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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
46/84

キャンプ場での攻防 ⑨ 襲撃

 人間狩りが始まり、遂に犠牲者が出てしまった・・・

 ユースケはバンガローゾーンのトイレで用を足した。

 トイレから出てきたとき、一組の客が外で楽しそうに過ごしているのを見た。

 どうやら家族連れのようだ。


「俺達以外にも泊まる客がいたんだ」


 ユースケは自動販売機に向かった。

 一人になって気が楽になり、缶を入れるために持ってきたエコバッグをヒュンヒュン回した。


    ◇◆◇


「中々、戻ってきませんね」

 モリがミホに言った。

 この場にはモリとミホの二人しかいない。

 戻ってくるはずであろうメンバーはまだ姿を見せない。

「そうですね。

 ゆゆちゃんはテントで寝ているとしても、わたるさんとしずかさんが遅いですね」

「何かあったのかな?

 僕、ちょっと見てきた方が良いかな?」

 モリは立ち上がった。


 グルルルルル・・・


「まさか、野犬?」

 ミホが不安を帯びた声で言った。


「野犬? そんな馬鹿な・・・。

 こんな近くまで来ている訳ないですよ。

 スタッフが巡回しているはずですし。

 それに、言いそびれてましたが、敷地の境界線には有刺鉄線が張られているはずです。

 仮に本当に野犬がいても、簡単に入れるはずがありません」


 ガサッ!


 モリとミホは、ビクッと体を震わし、物音がした方を向いた。


 茂みからゴソゴソとこんもりした塊が出てきた。

 二次会開始から数が増えたランプの明かりで、その塊が首輪をつけたビーグル犬だと分かった。

 大きさも小ぶりの中型犬くらいだった。


「あは、びっくりした」

 モリの表情が緩んだ。

 モリはビーグル犬に近づいた。

 ミホは立ち上がり、テーブルから少し離れた。


「首輪をつけているってことは、他の利用客のペットの迷子犬かな?」

 モリはビーグル犬に近づいてしゃがんだ。

 ビーグル犬は尻尾を振って、モリの方を見ている。


「大丈夫ですか・・・?」

 ミホは変わらず不安そうに尋ねた。


「大丈夫ですよ。

 ほら、おいで、可愛いな」

 モリはスッとビーグル犬に手を差し出した。

 ビーグル犬は、その場で少しの間尻尾を振って、モリを見ていたが、フッと首を動かし、顔をそらした。


 そして、顔を戻した。


 ガブッ!


 ビーグル犬がモリの首元狙って飛びつき噛みついた。

 身体の大きさに似合わず、鋭く大きな牙がモリの頸動脈に完璧に食い込んだ。


「ん、あ・・・!?」


 ビーグル犬がモリを襲ったのとほぼ同時に、茂みから更に数等の犬が飛び出した。


 モリは抵抗する間もなく、飛び掛かってきた三頭の中~大型犬にズルズルと茂みの中へひきずられていった。


 ミホは襲われそうになった瞬間に、一歩引き下がった為、第一撃を受けることはなかった。

 しかし、すぐに二頭の大型犬とモリから離れたビーグル犬がミホに噛みつこうと飛びついた。


 飛びつかれた勢いで、ミホは倒れたが、持っていた缶や手に当たった砂や小石を犬に向かって投げつけたり、足で蹴り飛ばすように動かしたりなど、必死で抵抗した。

 厚みのある登山ブーツやゆったりとした丈夫な生地のウィンドブレーカーのおかげで、多少噛みつかれたり、引っ掻かれたりしても、致命傷には至らなかった。


 徐々に疲労で、ミホの動きが鈍くなる。

 隙を狙って逃げたくても、その隙を探す余裕がミホになかった。


 犬がミホの首元あたりに前足を置き、頭に噛みつこうと口を大きく開いた。


 ガシャン! ガシャン!


 ガンッ!!


 ミホと犬達の周辺にビール缶が飛んできた。

 地面に落ちた缶から泡が吹き出した。

 その一つがミホの頭を狙っていた犬に直撃した。


「ギャオンッ!」

 缶に当たった犬がひるんで、一旦ミホから離れた。


 もう一頭の大型犬とビーグル犬も一瞬動きが止まった。

 その時、大型犬に缶入りエコバッグが飛んできた。


「ギャウッ!」


 もう一頭の大型犬とビーグル犬もミホから離れた。


 買い出しから戻ってきたユースケは、エコバッグをブンブンと犬に向かって振り回し、けん制しながらミホの手を引っ張り立ち上がらせた。


「逃げろ!」

 ユースケは最後にエコバッグを大型犬に向かって投げつけ、ミホの手を取り走った。


 犬達は二人を追いかけようと体勢を整えた。

 しかし、その時犬の背後から催眠成分入りの煙が噴射された。


    ◇◆◇


「管理棟に行きましょう!

 建物に入ればきっと安心です!」

 ユースケはミホに言った。


 ミホは走りながら泣いていた。

 ミホのすすり泣く声を聞きながら、ユースケは冷静さを保とうと努力した。


 犬に引っ張られて、モリの足が、茂みの中に消えていくのを、ユースケも見た。 ユースケは今起きている事態が異常であると認識していた。


「他の皆は!?」


「フ、フ・・・。

 分からない。私とモリさんしかいなかったから・・・」

「そうだ、テントだ!」

 ユースケが立ち止まった。


「テントの様子を見てきます!

 ミホさんは先に管理棟に行ってください」

「え、でも・・・・」

 ミホはためらった。

 一人になるのは嫌だった。


「今日、ミホさんは車で来たんですよね?

 今も鍵は持ってますか?」

「ええ・・・」

「駐車場に車を置いているなら、それに乗って逃げても構いませんから!」


 ユースケはそう言って、ミホの体を押した。

 ミホはチラチラとユースケを見つつも走っていった。

 ユースケはミホがちゃんと逃げたことを確認し、テントの方に向かって走った。


 ふと、バンガローゾーンに家族がいたことを思い出した。

 テントに寄った後、バンガローゾーンも確認できればと、ユースケは思った。


    ◇◆◇


 ユースケはドーム型テントが三つ並んでいる場所に到着した。

 ユースケは女性陣が寝る予定だったテントの入口ジッパーを開けた。

 しかし、中は荷物だけで、しずかもゆゆもいなかった。

 ユースケはテント周辺を見た。


 犬の鳴き声が聞こえてきた。

 ユースケは隣の自分とわたるが寝る予定だったテントの入口ジッパーを開けた。 ここも誰もいなかった。


 三つ目のテントの入口ジッパーを開けると、ハブラシが寝転がりながら、スマホ画面をなぞっていた。


「ハブラシさん! 無事ですか?」

 ユースケが突然尋ねてきたので、ハブラシは面倒そうに答えた。

「はぁ? 何か、あったんですか?」

「野犬が出たんですよ!

 早く逃げましょう!」


 ユースケは入口から言った。

 ハブラシはよく状況が分かっていない様子で、ノソノソとテントから出ようとした。


「早く!

 野犬が近くまで来てるんです!」

「何だよ、野犬って。

 そんな人を襲う訳でもあるまいし・・・」


 ドンッ!


 突然、テント側面に何かがぶつかってきた。

 犬の鳴き声が激しく響く。


「うわー!」

 ハブラシが叫んだ。

 驚きのあまり、入口の手前で体をうずくまらせた。

 ユースケは手を伸ばし、ハブラシの巨体を引っ張り出した。


 テントの外に出ると、中型犬と大型犬が二人の前で並んでいた。

 犬達は、ヨダレを垂らし、激しく舌を出して呼吸している。

 犬には警戒している様子がなく、獲物を眺めて楽しんでいるようだった。


 ユースケはワークパンツの尻ポケットに手を入れた。

 犬とは逆にユースケが警戒態勢を維持し、ジリジリと少しずつ退いた。


「バウッ!」


 挑発するかのように一頭の犬が吠えた。


「ひゃあ!」

 ハブラシが叫んだ。


「逃げろ!」

 ユースケはハブラシに走るよう促した。

 ハブラシは靴を履いていなかったが、なりふり構わず走り出した。

 ユースケも一緒に走った。


 犬達はすぐに走り出さなかった。

 ククク・・・と笑っていた。

 それは二人に聞こえることはなかった。


「管理棟に行ってください!」

「ふえ?」

 ハブラシは情けない声を出しながら走った。

 やがて背後から犬の鳴き声と走る音が聞こえてきた。


「うわっ!」


 ユースケに二頭の犬が一気に飛びついた。

 ハブラシは立ち止まったが、倒れ込んでいるユースケが「逃げろ!」と叫んだので、ハブラシは再び走ってその場を離れた。


「くっそぉ・・・」

 二頭の犬はユースケの腕や足に噛みつこうとしたが、ユースケが勢いよく足元にいた中型犬を蹴りあげた。


 もう一頭の大型犬がユースケの目の前に体を乗せてきた。犬の前足の爪がユースケの頬を引っ掻いた。

 ユースケは左手で犬の首元を掴み、顔を自分に向けないようにした。

 そして、右手に持っていたバックナイフで犬の体を突き刺した。


「ギャン!」


 力が緩んだ隙に、ユースケはナイフを抜き、犬を突き飛ばした。

だが、すぐに先程ユースケに蹴られた犬が再び飛びついてきた。


「ぐっ!」


 犬はユースケの右ふくらはぎに噛みついた。

 ユースケはナイフで犬の頭を突き刺した。


「グワァァ!」


 鳴き声ではなく叫び声が、犬から発された。

 ユースケの足から犬の口が離れ、ユースケは体を起こした


 立ち上がって、二頭の犬を見ると、血を流した犬達の目は明らかに変わっていた。

 ユースケは殺される! と悟った。


 スパンッ

 スパンッ


 突然、何かが二頭の犬の側頭に向かって飛んできた。

 撃たれた犬達は、そのままぐらりと倒れて動かなくなった。


 ユースケは何が起きたのかが分からなかったが、とにかくこの場を離れようと思い、怪我した足を引きずりながら走った。


 管理棟の方向に向かって進んでいると、前方から車のヘッドライトの明かりが見えた。車はユースケの前に止まった。


「ユースケさん!」

 運転席からミホが出てきた。

「早く乗って!」


 ミホはユースケを後部座席に乗せた。

 ユースケの足が大量に出血していることに気付いた。

「病院に行かなきゃ!」

 ミホは乱暴にハンドルを切り、方向転換し、キャンプ場敷地内を下って行った。


 ユースケは上の服を脱いで、止血の為右足に服を巻きつけた。

 後部座席にはハブラシが既に乗っていて、ガタガタ震えていた。


「管理棟には?」

 ユースケが尋ねた。


「まだ、行ってない!

 管理人さんに頼んで、私の車だけバーベキューゾーンの管理人用駐車場に停めさせてもらっていたの!」


「管理棟で救急車と警察を呼んだ方が良い。

 ここからは病院は遠い。

 管理棟なら応急処置ができるはずです」


「分かったわ!」

 ミホがアクセルを踏んだ。


「・・・先にバンガローゾーンに寄ってくれませんか?」


「何で?

 バンガローゾーンには誰もいなかったわ!

 それよりも、あなたの怪我の手当てをしないと!」

「そうですか・・・」

 ユースケはほんの少し安心したのか、目を閉じた。


    ◇◆◇


「樺さん、麻酔銃を使ったのか・・・。

 これじゃあ、妨害されたってばれるじゃないか」

 テントの前で倒れている犬達を見て、ゴンザレスが言った。


「あの状況では、仕方なかったよ。

 おかげで、ユースケは助かった。

 催眠煙では、間に合わなかっただろう」

 タカシが犬の側頭部を見て、銃痕を治療で消した。


「ユースケ達を追いかけて、記憶操作をしないと」

「いや、ゴンザレスさん。

 自分の力で逃げられた以上、記憶操作はかえって混乱するから止めた方が良い」

 タカシが言った。


 その時、サッとエミリーが現れた。


「大変よ!

 ツアー参加の肉食獣は、あともう五頭いることが分かったの!

 今、樺さんが浜田家の方に向かっているわ!」

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