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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
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キャンプ場での攻防 ⑩ 再び浜田家

人間狩りが始まった。ライジンググリーンのメンバーが襲われる中、もう一つターゲットの浜田家と、浜田家に合流した伝輝は・・・

 ブーブー


 伝輝はエミリーから着信を確認し、ゴクリと唾を飲んだ。


 人間狩りが始まるのだ。

 打ち合わせ通り、浜田家と一緒にキャンプ場を出ないといけない。


 伝輝は自分で自分を抱き込むように、腕を組んだ。

 身体が熱くなってきた。

 きっと顔も赤くなっているだろう。


「豊君、どうしたの?」

 和子が、伝輝の様子に気づき、声をかけた。


「ちょっと! ひどい熱じゃない?」

 和子は伝輝の額に手を添えた。


「何だって?!」二郎が言った。


「大変! 無理させちゃったからかしら?

 もう暗いし、すぐに家まで送るわね!

 二郎さん、ここまで車を持ってきてよ!」


「分かった!」

 二郎が立ち上がった。


「ひなも行くー!」

 陽菜が言った。


「駄目よ、陽菜が行ったら邪魔になっちゃうでしょ。

 陽菜はここで一緒に待っていましょう」


「いえ、行ってください・・・」

 伝輝は腕を組んだまま言った。


「風邪だったら、陽菜ちゃんにうつしちゃうといけないから・・・。

 おばさんも一緒に行ってあげてください」


「そんなことしたら、豊君一人になっちゃうわ。」


「和子は運転できないから、俺が残る訳にもいかないし。

 豊君は歩けるかい?」


 二郎は尋ねた。

 伝輝はタカシからもらっていた薬の効果で、体温が一時的に上がったのだが、その反動で全身がだるくて動けなかった。


「俺は、ここで待ってます。

 歩くのは、ちょっとキツいです」


「そうか、じゃあすぐに戻ってくるから、少しだけ待っててね」


 和子がバンガローから大きなウインドブレーカーを持ってきた。

 二郎のものなのだろう、それを伝輝の体にかけた。


「バンガローで休んでる?」

「ここで、大丈夫です・・・」

「そう。何かあったら、すぐにここに電話してね。私のケータイだから」

 和子はメモに電話番号を書いて、テーブルの上に置いた。


「本当に、ごめんなさい!

 すぐに戻るからね!」

 二郎は陽菜を抱き上げ、三人は駐車場に向かった。


「あ、あの!」

 伝輝は声を上げた。


「何?」

「あ、あの・・・車に乗ったら、必ずドアロックしてくださいね・・・

 その、事故とか危ないから・・・」

 二郎と和子はなぜ伝輝がそのようなことを言ったのか、よく分からなかったが、うなづいて走っていった。


    ◇◆◇


「ふぅ・・・・」

 浜田家がバンガローゾーンを離れてから少したった。


 伝輝の身体のだるさは徐々に消えていった。

 タカシからもらった薬は、本来は体温を調整するために飲むものだった。


 浜田家に確実に伝輝をキャンプ場から出すために、発熱を偽造したのだ。

 熱の為、一時的に体は動かなくなるが、風邪による発熱ではない為、伝輝自身の体調は特に問題なかった。


 暑いので、伝輝は車が戻ってくるまで、ウインドブレーカーをテーブルに置いた。

 これで、作戦成功だ。

 伝輝は安心して一息ついた。


 ワオーン

 ワオーン

 ワオーン


 伝輝はバッと立ち上がった。

 犬の遠吠えだ。

 何となく感覚で、決して遠い距離からではないと分かった。


 嫌な予感がした。

 もしかしたら、浜田家も既に狙われているのではないだろうか?


 伝輝は駐車場に向かって、走り出した。


    ◇◆◇


 駐車場に着いた浜田家は、急いで車に乗り込んだ。


 ワオーン


 どこからか、犬の鳴き声が響いた。


 しかし、急いでいた浜田家は、気にせず発車した。


「豊君に悪いことをしたわね。

 きっと、体調悪いのを我慢していたのよ。」


「けっこう遅い時間になってたな。

 時間のことを忘れていたよ」


 後部座席に設置したチャイルドシートに座った陽菜の隣に和子が座っていた。

 和子はケータイを見た。

 着信は入っていなかった。


 サッ


 二郎の視界に、何かが横切った。

 二郎は反射的にブレーキを踏んだ。


「キャッ!」


「ごめん、今なんかキツネか何かが道を横切ったみたいで・・・」


「キツネ?

 こんなところにいるもんなの?」

「さぁ・・・」


 気を取り直して、二郎はドライブに切り替えようとした。


 ドンッ!


 突然、天井から何か落ちたような衝動が走った。


「何だ?」

 二郎がふと前を向くと、フロントガラスに大きな犬の影が見えた。


「ウワ―!」


 二郎はハンドル中央を叩き、クラクションを何度も鳴らした。

 しかし、犬はビクともせず、フロントガラス越しに、息を吹きかけている。


「キャー!」

「キャー!」

 和子と陽菜が叫んだ。


 後部座席の窓にも大型犬が現れ、前足や頭でゴンゴンと車体を叩いた。


 二郎は窓から外を見た。

 五頭の犬が自分達の車を囲んでいる。


 ガシャン!

 車体から、物音がした。


 二郎は、無理やり車を走らせて逃げようとしたが、アクセルを踏んでも動かない。

 エンジンかどこかが壊れたようだ。


「クソッ、何でだよ!」

「ママ―、怖いよー!」


 和子がチャイルドシートのベルトを外し、陽菜を抱き寄せた。

 やがて、大きな石が窓めがけて飛んできた。


「キャー!」


 窓ガラスに亀裂が入った。

 石は何度も飛んできた。


 犬は興奮しているようで、ヨダレを垂らしながら激しく吠えている。

 もし外に出てしまったら、たちまち襲われそうだ。

 二郎は、まるで自分達が罠にかかったような感覚になった。


    ◇◆◇


 伝輝はバンガローゾーンを過ぎて、バーベキューゾーンのそばを通った。

 その時、街灯のある道の下で、複数の犬に囲まれた車を見つけた。

 伝輝は犬の頭数を数えた。


 五頭もいる!?

 何で?

 九頭の内、半分も浜田家の車を襲っているのか?!


 事前にゴンザレスから、肉食獣は野犬の姿に化けているとは聞いていた。

 車を襲っているのは、間違いなく人間狩りに参加している肉食獣だろう。


 伝輝はギュッと右拳を握りしめた。


 パッと開くと、6の数字が浮かんでいた。

 体温も良い感じだ。


 別に、ただコントロールすることだけを練習してきたんじゃない。

 自分は何ができるか、それはどこまでできるのか。

 練習場所は1号室だけじゃなかった。

 ドリスの家の裏山で、こっそり自分なりに化けを試していた。


 今ここで、試してやる。


 自分の爪が食い込む程に右拳を握りしめ、そして緩ませる。

 何度か繰り返し、上がった体温を手の平に集中させる。


 始めは十分以上はかかったが、今では数秒の話だ。


 ガシャーン!


 後部座席の窓ガラスに穴が開いた。

 そこから犬の前足が車内めがけて入ってくる。


 人間を勝手にオモチャにするな!

 実験体にするな!

 お前達の好きになんかさせるか!


 6の数字が浮かんだ手の平から、バチバチと音がする。


 伝輝は右手の平を勢い良く、地面に押し付けた。


 ビシッ!

 ビシシシシシシッ!


 伝輝が手の平をついた場所から、電流が走ったかのように、小さな亀裂が地面にできた。

 その亀裂は徐々に大きくなりながら、浜田家の車の方に向かった。


 車を取り囲んでいた犬達の足元の地面が割れ、何頭かの犬がその亀裂にはまってしまった。


「何だ?!」

「地割れだと!」

「何で、いきなり・・・」


 犬に化けた肉食獣たちが思わず各々口走った。


 地割れで車体が大きく揺れたため、中にいた浜田家はその衝撃を受け、ぐったりした。


「おい、あれを見ろ!」

 地割れから逃れた一頭の犬が言った。


 バーベキューゾーンの方に、人間の少年が立っている。


「長男じゃないか?」


「そう言えば、車の中にいないぞ!」


 少年は後ろを振り向き走った。


 肉食獣たちは口元をニヤリと歪ました。


「行くぞ!」


    ◇◆◇


 伝輝はバーベキューゾーンを横切り、遊具ゾーンに向かった。

 伝輝の記憶では、そちらに向かう途中にいくつか遊具が設置されている。

 遊具は主に鉄製だ。


 背後から犬の鳴き声が聞こえる。

 複数の犬が互いに合図を送りながら、走っているのだ。


 長男(伝輝)を仕留めるために。

 

 伝輝の視界に、街灯に照らされた遊具が見えた。

 そこから適当な太さ長さの鉄棒を見繕い、付け根を右手で握った。

 ジリジリと音がしたのを確認し、思いっきり引っ張った。

 鉄棒は外れた。

 同様にもう片方の付け根も握り、完全に切り離した。


 鉄棒を左手で持ちながら伝輝は再び走った。

 走りながら、ボディバッグから冷却スプレーを取り出す。

 鉄棒を脇に挟み、スプレーを左手で持ち、右手の平に噴射した。

 これが一番早い方法なのだ。


 伝輝は走るのを止め、振り返った。


 合計三頭。


 伝輝は察知した。

 鉄棒を握りしめ、暗がりに隠れた相手を見据える。

 走りでは勝てないが、立ち向かえる!


 恐怖が無いわけではない。

 でも、絶対に逃げるもんか!

 伝輝は歯を食いしばった。

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