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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と動物界
13/84

メルとの出会い ① サッカー

 犬のタカシとまごころ荘の屋上で話をした伝輝は、タカシと生年月日が同じであることと知った・・・

 動物界に暮らすことになって三日目の朝がやってきた。


 伝輝は昨日と同じく、目覚まし時計よりも少し早く起きて支度した。

 昇平は昨日同様飲み過ぎでまだまだ爆睡中だった。

 やがてドアチャイムが鳴り、マグロがやってきた。


「おはよう、伝輝君、昇平さん」

 カレイが炊き立ての白ごはんをよそいながら声をかけた。

「おはよーございますーっす」

 昇平があくびをしながら挨拶をした。

 その鼻は真っ赤になっていた。

「伝輝君」

 料理を運ぶのを手伝っていた伝輝に、カレイは昇平に聞こえないようにこっそりと話しかけた。

「しばらくお酒を出すのは止めておくわね。

 ゴンザレスさん達にも言っておくわね」

「助かります・・・」

 これで昇平の鼻がもがれる心配はなくなりそうだと、伝輝は思った。


 昨日と同じ時間に前田さんが昇平を迎えにやってきた。

 頭も顔も洗っていない昇平も姿を見て、前田さんは昨日と違って、少し困ったように苦笑いをしていた。




 学校に到着した伝輝は、マグロと一緒に教室まで向かった。

 昨日入学したヒトが、ヒトではなく人間だということが他のクラスの生徒にも知れ渡っているらしく、ジロジロと色んな動物に見られながら伝輝は教室まで歩くことになった。


「おっ、おはよう、伝輝!」

 ドリスが声をかけた。

「おはよう」

 自分の席に荷物を置いていると、自分の斜め前の席にありさが座っていることに気付き、伝輝は少しドキッとした。

 ありさは物音に反応し、振り向いて伝輝の方を見た。

 振り向いた瞬間、サララっと長い黒髪が揺れた。

 間近で見ると、そのくっきりと整った顔立ちがより際立っているように感じた。


「君は・・・」

「アリ、こいつが今朝話した、人間の伝輝だよ」

 ドリスが説明した。

「ああ、昨日あんたと一緒に子ども院に来ていた奴ね。

 二人一緒に本当に下らないこと考えるわね」

「え・・・?」

 伝輝は少しショックを受けた。

 昨日のドリスのいたずらのグルだと思われているらしい。

「伝輝。ドリスといると、ロクなこと無いわよ」

 ありさがドリスに冷ややかな視線を送りながら言った。

「そんなことないよなー、伝輝。

 アリ、ひどいこと言うなー」

 ドリスがヘラヘラ笑いながら言ったが、ありさは無視して、教室に入ってきたトラネコ二匹の元に向かった。


「本当、照れ屋だな~、ありさは。」

 伝輝は絶対に違うと思った。

「昨日のこと、まだ怒っているんじゃない?」

「そうなのか~?」

 ドリスは昨日のいたずらについて、全く反省していないようだった。

「あのさ、ドリス。ありさって人さ、何でアリって呼ばれているの?」

 アリという発音は虫の「蟻」と同じだった。

「あいつの髪が黒光りしてるから、最初はゴキブリとかゴキって言ってたんだけど、アリが怒るから、じゃあ、名前も似ている「蟻」にしようってことで、皆、アリって呼ぶようになったんだ」

「ゴ・・・ゴキブリ・・・」

 あんな可愛い子にゴキブリと名付けるなんて・・・。

 しかも黒光りとは。

 人間界で「天使の輪」と呼ばれるものが、随分とひどい扱いを受けていると、伝輝は思った。

「それは、ひどいよ・・・」

「そう? 伝輝はアリに対して優しいな」


 チャイムが鳴り、生徒達が着席し始めた。

 ありさも着席した時、ドリスが後ろから話しかけた。

「なぁ、アリ」

「何よ」

「伝輝が昨日、アリのこと、可愛いって言ったんだよ。

 良かったな。人間に可愛いって言ってもらえて。

 これなら、アリ、人間界に遊びに行けるんじゃないか?」

 伝輝の顔は一瞬にして、朝の昇平の鼻並みに赤くなった。

 ありさが伝輝の方をチラリと見た。

 伝輝の顔は更に赤くなる。

「あっそ」

 ありさは特に表情を変えずに正面を向いた。

「照れてる、照れてる。

 おい、伝輝、どうした? 熱でもあるのか?」

「うるさい」

 伝輝は顔が元に戻るまで、ドリスの方を見るのをやめた。




 午前中、伝輝は他のクラスメイトと同様に、団助先生から渡された問題の書かれたプリントをひたすら埋めていく作業を行った。

 昨日受けたペーパーテストでできなかったところが多く出題されていた。

 分からないところは、採点の時に団助先生が丁寧に教えてくれた。

 先生の他の生徒に話す言葉を聞いていると、プリントの内容は一人一人違うようだ。

 それぞれに対して解説をする先生は、一体どれだけ知識があるのだろうと、伝輝は思った。


 昼食の時間は、クラスメイト達が伝輝を取り囲むようにして集まって食べた。

 クラスメイト達は、人間界のテレビのことや、東京タワーや東京スカイツリー、富士山など、日本の観光名所についてなど、色々質問を投げかけてきた。

 伝輝はできる範囲で質問に答えたが、ほとんどドリスが余計な口を挟むため、あまりきちんと答えることができなかった。


 昼休みになると、クラスの男子のほとんどが外に飛び出していった。

 マグロも一緒に出て行った。

 昨日、団助先生から外で遊んではいけないと、忠告されていたため、伝輝は仕方なく読みかけの文庫本を持って外に出た。

 教室はありさ含め女子だらけになったので、何となく居づらかった。


 校庭に出ると、普通の学校の昼休みと変わらない風景がそこにあった。

 遊んでいる子どもが人間以外ということを除いてだが。

 伝輝は校庭の隅に、丁度良い木陰を見つけたので、そこに腰を下ろして読書を始めた。

 本を読んでいる間は、日常の面倒なことが忘れられる上に、案外他人が関わってこないので、伝輝にとって、安心できる時間だった。

 特に、動物界に来てからは、読書が唯一、以前までの自分の生活と変わらないものなので、伝輝はより一層、読書をするようになった。




 しかし、そんな伝輝を、ドリスが見つけてしまった。


「伝輝」

「ドリス・・・」

 伝輝は正直面倒な奴に見つかった、と思った。

「そんなところでぼけーっとしてないで、一緒にサッカーしようぜ」

「ボーっとしてないよ。それに、俺は皆と遊んじゃあいけないんだよ」

「あー、団助が言ったのね。

 でもさ、この面子見てみろよ。どうやって怪我するんだよ」


 ドリスは集まってきたメンバーを見渡した。

 源次郎の他は、ラブラドールレトリバー、うさぎ、キツネ、イタチなど、ほとんど小動物と呼ばれる大きさの子ども達だった。

「一人、当番の仕事で抜けるから、補充したいんだよ。な、良いだろ?」

「良くないよ! 駄目だって! 危ないって!」

 メンバーにいたマグロがドリスに近づいた。

「何だよ。そりゃあ、お前がいたら危ないけどさ。

 丁度お前が抜けるから、別に良いだろ?」

「駄目だよ。団助先生から言われてるんだからさ。」

「はいはい、誰も噛みつかないし、噛まれても死なないから大丈夫だって。

 さ、伝輝、行こうぜ」

 ドリスは強引に伝輝を引っ張り、校庭に連れて行った。


「もぉ! 知らないよ!

 伝輝、危ないと思ったら、ちゃんと逃げるんだよ!」

 マグロは渋々と校舎に戻って行った。

 伝輝はメンバーを見渡した。

 自分より大きな動物はドリスぐらいだった。

 これなら、逆に自分が気を遣ってプレイしないといけないのではないかと思った。


「おーし、じゃあ再開だ。

 伝輝ははるのチームな」

「よろしく」

 晴は、マグロとよく一緒にいるラブラドールレトリバーの男の子だった。

「初めての伝輝がいるから、ハンディで三本足ルールだぞ」

「三本足?」

「晴とか源次郎とかは、走るときは四足歩行の方が動きやすいんだ。

 でも、サッカーだと前足使っちゃいけないんだけど、緩和ルールで両前足使っても良い場合があるんだ。

 今回は前足の利き腕しか使っちゃいけない三本足ルールにしたから、伝輝も思い切ってボール奪いに行けるぜ。

 あ、俺達は二本足しか使っちゃ駄目だぜ」

 「前足の利き腕」とは、妙な言葉だな、とは思いつつも、伝輝は素直にうなづいた。

 こうやって、大人数と気楽にスポーツする機会も多くない。

 伝輝は少し楽しい気持ちになってきた。


 晴のチームのボールスタートだった。

 始めは自分の足元をウサギたちがちょこまか動くので、伝輝は蹴り飛ばさないように注意していたが、やがて、彼らが巧みに避けてくれるのが分かったので、伝輝は集中してボールを取りに行けるようになってきた。


 ドリスからボールを奪い、伝輝は一気にゴールへドリブルしながら向かった。

「源次郎! 止めてくれ!」

 ドリスがディフェンダーの源次郎に向かって叫んだ。

 伝輝はがら空きになったゴールにたどり着き、シュートを決めようとした。


 その時、ドドドドドと地響きを感じた。


「え?」

 その瞬間、伝輝の脇腹に源次郎の頭が突っ込んできた。

 衝撃に耐えられず、伝輝は吹き飛ばされた。

「伝輝!」

「大丈夫か?!」

「何で避けないんだよ!」


 避ける・・・どうやって・・・


 頭が朦朧としている中で、ふと、伝輝はテレビで、山の近くに住む人が猪に襲われるニュースを見たのを思い出した。

 確か、突撃されて、ぶつかって、骨折したんだっけ・・・猪の大きさは・・・

 その先は思い出せなかった。

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