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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
40/84

キャンプ場での攻防 ③ バーベキューゾーン

 キャンプ場に宿泊予定の浜田家と合流する為に、伝輝は一人でキャンプ場に向かった・・・

 伝輝は堂々と正面からキャンプ場敷地に入った。


 施設利用は有料だが、駐車場とただ敷地に入るだけなら無料だ。

 遊具ゾーンに行かなくとも、ちょっとした遊具はチラホラと敷地内のあちこちにあるので、子どもはそれで十分楽しめる。

 先に駐車場に行き、浜田家が乗ってきたという乗用車があるかを確認した。


 来る途中で見た施設案内と、四年生の頃の記憶を頼りに、伝輝はバーベキューゾーンに向かった。


 タカシとゴンザレスは人間狩りが始まる時間まで、さっきの場所で待機している。

 エミリーはどこにいるかは分からないが、色んな情報を随時発信している(伝輝のケータイには来ないが)。

 樺さんは、ゴンザレスの話いわく、既にバーベキューゾーンにいるらしい。


「樺さんは、本当に場に溶け込んだり隠れたりするのが上手いから、もしかしたら気付かないか、気付いても違和感が無いから驚くよ」

 ゴンザレスはそう言っていたが、結局彼も樺さんがどうしているかは知らなかった。




 バーベキューゾーンに到着すると、前半客と後半客が丁度入れ替わるころで、片付け中の客と準備をする客が入り混じって、少々混雑している雰囲気だった。


 猫吠山は、少し下ると温泉や民宿などがあるので、キャンプ場で宿泊する客はあまり多くない。

 バーベキューや遊具ゾーンで日中楽しみ、夜は温泉でくつろぐプランが、猫吠山旅行の定番になっていた。


 家族連れなどの様々な利用客が行き交い、肉の焼ける良い匂いをあちこちで発生させている中、きれいな円になって立っている七人の大人の集団がいた。

 周りの雰囲気からして少し浮いた感じだ。

 集団の一部の大人の顔が見えた。

 伝輝は「ライジング・グリーン」のメンバーだと思った。

 タカシに見せてもらった資料を思い出し、伝輝は歩きながら、さりげなく七人の顔を確認した。


 はつらつした声でメンバーに話しているのは、幹事のモリだ。

 メガネと地味な髪型だが、服装は探検家スタイルで、これからどこかの秘境に行くのかと思うような姿だった。

 はっきり言って、七人の中でもかなり浮いていた。


 モリの隣に並んでいるのは、若い男性二人組でユースケとわたるだった。

 モリと真逆で、このまま都会のショッピングセンターに行ってもおかしくないような、おしゃれなカジュアルスタイルだった。

 わたるの方が、身に付けているアクセサリーの数が多いので、伝輝は意味もなくイラッとした。


 男性二人組の向かい側に三人の女性が立っていた。

 ミホは鮮やかなショッキングピンクのナイロンジャンパーの下に水玉模様のショートパンツ。

 そこから出ている足は真っ黒なスパッツで足元はがっちりとした登山ブーツだ。 帽子に首元はスカーフ、薄手の手袋と、日焼け対策万全といった感じだ。

 伝輝は正直、そこまでしてまで参加したいのか? と思ってしまった。


 ミホの隣のしずかは、肩位のまでの長さの髪を後ろで束ね、服装も普通のカジュアルだ。

 長袖長ズボンスタイルなので、伝輝はやっぱり地味だと思った。


 ゆゆはこのメンバーの中では、圧倒的に可愛かった。

 明るい茶髪は背中の真ん中位まであり、ウェーブしている。

 他の二人の女性と違って、しっかりとメイクをしている。

 そして何より、グレーのパーカーのチャックを丁度胸の下まで降ろしているのだが、遠目で見ている伝輝の目からもバストラインが目立つ。

 インナーのレモンイエローの胸元からはちょっと動くだけで谷間がこぼれる。

 デニムショートパンツは太ももがむき出しになっていて、プリンとした形の良いヒップを強調している。


 最後に伝輝はハブラシの姿を確認した。

 ハブラシはでっぷりした身体に薄いピンク色のパーカーを着ている。

 パーカーからのぞくインナーの色はグレーで、ジーンズを履いている。


「え? 樺さん!?」

 遠目だが、今朝に見た樺さんの服装と同じだ。

 それに、どことなく眠そうな目元や体格も、樺さんの面影がある。


「なるほど、そういうことか・・・」

 伝輝はゴンザレスが言っていた言葉を思い出した。

 既にバーベキューゾーンにいるというのは、大胆にもサークルのメンバーになりすますことだったのか。

 ネット上で知り合った集まりで、今日初めて顔を見るのだから、樺さんがこっそり溶け込んでも問題ないということか。

 だが、その不健康そうなおデブスタイルは、アウトドアにはちょっと不向きな感じがするので、違和感は少しあった。




 伝輝は浜田家を探した。

 子ども二人連れの四人家族で、今からバーベキューを始めようとしている客・・・。


「どこにいるんだよ」

 よく考えれば、顔が分からない。

 食べたり飲んだり、食材を切ったり、火を起こしたり、水道場で水だけで食器を洗っていたり。

 老若男女が行き交っているので、条件に合った団体を特定しにくかった。


 伝輝は前半組が帰ってから、もう一度探そうと思い、一旦バーベキューゾーンを離れ、近くにあるジャングルジムに向かった。


 ジャングルジムの前に着くと、小さな女の子が一人でジャングルジムの傍にいた。

 小さな体を一所懸命動かし、ジャングルジムをよじ登ろうとしていた。

 しかし、まだ体を支える術と力が無いらしく、一段目に足をかけて体を持ち上げようとした時に、バランスを崩して後ろに倒れそうになった。

「危ない!」

 とっさに伝輝は女の子の体を後ろから支えた。

 そして、一度地面に降ろした。


「大丈夫?」

 女の子は、落ちそうになったことは全く気にしていないらしく、ウフフフフと楽しさを表現するかのように笑った。

「ジャングルジムに登りたいの?」

「うん」

 女の子はニコニコしながら言った。

 人懐っこい子だ。

 でも、何で一人なんだろう?

 伝輝は、話しかけたのが自分だったから良いのだが、もし変質者だったら危なかっただろうなと思った。


「手伝ってあげるよ」

 どうせ時間を潰さないといけないし、と思った伝輝は女の子に言った。

「ありがとー!」

 女の子は嬉しそうに言った。

 伝輝は、本当に、声をかけたのが俺で良かった、と思った。


 伝輝は女の子を持ち上げ、伝輝の目線の高さの段に女の子を立たせてあげた。

「ちゃんとここに足を乗っけて、こことここを持つんだよ」

 女の子は言われた通りにジャングルジムの鉄棒に手足を置いた。

 女の子の背中を伝輝が優しく支えている。


「どう?

 遠くが見えるかい?」

「見えるー!」

 女の子は大きな声で言った。

 女の子は楽しそうだが、迷子かもしれないし、いつまでもここにいさせられないと、伝輝は思った。


「パパとママはどこにいるの?」

「んー、あそこー!」

 あそこ?

 伝輝は女の子が指差す方向を見た。

 すると、ふんわりショートカットの女性が慌てた様子で走ってきた。


「陽菜!」

 ひな?!

 伝輝は心の中で驚いた。

「もう、どこに行ってたのよ!

 ママ、凄く心配したんだからね!」

「あのねー、お兄ちゃんと遊んでいたの」


 陽菜のママは伝輝を見た。

「あなたが陽菜を見ていてくれたの?

 どうもありがとう。バーベキューの準備していて、うっかり目を離しちゃって・・・

 本当に焦ったわ」

「いえ・・・」

 伝輝は静かに言った。

「陽菜、このお兄ちゃんにありがとうって言いなさい。

 一緒に遊んでもらったんでしょ?」

 陽菜のママは、陽菜を降ろして言った。

「うん! お兄ちゃん、ありがとー!」

 伝輝は照れくさい気持ちになった。

 お兄ちゃんと言われたのは初めてだ。

 こんなにもくすぐったいのか。

 もうすぐ、本当に呼ばれる立場になるが、何だか恥ずかしい。


「あなたも、バーベキューに参加しているの?

 ご家族の方にもお礼を言いたいんだけど」

 陽菜のママが言った。

「いえ、俺は今日一人でここまで来たんで・・・」

「一人で?」

「はい。

 俺、最近引っ越ししてきたばっかで、今日は探検がてら、ここまでバスで登ってきたんです」

「あら、そうだったの。

 じゃあ、もしあなたが良かったら、一緒にバーベキュー食べていかない?」

 陽菜のママの言葉に伝輝は思わず大きく反応してしまった。

「え? 良いんですか!?」

「ええ、あなたさえ良ければ。

 今晩私達ここに泊まるんだけど、その前にあなたをちゃんと車で送るしね。

 お家の人は大丈夫かしら?」


 もちろん良いに決まっている。

 が、一応、確認するふりをするために、伝輝は少し離れてケータイを取り出し、電話するそぶりを見せた。

「大丈夫です。今日、親は仕事なんで」

「本当、良かったわ。

 じゃあ、行きましょう。陽菜、行こう」

「はーい」

 陽菜はママの傍を離れて、伝輝の体にぴったりとくっついた。

「あら、陽菜ったら。

 あなた、随分気に入られたみたいね。

 ほら、陽菜、ちゃんとごあいさつしたの?」

 陽菜のママはクスッと笑いながら言った。


「はまだ ひな です!」

 色々照れくさくて、伝輝に笑う余裕は無かったが、こんなにも運よく、合流できたので、伝輝は少し安心した。

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