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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
35/84

人間狩り ④ 久しぶりの人間界

伝輝は「人間狩り退治」の為に、タカシと共に人間界に向かう・・・

 伝輝とタカシはまごころ動物園前駅に到着した。

 乗客は全員降り、出口へと向かって行った。


「マンホールのところまで行くの?」

 伝輝はタカシに尋ねた。

「マンホール?

 ああ、あれは入口のみだから、出口としては使わないよ」

 そう言って、タカシは出口と書かれた看板の近くにあるコインロッカーの前で立ち止まった。


 出口は二つあり、片方の出口向かう動物は、ヒトの姿にパッと変えて歩き、もう片方の出口に向かう動物はそのままの姿で歩いて行った。

 伝輝は動物達がパッパと化けていく様子を眺めていた。

「伝輝、これを持っていてくれ」

 タカシがコインロッカーから出したのは、黒色の斜め掛けバッグだった。

 伝輝の身体にも少し大きい。

 持ってみると、そこそこ重かった。

「今から、まごころ動物園内に入る。

 俺は四足歩行になるから、その間は持っていてくれ」

 そう言いながら、タカシは自分の首にリード付きの首輪をつけた。

「四足歩行の間も話せるけど、もちろん人間界では話さない。

 どうしても話したくなったら、伝輝の足をつつくから、しゃがんで俺の口元に耳を近づけてくれ」

 そう言うと、タカシはスッと四足歩行の姿になった。


「服を着たままだけど、大丈夫?」

「大丈夫だって、ゴンザレスさんは言っていた。

 さ、行こう。ちゃんと飼い主らしくしてくれよ」

 リードを伝輝に持たせ、タカシは動物達がそのままの姿で向かって行った出口の方に歩いて行った。

「まごころ動物園駅には大きく二つの出口がある。

 まごころ動物園外に出るか、園内に出るか。

 園外の出口に出るためには、ヒトに化けられることが原則条件になる。

 園内出口は主にまごころ動物園に勤務する動物が使うから、化ける必要はない」

「ふーん。

 ところでさ、何で俺達は動物園で時間を潰さないといけないわけ?」

「人間6号が、人間界にいたら、まごころカンパニーはそっちに集中するからね。

 ゴンザレスさんと樺さんが外に出ても、あまり注目されなくなるだろうから、少しでも俺達の活動がばれないようにするためだよ」

「俺、人間界に行って大丈夫なのか?」

「まぁ、俺が付き添っているから多分、大丈夫だろう。

 一人だと脱走したって思われるかもしれないけど。

 まごころ荘に住む皆は、人間4から6号の監視の役割を任されているんだ」

「なるほどね・・・。

 でも、あいつは、よく家に帰っているよな。

 それも誰か付き添っているの?」

「あいつ?

 ああ、昇平さんね。

 昇平さんはね、特別なんだ。

 伝輝と扱いが違うんだ。

 でも、これ以上の話は、今のところ内緒で」


 そう言って、タカシは階段の前で立ち止まった。

「それじゃあ、行くぞ。俺はもう話さないからな」

 タカシと伝輝は階段の上って行った。

 上った先には扉があった。

 タカシは伝輝の方を振り向いた。

 伝輝は扉を開けた。




 扉の向こうはどこかの殺風景な建物の中の廊下だった。

 扉を閉めると、扉には「従業員・関係者以外立ち入り禁止」と貼り紙が貼られていた。

 伝輝は周りを見渡した。

 どこに行けば良いのか分からなかったが、タカシがグイッとリードを引っ張っていく方向に進んでいくことにした。

 両横の壁にはいくつかドアがあったが全て素通りし、やがて、一つのドアの前に立ち止まった。


「注意!

 この先は人間がいます。

 ヒトの姿をしてない動物は絶対立ち入り禁止」


 ドアに貼られた紙に赤い文字で書かれていた。

 伝輝はドアを開けた。




「わ・・・」

 ドアの向こうは明るく、室外だとすぐに分かった。

 ザワザワと動物園に訪れた客があちらこちらにいる。

 伝輝とタカシが出てきたドアは、故障中と書かれた公衆トイレになっていた。


 土曜日ということもあり、まごころ動物園内は大変賑わっていた。

 家族連れ、カップル、友人通しの団体など。

 伝輝は多過ぎると思った。

 こんな辺鄙なところに、ここまで客が来るものだろうか?

 そして、もう一つ、不思議な点があった。


 犬を連れている客が非常に多いのだ。

 もともと、リードをつけていれば、ペット同伴可能ではあったが、それにしても多い。

 そして、どの犬も、フリフリだったり、カラフルだったり、頭に何か乗っけていたりと、妙に派手だ。

 チェックシャツとデニム姿のタカシが違和感なく見える。

 むしろ、地味でちょっと浮くぐらいだ。


「何だ、一体・・・」

 伝輝は園内を歩きながらつぶやいた。

 やがて、ポスターなどが貼られている掲示板を見つけた。


「まごころ動物園プレゼンツ

 ドッグコスプレカーニバル

 コスプレワンちゃん同伴なら入場料半額!

 15歳未満の方は無料!」


 これか・・・。伝輝は思った。

「伝輝君!」

 掲示板を見ていると、誰かが声をかけてきた。

 振り向くと、メガネに飼育員用ツナギ姿の前田さんだった。

「久しぶり。

 君も遊びに来たのかい?

 凄い人間の数だろう?

 まごころ動物園の歴代入場客数を更新しそうだよ」

 前田さんは辺りを見渡した。


「誰かと一緒に来たのかい?」

「はい、えと・・・」

 伝輝は足元を見た。

 タカシはおらず、よく見るとリードがピンと張っており、その先には掲示板の裏に隠れようとしているタカシがいた。


「え? タカシ?」

 前田さんが、驚いたように言った。

 そして、掲示板の裏に回り、グイッとタカシを表にやった。


「やっぱり、タカシだ。

 お前がこの動物園に来るなんて、かなり久しぶりなんじゃないか?」

 タカシはハッハッハっと舌を出して、呼吸をしながら、フイッと顔を前田さんからそらした。

 タカシは完全に普通の犬と化していた。


「何、照れているんだよー」

 前田さんはしゃがんで、両手でタカシの首元をワシャワシャと撫で、ついでに尻尾までワシャワシャ撫でまわした。

 前田さんが手を離すと、タカシはこれでもかと言うくらい、身体をブルルと何回も震わせた。


「前田さんとタカシさんって、知り合いなんですか?」

 伝輝は尋ねてみた。

 落ち着いた雰囲気の印象があった前田さんがとても気さくにタカシに話しかけている。

 そして、まごころ荘の他の動物は皆、タカシさん、と言っているのに、前田さんは、タカシ、と呼び捨てにしているのも、伝輝にとってはびっくりだった。


「知り合いも何も、俺はタカシが産まれた日から知っているよ。

 俺はずっとまごころ荘の1号室に住んでいるからね」

 前田さんは再びタカシの頭をワシャワシャ撫でた。

「懐かしいなぁ。

 すっかり、中年犬いや、老年犬か?

 タカシはまごころ荘の5号室で産まれたんだけど、産まれたてのタカシを抱いた親が部屋を出たところでうっかりタカシを落としてしまってさ。

 タカシは産まれてすぐ外廊下から落下したんだよ」

「そうなの!?」

 伝輝は思わずタカシを見た。

 タカシはフイッと顔を逸らし、伝輝とも前田さんとも目を合わさないようにしていた。

「たまたま下にいた人間がキャッチしてなかったら、今頃タカシはいなかったもんなー。

 そんなことがあったから、タカシって名前になったんだ」

「どういう意味?」

「「高」いところから落ちて「死」にかけたから、タカシ」

 前田さんはニコッと笑って、タカシの背中を撫でた。


 前田さんの話を聞いて、正直、伝輝は少し引いた。

 何で、よりによってそんな不吉な理由の名前にしたんだろうか?

 ありさのあだ名の件と言い、どうも動物界の名づけのセンスには疑問を感じる。


「伝輝君、昇平さんがふれあい動物コーナーにいるから、顔出して来たら?」

「え!? いいです」

 前田さんの提案に対し、伝輝は即、断ったが、タカシがふれあい動物園の方向に向かって歩き出し、リードを引っ張った。

「ちょっと、タカシさん!」

 伝輝も足を踏ん張り、タカシとリードの綱引き状態になった。

「行ってきなよ。

 お父さんが働いているところを見てきてあげなよ」


 前田さんが伝輝の肩を軽く抱いてポンッと押した。

 伝輝はタカシに引っ張られるままに、ふれあい動物園に向かって歩くことになった。

 前田さんも仕事に戻るためにその場を去った。




「何で、あいつのところに行かなきゃならないんだよー」

 伝輝がぼやきながら歩いていると、フッとタカシが道をそれ、片隅に置かれている誰も座っていないベンチの方に向かった。

「どうしたの?

 休憩するの・・・ひゃ!?」

 足にヒンヤリと湿った感触がした。

 見ると、タカシが鼻で伝輝の足をつついている。

 伝輝は道行く来場客に悟られないようにベンチの方を向いて、しゃがみ、飼い犬を可愛がるような感じでタカシを首元に手をやり、タカシの顔に自分の耳を近づけた。


「あんまり、他の動物には言ってほしくないけど・・・。

 俺、前田さん苦手なんだよ」

 タカシさんは伝輝にしか聞こえないくらいの音量で話した。

「何で?」

「前田さんは、俺がおしめつけている頃から知っているのに、今じゃあ俺の方がオッサンなんだぞ。

 気まずいんだよ」

 さっきの前田さんの、十年前と変わらないであろう可愛がり方を思い出すと、確かにちょっと照れくさいのかもしれない。


「だから、ちょっと気を遣ってもらえるとありがたい」

「分かったよ。

 じゃあ、その代わり、俺の方にも気を遣って」

「何だよ」

「あいつのところに行くのうざい」

 伝輝は言った。

「別に、俺はどうでもいいけど。

 伝輝が好きなようにしろよ。

 飯を食ったら、動物園を出るからな」


 タカシはフッと顔をそらした。

 その顔は、「犬」の顔に戻っていた。

 伝輝は立ち上がり、振り向いた。


 最悪だ。


 昇平が手を振りながら近づいてきた。

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