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称号:モノクロ・神殺し  作者: ヘーガ
一章 箱庭
8/23

通過点

ヤバイヤバイヤバイ





 ヤバイ。



 この世界の主は、ほかとは違う。威圧感も、存在も、魔力量も今までの主とは存在からして違う。あいつに、聖域にたどり着くのがあと数分遅かった出血死で死んでいたかもしれないほどの傷をつけられた。





 たどりついた聖域内で腰をかけ、回想する。


 いつも新しい世界に来たときには主の居場所を真っ先に探し、行動から情報を得てから戦っていた。だがあの主は違う。あいつの行動範囲内に入った瞬間



 左側にバランスが崩れた。



 ドスドス!


 体に違和感を感じ、自分の体を見る。そこには左肩と太腿を黒い線が貫通し、右腕が肩口から存在しなかった。貫通した線が霞となり消えていく。それと同時に首筋にスパーク――殺気を感じしゃがむ。ノータイムで俺の眉間が会ったであろう場所に黒い線が一本走っていた。



 走る。右腕を失い、バランスを失い、大量の血液を失いながらも。魔法を使い、左手で右肩を焼きながら走る。早くしないと死ぬぞ。走れ走れ走れ。



 こうして聖域に間一髪だが生きて帰ってこれた。


 焼け爛れた右肩が黒い気泡を出しながらゆっくりと再生をはじめたのを確認し、俺は眠りに落ちた。







 すべての木が枯れ落ち、灰色の空と紫色の霧が立ち込める世界。そこには今までの世界にはない何かの建物の跡があった。壁は崩れ、建物内が丸見えになっている。その建物跡の中から一筋の線が走り、眉間をつらぬかれ、目を覚ました。



「まさか夢にまででてくるとは…」


 どうやらあの主がトラウマになっているようだ。だがこのトラウマを、この恐怖を次に生かすため主の情報を整理する。


 上半身は美女、下半身は巨大な蟻の姿。蟻の頭と体が結合してる姿になっていた。


 行動範囲内に入ると同時に攻撃される

 攻撃手段は口から射出される魔法弾

 高さ五mはある主の体は実体を持ってない


 体全体が霧のようなもので形成されていた



 改めて思い出したことで手が、体が震える。今までの主は奇形、人外ばかりだったが皆実体はもっていた。だが今回の主は霧だ、霧なんかにどう戦えと?冗談じゃない。




 久しぶりに恐怖する。圧倒的な力にではなく、理解の範疇を超えた正体不明の存在に恐怖する。


 すくむ足に鞭を打って立ち上がり、主から受け継いだ赤銅色の両手剣を手に取るり素振りを始める。

 自分よりはるかに強い生き物も、絶望的なのもいつものことだ。ただ、今回は恐怖の質が違うだけ。その恐怖を打ち払うために、無心になるために剣を振る。


 その日から結局、二日間剣を降り続けた。







 武器の切れ味は抜群。

 鉄蛾のインナーも紅狼の毛皮で作ったマントも大丈夫。



 あの主と対抗する実力をつける事とあの霧をどうにかする魔術の研究に80年ほど掛けた。もしかしたら80年はかけすぎかもしれない。だがこれであの主に対抗できるのだ。


 あとは自分の力を信じるのみ。









 行動範囲内に入ると同時に右足を引き、射出された魔力弾を避ける。空気を掻き分け高速で飛んできたものを紙一重で避けたため、カマイタチで胸から血飛沫が飛ぶ。だが大丈夫、浅い。


 剣に精製した魔力を纏わせ、風魔法で一直線に二十m先の主に走り出す。主の口から走り出した三本の線を一本は剣を盾にいなし、残り二本を同時に切り払う。そして主の右前脚を横になぎ払った。

 剣が当たった瞬間、まるで壁に向かってバット打ちつけたかのような衝撃が手を伝い襲ってくる。だが主の脚は一瞬で霧となり、再生してしまう。治った脚で踏みつけと追尾型魔法弾をはじきながら脚、胴体、体を切りつける。


 これでいい。主を倒すにはただ、削ること。主の体は魔力による霧で作られているためその魔力と反発する質の魔力に精製し、剣に纏わせ削る。主の体は再生するが、完璧ではない。地道に削り核を叩くだけだ。



 切りつけ、いなし、跳ね返し、なぎ払う。ただそれだけの単調作業故に精神を疲労する。逃げだしたいと心の中で呟くが、逃げられない。逃げるきもない。



 やがて辺りは暗くなり


 いつしか音が聞こえなくなり


 世界が色を失う


 心のどこかで「一回り小さくなったな」「こいつから戦闘経験を感じない」と考える余裕すら出来ていた。


 そしてまた辺りが明るくなり

 雨が降る



 視界が悪くなるが関係ない、殺気と気配で攻撃を避け、切りつける。また辺りが暗くなる。主の胸のところにある核が暗闇で紅く光るがまだ届かない。



 左手は避け損ねた攻撃を身体強化で何度も受けたため、骨にはヒビが入り、指は曲がり、ピンクと黄色の肉が所々露出している。

 いつの間にか主の頭が二m辺りの位置に来るほど小さくなっている。


 つまり、剣が届く。


 残りの力を振り絞り攻撃するも、霧を硬化し防御される。だが主も弱っているらしく、硬化した部位に蜘蛛の巣状にヒビが入るのを確認し、覚悟を決める。

 最後の力を、残った体力と魔力を振り絞り剣を振る。


 最後の力と風魔法の突風により威力を高めた一振りが、風を裂き、己の筋肉を断裂させながら振り下ろされた。



バグンッ!!!



 爆発音と共に硬化した部位が砕け散った。だが、核には届かない。だが諦めるきなどない!






 ポッカリと穴の開いた胸に向かって、再生する前に左手を突き出し、残った筋肉で核を握りつぶした。



 まるで蒟蒻のように柔らかかった紅玉の核から赤い液体零れ落ちる


 やがて霧の体は地面に吸い込まれるように消えていき、握りつぶした核の液体の水溜りが残った。

 いつの間にか雨も上がり、空も明るくなっていた。太陽なんてないけど。



 空気が変わり、ここが聖域になるのと同時に核の水溜りが体を駆け上り胸に吸い込まれていった。



 激痛、記憶引継ぐ時特有の頭痛に身を任せ、意識を失った。









 うそぉ

 えっ?ほんと?まじで?




 千年前からそこを納めてて…

 一度信仰を失って…

 金儲けしか考えてない人物に利用されて…

 邪教徒に認定されて汚れた信仰に身を焼かれて…


 まじかっ!



 目を覚ました俺は一人、唸っていた。






 この箱庭世界に落ちて四百と二十二年、俺は晴れて神殺しとなった。



 なっちまった


もはや英雄級の実力持ってますが回りはまだまだ強い敵ばっかです

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