グレー
シオンが泣き止むまで待っているつもりだったがいつまでも泣き止む気配が無く、魔物の気配を感じたので魔法で眠らせた。考えて見たら数年感情を殺していたんだ、今までの感情が涙としてすべて溢れ出たのかもしれない。
睡眠魔法の効果は72時間、シオンが目覚める時には洞窟に帰っているだろう。
―
「おはよう」
上半身を起こしたシオンに一言、挨拶をする。
「左手は…」
シオンの問いに俺は左手を握り、開く動作を繰り返し再生したことを伝える。
「よかった」
そう言って安堵の顔をした。シオンは気づいてないけど感情がしっかりと顔に出ている。
「とりあえず、飯にしようか」
何かを言いたそうなシオンに串に刺した焼き魚を押し付ける。食事をして少しでも落ち着いて欲しい。
こうしてみていると、焼き魚を本当に丁寧に食べているのが分かる。俺みたいにぽろぽろこぼさないし何度も噛んで味わっているのが見ているだけで分かる。
俺もシオンのペースにあわせて食べ終える。そして水筒の水を飲んで一息ついたあと、ポツリポツリとシオンは自分の世界のことを話してくれた。
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シオンは数百年に一度の刻印を持って生まれたせいで、その地方を治めている大精霊の生贄となるのが決まっていた。それゆえに、教会へと強制的に引き取られたため親とは一度も会ったことは無かった。
名前も付けられず、常に部屋に軟禁されている状態であり、部屋に訪れるのはメイドか教師のみ。拒否権も無く勉強と礼儀作法と儀式の手順を教え込まれた。
8歳の頃、窓の外にある庭からとある同い年の少女に出会い、初めて無垢の瞳の色を覚え、その色に惹かれた。彼女と週に一回、手紙を投げ入れることで話をしていた。が、数ヵ月後、彼女はぱったりと姿を現すことは無くなった。
廊下から聞こえるメイド達の話し声から、彼女は処刑されたことを知った。
まだ8歳という幼い頭でも、自分と関わったせいで会えなくなったことを自覚し、もう自分から人に関わることが無いよう、感情のない人形になることを選んだ。
部屋の窓から街の人たちを見る。街で働いている人たちは皆目に生気が無く、まさに生かされているとしか思えないものだった。
そして十六歳になった日、生贄となるべく魔法陣の間へと足を運んだ。
巨大な召喚陣が床に刻まれた部屋へと入り、魔法陣の真ん中で神官と共に呪文を唱えた。心の中で、世界を怨みながら。
気が付くとシオンは真っ白な空間にとある女性と二人だけでいた。そしてその女性はこう話した。
「私はあなたのいる世界を創りし神、ルナです」
やがてその創造神、ルナは話し始めた。
千年前の人間は皆、優しく穏やかであった。
別種族とも共に共存し、平和にすごしていたはずだった。
いつしか別種族は人間達から迫害され、魔族となり魔界を造った。
欲にまみれた王が魔族の王を悪という概念を植え付け、領地欲しさに戦争を繰り返した。
この強欲にまみれた世界を作り直したい。だが、神は人間界へと直接手を下せない。
だが、一つだけ手はある。それこそ、いつしか人間が勝手に作り出した大精霊への生贄制度。
この世界を作り直すために、手を貸して欲しい。人の本質を見分けられるその眼で、後の世界に残すべき人物を餞別して欲しい。と
シオンはその願いに頷いた。
そしてシオンは神の分身と融合し、そこで記憶が途切れたらしい。
―
「話してくれて、ありがとう」
シオンは小さく、「うん…」と答えてくれた。
さて、次だ。
「聞きたいことがある
シオンは、何故あんなにも強くなろうと焦っていたんだ?」
ずっと気になっていたことをストレートに聞く。
少し躊躇っていたがすぐに決意をして、話した。
「私は、守られているだけは嫌だった。ユトと一緒に戦いたかった。ユトと一緒にいたかった」
最初は間違いから出た言葉だった。でも、前から俺が聖域から出ていったきり帰ってこないんじゃないかとよく考えてたらしい。もし冒険を本格的に続ければその考えが本当になって、また一人っきりになってしまうかもしれない。だから常に俺のそばにいたかった、と。
ならば、
「もし、俺と冒険を続けたら四肢欠損は日常茶万事になるぞ、それでも戦うか?」
その問いに、シオンは力強く頷いた。
「じゃぁ、特訓しよっか」
俺の言葉にシオンは「えっ」と言葉を漏らした。
「どうした、特訓しなくちゃ俺と戦えるようになんねーぞ」
その一言にシオンは
「一緒に戦うこと、反対されると思った…」
と話した。だから俺は、自分が心に決めたことを素直に話した。
「俺はシオンが望んだことを叶えるさ。シオンが心配してくれていたことに気づけなかったこと。キャルラとの戦いで泣かせてしまったことの罪滅ぼしと思ってくれ。」
言っておきながら、我ながら恥ずかしい。でも、これが俺の本音だ。
「本当に、叶えてくれるの?」
「あぁ。」
シオンが、話す。
「じゃぁ、お願い。絶対に死なないで」
「あぁ」
もとから死ぬ気など無い。シオンを一人にさせてくないから。
「もう一つお願い。私の言葉に、答えて」
シオンはそう言い、顔を赤くしながら話した。
「私は、 ユトが好き」
これに対する答えはただ一つ
「俺もだよ、シオン」
シオンと出会って7年目、ようやくお互いが思っていたことを、口に出した。
やっと結ばれました