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空色キャンパス

作者: 氏川将士

気分が浮かない時は、空を見よう。これは彼女の空の物語です。

 私は子供の頃、空は変わらないものだと思ってた。

 何故かって? 子供が駆ける時の流れって、とんでもなく速い。だから、子供心では雲が少しずつ動いてるのが分かるまで空なんか見てらんなかったし、そんな空の微妙なグラデーションにも気付かなかったのだ。だから、その頃の私にとって雲は止まっているものだったし、空はたんなる単一色で、ひどく味気無い物だった。


 それから五年程経った頃か。私も少しは成長したせいか、空のことを少しだけ学んだ。

 動かないと思ってた雲が急に形を変え始め、青一色だった空が、いきなし無限の色合いを放ち始めた。

 その頃からか、私は空を見ることが好きになった。




 コーヒーカップを片手に窓から青空を見上げていると、子供の頃を思いだした。今思えば、あの頃はあの頃で見えていた物があったのかもしれない。だって、あの頃の私にとって、本当に雲は止まってるものだったのだから。それを子供の未熟さゆえの見落とし、と言う人もいるかも知れないが、あれはあれでまた真実だろう。まあ、空を眺めることの楽しみというのは大人の特権なのかな、といったちょっとした優越感に浸りながら十分に冷えたコーヒーを口に含んだ。




 昔話のついでに河川敷を散歩しようと思った。少し使い古されたスニーカーにお似合いなのは今日みたいな日だろう。靴を履くのに思った以上に時間がかかってしまうけど。天気、快晴、以上。心地よい春風がこの時期には珍しく穏やかにタンポポを愛でていった。

 思わず、背伸びをしてしまった。

「……最高だな」

 しみじみとそう思った。こんな気持ちの良い日は滅多に無い。ある程度気持ちの良い日ならば、

「一緒に散歩でもしない?」

とでも誘おうかという気にもなるのだが、今日はもう、独占したくなる日なのだ。河川敷を歩いていると、ちょうど柔らかそうな草っ原が見えたので、思い切ってごろりと寝転んでみた。

「あー」

 風呂に入った時の様な声をあげてしまう。近くに誰か人がいたら少し恥ずかしいが、そんなことおかまいない。

 閉じていた目を開くと、そこには青と白のキャンパスが広がっていた。




 私はちょうど山から顔を出し始めた雲を眺めた。白と黒のコントラストがギザギザの歯を作り出し、心なしか怪獣の様に見えてクスッとわらってしまった。今度は左側にある橋の上の雲を見つめた。雲の切れた部分が上手に膨らんで丸っこい雲とくっつき、今度は蟹が鋏を広げている様に見えた。次は右側の高ーい電気塔すれすれを通る雲を見た。電気塔を

「おらよっ!」

と跨いで飛ぶその姿はさながらイルカだ。その周りを白い水しぶきが上がり、蒼い海をどこまでもどこまでも飛び続けるのだろう。




 あー、あの背中に乗って、私も飛べたらいいのになぁ……………。




「ん?」

 肩を揺すられ目を覚ますと、空からはイルカは消えていて、蒼い海原は今は暖かく燃えていた。

 隣には不機嫌そうに私を見る我が家の同居人がいた。

「あ、ゴメン。探させちゃった? それじゃ、帰ろっか」と立ち上がろうとしたが、同居人はブスッとしたまま私の肩を掴んでただ指を指した。なんだろうと思い、そっちの方向に目をやった。


「うわぁ……」


 そこには、焼けた空いっぱいに羽を広げた、純白の不死鳥(フェニックス)が居た。

 視界いっぱいに広がるその羽を見てたら、なんだかどこまでも行けそうな気がしてきた。単純だなー、私。

「……ありがとう」

 いろいろね。

 同居人はやっとにっこり笑って、黙ったまま手をさしのべてくれた。

 私はその手に普通の人以上に余分な力をかけて立ち上がると、わざわざ義足を外し、彼の肩を借りて歩き始めた。


 片翼の小鳥だって空は飛べる。翼を貸してくれる貴方がいれば。

日常的な非日常を書きました。普通は起こらない。でも、あったら素敵な物語というものが伝わってくれればいいな、と思います。そして、普通から少し外れたら起こってくれるのではないかという希望も込めて。評価を頂けたら嬉しいです。

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