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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と動物界
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ようこそ動物界へ ④ まごころスーパーマーケット

 まごころ荘の住民である、象のマグロ、馬のゴンザレス、猫のエミリーに連れられて、伝輝は買い出しに向かうのだが・・・

 伝輝はマグロ達について行きながら、辺りを見回した。

 自分が住んでいるところと雰囲気は変わらない。

 ごくごく普通の住宅街だ。

 横断歩道もあるし、ポツンポツンと本屋や薬局やコンビニらしいお店も見かけた。

 車も日本の交通ルールと同じで、左車線を走っている。

 自転車をこぐ姿も見られる。

 ただ、明らかに伝輝が暮らしている町と違うのは、そこに住んでいる人々(?)だった。


 車の運転手はよく見ると、犬だったり、馬だったり、猿だったり。

 四本足で走った方が速いのではないかと思うが、チーターがたくましい太ももを使ってママチャリのペダルをこいでいる。


「この町はまごころ動物園に勤める動物が多いから、他よりも色んな種がいるんだ」

 マグロが伝輝に言った。


「動物園に勤めるって?」


「まごころ動物園にいる動物達は動物界の動物だよ。

 皆、動物園の動物のフリをしているんだ。

 お父さんもまごころ動物園のアジア象エリアで、動物園の象をやっているよ」


「じゃあ、あの動物園の動物は皆しゃべったり、二本足で立ったりするのか?」


「全部の動物がそういう訳じゃないらしいけど。

 動物界の動物が働いた方が、管理は楽だしね。

 でも普段と違って、裸で日中過ごさないといけないから、結構大変みたい」


 伝輝は衝撃を受けた。

 今まで何度も連れてこられて、嫌々動物を眺めては、「臭い」だの「変な顔」だの言っていた。

 もしかして全部聞かれていて、理解されていたのかもしれない。

 自分は一体どんな風に見られていたのだろうか?


「あ、もちろん、人間界のお客さんには内緒だよ。

 お客さんは動物の自然な姿を見に来ているんだから」


「誰が話すか・・・」と伝輝は思った。


◇◆◇


 話しながら歩いているうちに、「まごころスーパーマーケット」に到着した。

 本当に何でもやっている会社のようだ。


「伝輝君、はじめに言っておくけど」 

 ゴンザレスがカートを運びながら言った。

「動物界のスーパーは人間界とちょっと違うところがあるけど、あまりびっくりし過ぎないでね」


「え?」


「ゴンザレス、余計なことは言わないでよ。

 こういうのは身を持って慣れないと分かんないわよ」

 エミリーがゴンザレスの説明を止めた。

「さ、まずは草食売り場に行きましょう」


 草食売り場は普通の野菜売り場と花屋が合体したような場所だった。

 にんじんやホウレンソウやキノコと一緒に、笹やユーカリや干し草が置かれていた。


「お米はどこかな?」マグロがゴンザレスに言った。


「じゃあ、取ってくるよ」

 ゴンザレスはカートから離れて行った。


 一応お米もあるのか、と伝輝は思った。

 カートの中に、にんじん、リンゴ、バナナ、水菜などが入れられていった。

 象が作る料理に不安を感じていたが、何とか人間が食べられるものが出てきそうだ。


「お待たせー」

 ゴンザレスが両手に何かを抱えて戻ってきた。


 それは伝輝がイメージしていた10キロ米袋ではなく、大量の稲穂だった。


「持ってくる途中でポロポロ落としちゃったよ」

 ゴンザレスは慎重に稲穂の束をカートに入れた。


「あれは脱穀なんかしないわよ。

 ていうか、基本そのまま生で食べるから」

 エミリーが伝輝の耳元でささやいた。



 次は雑食売り場に向かった。

 魚介類、卵・乳製品、缶詰、お菓子、レトルト食品と、伝輝にとっては最も安心するラインナップだった。


「なんか普通だな」伝輝は思わずつぶやいた。


「そうよね。あんた達人間は、なーんでも食べるもんね。

 肉も魚も植物も。

 他の動物の赤ちゃん育てるためのお乳すら飲んじゃうもんね!」

 エミリーはすかさず言った。

 伝輝は言い返せず黙ってしまった。


「雑食のあんたなら、こんなのもどうかしら?」

 ピョンッとエミリーはその商品のところに行き、両前足で商品を持ち上げ、伝輝に向かってポンッと投げた。


 受け取った商品を見て、伝輝はギョッとした。

 大人の指くらいの大きさと太さのある白いイモムシのパック詰めだった。

 しかも、中でまだうごめいている。


「ひゃあああ!」

 反射的に伝輝はそれを手放してしまい、床に落としてしまった。


 床に落ちた弾みでパックが破れ、中の一匹が伝輝の足元にくっついた。


「ぎゃあああああ!」

「あーあ、何やってんのよ。

 食べ物を落としてんじゃないわよ。

 これ買わないと駄目ね。

 カレイさんに言ってイモムシのソテーを追加してもらわないと」


 エミリーの厭味ったらしい言葉よりも、足に残った感触に耐えられず、伝輝は走ってその場を去った。


「人間だって、バッタや蜂の幼虫食べるくせに。変なの」

 エミリーはあざ笑うかのように言った。


 ゴンザレスとマグロがカートに戻った頃には、伝輝の姿はなかった。


     ◇◆◇


 町で一番大きいらしい、まごころスーパーマーケット内は、伝輝の気持ちが落ち着くまで走れるくらいの広さがあった。


 おかげで、伝輝は完全にマグロ達とはぐれてしまった。


「どうしよう・・・。

 とりあえず、最初の入口のところまで戻ろうかな」


 すれ違う客たちに、伝輝と同じ種類の動物はいなかった。

 伝輝は先程よりも、彼らをチラチラ見ることがなくなってきた。


 伝輝が気にしなくなってきた以上に、周りが伝輝に気を留めていないのだ。


 動物界では、人間は大して珍しい存在ではないのだろうか。



「ブヒッブヒヒッ」

 入口を探しながら歩いていると、鳴き声が聞こえてきた。


 伝輝は鳴き声が聞こえた方を見てみると、十匹以上いそうな数の小さなブタが、こちらを見てクンクンと鼻を動かしていた。


「可愛いな、ミニブタだ」


 大きな耳をピクピク動かし、淡いピンク色のスマートな体の先っぽにくるんとした尻尾が揺れている。


 天井がない檻のようなところでギュウギュウになりながら、ミニブタ達は通る客に愛想を振りまいていた。

 とても懐っこいようで、伝輝が檻の隙間から少し指を入れ、耳をかいてやると、ミニブタは気持ちよさように首を動かした。


「ごめんください、二頭くださる?」

 しゃがんで檻の中のミニブタ達と戯れていた伝輝の頭上から女性の声がした。

 見上げると、随分と強面の虎だった。


「はいよ、奥さん。

 血はこちらで抜いときましょうか?」

 奥からマスクに割烹着姿の豚の男が現れた。

 手の消毒をし、手際よくビニール手袋をはめていた。


「いいえ、結構よ。

 その代わり少し値引いてくれるかしら?」

「はいよー」


 豚の男はおもむろにミニブタのいる檻の中に手を突っ込み、もう片方の手に持っていた紙袋にそのまま放り込んだ。

 二匹放り込むと、クルクルッと袋の口をふさぎ、取って付きの一回り大きな紙袋にそれを入れて虎に渡した。

 紙袋の内側から、ドンドンと振動が走り、時々グッと一部が盛り上がった。


 伝輝は言葉が出なかった。


 まるで、スーパーの魚売り場の光景を見ているようだった。

 まだ動いている魚をその場でパック詰めにして売る。

 そんな感じがした。

 だが、今回はとても人懐っこいミニブタだった。

 

 しばらくして、別の客がミニブタのところにやってきた。

 今度は豹のようだ。


「今日はミニブタがお買い得みたいね。

 でも、すぐには食べないし。

 すみません、ミニブタ二頭捌いてちょうだい」


「あいよ。モツ(内臓)はどうします?」


「お腹に残しておいてちょうだい。

 そのまま茹でるのが好きなのよ」


 客とやりとりしながら、豚の男は再びミニブタを二頭檻から引っ張り出した。

 そして裏に下がることなく、檻のすぐそばにある作業台にミニブタを置いて、大きな肉切り包丁を取り出した。


「ひっ!」


 伝輝はその時ようやくミニブタがいる場所全体を見た。


 肉の切り身が入ったパック、ウィンナーやハムの塊、豚足・丸焼きにする前の鶏。

 ここは、肉食売場だった。


「うわっ!」


 伝輝がその場を離れようとミニブタに背を向けた瞬間「ブフェッ」と鈍い鳴き声が一声だけ聞こえた。

 伝輝は振り向くことができなかった。


     ◇◆◇


 入口を見つけて外に出ると、マグロ達が買い物袋を掲げて待っていた。


「大丈夫?

 探そうと思ってたんだけど・・・」

 マグロが心配そうに近づいてきた。

「顔色悪いよ。何かあったの?」


「いや、何でも・・・」


「そう? あ、そうだ。待っている間におつりで買ったんだ。

 皆、食べたいものをそれぞれ一本ずつ」


 マグロは買い物袋を漁って、あるものを取り出した。


 それは、通常よりも大きめサイズのフランクフルトだった。


「人間は大好きだって、ゴンザレスさんが」


 それを見た瞬間、伝輝は吐き気がし、その場でうずくまってしまった。

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