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称号:モノクロ・神殺し  作者: ヘーガ
一章 箱庭
9/23

運命

 拾ってきた木の棒を集め、魔法で火をつける。炎を跨ぐ様に木の棒に突き刺さった二ℓペットボトルサイズの肉が油を出しながら炙られていく。時々回転させ、全体をくまなく炙っていく。香ばしい香りを上げ、染みた油が光を反射し宝石のようになった肉を火から取り上げ、齧り付く。



「ドラゴンってのも旨いな…」



 そう、俺が今食ってるのはドラゴン、典型的な火を噴く四本足の翼を持つドラゴンの肉である。

 部位は尻尾だがこの肉は硬いが臭みがなく、噛むたびに肉汁が出てくる。硬さはもはや噛めば噛むほど味の出るこの部位にはちょうどいいだろう。


 この食事の必要がない世界でも食事はしている。理由はただ地球のころが懐かしいわけでもなく、単に娯楽として楽しんでいる。いや、楽しんでいたといったほうがいいだろう。


 気づいたのは確か五百年ほど前、正確な年月はメモを見ない限り分からないが主の記憶をたどって魔法が使えるようになった頃、食事をするとしないので魔力の回復量が変わるのを発見した。多分食べたものすべてが俺の魔力として還元されたのだろう。



 とはいえこのドラゴンをしとめるためにズボンを一着ダメにしてしまったのはもったいない。服を作るのは結構面倒くさいものだ。




 主の記憶と魔物がふえるにつれ、聖域内の生活空間の質も上がっていった。

 

 ハンターだった主の記憶から毛皮の剥ぎ方を知り、ベッドを作った。聖域が野外に有る場合はテントを作った。だが一番大きいのは服と武器のことだろう。


 女性だった主は生前、機織をたしなんでいた。その記憶から機織、糸作りの方法、服の作り方を再現し、今も役に立たせてもらっている。

 この世界ではどんな傷も治るため防具をつけて重くなるよりか胸当て、膝当てと肘当てを縫いつけた服を着てすばやくして聖域に逃げ込む方を選んでいる。




 そして武器、これは前の世界が活火山であり、生き物を八つ裂きにしたいがために頑丈で良く切れる武器を作るため山にこもった鍛治師の主の記憶を受け継いだのだ。こんな気持ち悪いヤツの記憶なんていらなかったが知識と技術は役に立つ。魔物も鉱石を体にまとわせるタイプが比較的に多かったため金属には困らなかった。



 まぁ、まともな剣が出来るまで十数年掛かったけど





 いま俺がいる30個目の世界、ここはどちらかというと割りと平和な印象がある森の世界だった。それだけではは少し珍しいというだけでそれほど驚くことではない。

 この世界で異常だったのは、



 主が存在しなかった。



 此処の主は常に何かに倒され聖域が展開されていた。それはすなわち倒した何かが記憶か、武器を受け継いだ可能性がある。


 もし知能のある魔物が記憶を受け継いだら知能を手に入れていたら

 もし武器を受け継いでいたら手がつけられなくなっていたら

 


 もしかしたら、もしかしたらという考えが頭の中でぐるぐると回り離れない。とまらない思考を放置するように聖域内から飛び出し、倒した何かを探すことにした。



 もし、倒した何かが魔物、堕神の類なら聖域を越えられない、つまりこの世界にいるはずだと推測する。


 何か、は聖域からそれほど遠くない場所にいた。




 2mほどの身長に地に付きそうなほどの長い髪。脚は地面にべったりとついたドレスのスカートで見えず、顔の整いからはまさに美女としか言いようがない。

 

 服と皮膚が一体化していて、陶器のように真っ白でなければの話だが




「女神…の類か」


 チッ



 小さく舌打ちをする。するとまるでその音を聞きつけたかのように女神は顔を向けてきた。

 女神の左手からどこからともなく弓が現れ、弦を絞る。そして弓から三本の光の矢が射出された。



「マジかよッ!」



 気配を殺していたのに気づかれたことに、弾いた矢が追尾してくることに悪態をつく。全筋肉を使い、風魔法でブーストしても付いてくる。むしろ速さが足りない。矢と俺との距離が残り数m、数十cm、数cmとなり零距離となる瞬間に聖域へとたどり着いた。矢は見えない壁に弾かれ粒子のようになって消えていった。




無理ゲー



 そんな言葉が、脳内を横切った。





 あの女神を倒すため鍛錬、イメトレを繰り返し、年月と検証を重ねた。だが、勝てない。




 剣術は今まさに限界の壁に直面している。このままではあいつを倒せるほどの成長は望めない。

 魔術も今はそれといった変化もない。空間魔法―瞬間移動を使おうにもこの箱庭世界全体の影響で使えない。




 このまさに絶望的な状況の中、勝てる確立のある方法はただ一つ、


 


「ドーピング、しかねぇよなぁ…」







 奴、女神が決まったポイントまで来るのを待ち伏せる。気配を殺し、剣を軽く握り、丸薬を四つ、口に挟みながらしゃがみ込む。木々の少ない、戦いの邪魔にならないものが少なく、かつ聖域に逃げ込みやすいこのポイントに来るのを待つ。

 そして女神が、現れる。



 ガリッ!!



 石のように硬い丸薬を、歯茎から血を滴らせながら噛み砕く。




 一つ目の丸薬はうなじの刻印と連動し、体を急速回復させる。

 二つ目の丸薬は魂を使い、脳の所為速度と第六感を上昇させる。

 三つ目の丸薬は聴覚と色彩を失い、身体能力を上げる。

 四つ目の丸薬はそれらの丸薬の能力の代償、副作用により魂が引き千切れるまでの進行速度を緩やかにする。




 顔面に薬の効果で刺青のような模様が目元まで走り、戦闘態勢にはいったことで世界は音と色を失い、痛みを感じなくなる。



 最初の時と同じように飛んでくる三本の光の矢を剣に魔力を纏わせ、一気に弾き飛ばす。剣にさえぎられ、空中に飛んだ光の矢はすべて粒子のようになって消えていく。

 女神を左肩から斜めに一閃する。すると傷口には黒い線が一本入り、女神自体が霧となって場所を移動し、魔法弾をマシンガンのように撃ってくる。

 迫りくる白の弾丸の嵐をかいくぐり、障壁で弾き、すでに回復した真っ白な胴体に向けて横なぎを繰り出しながら、ノータイムで胴体から繰り出された魔法弾に肩を抉られながら思う。




気持ち悪い




 女神を斬ったときの感触はまさに血と筋肉のある生物特有の感触を感じた。間違っても神やゴーストのように鉄や虚空を斬る感触などではない。生物の感触を持つものが人の形をしている。まさに、人を斬っているかのように思えてくる。

 だが、人を斬るような感覚は初めてではない。言ってしまえば今まであった元人の主の方がより人を斬っている感覚に陥ってしまう。つまり、俺は元人の主と戦うたびに思うのだ、気持ち悪いと。




 限界をこえた脹脛が赤い花のように血飛沫を上げながら断裂を起こすも、DVDの巻き戻しのように一瞬で再生する。光の矢が貫通した脇腹を、ピンクの肉が内側からあふれ出るように塞いで行く。そして追加の丸薬を噛み砕く。



 何度も肉の感覚を味わいながらも斬りつける。痛覚をなくした身体から伝わる衝撃を無視しながらも、魔法弾を弾いた際に外れた肩を戻しながらも、女神と目を合わせながら戦う。救うために。





 もともと、女神が単に強いだけの敵なら後回しにしてもよかったのだ。だが女神の目がそうさせてくれない。どの主とも違う。恨みや怒りを宿した目でもなく、生きることを諦めた目でもない、ただ、生きたいと願っている、救われたいと願っている目を見て、救うことを決心したんだ。





パキリ




 空気を裂き、唸り声のような音を出しながら出した一撃と共に、初めて聞く音が響いた。女神の肩口の傷から三cmほど、枝のように分かれたひびが入る。そのひびは傷がふさがったあとも、その存在を主張している。

 女神との戦いにおける数時間、体感時間で三日間ほどたった末についたひび。それを確認すると同時にポケットに手を入れる。




 一つは超回復の丸薬

 もう一つは身体強化の丸薬



 最初に使った丸薬のうちの二つを重ね掛けする。世界がよりスローモーションの世界に、影すらも認識しないモノクロの世界へと突入する。




 弾丸を弾いた反動で回転をしながら胴を斬る。スライディングからの起き上がりと共に切り上げる。左手で進路を空けてから斬る。廻し蹴りで手を蹴り上げたあと脇腹に突き刺す。肩にわざと攻撃を受けて斬りつける。斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。


 考えず、本能で戦いながら、丸薬のタイムミリットがもう少しでゼロになるのを感じながら戦い続けた。




 やがてひびは全体に周り、今にも崩れ落ちそうな姿に向けて剣を向ける。唯一、ひびの回っていない胸の中心に向かい走り出し、脇を引き締め、左手を犠牲に矢を防ぎ、剣を突き刺した。





 右手を離れ、胸に突き刺さったままの剣がずるりと落ちる。刺し傷からのひびがまるで全体のひびと連結を起こすように広がり、ピキピキと音を立てていく。

 パラパラと乾いた泥が崩れ落ちるかのように真っ白な女神が破片となって崩壊していく。頭部から崩れ落ち、やがて胸へと移ると共に中から何かが出てきた。




 真っ白なものが生えているそれは、崩壊と共に正体をあらわした。




 最初に見えた真っ白なものは髪であり

 やがて白くも血液が流れているのを感じられるような皮膚が露出する

 髪と全く同じ色をした眉毛と睫毛もあらわれ

 小さく、かわいらしい口が出てきてそれが顔だと認識する




 女神の中から出てきたのはまさしく、少女であった。



 やがて少女の上半身が出てくるまで崩壊したあとは、少女自体の重みで残りを崩しながら倒れこんできた。

 



 戦いによる疲労と出血により朦朧として思考も定まらないまま無自覚に少女を受け止め、剣を拾い、少女を聖域へと連れ帰ることを選択した。





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