始まりの始まり
ぶっちゃて言えばユトの年齢は700ちょっと+17歳です
夜が明け、朝日のように淡い光が差し込む時間になった頃、少女が目を覚ました。
上半身を起こして辺りを見回し、俺を見つけギョッとした反応を表した。可愛いなおいっ。
俺は少女にむけてゆっくりと話かける。
「大丈夫か、話は通じるか?」
どうにか噛まずにしゃべれたことに安堵しながら反応を待つ。そして少女の小さな口から出た言葉は
「 」
俺には通じなかった。やはり世界ごとに言語が違うらしいのか意思疎通がはかれない。そのことを少女も認識したのか少し落ち込んだ顔をしている。
そんな少女にB玉サイズの蒼玉のネックレスを渡し、首にかける動作をして教える。そして自分はイヤリングタイプのものを右耳に付け、話かけた。
「あー、あー。聞こえるかい?聞こえたら返事して」
すると少女はビクンッと体をはねて驚いたあと、返答をしてきた。
「はい。聞こえます」
少女の声は凛として透き通る可愛らしい声だった。
「これは魔道具なの?それにここはどこなの?」
「ああ、その魔道具は自作だよ。ここがどういう場所かはあとから話すさ。その前に一つ聞いていいかな」
少女の質問に答えたあと、こちらも質問をぶつける。
「聞くって言うにも簡単なことだよ。君の名前のを教えてほしい」
自分の名前を言うだけ。少女にはそれが難しく、まさに不可能なことであった。
「私には、名前が無い。周りの人間は私のことを巫女様といっていた」
巫女様と呼ばれ、最後には女神となったのか。きっと生まれてきたときから生贄にされる運命だったのだろう。
「そうか。ならばしばらくは君、って呼ぶから。あとこれからここがどういう場所かを説明するよ。」
少女はこくんと頷くのを確認し、この箱庭世界のことと俺の葛藤を一から話し始めた。
―
俺の話を聞き終えた少女の目にはどこか開放されたかのような光があった。こんな魔物ばかりの世界で男と二人っきり、普通は嫌がるとか絶望とか感じるんだろうけど、この状況が救いに思えるほど元の世界が苦痛だったのかもしれない。そのことについては彼女から話してくれるまで待とう。
「ねぇ」
少女から、話しかけてくる。
「あなたの名前を教えて」
自分から名前を聞いといて自分は名乗っていなかったな。失礼にもほどがある。
「俺の名前は雪宮和人っていうんだ」
「ユキミヤ カズト…」
少女は小さく俺の名前を繰り返した。だがその発音はたどたどしい。
「やっぱりこっちの名前はいいづらいか?」
俺の問いかけに少女は小さく頷いた。やっぱり日本の名前は言いづらいか。
「ならユトって呼んでくれ。名前の最初と最後をくっつけただけだが言いやすいだろ」
少女は頷き、俺にあることを願った。
「ユト、お願いがあるの」
「なんだい?」
その願いは難しく、少女のその後にも関係することであった。
「私に
名前をつけて」
名前をつけて、と。
「少しまってくれ、いい名前を考える」
唸りながら、頭を抱えながら考える。
少女の名前とは。ゲームなんかじゃ大体デフォルトの名前使っていたし。あんまり女キャラ使わないし。そもそもゲーム感覚で名前をつけるのは失礼だろうが俺ッ!
眼をつぶり、唸っている俺は惜しいことをしたのだ。あのとき、少女は唸っている俺を見つめ初めて微笑んだのだ。だが、そのことを俺は知らない。
まさに頭の上に電球が出たかのように一つの名前が脳裏に浮かび、その名前以外を考えられなくなり、少女へと伝えた。
「シオン。今日から君の名は、君はシオンだ。」
シオン、それが俺の名づけた名前。
やがて少女――シオンはその名を口の中で繰り返し、うなづいた。
「私はシオン。これからよろしくね、ユト」
シオンはそういい、小さく微笑んだ。その微笑につられ、俺も久しぶりに顔の表情筋をめいっぱい使って微笑み、
「よろしくな、シオン」
二人して微笑んだ。
あとから聞いた話だけどシオンは十六歳と一個年下なだけだった。少女って言ってごめん。