一週間後
今回はシオン視点
焚火の明かりが聖域特有の光を塗りつぶしていく。焚火の上の鉄板からは大きなお肉が油の弾ける音と空腹を刺激する香りを放っている。空腹なんて無いけど。そしてその肉をユトが大きな葉に包んで渡してくれた。
「「いただきます」」
その一言と共にお肉に噛り付く。昨日食べたお肉とは違い柔らかく、噛み千切るというよりか噛み切る感覚になっている。味付けは塩のみのはずなのにしっかりと味が付いていて、私の世界で食べていた香辛料漬けの料理とは程遠いほど美味しく、素材の味が噛むたびに口の中で広がった。
「おいしい」
「それはよかった」
いつのまにか思っていたことが口に出ていたようで返答をされてしまった。恥ずかしい。
恥ずかしいと思っても、感情を顔に出さないことに慣れてしまって、表情を出そうにも顔が言うことを聞いてくれない。無表情なのが自分でも分かる。
あのときの、シオンという名前を貰ったときの微笑を。あの本物の笑みをもう一度出せるときは来るのだろうか。
―
焚火を間に挟むようにしてベットが置かれている。視線の先にあるベットには静かな寝息を立てて眠っている、少し中性的な顔立ちのユトがいる。
ユトの眼はあの世界の人たちとは違う。王様のように色欲と傲慢で溢れた眼でもない。ほかの巫女の嫉妬にまみれた眼でも、一般人の恐怖と畏怖で塗り固められた眼でも無い。ユトの眼は孤独と悲しみと優しさを知っている目だった。
主の記憶のことを話しているときは悲しみの眼をしていた。話を聞くに主達は皆が決まって負の感情を最後に心に刻んでいるらしい。
嫉妬、孤独、絶望を心に刻み悲しみのうちに死んだ主達と
殺戮、虐殺、監禁と死んでからも人を傷つけることを望む主達
そんな救われない最後を送った主に、人を傷つけることしか考えられなくなった主に悲しみを抱いていた。
でも気になるのはそのことではなくユトが日本での生活を話しているときの眼。ユトは幼馴染と三人で充実した日常を送っていたことは眼をみて本当のことだと分かった。
でもその眼の中に、かすかに孤独の色を見た。それも私と同じ、誰かと距離を置かれる、実際に孤独を感じたことのある者の眼であった。
ユトは、「シオンの世界のことは言いたくなったときに話してくれればいい。でもいつかは聞かせてくれ。」と言ってくれた。ならば明日にでも言ってしまおう。ついでにユトのことをもっと詳しく聞きたい。
でも、やっぱりどこか怖い。
―
眼を覚ましたときには、外はとっくに明るくなっていた。そして朝の鍛錬を終えたユトが剣の手入れをしている。話してしまうなら今なのだろうか、今は邪魔になるんじゃないだろうか。
声を出そうとしてもためらってしまう。声が喉まででかかってもひっこんでしまった。そんなことを繰り返して三回目か四回目、おもむろにユトが立ち上がり、
「ちょっとそこらへん行ってくる」
そういって洞窟の出口へと歩き始めたのをみてからようやく、声が出せた。
「待って」
なんて言い出せばいいのだろう。
「私の…」
言ってしまっていいのだろうか
「私に…」
私に?
「私に、戦いを教えて」
…、間違えた。




