贈り物
―――つまり、負けたことで魂から行き場を失った負の念が、記憶として君に取り入られることによって浄化したのさ」
朝食のサンドウィッチを食べ終えると同時に話が終わった。自分の持っていたものを残すか、記憶を残して消える。まさに自分を知って欲しい、自分の存在を主張したいという人間の本性が現れていることがよく分かる話だった。
ほかに聞きたいことはあったっけ?何かを忘れているような…
「どうして私たちは老けなかったの?」
俺が悩んでいる横でシオンが質問する。そういえばそのことを聞いていなかった。でも別の何かを忘れている気がする。
「とっても簡単なコトさ、聖域内の回復効果は老いて弱くなった細胞も回復するのさ、っといっても細胞とかは君の世界ではまだ存在が知られてないよね?多分ユト君なら分かると思うよ
見た目も箱庭世界に入る前とあまり変わってないけど、壊れ、回復していくたびに、自分がかなりの骨密度になっていく事を、自分の筋肉が通常じゃありえないほどの力を出せるのを知っているはずだ。それは{聖}で回復したことによる限界突破の作用だね」
「もう千年近く前の勉強内容なんざ覚えてねえな」
うん、簡単な計算はともかく中三から先は覚えてねぇっつうの。
「そこは大丈夫だよ」
なにが大丈夫だよ、千年前だぞ。
「ほかに質問は無いかい?」
そうか千年前で思い出した。たしか昨日の寝る前に疑問に思ったんだよな…
「最後の質問だ。箱庭世界で過した千年は地球でも千年たっているのか?」
今まで、気にすらしていなかったこと、もし千年もたっているなら幼馴染とは会えないな。
「その質問への返答は、NOだ。地球時間で一秒にも満たないよ。
箱庭世界の中はほかの世界に比べ、恐ろしく時間が進むのが速いことが分かったんだ。もとから不安定な空間の中に{魔}で満ち溢れた世界だ。数万年という年月が一秒未満でもおかしくはないよ」
なるほど、なら俺の家も残っているな。俺が行方不明になっていたらどうしようていた考えていたところだ。
―
「これで質問は終わりだね?」
「あぁ」
とりあえず聞きたいコトは聞いたな。
「ありがとう、そしてすまなかったな。飯をもらった挙句、一泊までさせてもらって。俺たちに出来ることは無いか?」
俺の一言にシオンも頷く。
さすがにここまでしてもらって礼もせずに帰るのは気分が悪い。
「僕が君達に会いたいがためにここに連れ込んだんだ。質問はそのための代償と思ってくれ」
あぁ、術式を書き換えたことか。
「ほかにも、君に感謝をしたいんだ。君が箱庭世界に内側から破壊して穴を開けてくれたおかげで排除することができた事は言ったね」
そういえば、一番最後の世界は俺の負の念を元に作られたんだっけな。んで俺自身を倒したことで世界が崩壊しはじめたところから干渉したって話か。
「だから
僕は、感謝としてとある贈り物をしたいんだ」
贈り物 か。
―
「まずはシオン君に」
「え?」
ゼロが指を弾く。それと共に、ゼロの隣に緑の光が集まり、
「…シオン」
一人の女性が現れた。
「ルナ…様」
シオンが驚いた顔をする。なるほど、この人が女神・ルナか。
「ごめんなさい、シオン。私があなたを迎えにいっていれば、こんなことにならなかったのに。本当にごめんなさい」
ルナがそう謝罪する。
「いいんです、ルナ様。私はこうして無事です。それに、あの箱庭世界でユトに会えましたから」
シオンが笑顔でそう答える。
「そういってくれてありがとう。あなたの選抜した者はみなすばらしい人たちでした。もう二度と、あの世界をあんなことにはさせません」
ルナはそういうと、俺の方を向き、頭を下げた。
「ユト様、シオンを導いてくださり、ありがとうございます」
「どういたしまして」
次はゼロの方を向き、頭を下げる。
「ゼロ様、私をここまでつれてくださりありがとうございました」
「いいってことさ」
こうして女神・ルナの訪問が終わった。
―
「これはユト君への贈り物さ」
ルナが帰った後、ゼロは二つの腕輪を取り出した。
「この腕輪はね、一つが君の体を日本にいた頃のものに見せるもの、もう一つは使ってみればわかるよ」
そう言われ、受け取った黒と白の腕輪を左腕につける
「おおっ」
確かに、姿が変わった。常時魔力を使ってるが、かなり微々たる物だ。でもなんのために?
もう一つの白の腕輪。この魔力に魔力を流す。すると術式が展開され、扉が現れた。
「コレは…」
扉の先には、まるでコンテナ二つ分の空間が広がっており、聖域内に溜めておいた素材と作った機材が置いてあった。
「箱庭世界を壊した際に集めておいたんだ」
最高だ、コレは本当にうれしい。
「あと二つほど贈り物があるからね」
本当に、何から何までしてもらって申し訳ない。
―
「ユト君に会ってもらいたい神がいるんだ」
ゼロがそういいながら指を弾く。ルナのときと同じように緑の光が集まり、そこから現れた女性は、
「スミマセンデシタアアアアアアア!」
全力で俺に土下座した。
「誰ですか?この人」
土下座している女性を指さして聞く。
「君が行くはずだった転送先の女神さ。ぶっちゃけ君ならこの子を簡単に殺せるから恐れてるんだと思うよ?」
「本当にすみませんでした。私がユト様が誤転送された時に気づかなかったことを。私が早めに気づいていたらユト様は箱庭世界にいかずによかったのです。」
土下座から顔を上げ、そんなことを震え声で話した。
「別に怒ってないよ」
女神がキョトンとした顔をする。
「怒ってないのですか?」
「あぁ、俺は誤転送されたおかげで箱庭世界で強くなれたし、シオンとも出会えたから」
だからといって感謝するつもりは無いけどな。
「ゼロ。そろそろこの人帰してあげて」
俺がそう言うもゼロは首を横に振り、
「それは出来ない。この子はこれから渡す贈り物と関係があるからね」
そう答えながら俺に近づき、
「動かないで」
俺の額に人差し指をつける。やがてその指から魔力が流れるのを感じ取り、
「贈り物を贈るよ」
その一言と共に、目の前が暗くなった。
―
時間にして、数秒のことだった。
「…コレは」
「君が忘れていた、日本にいた頃の記憶を呼び起こしたのさ」
まるで、魔方陣に巻き込まれたのが数日前に感じる。幼馴染の顔もはっきりと思い出せる。でも…
「どうしてこんなことを?」
ゼロに聞く、この行為のことを。
「あぁ、この部屋から出るときはこの子が開いた魔方陣から出て行って欲しいんだ。この魔方陣に入れば、その先は幼馴染といっしょに召喚された場所に着く。そこからは地球にそのまま帰ってもいいし、幼馴染と共に旅をしてもいい。ブレスレットと呼び起こした記憶で幼馴染達は違和感を感じないと思うよ。」
「シオンはどうなるんだ?」
「君のスマフォに僕のアドレスを入れておいた。そこからメールをくれれば扉を開くから、それまでは僕のところで待機だね」
ゼロが指を弾くと共に、箱庭世界に来る前の姿の学生服、エナメルバッグ、スマフォが現れる。
俺は服を腕輪の扉にしまい、学生服に着替えた。
「ユト、がんばって」
「あぁ」
シオンの言葉に返事をし、女神の開いた魔方陣前に立つ。そしてゼロの方に振り返り、もう一度尋ねた。
「やっぱりここまでしてもらっては申し訳なく思うよ。俺に出来ることはないのか?」
ゼロは俺の二度目の問いかけに眼を閉じ、考え事をする。そして、俺に手を差し出してこう言った。
「ならば、僕と友達になってくれないか?」
友達ねぇ。そりゃぁもちろん
「喜んで」
手を握り返す。
床に置いといたエナメルバッグを手に取り、魔方陣の方に振り向く。そして、
「行って来ます」
そういいながら魔方陣を、今度はしっかり中央を踏んだ。
―
―来たぞっ!勇者様だ!
―コレで助かるぞ!
―コレで、魔王を倒せるぞ!
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ
いろんな声がガンガン頭へと鳴り響く。やがて白い靄の掛かった視界は段々と晴れていき、現状を把握した。
大きな部屋に、床に刻まれたのは、あの魔方陣。その魔方陣を囲むように大勢の人達が立っている。
そして俺の目の前には、ずいぶんと久しぶりな幼馴染が二人。
久しいな
そんな、喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
一章終了