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人間6号  作者: 腹田 貝
伝輝と動物界
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動物界での生活 ④ 放課後の寄り道

ヒトのドリスと一緒に、伝輝は学校帰りに寄り道をすることになる・・・

 人間の伝輝と、ヒトのドリスは一緒に校舎を出た。

 途中で同じクラスの猪の男の子に話しかけられた。

「ドリス、今日、ピクルスのとこに行くんだよな?」

「おーそうだぜ」

「おめでとう言っといてくれ」

「おー」

 ドリスは何てことのない様子で、手を振りながら言った。


 カレイさんが用意してくれた昼ごはんは、おにぎりと簡単なおかずだったので、伝輝は食べ歩きながらドリスについて行った。

 ドリスは学校から少し離れたコンビニでパンを買った。

「まずはピクルスのとこに行くからな。

 ピクルスはウサギの雄で二ヶ月前に卒業したんだ」

 当たり前のように言っているが、つまり寿命が異なるので、自然と学校にいる時間が短くなるのだと、伝輝は解釈した。

「で、今日はピクルスの結婚式だから、俺が代表してお祝いに行くわけ」

「結婚式!?」

「おう、年上のお姉さまだとよ」


 二人は洋風のおしゃれなカフェレストランに到着した。

 店のテラス部分では、丸テーブルが幾つか置かれ、花や紙テープで作られた飾りつけが施されていた。

 ふわふわとした毛並みのウサギや猫、犬達がタキシードやワンピースを身にまとい、まるで絵本の挿絵のような光景だった。

 中央にいる白のタキシードとウエディングドレス姿の二匹のウサギが丁度彼らの大きさに合わせたウエディングケーキに入刀しているところだった。

「ドリス!」

 新郎のウサギがドリスに気づき、声をあげた。

「今日は午前授業だったのか? 来てくれて嬉しいよ」

「おう、おめでとう。奥さん、綺麗だな。これ、皆からのお祝い」

 ドリスは紙袋から可愛らしく包装された箱を渡した。

「はは、ありがとう。ケーキ食べて行ってくれよ」

 新郎は照れくさそうに笑った。


 カフェテラスの席で伝輝とドリスはウエディングケーキを食べた。

 まずくはないが、ほとんど甘みが感じられなかった。

「ピクルスは小型動物クラスだったから一緒に学習はしてないんだけど、すげーサッカーが上手くてよ。

 大型動物の連中もピクルスを一目置いていたんだ。

 卒業してからは本当サッカーしても物足りなくなったよ」

「ふぅーん」

 ケーキを食べ終わるとすぐに二人はその場を後にした。


「次は秀美ちゃんところに行くぞ」

「秀美ちゃんもウサギ? それとも猫?」

「いや、ネズミさ。こないだ卒業したばっかで、運動会で一緒のチームだったんだ。急ごう」

 ドリスは駆け足になった。




 次に向かったのは、平屋の一戸建てのような家だった。

 しかし、よく見ると入口の表札や郵便ポストが幾つもあり、何家族も住んでいるようだった。

 二人が入口から中に入ると、中はアパートように階段で各部屋に分かれていた。

 中央には十匹以上のネズミや他の動物達が集まっていた。その中に猪の男の子もいた。


「ドリス!」

「源次郎!」

 源次郎は少し興奮気味で近寄った。

「もう、産まれたのか?」

「産まれたよ! 皆元気だよ。」

 ドリスはかがみながら動物達に近づき、ゆっくりとしゃがんだ。

 伝輝はその後ろで立ったまま様子を見ていた。

 ハツカネズミが小さな布団にくるまっており、布団の中はもぞもぞと動いていた。

「秀美ちゃん、おめでとう」

 ドリスは今までと違ったとても優しい口調で話しかけた。

「来てくれたのね。ありがとう、ドリス」

 ハツカネズミはほんの少し頭を上にあげ、またすぐに休んだ。

 ドリスはスッと下がり、伝輝に「行くぞ。」と言った。

 傍にいたネズミにドリスは紙袋から取り出したお祝いの品を渡し、屋外に出た。


「もう、いいの?」

 伝輝はドリスに尋ねた。

 さっきの結婚式と言い、どうもあっさりし過ぎているように感じた。

「当たり前だろ。子ども産んだばかりで疲れ切っているのにさ。

 もっと日が経ってから行けば良かったかな」

「仕方ねーよ。予定より早いお産だっただから」

 源次郎が言った。

「それよりさ、ドリス知っているか?」

「何?」

「草太先輩だよ。今日、お別れ会だってさ」

「マジで!」

 ドリスはハッと小声になって話を続けた。

「だって、来週まで延ばすって・・・」

「体調が急変したんだってさ。

 俺もこれから顔出しに行こうと思ってたんだけど、ドリスも来るか?」

「もちろん」




 ドリス、源次郎、伝輝が向かったのは、公民館のような施設だった。

 集まっている動物達は皆黒い服装をしていた。

 三人は即席の通路案内に従って進み、小さな棺桶の前に立った。

 棺桶の傍には、数羽のウサギが悲しそうにうつむいていた。

 ドリスと源次郎は静かに棺桶とその傍にいるウサギ達に静かに会釈し、その場をすぐに離れた。


「草太先輩は、学校の生徒会長をしていたんだ」

 施設を出て、ドリスが伝輝に説明をした。

「ちょっとの間しか、一緒に過ごせなかったけど、音楽会とか主催したりして、凄く良い先輩だったよな。

 卒業式も泣いている後輩多かったな。

 今日も参列者結構いるみたいだし」

「そうだな」

 ドリスと源次郎は改めて施設をしみじみと見つめた。

 彼らのように、私服のまま参列している動物達も多くいた。

「ドリス、時間大丈夫か?

 早くしないと、アリんとこの面会時間終わるんじゃねーの?」

「あ、そうだ。やばいやばい。伝輝、行くぞ!」

 ドリスは再び走り出した。

 伝輝はドリスの切り替えの早さに驚きを超えて呆れそうになった。




 ドリス達が到着したのは、こちらも何かの施設のようだった。

 門には「まごころ子ども院」という看板があった。

「ここは、親とか保護者がいない動物達が集まって暮らす施設なんだ」

 ドリスは簡単に説明した。

 入口のドアチャイムを鳴らすと、中からピンク色のエプロンをつけたツキノワグマが現れた。

 何となく直感で雌だと伝輝は思った。


「ギリギリね。ドリス君」

 優しい女性の声でツキノワグマが言った。

「すみません、ちょっとバタバタしてまして。アリの体調はどうすか?」

 ドリスはヘラヘラと笑いながら言った。

「熱は今朝から下がっているから、明日は登校できると思うわ」

「そうすか、良かったっす!

 じゃあ、これアリに渡しておいてください。

 休んでいた間のプリントとかです」

 ドリスは紙袋を丸々ツキノワグマの女性に渡した。

「ありがとう。渡しておくわ。」


「サリーさん! 変なの入ってないか、確認して!」

 ツキノワグマの女性が紙袋を受け取った瞬間、上の方から声がした。

 見上げると、階段上がった二階部分にマスクをつけた女の子が水色のパジャマと白いカーディガン姿で立っていた。

「ありさ、どういうこと?」

「この前、飛び出す虫のオモチャ入れてきてたのよ! ちゃんと確認して」

「なんだよ。軽いジョークじゃん。

 それに、流石に俺も病人にそこまでしないさ・・・」


 ボンッとドリス目がけて白い粉のようなものがふりかかった。

「ありさの言ったとおりだわ」

 サリーさんは、封筒の口をドリスに向けた状態で開封していた。

「ほら、やっぱり! この馬鹿リス!」

 ありさという女の子がマスクを外して叫んだ。


 その瞬間、伝輝は電撃が走ったように感じた。


 二階の手すりからこちらを見ている女の子は、テレビでしか見ることのないような可愛い顔をしていた。

 マスクをしていても、その大きな瞳は分かったが、その下の鼻や口元も綺麗な形をしていた。


「・・・ドリス君、私に怒鳴られたくなかったら、今日はもうお引き取り願おうかしら」

 サリーさんの落ち着いた口調に危機を感じたドリスは、白い粉を払い落とす前に、伝輝と一緒に子ども院を出た。

 気が付けば、すっかり夕暮れ時になっていた。


「あーあ。まさか、バレるとは思わなかったよ」

 ドリスは髪にかかった粉を振り落としながら言った。

「ちょっとした愛情表現なんだけどなぁ。退屈してるはずだからさぁ」

「愛情表現?」

 思わぬ言葉に伝輝は少しドキッとした。

「そう。なんせ、あと五年くらいしたら結婚するんだからさぁ。

 こういうからかいも大切だろ?」

「け、結婚!? 何で? 親同士で決めたの? 許嫁ってこと?」

「親は関係ねぇーよ。

 でも、入学した時からずっと一緒なんだぜ。

 後々は結婚して子ども作ることになるだろうよ」

 ただの驚きとは違う衝撃を、伝輝は感じた。

 伝輝は普段なら絶対言わないような言葉を思わず発してしまった。


「・・・あんな可愛い子と・・・」

「え? 可愛い? 普通だろ?」

「ええ!?」 

「だってさ。

 俺、普段は家族とアリぐらいしかヒトって会わないけど、人間界の雑誌とか見てると、アリみたいな子ばっかじゃん。

 アリももっと痩せなきゃ人間界に行けないって言っているぜ」

「それは・・・」

 それは別に、雑誌に載っている女の子が人間界の標準基準というわけではないと、伝輝は言いたくなったが、何だかドッと疲れが出てしまい、話す気になれなかった。 

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