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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝とまごころ荘
24/84

伝輝の特訓 ① 異変

 狩りの日を終え、メルとの別れを経験した伝輝は、動物界でまた新たな朝を迎える・・・

 朝。

 目覚まし時計が鳴り響く中、伝輝は布団の上であおむけの状態で既に起きていた。


「また、出てきてる・・・」

 伝輝は目覚まし時計を消すことも忘れて、じっと自分の手の平を見上げるようにしてみていた。


「うるせー!」

 隣の布団がもぞもぞと動き、昇平が手を伸ばして目覚まし時計をベルを止めた。

「伝輝、起きてるんだったら、目覚まし時計を止めろよ」

「・・・・・」

 伝輝は返事もせず、寝たままの状態で手の平を見ている。

 昇平は少しイラついた。

「何、さっきから手の平眺めているんだよ。

 何か書いてあんのか?」

 昇平の言葉に、伝輝ははっと反応した。

 そして、上半身を起こし、隣の布団で胡坐をかいている昇平に向かって手の平を差し出した。

「なぁ、これが見える?」

「ん?」

 昇平は伝輝の右手の平を見た。

 そして、すっと自分も手を差し出した。

「チョキ。はい、俺の勝ち。

 伝輝、朝飯お前が用意しろ」

「え?! 何で?」

「忘れたのか?

 今日はカレイさんが早朝から出かけるから、朝食と昼食は各自で用意。

 さて、俺はシャワーでも浴びるかな」

 そう言って、昇平は背中をボリボリ掻きながら、寝室を出た。


 伝輝はあぜんとしながら、再び自分の手の平を見た。

 昇平には見えていないのだろうか?


 手の平に赤く浮かび上がる「6」という数字。




 伝輝と昇平がまごころ荘を出ると、マグロも家から出てくるところだった。

「おはようございます。昇平さん、伝輝君」

「おはよー、マグロ君。

 アナゴさんはもう出た?」

「はい、僕より少し先に出かけました」

「アナゴさんは、いつも本当に早いな。

 じゃあ、伝輝、マグロ君、気をつけて行って来いよ」

「行ってきまーす!」

 マグロと昇平は大げさに互いに手を振り合った。

 最近、昇平は一人でまごころ動物園に行くようになった。

 もっとも、一駅しかない通勤経路で、わざわざ前田さんが迎えに来るのも、随分甘やかした待遇だろう。

 伝輝は何も言わず、そそくさと学校に向かった。

 手を振っていたマグロが気付いて後を追った。


「伝輝君と昇平さんって、仲悪いの?」

 マグロの唐突な質問に、伝輝は思わず咳き込んでしまった。

「何でだよ、いきなり」

「僕とお父さんだったら、さっきの時は、一緒に手を振るけどなぁ」

「マグロ君のところとは違うんだよ」

 伝輝は呼吸を整えながら言った。

「何が違うの?」

「・・・・・」

 伝輝は黙った。

 マグロってこんなにもズケズケと物を言ってくるタイプだったかと、伝輝は思った。

「あいつは、アナゴさんみたいに、ちゃんとしてないから・・・・」

 口に出したのは自分なのに、嫌な気持ちになった。

 ふと、伝輝は自分の手の平を見た。

 しばらく目立たなくなっていた「6」という数字が再び濃く浮かび上がっている。

「そうなのかなー?

 昇平さん、面白くて良い人だと思うけど・・・」

「マグロ君。これ、見て」

 伝輝はマグロの話を遮るように、右手の平を差し出した。


 マグロは一瞬驚いたが、素直にじっと伝輝の手の平を見た。

「これは・・・」

 マグロの表情が変わった。

 真剣なまなざしで手の平を見る。

 伝輝は同じ見える動物がいる、とホッとした。


「伝輝君、生命線が少し短いね」

「は?」

「伝輝君、見せるなら、左手にしてよ。

 左手は今後の運命を見れるらしいよ。ほら、早く」

 伝輝は言わるままに、左手を差し出した。

「むむむ・・・」

 マグロは鼻で伝輝の左手首を掴んで、顔を近づけた。

 鼻の先端の少し湿った部分が手に当たり、伝輝はヒヤッとした。

「やっぱり、猿系の動物の手相が一番興味深いね。

 それにしても、伝輝君、僕、一度も手相好きなの言ったことないのに。

 誰に聞いたの?」

「いや・・・」

 その後、伝輝は何も言わなかった。




 学校に着くころには、手の平の「6」も見えなくなっていた。

 教室には、ほとんど全員がそろっていた。

 狩りの日から数日経ったが、狩りの日から二、三日程度は、休んでいる生徒が多かった。

 伝輝も一日休んだ。

 マグロが言うには、狩りの日の後は、葬式が多いので休む生徒が多くなるようだ。


「今回はクラスメイトの葬式がないみたいで良かった。

 隣のクラスはあったみたい」

 サラリと言ったマグロを見て、伝輝は動物界の怖さを改めて感じた。


「今日の午前中は体育です。

 みなさん、支度して十五分後に校庭で整列して待っておくように」

 朝礼で、団助先生は言った。

 既にジャージ姿になっている。


「伝輝君は支度をしたら、保健室前で待機していてください」

 朝礼の終わりに、団助先生は伝輝に言った。




 体操服に着替えた伝輝は保健室に向かった。

 保健室のドア横の掲示板で掲示物の整理をしている保険医でニホンザルのフミエさんがいた。

「伝輝君、体調はどう?」

「あ、はい、大丈夫です」

「今日は体育なのね。

 無理はしちゃ駄目よ。

 でなきゃ、いつまでたっても、皆と外で遊べないわよ」

「はい・・・」

 源次郎に突き飛ばされて以来、絶対にごめんだと、伝輝は思っていた。


「お待たせ、伝輝君」

 団助先生がやってきた。

「さぁ、裏の運動場に行こう。今日から特訓だ」


 裏の運動場は、バスケットゴールが対面して2台置かれている、小さな広場だった。

 バスケットゴールの下には、ボールらしきものが沢山入ったカゴがあった。


「伝輝君が身につけなくてはいけないものは」

 団助先生がカゴからボールを取り出しながら言った。

「避ける技術だ」

 そういうのと同時にボールを伝輝に向かって投げた。

 投げると言っても、軽くパスする程度の威力だったので、伝輝は簡単にキャッチできた。

 大きさはドッジボールくらいの柔らかいゴムボールだった。

 伝輝が受け止めるのを見て、団助先生は手を振って投げ返すように促した。

 伝輝はパスボールを投げた。


「僕がどんどんボールを投げるから、伝輝君はそれを避けるかキャッチするんだよ。

 ボールの威力は徐々に上げていくし、色んな大きさのボールを投げるからね。

 大事なのは、当たらないこと。

 キャッチしようとして当たっても駄目だからね。

 当たったら、最初からやり直し。

 初めは連続五十回だ」

 いきなり連続五十回は結構ハードだな・・・と思いつつも、伝輝は団助先生の指示に従い、所定の位置についた。


「それじゃあ、始めるよ。それ!」

 団助先生はゴムボールを投げ始めた。

 威力は、ドッジボールの強いボール程度だ。

 伝輝は何てことのないように、一球一球避けた。

 時折、キャッチできるものは受け止めた。

「まだまだこれからだよ!」


 十球を過ぎて、徐々に団助先生のボールを投げるペースが速くなってきた。

 伝輝は、ドッジボールで一人残された内野の様に、飛んでくるボールを避けた。

「あ!」

 避けきれず、右足にボールが当たってしまった。

 ゴムボールなので、それ程痛くはない。

「三十九球目か。

 初めてにしては、よく動けた方だね。

 さぁ、二回目だ。今度は少し難しくするよ」

「はい!」


 思っていたよりも難しくなく、むしろ楽しく思えたので、伝輝は腰を落として団助先生のボールを待った。

 二回目は一回目よりもペースが上がるタイミングが早くなり、ドッジボール以外の大きさのボールも飛んできた。

 避けながら伝輝は、あのカゴにどれだけボールが入っているのだろうと思った。


 二回目は三十球目で、野球ボールサイズのものに当たってしまった。

 この頃には、少し息も上がってきた。

 伝輝は、給水しながら、団助先生とボールを拾い、カゴに戻した。

 そして、三回目を始めた。

 ある程度、コツは掴めてきたが、今度は人が座れるくらいの大きさのボールが他のボールと同じ威力で飛んできた。

 避けることはできたが、その時、伝輝はやはり団助先生は熊なんだなと、改めて感じた。




「伝輝と団助のやつ、やっぱり裏にいたぜ」

 給水の為の小休憩に、こっそり抜け出した、ドリスと源次郎が校舎の陰に隠れて二人の様子を覗いた。

 伝輝は団助先生の投げるゴムボールをひたすら避けていた。

「・・・なぁ、源次郎」

 ドリスが眉をしかめて言った。

「あれは、二人で仲良くじゃれているのか、トレーニングしているのか、どっちだと思う?」

「伝輝にとってはトレーニングじゃね?」

 源次郎も首をかしげながら言った。

「団助・・・ナメてるな」

「ああ・・・」

「あんなんで、何が身に着くんだよな」

「ドッジボール選手権にでも出場させたいんじゃねぇか?」

 ドリスと源次郎は互いに見合った。

「今、同じことを考えたろ?」

「恐らくな」

 ドリスと源次郎はニヤリと笑った。

「早速、今日の放課後決行だ」

 そう言うと、二人は校庭に戻った。

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