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称号:モノクロ・神殺し  作者: ヘーガ
一章 箱庭
18/23

崩壊

「ユト、もしかしてここって」


「あぁ、俺の住んでいた街だ」

 

最後の世界。それはこの世界を一目見るだけで、この世界が最後だと分かった。


 戦闘態勢に入ったときのように、色を失った街。白と黒しか存在しない街。その街はまさに俺が住んでいた日本、俺が住んでいた街を模ったものだった。そしてこの景色が目の前にあるという事は…


 ゆっくり、後ろを振り向く。そこには俺の部屋への扉が開いたままのアパートがあった。だが扉の先に俺の部屋はなく、前の世界へと繋がっていた。開いた扉はまるで空中に固定されているかのようにびくともしない。隣の部屋のドアノブに手を掛けるもびくともしない。やはりここの建物はすべてハリボテのようだ。



 ここが入り口なら出口は、あそこしかないな。



 千年前の記憶を掘り出しながら、あの場所へと進む。

 いつもの通学路。帰り際によるコンビニ。百円玉で買える自販機。そのすべてが懐かしくに涙が出そうになる。だが、出さない、ここは偽りの世界なんだから。




 十数分歩き続けた先に着いた場所、それは魔方陣の現れた道路。

 

 そこにはあの魔方陣は無く、黒い扉がポツンと立っていた。

 固まっている俺の左手をシオンが握る



「…いくの?」


「ああ」



 ここまで来たからには行くしかない。シオンの手を握り返し、右手でドアノブを回した。





 扉の向こうには黒い床と白い壁の空間が広がっており、大きさは体育館ほど。そんな空間の中央に灰色が立っていた。





 着ているコート、服、髪の毛、肌。何から何まで灰色なそいつは俺と同じ顔をしていた。

 

 あれは、俺自身だ。




「はじめようか」




 灰色の俺が、俺と全く同じ声を発すると同時に剣を抜いた。

 俺も剣を抜き、構える。シオンも弓を絞る。



 同時に、同じ速度で走り出した。 




 斬りつけ、矢を放ち、魔法を撃つ。

 斬り返し、矢を避け、魔法を相殺される。


 肩口を斬ると脇腹を斬られ、魔法は同じ威力のもので相殺され、同時に仰け反る。

 こいつと俺の実力は全く同じだ。




 つまり、勝てる。


 後ろのシオンにアイコンタクトを送る。シオンは支援をやめ、一つの矢を取り出した。



 空気の壁をぶち破り、間を詰める。


 斬り上げ、防がれ、至近距離で魔法を暴発させる。


 爆発による煙の中、回復薬を口に含み、剣を振る。


 互いに空間すらも斬り裂く速さで剣を振ったため煙は吹き飛び、カマイタチで互いに傷を負う。



 口に含んだままの回復薬を飲み込み、剣を振り下ろすことで鍔迫り合う。

 たった数秒でいい。力を入れ、この均衡状態を保つ。


 



 シオンの放った矢が、背中から俺の右胸を貫いた。


 速さにのみ特化させた矢がそのまま俺を貫通し、灰色の身体へと突き刺さる。俺を貫通したことにより速さを失い、中途半端に刺さった矢に向けて掌底を打ち込む。


 追加の攻撃を喰らい、大きく仰け反った身体に向けて剣を振りぬいた。






「           おめでとう」


 そう言い、灰色は膝を床についた。








 あっけない、実にあっけなかった。戦闘時間は十分にも満たない。だがそれも当たり前だろう。



 灰色の実力は俺と同じなだけで、俺とシオン二人分ではない。

 武器と防具は全く同じ強さであったが、道具は持っていない。


 とはいえシオンがいなかったら絶対に勝てなかっただろう。貫通した胸も回復薬の効果で治り始めている。




「終わったの?」


「たぶんな」



 シオンの問いにはそう答えるしかない。



「あっけなかったね…」


「最後って言うモンは大体がそんなモンさ」



 人だって死ぬにしても、物が壊れる瞬間ってのも案外あっけないものだ。そう考えるとまさに最後にはふさわしい戦いだと思える。



 灰色の死体が砂となり、やがてガラスが割れるかのようにすべてが壊れ始めた。


「そろそろ行くぞ」


「うん」


 シオンの手を取り、左手で術式を展開する。

 この世界、時空の狭間をさまよっている箱庭世界の中から脱出することは出来ない。だが箱庭世界が無くなり、狭間へと流されれば異世界へと入ることが出来る。そのときに近くの異世界へと誘導するように、入った際に大空へと投げ込まれないように術式を作る。




「外に出たら、何をするの?」


「とりあえず、飯でも食いたいな」



 世界が崩壊するまでの数十秒の間でそんな話をした。


 


 そしてすべてが崩れ落ちる瞬間、



「な――――――」





 何かに術式を書き換えられた。







 目を覚ますとそこは、まるで高級ホテルのような部屋で立っていた。目の前には小さな装飾の施された高級そうなテーブルと椅子。そのチェアに座り、紅茶を啜る金髪の美青年がいた。



「やぁ、ユト君、シオン君」


 金髪は紅茶をテーブルに置き、


「自己紹介をしよう」


 椅子から立つ。


「僕の名はゼロ。気軽にゼロって読んでくれ」


 そしてにっこりと敵意の無い笑顔を浮かべながら、自分の名を言った。



「とりあえず座ってくれ。説明をしてあげるから」


 指をパチンと鳴らすと、音も無く二つの椅子が現れた。




「君が言う、箱庭世界のことを」



 神ですら閉じ籠められ、逃げることの出来ない箱庭世界。その存在を知り、俺の術式を書き換えた本人。そんなことが出来るのは創造神、その中でもかなり高位の存在だろう。




 1420年、創造神・ゼロと接触した。




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