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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
39/84

キャンプ場での攻防 ② 合流

 伝輝とタカシは、猫吠山ねこほえやまキャンプ場に向かう途中に、当初の予定よりも宿泊客が一組多いことを知る・・・

「もう一組ってことは、狙われる人間が増えるってこと?」


 伝輝はタカシに尋ねた。

 しかし、タカシはケータイ画面を見たまま黙っている。


「とにかく、皆と合流して、状況を確認しよう」

 タカシはそれだけ言って、その後は到着するまで、黙って目を閉じた。




 タカシと伝輝はキャンプ場最寄りのバス停に到着した。

 バス降りてすぐ傍に手作りの看板が立てられていた。


「犬や猫などの動物を捨てないでください。

 野犬化します。

 ペットは飼い主が最後まで責任を持って世話しましょう」

 と書かれていた。


「何で、このキャンプ場が選ばれたか、理由が分かるだろう」

 タカシは言った。


 二人はキャンプ場入口の方向には行かず、別の方に向かって歩き始めた。

 施設として手入れされている場所ではなく、徐々に手つかずの山中に入って行った。

 数分程進み、四角いオレンジ色の軽自動車が見えてきた。


「タカシさん、伝輝君!」

 車から、スラリと背の高い男性が出てきた。

 デニムシャツを程よく着崩し、ベージュのスリムパンツをパリッと履き、裾はブーツインで、凝ったデザインの茶色いブーツが全体をまとめ上げていた。

 後ろ姿だったが、服装ですぐにゴンザレスさんだと分かった。

 元々二足歩行のゴンザレスさんは昇平より背が高いので(190センチ以上だと言っていたことがある。)、ヒトの姿もモデルの様に手足が長かった。

 タカシがヒトの成人男性としては、やや小柄であることを考えると、ヒトに化けるとしても、元の自分の姿に影響されるのだと、伝輝は思った。


「お疲れ様」

 ゴンザレスは振り返った。

 一目で間違いなくゴンザレスだと思った。

 首も顔も長い。

 それだけではなく、素晴らしく大きな前歯がほほえみからこぼれ、その上にある鼻は顔の横幅いっぱいに広がっている。

 一言、ちょっと残念な顔立ちだ。

 スタイルが良いだけに余計にそう思った。


「ゴンザレスさん・・・」

「そうだよ、伝輝君。

 どうだい、面影あるだろう」

 ゴンザレスはニコッと笑いながら言った。

「折角化けてるのに、もう少し何とかならなかったの?」

「伝輝!」

 タカシが伝輝をたしなめた。




 タカシと伝輝とゴンザレスは車に乗った。

 車に乗った途端、タカシはポンと四足歩行の犬の姿になった。

「あー、疲れたー」

 後部座席でタカシは思いっきり犬らしい伸びとあくびをした。


「人間狩り開始までまだ時間があるから、タカシさんは休んでいて」

「何で、犬に戻るの?」

 タカシの隣に座った伝輝が言った。

「化けは体力使うからな。

 少しでも温存しておかないと。

 治療にもめちゃくちゃ体力使うんだんよ」

「タカシさんは、元の姿に戻れるから良いですよね。

 僕や樺さんは、そうはいかないから・・・」

 確かにこんなパッとしない山の中に、カバはもちろんサラブレッドもいたらおかしいだろう。


「で、ゴンザレスさん。

 もう一組増えたってどういうことなんだ?」

 タカシが尋ねると、ゴンザレスが運転席から頭を後部座席に向けて話した。

「今日、急きょ宿泊が決まったんだ。

 元々このキャンプ場は宿泊するには事前予約が必要なんだけど、今日宿直するキャンプ場の管理人と、その客が知り合いだから特別に許可したらしい。

 今、エミリーちゃんが追加情報を集めていて、随時僕に報告してくれている」

 ゴンザレスはケータイ画面を二人に見せた。

 タカシの言う通り、実にあざやかでくっきりした黄色のケータイだった。


「その追加客について、今分かっている情報について話すね。

 浜田家四人家族だ。

 構成は父・母・長男・長女。

 父親と管理人が知り合いらしい。

 管理人との電話越しの会話で、長男は伝輝君と同じ十歳で名前はいく

 長女は三歳で陽菜ひなまでは分かった。

 もうすぐ到着して、バーベキューを始めるらしいよ」


「今回のツアーに参加する肉食獣はどれくらいいるんだ?」

「九頭だと聞いている」

「九頭・・・多いな。

 俺達では防ぎきれない」

「ええ。ターゲット数が増えると、その分肉食獣の活動範囲が広がってしまう。

 何とかして、この家族は人間狩りの前にキャンプ場から離れてもらわないと」

 二人は深刻な表情をして黙った。

 伝輝は状況が分からないので、戸惑った。


「あ、あのさ。

 どうしたら良いわけ?」

 伝輝の言葉に、タカシとゴンザレスはしかめっ面で伝輝を見た。

「今、それを考えているんだよ・・・」と言いたげであった。

 だが、伝輝を見て、タカシの目の色が変わった。


「そうだ、伝輝だ。

 伝輝が家族に接触して、宿泊させずに帰宅させるよう促せばいい」

「なるほど、そうすれば、伝輝君も一緒に避難ができる。

 一石二鳥ですね」

 タカシとゴンザレスが表情を緩めた。


 逆に今度は伝輝の顔が強張った。

「ちょっと待ってよ。

 どうやって、俺がその家族を家に帰すんだよ」

「それは・・・あれだよ。

 上手く相手を説得して、だよ」

 何て、適当な・・・・。

 伝輝はタカシの言葉に少し呆れてしまった。


「こうしましょう。

 伝輝君はふもとの町に引っ越したばかりで、今日は一人でここまで遊びに来た。

 そして浜田家の子どもと意気投合し、バーベキューに参加させてもらう。

 その後、人間狩りが始まる前に、ふもとの町まで送ってもらうために、家族皆で車で山を下りる」

 ゴンザレスが提案した。

 タカシはなるほどーっと感心していた。


「気をつけないといけないのは、町まで送るだけだと、またキャンプ場に戻ってしまう。

 少し危険だが、ギリギリの時間までキャンプ場に残ってから、避難してもらうことにしよう。

 町に着いたら、引っ越したばかりで道案内ができないとか言って、時間稼ぎをする。

 そして、再び山に登るより帰宅した方が良いと家族に判断させて、家に帰らせる。

 伝輝君は人間狩りが終わるまで、二十四時間営業ファミレスが町にあるから、そこで店員をごまかして待機してもらう。

 人間狩りは普通の狩りよりも活動時間が短いから、日が昇る前に迎えに行くよ。

 これでどうかい?」


「俺は賛成だ」

 タカシは言った。

 伝輝は簡単に言うなよ、と思いながらも、それ以外に案は浮かばないので、そうするしかないと思わざるをえなかった。


 ゴンザレスのケータイがメールを受信した。

 エミリーからで、浜田一家が到着したとのことだった。

「伝輝君、やってくれないかな?

 君の安全の為でもあるんだ」

 ゴンザレスが言った。

 伝輝は分かったとしか言いようがなかった。




 その後、もう少し詳しい打ち合わせを三人で行い、幾つか追加の荷物をボディバッグを入れ、伝輝は車を出て、家族の元に行くことになった。


「気をつけるんだよ。

 第一に自分の命を優先するんだ。

 家族を避難させられなくても、伝輝君だけは必ず、次の着信が入ったら、逃げるんだよ」

 ゴンザレスさんが言った。

 着信2コールが、人間狩りスタート直前の合図らしい。

 伝輝はケータイをバイブレーション設定し、ハーフパンツのポケットに入れた。


「頑張るよ。

 ゴンザレスさんもタカシさんも、ターゲットの人間達を守ってね」

「ああ。

 今回は七人だから、予め人間狩りツアー予定だと二人は生存させることになっている」

 ゴンザレスの言葉に伝輝は意外という印象を持った。

「全員、殺す予定は無いの?」

「全員殺すと、異常事態に思われやすいから、上手くごまかすための偽装として、あえて全員殺さない予定になっている。

 生存しても、記憶操作でばれないようにするしね。

 僕らとしては、半分位に生存者を増やすことが今回の目標かな」

「え? 全員助けないの?」

 思いもよらぬゴンザレスの言葉に、伝輝は反応した。

 だが、その言葉に逆にゴンザレスが驚いたようだ。


「全員?

 そんなことしてしまうと、人間狩りを妨害していることがばれてしまうだろう。

 僕達の目的は、人間界に動物界の存在をばれないように、被害を縮小させることだ。

 多少は被害者を出さないと、カンパニーに怪しまれる。

 カンパニーの社員である僕達が、そうなっては色々まずいからね」

「その助ける三、四人って誰にするの?」

「状況に応じてだけど・・・

 基本的には年齢若い順に優先させるかな。

 今回のターゲットには、家庭持ちがいないから。

 あ、でも「ゆゆ」のようなタイプの若い女性は、肉食獣にも人気があるから、彼女は仕方ない・・・」


「ふざけるな!」

 ゴンザレスの言葉を遮って、伝輝が大声で言った。

「助ける助けないを選ぶなんて・・・

 そんなの、人間狩りする連中と一緒じゃないか!

 俺はそんなの嫌だ!

 全員助けなきゃ意味がない!」

「でも・・・」

 突然の伝輝の反論に、ゴンザレスは戸惑っているようだ。

 一方、タカシは落ち着いた様子で静かに言った。


「気持ちは分かるが、全員助けようとすれば、俺達にも危険が及ぶ。

 自分の身を第一に守りつつ、九頭の肉食獣を妨害し、かつ人間を救うことはとても難しいんだ」

「そうだけど・・・」

 伝輝は下を向いて、少し黙った。

 そして、顔を上げた。

「じゃあ、俺も家族を避難させたら、キャンプ場に戻って、ターゲットの人間達を助けに行く。

 何なら、人間界の警察を呼んでもよい」

 伝輝の言葉に、ゴンザレスとタカシは焦りの表情を浮かべた。


「何言っているんだ!

 今回は規模が大きい人間狩りなんだ。

 僕達が対応できない状況で、伝輝君も狙われてもおかしくないんだよ」

 ゴンザレスは言った。

「じゃあ、約束してよ。

 全員助けるつもりで、人間狩りを妨害するって!」


「それは・・・」

 ゴンザレスさんは困ったようにタカシを見た。

 タカシは一瞬見せた焦りの表情を落ち着かせた。

「伝輝、俺は初めから半分の人間を見殺しにするとは言ってない。

 俺は医者だ。

 死にかけの動物を救う時に数なんて数えない」


「タカシさん・・・」

 ゴンザレスがタカシと伝輝を交互に見た。

「ただ、治療するのが俺一人だから、物理的に難しい部分がある。

 それだけは分かってほしい。

 そして、万が一被害を受けたとしても、俺は人間の命の尊厳を守ることを優先させる。

 尊い命を、変態肉食獣のおもちゃにさせるつもりはない」


 タカシの瞳は真剣だった。

 伝輝はうなづいた。


「俺は、人間の味方だ。

 動物界のことは、ゴンザレスさんと樺さんに任せている。

 必ず、一人でも多くの人間を救ってみせるよ」


 伝輝は再びうなづき、「行ってきます」と言って、キャンプ場に向かった。


 その後ろ姿を見ながら、ゴンザレスはポツリとタカシにつぶやいた。


「やっぱり、伝輝君を連れて来るべきじゃあ、なかったんじゃ・・・。

 伝輝君、自分勝手すぎるよ。

 やっぱり人間だよね」

「そうか?

 同種の危険を知って見過ごさないのは、非常に勇気のいる素晴らしいことだと思うよ」

「自然の摂理に、人間だけが特別扱いを受けられると思っているからなんじゃないのかな?」

「自然の摂理ね・・・」


 俺達が最も自然の摂理に反して生きているよな。

 とタカシは思い、皮肉っぽく笑った。

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