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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
42/84

キャンプ場での攻防 ⑤ ライジング・グリーン

 伝輝はキャンプ場に宿泊予定の浜田家とバーベキューを楽しんだ。一方、人間狩りのターゲットとされるライジング・グリーンのメンバー達は・・・

 人間狩り開始直前の合図が鳴る約五時間程前、伝輝とタカシが乗っていたバスの次のバスが、終着である、キャンプ場最寄りのバス停に停まった。


「やばい! 遅刻だ!

 先輩、早く行きましょう!」


 慌てた様子でバスを降りたのは、ライジング・グリーンのオフ会に参加する「ユースケ」だった。

 ハイキング用リュックを抱いたまま、バス停に降り立ち、キャンプ場に向かって走った。

 だが、途中で立ち止まり振り返り、同伴者である「わたる」を呼んだ。


「先輩、早くしてくださいよ!」

「そんなに急かすなよー。

 まだちょっと酒が残ってんだよ」

 わたるがあくびをしながら、ノソノソとバスを降りて歩いた。

「皆、待ってますよ!」

「うぃー」

 わたるのマイペースっぷりに、ユースケはため息をついた。




 バーベキューゾーンの一角に、七人の男女が集まった。


 他の客が食べたり飲んだり片付けたりしている中、この団体は円になって立っていた。


「えー、皆さん、遠いところからよくお越しくださいました。

 これからライジング・グリーンのオフ会を始めます。

 初めに自己紹介をしましょう」


 眼鏡をかけた男性が、慣れた様子でメンバーに向かって話し始めた。

「私は、モリです。

 ライジング・グリーンの運営メンバーの一人で、今回のオフ会の幹事を務めさせていただきます。

 主な活動は単独ハイキングで、今度の年末年始は三年連続の富士山登山で初日の出を予定しています。

 その他、最近は海外のトレッキングなども興味があって、この間オーストラリアに行ってきました。

 私はライジング・グリーンでは、本格派というよりも、初めての方でも参加しやすいラフなオフ会を企画する方が多いです。

 私のサークルを通しての目標は、より多くの方にアウトドアを楽しんでもらうことです。

 最近は、テントで寝たことがない大人もいるとのことでしたので、こう言った気軽に参加できるプランを考えました。

 是非とも、皆さん楽しんでいってください」


 ラフなオフ会と言っておきながら、モリ自身はサファリジャケットにサファリハットと、動物博士がアフリカ大陸に探検に行くような恰好をしている。


 わたるは関わる気はないが、幹事と言っているし、面倒なことは全部押し付けようと思った。


「続いて時計回りに自己紹介していきましょうか。

 ユースケさん、よろしくお願いします」

「はい。えーと、初めまして。ユースケです。

 大学ではアウトドアサークルに入っていまして、とにかく山や川で遊ぶのが大好きです!

 ハイキングも本格的にやってみたいなぁと思っていまして、SNSとモリさんのブログを通じて、このサークルに加入しました。

 生のモリさんにお会いできて感激です!」

 ユースケはニコッと笑ってお辞儀をした。

 その爽やかな雰囲気に、女性陣の表情が和んだ。


「えー、どもっす。わたるです。よろしくっす。」

 次のわたるは、首だけひょこっと動かした。


「あ・・・、初めまして。ハブラシです・・・。

 今まで休みの日は、家で寝ていることが多かったのですが、健康も気にしないといけない年齢になってきまして、良い経験だと思い、参加しました。

 初めてで不慣れですが、よろしくお願いします」

 ピンクのパーカーが似合わないデブオタ。

 心の中で、わたるはハブラシをこう表現した。


「私はミホです。

 参加側のメンバーですが、今回はモリさんのお手伝いとして副幹事をやらしてもらっています。

 今まで登山を中心にオフ会には何度か参加してきましたが、モリさん主催は今回が初めてです。皆

 さん、楽しい時間を過ごしましょう。よろしくお願いします」

 婚活の戦略間違っている痛い女。

 ショートパンツ履かれても別に見たくないから。

 わたるは気づかれない程度に鼻で笑った。


「はじめまして、しずかです。私も初参加です。

 よろしくお願いします」

 論外。

 わたるは思わず声に出そうになった。


「こんにちは! ゆゆです!

 しずかとは、同じ大学です。

 バーベキューとか、テントで寝るとか、小学生以来でめっちゃ楽しみです!

 よろしくお願いしまーす」

 ゆゆはペコリと頭を下げた。

 レモンイエローのインナーからくっきりと谷間の筋が見えた。

 反射的に男性陣の口元が緩んだ。




 自己紹介を済ませたメンバー達は、テントゾーンに行き、先にテントをはった。

 その後、再びバーベキューゾーンに戻り、バーベキューの準備を始めた。


 テントをはっている間に、キャンプ場スタッフがある程度火の準備をしていた。 また、基本的な道具や食材はキャンプ側が用意してくれる。

 一般の客はそれで十分楽しめるのだが、そこはアウトドアサークル。

 用意されるものは必要最低限に減らし、メンバーこだわりのバーベキューグッズを用意した。


「良い匂い―、すごーい!」

 蒸し焼きにされたキノコと鶏肉から、普通のバーベキューとは違う上品が匂いが漂ってきた。

 肉や野菜も鉄製串に刺し、まるで外国のバーベキュー光景のようだ。


 魚料理のために、魚を捌く際、ユースケがサッとナイフを取り出した。

 手際よくナイフで鱗をとる姿を見て、すかさず、ゆゆが、「ユースケ君、すごーい」と言った。

 モリもユースケを見た。

「そのバックナイフ、良いの使っているね」

「初バイト給料で買ったんです。アウトドアでには欠かせない俺の相棒ですよ」

 モリに褒められ、ユースケは嬉しそうに言った。


 缶発泡酒・缶チューハイもプシュッとビルトップが開けられ、アルコール効果でメンバーの雰囲気は更に砕けてきた。


「しずかさんも飲む?」

 ミホが缶チューハイを持って勧めた。

「いえ、まだ未成年なんで・・・・」

 しずかは断った。


「真面目だなー、しずかちゃんは。

 未成年っていくつ?」

 わたるがすっかり酔った状態で話しかけてきた。

「今、十九歳です」

「きゃー、若ーい!

 もしかして、ゆゆちゃんも?

 どうしよう、私かなり年上だわ」

「いえ、あの子は誕生日迎えたんで、今は二十歳です」

 ゆゆは、しっかりユースケの隣に座って、発泡酒を飲んでいた。


「ミホ姉さんは、おいくつなんですかー?」

「聞いちゃ駄目ー」

 わたるが聞くと、ミホは笑いながら、わたるの頭をポンッと叩いた。




 バーベキュー終了の時間が近づき、モリは片付けの呼びかけを始めた。

 メンバーは水のみで食器を洗ったり、残飯を集めたり、空き缶をまとめたりした。

「キャンプ場のゴミ捨て場に捨てられるので、きちんと分別しましょう」

 キャンプ場スタッフ顔負けの知識とマナーで、モリはメンバーに指示を出した。


 ハブラシはこれまでほとんど誰かと話すことなく、淡々と過ごしていた。

 水場で皿を洗っていながら、ぶつぶつと周りに気付かれない程度に唇だけ動かし独り言を声に出さずにつぶやいた。


「誰も俺に話しかけてこない。

 幹事だったらもっと気を遣えよ。

 女も女で、気の利かない連中ばかりだ。

 男の俺が持っている皿が空になっていたら、肉でも持ってくるのが、女の仕事だろ・・・」


 ふと、視線を感じた。

 隣に立っているガキが自分を見ている。

「カバさん、順調?」

 はぁ?

 このガキ、何言ってんだ?


「カ、カバ・・・!」

 その後、ガキはそそくさとどこかに行きやがったが、一体どんな躾されているんだ?

 あのガキがいるテーブルは・・・。

 はん、親は一見ちゃんとしてそうで、実際全然子どものことなんか分かっていない、面倒くさいタイプだな。

 ああいうのが、モンペ(モンスターペアレント)化するんだよな・・・

 ハブラシはぶつぶつ心の中でつぶやいた。




「ねぇ、ゆゆさん」

 女性陣三人は、他の男性メンバーがそれぞれ片付けの為に場を離れている間に、テーブルの上などを片付けていた。

 そんな中、ミホがゆゆに話しかけた。


「何ですかー?」

 酔いが回っているゆゆが答えた。

「その恰好、何とかならないかしら?

 テントは別々でも、男の人達と一緒に一晩過ごすわけだし・・・。

 あなたのその服装は、キャンプには似つかわしくないと思うわ」

「別に山登りする訳じゃあないんだし、そこまでちゃんとしなくて良いんじゃないですか?」


「だけど、言っちゃあ悪いけど、そんな胸元見せたり、脚を見せたりしてたら、勘違いする人もでてきちゃうかもよ」

「あははは。大丈夫ですよー。

 私、そんな軽い女じゃないんで。

 しず、一緒にこれテントゾーンに持ってこうよ。

 ミホさん、私達テントゾーンに行きますね」

 そう言って、ゆゆはしずかを連れてその場を離れた。


「はぁー、めっちゃウザい。あのオバサン。

 自分は正しいみたいな言い方で妬んでくるんじゃねぇよ!」

「でも、優華ゆうか

 ミホさんの言う通りかもよ。

 夜は何かはおるか、パンツだけでも履き替えたら?」

「しずか!

 ここで、私の名前出さないでよ。連中に知られたくないから!

 それから、何で大学の名前まで出すのよ!

 全く、ケンタの浮気の腹いせに参加したけど、本当、カスばっか!

 あのキモオタ幹事とキモデブは、ミホオバサンの婚活の相手してれば良いわ。

 しずか、もっとまともなイベントはなかったの?

 ユースケ君がいなかったら、帰ってたわ」

「そんな・・・。

 このイベントにしようって言ったのは、優華じゃない」

 しずかは困ったように言った。




 一方、ユースケとわたるは、バーベキューで出た分別済みゴミを、ゴミ捨て場に持って行っていた。


「今回のオフ会は七十点」


 わたるはユースケに言った。

「ゆゆちゃん、可愛いなぁ。

 あの子単品で八十点つけてやっても良いよ。

 でも、他がありえない。ババァとブスばっか。

 ゆゆちゃんと仲良くしたいけど、周りの女があれじゃあ、絡みにくいよ」

「そういう言い方、よしてくださいよ。先輩」

 ユースケは困ったように言った。


「でもよー。

 折角、ゆゆちゃんと一晩過ごすんだからさ、良い思い出作りたいじゃん。

 あの子の乳やべぇな。今まで何人の男に揉ませてきたんだろうな」

 ユースケは黙った。


 わたるとユースケの兄は中学時代の友達同士だ。

 兄が就職し、フリーターのわたると時間がとれなくなった代わりに、学生であるユースケに絡んでくるようになった。

 面倒くさいが、断るともっと面倒なことになるのを、兄共々分かっているので、ある程度付き合わないといけない。

 しかし、わたるは別のオフ会に同伴者として参加したことがあったが、そこで会った女性数人にオフ会後も声をかけ手をだしていったらしい。

 頼まれたとはいえ、連れて来るべきではなかったとユースケは思った。

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