左足に対して化けの発動を止めなかった。


「伝輝!」

 タカシが呼んだ。

 バキバキバキと木々が倒れる音が、前方から聞こえてきた。

 タカシは左足に向かった。


 伝輝がぶらさがった重みで、左足はブチブチと付け根から外れ始めた。

 エミリーの叫び声が響く。


 タカシは言わなかったが、きっとエミリーは痛みを感じているはずだと、伝輝は思った。

「これ以上、エミリーちゃんを苦しめるな!」


 伝輝は右手を一旦離した。

 ギュッと握りしめ、バチバチと音がするのを確認した。

 そして、左足にめり込むように力強く右手の平を押し付けた。


 ビリビリビリ!


 一気に細胞がちぎれ、左足がエミリーの胴体から外れた。

 左足が地面に倒れる。


 伝輝はしがみついたままだった。


「伝輝君! 飛べ!」

 ゴンザレスさんの声に反応し、伝輝は左足から離れた。

 咄嗟に身体を丸め、目をつぶった。


 ゴンザレスは伝輝の着地点に四足歩行姿のまま仰向けにスライディングした。

 ゴンザレスの腹と、伝輝の背中が激突した。


「ぐえぇ!」

 

 ゴンザレスの腹でバウンドした伝輝の体は、地面にゴロゴロと転がった。

 全身が痛く、あちこちすりむいたが、何とか立ち上がることができた。


「だ・・・大丈夫かい? 伝輝君」

 ゴンザレスが辛そうな表情で伝輝に声をかけた。


 ドスン! ズドーン!


 巨大な左足が倒れ、やがて胴体も横に倒れた。

 砂埃が巻き起こり、一瞬辺りが見えなくなった。


 伝輝はゴンザレスのところへ行った。

 ゴンザレスは二足歩行の姿に戻り、腰をさすりながら立ち上がった。

 砂埃が落ち着くと、タカシがエミリーの首の辺りに移動しているのが見えた。


「タカシさん、大丈夫かな?

 あんなに大きいの相手に・・・」


「大丈夫だよ。伝輝君。

 タカシさんは、普段、救命医として怪我で興奮している大型動物の治療を行っているんだ。きっと、何てことないよ」

 ゴンザレスが言った。


     ◇◆◇


 タカシはエミリーの首元に乗った状態で、優しくエミリーを撫でた。


「すぐに直してやるからな」


 

 エミリーはシュシュシュシュと小さくなっていった。

 やがて、今まで通りの大きさまで戻り、タカシの腕に抱かれ、疲れ果てたように小さく呼吸しながら眠っていた。


「エミリーちゃん!」

 伝輝とゴンザレスが駆け寄った。


「お疲れ。もう、大丈夫だ。

 後は仕上げだ。二人とも大した怪我はしていないようだな」

 タカシはニコッと笑った。


「僕、こまち農場の従業員に連絡してきます」

 ゴンザレスが腰をさすりながら、場を離れようとしたので、すかさずタカシが呼びつけ、フッとゴンザレスの腰を撫でてから行かせた。

 ゴンザレスは軽やかに四足歩行で走って行った。


「伝輝もすぐに治してやるからな」

 タカシが言った。


「俺は後で良いよ。

 それより、エミリーちゃんは?」


 伝輝はタカシの腕の中で寝ているエミリーを見た。

 エミリーはヒゲをひくつかせ、目を開けた。


「エミリーちゃん」

 タカシが優しく話しかけた。

「俺と伝輝が、余計な手足を外したからね。

 最後に君を一度変身させないといけないんだ。

 そうしないと治らないから、ちょっとだけ我慢してね」


「仕方ないわね・・・。

 タカシさんがちゃんと治してくれるなら、特別に許してあげる」


「ありがとう、エミリーちゃん」

 そう言うと、タカシはエミリーを膝の上に乗せた。

 そして、彼女の右腕の付け根部分を持ち、腕を持ったまま、スススと動かした。


 白い毛皮で覆われていた腕は、どんどん伸び、体毛が薄くなり人間の皮膚が現れた。

 タカシはもう片方の手で腕を支えて、彼女の五本の指先まで伸ばした。


 同様に左腕も伸ばし、今度は右足を伸ばした。


「あ・・・」

 伝輝は小さく声を出した。


 エミリーの身体から伸びる脚は、若い人間の女性の足そのものだった。

 滑らかな肌質に引き締まった足首、太すぎず細すぎずの柔らかそうな太ももが現れた。


 タカシは次にエミリーの首元に手をやった。

 そして手を下に降ろした。

 スッと細い首筋にくっきり浮かんだ鎖骨。

 そこからタカシの手の平が二つの山を描いて撫でていく。


「ふわっ」

 伝輝は目をつぶった。


 タカシの手の平は、エミリーの背中・腰・尻をヒトの姿に変え、最後に顔を変えた。


「伝輝」

 タカシが伝輝に声をかけた。


「目をつぶっていないで、ちゃんとヒトに化けているか確認してくれ」


「確認って・・・」

 伝輝は目を開けた。


 目の前には、タカシの膝の上で足を伸ばして座っている裸の女性が居た。


 シルバーブロンドの長い髪に、血色の良い頬と唇。

 閉じた瞳を縁取る長い睫毛・・・


 伝輝は目線を上から下に降ろした。


 ブッ!


「伝輝!

 どうした? 鼻血?!」


 タカシが慌てた様子で言った。

 伝輝は察してほしいと思った。


     ◇◆◇


 次の日、伝輝が朝食を食べに6号室を出ると、外廊下にエミリーがいた。


 タカシからヒトの姿のまましばらくに猫に戻ってはいけない、と言われたため、エミリーは昨日はずっと裏山で隠れていた。


「おはよう・・・」


 伝輝は恐る恐る挨拶した。


「おはよう」

 そう言って、エミリーはヒョイッと伝輝の肩に乗った。


「私は、そこまで性格の悪い猫じゃないわ。

 人間は嫌いだけど、自分を助けた動物に対してまで、邪見に扱わないわ。

 タカシさんとも約束したし。

 さぁ、私をカレイさんのところまで連れて行きなさい」


 伝輝は思わずクスッと笑った。

「はい、かしこまりました」


 伝輝はカンカンカンと階段を降りた。

 エミリーは伝輝の耳元にそっと話しかけた。


「あなたがもう少し大きくなったら、昨日のお礼に、ヒトの姿に化けて、あなたにとーっても楽しいことを教えてあげるわ」


「え!?」

 伝輝は階段を踏み外しそうになった。

 エミリーはケラケラと笑った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ