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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
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エミリーの災難 ③ 化けと動物 

人間界にある診療所で、伝輝は、タヌキのポンコツ先生と、キツネのウコンと出会う・・・

 タカシが診察代を払い終えると、ポンコツ先生は「折角、久しぶりに来たのだから」とお茶を勧めた。


 ポンコツ先生はウコンがいた派手な部屋につながるドアとは別のドアから、診察室を出て、別室へとタカシと伝輝を案内した。


 八畳程の和室で、中央は掘りごたつになっていた。

 テレビや棚が並んでおり、庶民的な居間のようだった。


 ポンコツ先生は二人を座らせた。

 ウコンは奥の扉を開けて台所へ行き、湯呑と急須を載せたお盆を持ってきた。


「まぁ、くつろいでおくれよ」


 ポンコツ先生はパッと顔を人の顔に戻し、饅頭や煎餅の入った器をポンと置いた。

 ウコンも真っ白に厚塗りした顔に戻っていた。

 座った途端に手鏡を取り出し、マスカラで睫毛をなぞった。


「噂では聞いていたが、まごころカンパニーは本当にサンプル人間を使って実験を再開したんだね」


 伝輝はドキッとした。

 タカシは自分を紹介する時、名前しか言っていない。

 前から知っていたのだろうか?

 初対面で伝輝を見た時、ポンコツ先生はヒトではなく人間と呼んでいた。


 ポンコツ先生は伝輝の右手を持ち、手の平を見た。


「6号か。

 化け能力を持っているのは、タカシが何かしたのかい?」


「事故で、ショックを与えてしまって・・・」

 タカシは気まずそうに言った。


「まぁ、それなりにコントロール出来ているから良いんじゃない?」

 ウコンが言った。

 今度はリップグロスをたっぷり塗りたくっている。


「化けについて、何か困ったことがあったらいつでもおいで。

 化けに関しては、まごころカンパニーよりも上だと言う自信があるよ」

 ポンコツ先生はニッコリと微笑んだ。


    ◇◆◇


「良い機会だから、色々聞いてくれ。

 タカシは一応カンパニーで雇われている医者だから、中々言い出せないこともあるだろうから」


 伝輝は、ウコンが出してくれた温かいこぶ茶をズズッと飲んだ。

「んー」

 聞きたいことが山程ありすぎて、伝輝は中々考えがまとまらなかった。


「じゃあ・・・。

 何で、エミリーちゃんは化け能力を持っているのに、化けたがらないんだろう?化けたくないなら、能力なんか持たなきゃ良いのに」


伝輝が発した質問を聞き、ポンコツ先生は大きくうなづいた。


「確かにそうだね。

 では、化けについて、私から説明しよう。


 この世の生物には、種によって、出来る出来ない、得意不得意なことがある。

 空を飛べる種と飛べない種。

 非常に早く走れる種と走れない種。

 そして、化けることについても、得意な種と不得意な種というのがあるんだ。


 動物界では、不得意な種に対して、化け医療を施して化けられるようにするが、得意な種というのは、もともと化ける素質を持っているため、その必要性が基本的にない。


 化けの得意な種、不得意な種とは・・・。

 これが、中々興味深いのだが、世界各地で異なるのだよ。


 参考にすべきは、人間界でその種がどのように扱われているかだ。

 伝説やおとぎ話に出ていたり、宗教的に重要な位置に置かれたりする種は、その地域限定で、化け能力が高いと言われている。


 ヤギや象や鳥に蛇・・・。

 そして、この日本で最も化け能力が高い種が、タヌキ・キツネそして、猫だ。

 次いで、鹿やネズミや蛇、鶏あたりかな。

 特に、猫は世界各地で能力が高い傾向があるね。


 もちろん、この種の全て化けが使えるのではない。

 あくまでも化けの素質を持って生まれる可能性が高いということだ。

 エミリーちゃんは、自分の意思に反して、高い化け能力を持って生まれてしまったんだ。


 このような事例は、人間界で数多くある。

 多くの場合、身体の異変に対応できなかったり、周囲から拒絶されたりで、最悪の場合、命を落とすのだがな。


 エミリーちゃんは幸い、動物界と関わることが出来た為、化け能力と上手く付き合ってきていたようだが、元々化けることを嫌って、能力を溜め込んできたから、その制御ができなくなっているんだ」


「タカシちゃんや他多くの動物界の動物達にとっては、羨ましい話でしょうけどね」

 ウコンが言った。

 タカシも「全くです・・・」と大きくうなづいた。


 昼ごはん時になり、タカシは「そろそろ・・・」と、ポンコツ先生とウコンに挨拶をし、医院を出た。


 商店街は人間達が歩いたり、買い物したり、会話したりしている。

 何でもない日常の風景だ。

 だが、自分だけは彼らが知らないことを知っている。

 伝輝は自覚していないが、この光景を今までと違う視点から見てしまっていた。


「駅前のハンバーガー屋で昼飯食って帰るか」

 タカシは伸びをしながら言った。


◇◆◇


 エミリーは貫田医院を出た後、まごころ町に戻り、とある山中に入って行った。

 私有地なので不特定多数の動物が訪れることもない。

 ここなら、誰にも見られずに自分で処理が出来るだろう。


 エミリーはチラリと自分の尻尾のあたりを見た。

 無理やり体内に押し込んだ腕は、再び出てきていた。


「本当、嫌になるわ・・・・」


 エミリーは尻尾で腕を掴み、思いっきり引っ張った。

 腕は貫田医院に居たころよりもぐいーんと伸びた。

 だが、どれだけ引っ張っても腕が大きく伸びるだけで、引っこ抜けるまでにならない。


「うっ!」

 先程まで、感覚がなかった腕だったが、急に痛みを感じた。

 腕に神経が形成されていっているのだ。


「何なのよ、何で、こんな目に遭わなきゃいけないのよ!」


 左足の付け根から再びヒト形の足が出てきた。

 身体も膨らんで大きくなってきた。


「ちょっと、ふざけないでよ!」

 エミリーは左足の爪でヒト形の足を引っ掻いた。

 すると、尻尾から生えている腕がその左足を掴んだ。


「嘘・・・どういうことなの!?」

 エミリーと意思に完全に反して、ヒト形の足が関節を動かし、地面を踏みつけ立ち上がった。


    ◇◆◇


 ゴンザレスは電車に乗って、まごころ町最大の農場「こまち農場」にやって来た。


 こまち農場は、ドリスの家族が運営している農場だ。

 祖父の代から育てている稲作の他に、農作物研究の為の農地提供を行っており、研究中に作られた野菜などを、定期的に格安で直売しているのだ。


 ゴンザレスはここでしか買えない野菜が大のお気に入りで、直売会がある際は必ず行くようにしている。

 何度も通う内に、こまち農場の従業員達と顔なじみになった。


「まいど! ゴンザレスさん。

 今日はレタスがおススメだよ。

 最新のビニールハウスで育てられたんだ!」

 直売会場で、従業員の雄牛がゴンザレスに声をかけた。


「レタスか。良いね。今日は大社長はいないの?」

 大社長とは、ドリスの祖父のことである。


「今日はご家族で外出されているんだ。

 試食会やっているから、食べて行ってくれ」

 雄牛はゴンザレスを案内した。


 直売会場は、普段カフェを開いている場所にあった。

 ゴンザレスは試食で受け取ったレタスをカフェ席で味わった。


「ん?」

 人間の目を欺き、人間界で住民を見つけ出すと言う仕事をしているゴンザレスにとって、職業病とも言えるのだが、ゴンザレスは場の違和感に気付くのが非常に早かった。


 多くの客達が買い物や試食を楽しんでいる中、ごく一部の従業員が、慌てた様子で連絡を取り合ったり、会場を出たり入ったりしている。


 ゴンザレスはその中の一人である、先程の雄牛に近づき、話しかけた。


「何か、ありましたか?」

「いえ、その・・・」

「大きな事態にしない方が良いのなら、僕もお手伝いしましょう。

 カンパニーに知られては困るようなことですか?」

「あ、いや・・・」

 雄牛の反応を見て、そうなのだとゴンザレスは判断した。

 トラブルの内容によっては、農場運営にも影響が出る。


「大丈夫。僕が上手くカンパニーの間に入りましょう。

 状況を教えてください」

 ゴンザレスはニコッと笑った。


    ◇◆◇


 昼食を済ませた伝輝とタカシは、まごころ動物園前駅に向かった。

 駅のホームに到着した時、タカシのケータイが鳴った。


「ゴンザレスさんだ」

 タカシ(犬に戻った)はケータイを耳に当てた。

 このケータイは、人間狩り退治で使用したものとは別のものだった。


「タカシさん、大変だ!」

「どうかしたんですか?」


「こまち農場の裏山で、異形の大型動物がうろついてる。

 画像を見たが、あれ、もしかしたら、エミリーちゃんかもしれない」


「何だって!?

 エミリーちゃんが?」

 その後、通話を済ませたタカシが電話を切った。


「エミリーちゃんがどうかしたの?」

「どうやら、エミリーちゃんは能力を相当溜め込んでいたらしい。

 早く行かなきゃ」

 タカシは言った。


 電車が到着し、タカシと伝輝は飛び込むように電車に乗った。 

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