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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
34/84

人間狩り ③ 鍋

人間狩りをする肉食動物の妨害をしようという樺の誘いに、伝輝は乗ることにしたが・・・

 次の狩りの日に伝輝は樺達と共に、人間界で人間を狩ろうとする肉食動物の妨害をすることが決まった。


 次の狩りの日は約一ヶ月後。


 本来なら前日・当日でないと分からないのだが、ゴンザレスとエミリーの調査で大体一週間位前には特定できるので、シフト制勤務のタカシと樺は調整するそうだ。


 伝輝は、次の狩りの日までに、化けのコントロールを精度を上げるようにタカシから言われた。


 それから再び、今まで通りの生活が始まった。

 平日、学校では団助先生の指導のもと、マット運動のような身のこなしを学んだ。

 学習面では、小学校卒業レベルまで学んでいることを、人間界の教科書に目を通した時に気が付いた。

 放課後は1号室で化けを発動させ、鎮めるという自主訓練を行った。

 そして、学校が休みの日は、ドリスの家の空農地でより実践的な狩りの特訓をした。




 ドリスは家の農地の一部を使って、兄弟で家畜の鶏や豚を育てていた。

 ある日、その鶏をこっそり狩りの練習に使わしてもらい、最後はドリスが捌いて鶏肉を持ち帰ることになった。


 ドリスから受け取った紙袋の中には、捌いて切り分けられた鶏肉が入ったタッパーがある。

 伝輝は帰り道にこの鶏肉をどうするか考えた。

 今日、昇平は仕事終わりに夏美のところに行くので帰ってこない。

 カレイに渡せば調理してもらえるだろうが、手に入れたきっかけが、内緒の狩り特訓なので、少し言いづらい。

 伝輝は、タカシからカレイにお願いしてもらおうと思い、6号室に戻る前に、タカシの部屋のチャイムを鳴らした。


「何?」

 気だるそうに出てきたタカシはどうやら寝起きのようだった。

「これ・・・。鶏肉もらったんだけど」

 伝輝が紙袋からタッパーを取り出した。

「お、美味そうだな」

 タカシの目が輝いた。

「その、俺からじゃなくて、タカシさんからカレイさんに鶏肉を渡してくれないかな?」

「別にカレイさんに渡す必要ないだろ。

 伝輝は今晩、飯はどうするんだ?

 昇平さん帰ってくるのか?」

「いや、あいつは、今日は帰ってこないよ」

「じゃあ、1号室に集まって、鍋にしようぜ。

 カレイさんには今日の伝輝の分の晩飯いらないって、俺言ってくるから。

 お前の部屋に、土鍋とカセットコンロはあるか?」

「あるよ」

「じゃあ、十五分後に1号室に集合だ。

 樺さんは今晩夜勤で帰ってこないけど、ゴンザレスさんも今日は仕事休みで家にいるだろうから声かけるよ」


 タカシはそう言うと、パッと外に出て、階段を降り、カレイさんの家に向かった。

 伝輝は言われた通り、6号室の台所から土鍋とカセットコンロを持ち出し、1号室に向かった。

 ドアの前にはゴンザレスも立っていた。


「やぁ、伝輝君」

「こんばんは」

 ゴンザレスの肩ごしに、エミリーが伝輝を睨んだ。

「最近、あんた、タカシさんとイチャイチャしすぎなんじゃないの?」

「え?!」

 いきなり言われて戸惑ったが、伝輝が返事をする前に、ゴンザレスが「まぁまぁ」とエミリーをなだめながら、1号室に入った。




 伝輝が用意した鍋に、ゴンザレスが昆布を入れ、鶏肉を入れた。

 次に大根、ニンジン、きのこ、白菜を鍋に投入した。

「伝輝君も食べられる鍋の具材でいうと、これくらいしか家になくて・・・」

 キッチンで手際よく手を動かしながら、ゴンザレスは言った。

 彼は、自前なのか不明だが、ピンクのフリルたっぷりのエプロンを身に付けていた。


 器と箸は各々持ち寄り、ポン酢とゴマだれはタカシが持ってきていた。

 リビングのテーブルにカセットコンロを置き、グツグツ煮立っている鍋をその上に置いた。


「はぁ・・・。

 鶏肉の出汁が良く出てる」

 ゴンザレスは、出汁と野菜を堪能した。

 タカシは鶏肉と出汁を食べた。

 伝輝は野菜も鶏肉も食べ、エミリーは骨付き肉を丁寧にしゃぶり、更に骨の髄もガジガジ齧った。


 皆、無心に鍋をつついているのを、伝輝は見た。

 思えば、この面子で食事することも珍しい。

 伝輝は折角なので、色々聞いてみようと思った。


「あのさ。ゴンザレスさんもヒトに化けられるの?」

 ゴンザレスはピクッと耳を動かして、伝輝を見た。

「ああ、人間界で仕事しているからね。

 人間界の役所に行けば、住民票も出せるよ」

 ゴンザレスはピッと名刺を一枚伝輝に見せた。


 まごころ動物園

 広報営業課 主任

 立上たてがみ 権座ごんざ


「ヒトに化けたら、どんな感じになるの?

 見せてよ」

「悪いけど、僕は人間界以外ではヒトに化けないようにしているんだ。

 姿をガラリと変えるって、結構ストレスだからね。

 樺さんもヒトに化けるけど、基本的に周囲には内緒にしているよ」

「そうなんだ・・・。

 俺もその、何かに変身できるようになるのかな?

 ほら、今、化けの特訓しているし」


 タカシとエミリーも食べるのを止め、伝輝の方を見た。

「はぁ、あんた、何言ってんの・・・」

「結論を言うと」

 エミリーがクドクド言おうとしたが、タカシが発言し始めたので、静かになった。


「伝輝が他の動物に化ける必要はない」

「なんで?」

「俺達が本来の姿から二足歩行に化けているのは、人間界に合わせるためさ。

 初めから人間の伝輝が化ける必要はないだろう?

 それに、体の細胞ごと全部変化させる化けは、非常に負担が大きい。

 まごころ町では、きちんとまごころ病院の専門医に診てもらって、まごころカンパニーに届け出をしないと、他の動物に化けることはできない」

「樺さんは、まごころ町に来る前から、ヒトに化けられるから、届け出を出していないんだ。

 だから、余計に内緒なんだよ」

 ゴンザレスが補足した。


「もし、昇平さんと伝輝が化けたい、て言っても、治療すらしてくれないだろうね。

 まごころカンパニーが、人間4号6号を実験で化けさせようと思わない限りね」

 タカシは鍋から鶏肉を取り出し、頬張った。

「でも、裏ワザはある。

 伝輝に興味があって、機会があれば紹介してあげるよ。

 それまで、変身したいとかは言うなよ」

 タカシはニッと笑った。




 狩りの日が来た。


 それを伝輝が知ったのは、カレイの家に朝食を食べに来た時だった。

 皆、もくもくと朝食を食べていた。


 今日は土曜日で、昇平は出勤した。

 仕事終わりに夏美のところに行き、そのまま泊まると言っていたので、一つ心配事はなくなった。


 まごころ荘の階段を上っていると、エミリーがひらりと階段手すりに着地し、伝輝に四つ折りした紙切れを渡した。

「三十分後、1号室に集合。

 メモをよく読んで。

 後で回収するから捨てずに持ってきて」

 それだけ言って、エミリーは雨どいを伝って軽やかに屋上に行き、そのまま見えなくなった。


 時間通りに伝輝が1号室に入ると、既にタカシ、樺、ゴンザレスがいた。


「何で、今日が狩りの日って、教えてくれなかったんだよ!」

 開口一番、伝輝はそう言った。

「ごめん。

 初参加の君には、あまり情報を伝えない方が良いと思ってね」

 ゴンザレスは、メモを回収しながら言った。

 その後、タカシに封筒を渡した。


「リーダー、一言頼むよ」

 タカシが樺に言った。

 樺はコホンと咳ばらいをした。


「今日は、まごころ動物園からさほど遠くないとある小さなキャンプ場で、人間狩りツアーが開催されるようです。

 参加動物についての情報は得られませんでしたが、ターゲットは、その日にテントを張って泊まる一組の団体客だそうです。

 僕とゴンザレスさんはこれからそのキャンプ地に向かいます。

 エミリーちゃんは既に向かっています。

 タカシさんと伝輝君は、まごころ動物園で少し時間を潰してから、キャンプ場に来てください。


 尊い命を守るために、動物界を守るために。

 でも、自分の命もちゃんと大切にしてください」

「一番、自分の命無視して怪我しているの、樺さんじゃないか」

 タカシはクスッと笑った。


「僕と樺さんは、人間界ではヒトに化けているけど、声や性別や肉体年齢は大きく変わらないから、多分すぐに分かると思うよ。

 ただ、念のため、今日の僕らの服装は覚えておいてね」

 ゴンザレスに言われ、伝輝は三人の服装を確認した。


 タカシはチェックシャツの下に白いTシャツ、ジーンズ。

 早い話がいつもと同じ格好だ。


 ゴンザレスはスーツ姿を見ることが多いが、今日はデニムシャツに胸元からキラリとネックレスをちらつかせ、細身のベージュパンツで、足元は茶色いブーツだ。

(玄関でやたらしゃれたブーツがあったので、誰のものか確認した。)


 樺はグレーのタンクトップの上に、薄ピンク色のパーカーを羽織って、ジーンズを履いている。

 このでっぷりした身体にピンクのパーカーは目立つので、これはすぐに分かりそうだと、伝輝は思った。


 伝輝は七分丈のTシャツの上に青色の袖なしパーカーを羽織り、カーキ色のハーフパンツを履いた。

 肘と膝が隠れる丈であること、足首を隠すための靴下を履くこと、両腕にリストバンドをつけること、という指示がメモに書かれてあったのでそれに従ったが、理由はまだ分からなかった。




「それじゃあ、伝輝、出発するぞ」

 タカシが言った。

 電車に乗るタイミングをずらすため、樺とゴンザレスは1号室に残った。

 乗客が少ない電車に乗り、真っ暗な空間を、車窓から眺めた。

 伝輝は自分の手の平が汗かいているのに気付いた。


 久しぶりの人間界。

 人間界に行けるんだ・・・・

 人間界に「戻る」ではなく、「行ける」と思ってしまった自分に対し、伝輝は少し複雑な気持ちになった。 

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