キャンプ場での攻防 ⑥ 遠吠え
ライジング・グリーンのメンバー達はバーベキューを楽しんだ後、テントゾーンに向かう・・・
ライジング・グリーンのメンバー達は、バーベキューゾーンの片付けを済ませ、テントゾーンに向かった。
モリが用意した屋根付き野外用テーブル&チェアーに食べ物・飲み物・アルコール類を並べた。
モリはランプに火をつけ明かりを灯した。
日が沈みつつある背景と合わせて、かなりアウトドアらしい雰囲気になってきた。
メンバーはバーベキューの二次会のような形で、食事と酒を楽しみ、わいわい賑わった。
アルコールが進んだこともあり、互いにプライベートな会話をするようになってきた。
「ユースケ君ってぇ、彼女とかいるの?」
「うん、まぁ一応」
「えー、ゆゆ、ショックー!」
ゆゆはユースケの肩にもたれかかった。
「今日は、何で来てないのー?」
「向こうは、あまりキャンプとか、好きじゃないからさ」
「えー、趣味が合わないって、ストレスになるよー!
私は、こういうの大好きだから、もっとユースケ君と色んなことしたいなぁー」
ユースケは照れつつも、少し困り顔で笑った。
「ゆゆちゃんは、どうなんだよー?
何人デート要員いるんだい?」
割り込むような形で、わたるがゆゆの隣に座り、ユースケから離すために、肩をがしっとつかんだ。
既に酔っているゆゆは、特に抵抗しなかった。
「デート要員とかいないしぃ。
ゆゆは、好きな男の人には一途なのー」
「本当にー?
じゃあ、今、彼氏いないの?」
バカ女とバカ男の会話は聞いていて、頭が痛い。
モリとかいう幹事はブス女相手で気が回っていない。
そのブス女共は全く自分に気を遣わない。
たまにこっちに話しかけるとしたら、好きな食べ物は何か、旅行はどこに行くのかなんて、下らない質問ばかりだ。
お前達ごときに答える筋合いはない。
実に不愉快だ。
ハブラシはスッと立ち上がった。
「ハブラシさん、どうしたんですか?」
モリが言った。
「すみませんが、不慣れなことで疲れたみたいで・・・。
先にテントで休ませていただきます」
「大丈夫ですか?」
ミホとかいう副幹事が言った。
「ええ、ありがとうございます。
お気遣い無く、どうか皆さん楽しんでください」
ハブラシはニコッとしながら言い、モリと一緒に入る予定だったテントに一人潜り込んだ。
ワオーン
遠くから犬の遠吠えのほうなものが聞こえてきた。
「へぇ、久々に聴いたなぁ」
「そういえば、野犬に注意って、施設の看板にあったけど、正直大丈夫なんでしょうか?」
ミホがモリに尋ねた。
「確かに、残飯を放置しないとか、こちらも用心した方が良いかもしれないけど、基本的にそんなに気にしなくてよいと思いますよ。
キャンプ場敷地外は、農家の方々が生活されているそうなので、そこの飼い犬かもしれないですし。
それに、キャンプ場スタッフが二十四時間定期的に敷地内を巡回したり、実際に野犬の情報を聞いたら、保健所に連絡して捕獲してもらったりしているそうですよ」
モリが答えた。
「モリさん、お詳しいですね」
しずかが言った。
「皆さんが安心して楽しんでもらえるために、事前チェックは幹事として当然のことですよ」
モリはニコッと笑った。
モリとミホとしずかは、ハイキングの話を中心に会話に花を咲かしていた。
しずかは元々ゆゆに強制的に参加メンバーにさせられ、このオフ会に参加させられた。
(ゆゆは面倒くさいと言って、登録していない)
しかし、モリとミホの体験談を聞いていると、自分も挑戦したいと思うようになってきた。
初歩的な知識から様々なことを二人に質問した。
二次会はハブラシを除き、各々楽しんだ。
アルコール類が切れると、飲酒していないしずかが率先して一人で自動販売機まで走った。
テントゾーンにはないが、バンガローゾーンや管理棟などには、自動販売機コーナーがある。
テントゾーンから一番近いのがバンガローゾーンの自動販売機なので、それほど時間もかけずに、アルコール類を補充できた。
◇◆◇
「あーん、ゆゆ、疲れちゃったぁ」
ゆゆがユースケの方を向いて言った。
さりげなくそっと、ユースケの太ももに自分の手を乗せた。
「テントまで行きますか?」
ユースケが聞いた。
今回、テントゾーンは貸切状態ということもあり、二次会会場はテントをはっている場所から少し離したところに作っている。
「うん、行くー」
ゆゆが立ち上がると、フラッとバランスを崩して倒れそうになった。
すかさず、ユースケがそれを支えた。
「テントまで連れてってー」
ユースケはやや困惑しながらも、酔ったゆゆを介抱すると言う意味で、ゆゆの手を取りテントに向かおうとした。
わたるもついて行った。
ゆゆはユースケとわたるに挟まれた状態で、フラフラしながら歩いた。
ワオーンとどこから犬の鳴き声が聞こえてきたが、三人は特に反応しなかった。
わたるはユースケにゆゆの顔を見せないように、自分の腕の中にゆゆを収めながら歩いた。
「ゆゆちゃん、吐きそうなの?」
突然、わたるが言った。
「え?
じゃあ、トイレに行った方が良いかな?」
ユースケが慌てた様子で言った。
「俺がゆゆちゃん見るから、ユースケは戻れ」
「え、でも・・・」
ユースケはかなり困惑した。
ゆゆをわたると二人きりにさせたくなかった。
「お前さ、ゆゆちゃんがお前に気があるの分かっているだろ?
気になる男に自分がゲロ吐いているところなんて見られたくないだろ?
大丈夫、流石に俺も体調不良の女に変なことしねぇよ」
「頼みますから、本当に変なことしないでくださいよ」
ユースケはそう言って、二次会場へ戻った。
ゆゆが心配ではあったが、正直ゆゆから離れられるのはありがたかった。
「変なことはしねぇよ。
楽しいことをするんだ」
わたるはニヤッとした。
ゆゆを見た。
酔って半分眠っている状態だが、元々酒は強いらしく、吐くような状態ではない。
「体調良好の女だしな・・・」
◇◆◇
ユースケが戻ると、モリ達が二人について尋ねた。
ユースケが事情を話すと、しずかの表情は曇った。
「飲み物、もう、ないんじゃないですか?
俺、買ってきますよ」
ユースケが再び立ち上がった。
「あ、私が・・・」
「いいよ、しずかちゃん。
暗いし、女の子に何度も行かせるわけにはいかないよ。
それに、ちょっと散歩がてら歩きたいんだ」
ユースケはバンガローゾーンに向かった。
ワオーン、ワオーン
再び、犬の遠吠えがどこからか聞こえてきた。
さっきより、近いような気がするのは、気のせいだろうかと、しずかは思った。
◇◆◇
「んー、ここ、どこー?」
わたるとゆゆは、テントにも、二次会場所からも離れたところにフラフラと歩いて行った。
「どこだろうなー」
わたるはそう言いながら、ゆゆの肩に添えていた手を下にずらし、脇の下あたりに持って行った。
指先が意図的にゆゆの胸に触れた。
ゆゆは反応した。
「ちょっと、何触ってんのよ!」
ゆゆはわたるから離れようとした。
だが、わたるはゆゆの両手をつかんだ。
「さんざん誘っておいて。
今さら何だよ」
「何、馬鹿なこと言ってんのよ! 離して!」
「うるせーよ。
元々、お前もそういうつもりで来たんだろ?」
わたるは握った手の力を入れ、強引にゆゆに自分の顔を近づけようとした。
「いや! やめて!」
ゆゆは必死で抵抗し、わたるの脛を蹴った。
痛みで一瞬わたるの手の力緩んだ。
ゆゆは走って逃げようとした。
しかし、すぐにわたるに腕を掴まれ、バランスを崩した。
背後からわたるに抱きつかれ、ゆゆの喉元をわたるの手が覆った。
「痛い目に遭いたくなかったら、おとなしくしろよ」
先程までの軽い口調はなくなり、低い声色でわたるは言った。
ゆゆは恐怖を感じた。
だが、ゆゆは抵抗を諦めなかった。
靴底で後ろからわたるの足を蹴ろうとした。
本当は急所を狙いたかったが、届かない。
「おとなしくしろって言ってんだろ!」
わたるは力づくで、ゆゆを地面に倒した。
草が生えた柔らかい土の上なので、ゆゆは痛みを感じることはなかった。
わたるはゆゆの上に乗るような体勢になった。
ゆゆの両手を自分の手で押さえ、下半身は自分の両膝で外側から固定した。
「いやー!」
ゆゆは叫ぶと、わたるはゆゆの頬を平手打ちした。
「うぅ・・」
「おとなしくしろって言ってるだろ」
ゆゆは、力尽きたように、動かなくなった。
わたるはポケットから小型ライトを取り出した。
すっかり日が落ち、周囲は暗くなっている。
自分の体の下にある女を、ライトの明かりで照らした。
屈辱に歪んだ表情、片頬が少し赤くなっている。
明かりを下にずらしてグレーのパーカーのチャックを一番下まで降ろした。
ピッタリはりついたインナーが胸の形をくっきりさせている。
更に明かりを下にした。
ショートパンツの太ももの付け根あたりを入念に照らした。
ワオーン
ゆゆの耳に、犬の遠吠えが聞こえてきた。
だが、わたるは気付いていないか、気にしていないようだ。
再び、遠吠えが響く。
さっきよりも音量が大きいような。
ワオーン
ワオーン
ワオーン
今度は複数の遠吠えが、幾重に重なって聞こえてきた。
そして、それは徐々に近づいてきた。