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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と動物界
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ようこそ動物界へ ③ まごころ荘の住民たち

 引っ越し先のまごころ荘にやって来た伝輝と昇平。現れた管理人は、何と人間ではなく、二歩足で立つ服を着た象だった・・・

「ここがあなた達の部屋、6号室よ」


 昇平と変わらない背丈の象の姿をした女性が、二人を二階の一番奥の部屋に案内した。

 ドアが開くと、ふわっと新しいい草の香りが玄関に広がった。


「あなた達が来ると聞いて、お掃除、頑張っちゃったわ。

 畳も交換したのよ」


 カレイは軽快な声でペラペラと話を続ける。

 姿さえ見なければ、普通の気の良いおばさんだ。


 カレイはお風呂のお湯の沸かし方などを、昇平に説明しようとしたので、伝輝は慌てて割り込み、代わりに聞くようにした。

 全自動追い炊き機能すら使いこなせない昇平に、古い給湯設備など理解できるわけがない。


「私は一度戻るわね。

 皆が帰ってきたら、また部屋に来るからそれまで少し休んでてね。

 あまりおやつは食べないでね。

 今晩はご馳走沢山作っているから」

 カレイはそう言って部屋を去った。


 象が作る料理。美味しいイメージがわかない。


「管理人さん、良い人そうで良かったなぁ~」

 ボストンバッグを枕にして、昇平は畳の上でゴロンと横になった。


「何が良い人だよ。ここ、絶対変だよ」


「本当、面白いよなー。さすがまごころ動物園の社員寮だよな。

 俺、あんなリアルな着ぐるみ初めて見た。

 いや、あれは特殊メイクなのかな?」

 昇平は、すっかりカレイを着ぐるみを着た人間だと思っているようだ。

 伝輝はそうは思えなかった。


 もちろん、カレイのあの姿はただの着ぐるみや特殊メイクで、これから帰ってくるという「皆」という連中も、飼育員の作業着姿の人々であることを強く願いたかった。


 だが、伝輝の心の中で確信していた。あれは、人間じゃないと。


     ◇◆◇


 すべすべした新しいい草の感触が心地よく、伝輝は昇平と同様にウトウトと横になってしまった。


 ピンポーンとドアチャイムが鳴った。

 ビクッと、伝輝は身体を強張らせた。


 ドアの向こうにどんな化け物がいるのだろうか。

 再びピンポーンとチャイムが鳴り響いた。

 その音で昇平がのっそりと身体を起こした。

 その間にもう一度チャイムが鳴った。


「ふぁ~。カレイさん達が来たんだな。

 おい、伝輝、ドアを開けてやってくれ」

「え、やだよ」

 伝輝はカレイ達が諦めて帰ってくれることを願った。

 そして、できるなら隙を見て駅に行き、まごころ動物園まで戻りたくて仕方がなかった。


 チャイムが、今度は二回連続で響いた。


「とっとと、出なさいよ!」

 突然背後から、妙に高い女の声がした。

 伝輝と昇平は振り向いて窓の方を向いた。

 そこに人の姿はなく、代わりに窓際に白猫がこちらを見つめていた。

 二人は声の主を探そうと、辺りを見回した。


「何、キョロキョロしてんのよ!

 全く、情けないんだから!」


 伝輝と昇平はギョッと白猫の方を見た。

 今の声は明らかにこの猫からした。


「いいわ。

 あんた達のチキンぶり。しっかり見させてもらったから。

 皆入ってきてー!」

 白猫は四足歩行でドアまで向かい、器用に前足でドアノブと鍵を回し、外に居た「動物」達を招き入れた。


「やっと、開いたー。ありがとー、エミリーちゃん」

「あ、畳が綺麗になってる!」

「人間の親子なんて滅多に見ることないですね」

「ごめんなさいね。寝てたのかしら・・・・」

「違うわ。びびってドアまで来れなかったのよ。

 ねぇ、タカシさんは?」

「緊急対応が入ったから遅くなるって・・・・」


 頼むからこれは、超一流の特殊メイクアップアーティストの作品コンテストであってほしいと、伝輝は心から願った。


 伝輝と昇平のいる和室にやってきたのは、茶色毛の馬と、カレイよりも小さな象と、横綱力士の倍くらいありそうな体格のカバと、先ほどのカレイと白猫だった。

 白猫以外は、皆二本足で立ち、服を着ていた。


「豊さん、順番に紹介するわね。

 まずはこの子は私の息子のマグロよ。

 隣は猫のエミリーちゃん。彼女はもともと人間界で生まれた野良猫だったんだけど、今は動物界に住んでいるの。」


「人間界? 動物界?」

 聞きなれない言葉に、伝輝は思わず聞き直してしまった。


「あら、ごめんなさい。そこから説明が必要なのね。

 私達は、あなた達が住んでいた世界を『人間界』と呼んでいるの。

 人間という一種類のみの動物が社会を築き上げている世界のことね。

 対して、今あなた達がいるところは『動物界』。

 あらゆる種類の動物が共存して人間界のような社会を築いているの。

 動物界には、人間界からやってきた動物達もたくさんいて、エミリーちゃんもその中の一匹ということよ」


 カレイの説明を聞いて、何だか余計に分からなくなってきたが、これ以上関わりたくない気持ちがあったので、伝輝は質問するのを控えた。


「これから徐々にこの世界のことを知ってもらえると良いわ。

 さて、紹介の続きをするわね。

 こちらはカバのかばさん。まごころ総合病院で働く歯医者さんよ」


「まごころ動物園に病院ってあったっけ?」

 今度は昇平が質問した。


「いいえ、まごころ総合病院は、この町で一番大きな病院よ。

 実はまごころ動物園もまごころ総合病院も、まごころカンパニーの一つなのよ。

 まごころ動物園は、カンパニーの中でも数少ない人間界と接している部署なのよ」


「そんな大手企業だったのか!」

 昇平は素直に感心したようだ。

 何が大手だ、と伝輝の疑念は消えなかった。


「動物界には人間界ほど会社も多くないからね。

 自然と一つの大きな会社が色んな事業をすることになるのよ。

 そして、最後に馬の・・・」


「サラブレッドのゴンザレスです。

 まごころカンパニーの、広報部人間界課に勤めております。

 お会いできて光栄です」

 随分と渋い声色で、ゴンザレスと名乗る馬は、二人に握手を求めた。

 背筋をピシッと伸ばし、いかにも出来るビジネスマン風にしているのかもしれないが、通常の馬よりもはるかに幅広の鼻の穴と、巨大な前歯の出っ張り具合が、少々残念な感じに見えた。


「何、格好つけてんのよ。ゴンザレス」

 エミリーがゴンザレスの後頭部めがげてジャンプした。


「うぇ・・・」

 衝撃で鼻の穴はさらに広がり、上にひんむき、巨大な前歯の下からベロが飛び出した。

 その顔は大変残念なものだった。


「ひどいよ、エミリーちゃん。

 こういうのは第一印象が肝心なんだよー」

「何したって無駄よ。

 あんたは第一印象で成功しないタイプなんだから。

 後で巻き返せる努力をしなさい」

「うう、ひどい・・・」


 猫と馬が、まるで気の置けない友人同士のようなやりとりをしている。

 伝輝の表情の強張りが解けることはなかったが、昇平はその様子を見て笑っていた。


「さっ! 晩御飯の準備がまだ途中だったから、私は戻るわね。

 マグロ、ちょっと買い足しに行ってきてくれない?」


「分かった。ねぇ、豊君も行こうよ。

 あれ? 二人とも豊って名前なの? 親子で同じ名前なの?」


「違うわよ。

 人間界では名前の他に、苗字と言って、家族単位で同じ名前を持っているの。

 お父さんは昇平さんで、息子さんは伝輝君よ」


「へぇ、たくさん名前を持っているんだね。

 じゃあ伝輝君、行こう!」

 マグロは伝輝の腕を引っ張った。


「あ、俺も行きたい 」

 昇平が自ら名乗り出たが、カレイがすかさず、

「昇平さんは樺さんと一緒にトラックの荷物を運んでくださる?

 あなた達が来るまで出さないようにしていたのよ」

 と言ったので、昇平はしぶしぶ残ることになった。

 

 伝輝は得体のしれない象と馬と猫と、まごころ荘を離れ、腕をひっぱられるまま歩いて行った。


「それにしてもあんた」

 エミリーがぴょんっと伝輝の肩によじ登り、前足で伝輝の毛先をいじった。

「何この髪?

 よくもまぁこんなバサバサにできるわね。

 唯一皮膚を覆ってくれている毛なのに、こんなに傷ませて大丈夫なわけ?

 人間って、本当に訳分かんない」


 伝輝は顔をしかめ、指の腹で頭皮をこすった。

 エミリーに触られたことで、(別のことで頭がいっぱいになっていたが)頭皮のむずがゆさを思い出したようだ。


 昇平にヘアカラー剤が余ってもったいないからと何度も雑に髪の毛を染められた結果、伝輝は触り心地の悪い髪の毛と、常にむずがゆい頭皮を手に入れた。

 自分の意志でこうなった訳ではないのに、エミリーの言葉は伝輝に痛く刺さった。

 結局どこに行っても、同じ扱いを受けるのだろうか。

 たとえ相手が人間でなくても。

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