真実―1
「自分の部屋。いや、聖域内と同じようにくつろいでくれ。敬語もいらないさ。」
ゼロはそういいがら、指を弾く。パチンという音と共に、俺とシオンの分の紅茶が現れた。
「炭酸は頼めるかい?」
せっかく、くつろいでくれといっているんだ。久しぶりに炭酸が飲みたい。
ゼロがは微笑みながら指を弾く。俺の分の紅茶が、氷とストローの入った炭酸グレープジュースとなった。味も懐かしいものだ、涙が出そうになる。
「………」
シオンが俺のグレープジュースを凝視している。俺には懐かしいものだがシオンにとっては未知なる物だろう。
ストローの先をシオンに向ける。シオンはそのストローを吸い込み、
むせこんだ。
シオンの背中をさする。さすがに炭酸を飲みなれていないときつかったらしい。
「っく、はははははははははは!」
今のやり取りを見てゼロが大きな笑い声を出している。
緊張がなんだか無駄に感じてきた。
―
「上手く緊張も解けたようだし、話をしよっか」
ひとしきり笑ったゼロが、仕切りだした。
「とりあえずなにが聞きたい?大体のことは答えられるから」
やはり、一番聞きたいのは、これだろう…
「箱庭世界、あの世界はなんなんだ?」
このことだろう。
ゼロは同じ笑みを浮かべながら答える。
「あの世界はね、ユト君のところでいうところのバグを集めた世界さ」
バグ、なんとも分かりやすい言葉だ。
「あの世界はね、元は魔力を浄化した後の残りカス、邪悪を魂から吸い取ったモノ、妖刀・魔剣の負の念などの俗に言う{魔}と呼ばれるものがさまざまな世界からこぼれ落ちた挙句、融合したものなんだ。
{魔}はね、負を多く持つもの。例えば魂なんかを良く引き付けるんだ。
負の念を持つ魂は普通は、各世界の神たちによって浄化される。だが常に時空の狭間をさまよっている箱庭がその世界の近くを通ったとき、神たちの元に行く途中だった魂を引き入れてしまったわけだ。そして箱庭内に満ち溢れた{魔}で魂を元に肉体を作り出したんだ。すこし歪になってしまうがね。
そして死ぬ間際にいた場所と魔物が同時に存在する理由。こっちは簡単さ、肉体があっても空気が無くは生きていけない。そのために、酸素とかと一緒に世界を生み出した。そのときついでに記憶から、一緒に魔物も作り出した分けだ。魔物も元々{魔}の物だからね。
{魔}とは何なんだとか、何故肉体を作り出すんだとかは聞いちゃいけない。それこそ「そういうもの」なんだとしかいえないし、答えられたとしても人間には分からないさ」
―
なかなか濃い話だったな。とりあえず次は何を聞こうか頭の仲で整理する。どうしたもんかね。やっぱり次は…
ぐ~
聞きなれない。いや、本当に久しぶりの音が鳴った。腹から
「腹が、減ったなぁ…」
俺の一言にシオンも頷いた。本当に、久しぶり空腹を感じた。
その一言にゼロが問う。
「食べたいものを何でもリクエストしてくれ」
何を食べよっかな。
「シオンは何にする」
「ユトと同じものがいい」
じゃぁ辛い食べ物は遠慮しとこう。米類もシオンは箸が使えないし。
「ハンバーガーを頼んでもいいかな?」
ゼロはもちろんといいながら、指を弾いて用意してくれた。ちゃっかり飲み物も満タンになっている。
目の前に現れたハンバーガーの食べ方をシオンに教え、齧り付く。
「なんならここで一泊して、食事を入れた生活リズムを整えてはどうだい?箱庭世界では食事をしなかったんだろう?」
そこまでしてもらっていいのだろうか?とりあえず答えは保留にしてもらった。
食事を終え、次に聞くべき事を決めた。
「何故、箱庭では空腹と尿意等が存在しないんだ?」
飯の後に尿意とかは下品だったかもしれない。
―
「空腹、尿意がない理由。体と魂の境界が箱庭世界では曖昧になるからさ。
普通は魂と体は住み分けが出来ていて、体は食事をして栄養を取り、カスを排泄する。だが箱庭世界では満ちている{魔}が体内へと入り、魂を経由することで栄養と同じ効果を得て、また空気中へと排出されるわけさ。箱庭世界で食べたものはまたもや魂を経由して自分の魔力へと還元されるんだ」
なるほど、常に栄養を取っている状態だったわけだ。食べた物が体外へと出るように、{魔}も常に入っては出て行ったわけだ。単に認知できなかっただけで。
「次は何をききたい?」
―
次は、もはやこっちが本題だろう。
「聖域のことを頼む」
ゼロは了解っといい、紅茶を一回すすってから話し始めた。
「聖域はね、箱庭世界から部分的に{魔}が消失することにより作られるんだ。君が目覚めた最初の洞窟は、誤転送により、そこだけ干渉したことによって{魔}が消失したんだ。主たちもそうさ。君が主って言ってる存在を元に世界を作り出したって言っただろう。故にその主の場所は{魔}が濃くなり、そこが行動範囲となってしまう。その主を倒すことにより、主と共に関わりの深い行動範囲の{魔}が消滅となるんだ。{魔}から作られた魔物は{魔}の無いところにいられないため、聖域には入れないのさ。
そして聖域の回復効果のことだね。これは{魔}が存在しないことに大きく関係有るのさ。言ってしまえばどの世界にも{魔}は存在する。魔力自体も{魔}と通じるものがあるし、魔境や魔界ってのが存在する世界ってのは単に、そこだけ{魔}が少し濃くなって、魔物が凶暴化したものさ。つまり、意図的に取り除かない限り{魔}はどこにも存在するんだ。そんな{魔}が完璧に存在しない場所は{聖}と呼ばれるものが残るんだ。この{聖}ってのがどんなものか聞いちゃぁいけないよ。理由は{魔}と同じ。
この{聖}ってのは生物を再生、回復させる効果がある。つまり一切の{魔}がない{聖}で満ち溢れた聖域内は、回復効果が出るのさ」
道理でこの部屋も聖域と同じ感覚だったわけだと思い、部屋を見る。
窓の外には箱庭世界にはない、太陽が沈みかけの黄昏時となっていた。
続きます