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称号:モノクロ・神殺し  作者: ヘーガ
一章 箱庭
10/23

少女

 目を覚ます、といったほうがいいだろうか。女神との戦闘後、聖域まで無意識のうちに帰ってきていたようだ。

 目を覚まし、。意識を覚醒させたにもかかわらず思考することは許されない。体をバラバラにするような激痛が思考をさえぎるのだ。


 闇の世界。聖域内にもかかわらず光がないのは単に瞼を閉じているからだ。だが、瞼を開くことも、手足を動かすことも出来ない。まるで首と胴体がつながっていないかのように脳からの信号を体へ伝えることはなく、本能で呼吸をしながら魂が再生するのを待つ。



 その痛みはまるで筋肉が断裂するかのように鋭く

 骨折の如く体の内側から突き刺すように

 火傷のような継続的な激痛が全身を回っている



 だが、発狂することも動くこともさせてくれない。



 そう、これは丸薬の副作用により千切れ、腐り、黒くなった魂が再生している反動だ。

 


 もともと丸薬は主たちの記憶に有った秘術、禁術、黒魔術と呼ばれるものの中から効果の高いものを厳選し、丸薬としたものを七個も服用したのだ。どれも一度つかったら必ず死に至るようなもの同時に使った副作用でボロボロになった魂を、聖域の効果で肉体の情報を元に、残った魂の情報を元に再生をする。つくづく聖域に感謝しないとな、と考えたが激痛により頭の中が真っ白になった。

 約3時間、普通なら発狂するであろう激痛の波をただ耐えることしか許されない。





 頭の中で何かがカチリとはまる音を聞いた。その音を境に痛みが引いていき、目を開け、上半身を起こす。どうやら床で寝ていたようでどうも背中が痛い。起き上がろうとすぐ横の簡易ベットに手を掛け、何かに触る感覚を手のひらに感じた。


 起き上がり確認する。今、自分が触れたものは女神から出てきた白髪の少女の手のひらであった。どうやら俺は律儀にも少女をベットに寝かせてから倒れたらしい。




 っというか



 やべぇ…



 この娘 全裸だ…




 少女は女神から出てきたときと同じ一糸纏わぬ姿で寝ていたことを確認して思わず顔が熱くなる。きっとこのときの顔は真紅竜の瞳よりも真っ赤になっていたに違いないだろう。とりあえず自分の上着をかぶせ少女が着られるものを探す。だが、ズボンは見つからず、雪山世界のときに用いた灰色のロングコートのみ。




(無心になれ無心になるんだ。目の前の出来事に目にそらせ、思い出せ。蟷螂への恐怖を。初めて魔物を殺したときの嫌悪感を。はじめて主と会ったときの絶望を)



 なるべく関心を持たないように、若干過去のトラウマを引きずり出しながらも少女にロングコートを着せ、前を閉める。そしていつもは背中から掛けている剣を左腰掛け、軽く準備運動をする。

 体操を終えると俺は少女を背におぶり、聖域から走り出した。





 最小限にまで気配を消し、巨竜の下を潜り抜け、前の世界へと戻る。目の前の大猿を踏みつけながら木へとのぼり、木から木へ飛び移りながら駆け巡る。大きな湖を身体能力だけで水面を走りきる。走りを邪魔する翼竜の顔を斬り付け、怯んだところを駆け抜ける。剣を手から離して上に乗り、魔法を撃った反動で雪山を駆け滑る。進行方向一直線に存在する枯れ木すべてを斬り捨てながら走る。巨大蝙蝠三匹をまとめて切り伏せる。


 前の世界へと戻るたびに自分の成長と実力を感じていた。



 こうして俺が目覚めた山の世界にやって来た。5時間走りっぱなしでさすがに疲れたため歩く、少女に反動が来ないように。

 五匹の緑狼をすべて切り伏せ、牙兎をつぶし、巨大蟷螂の頭を斬り飛ばしながら魔物たちに懐かしさと、魔物らを簡単に切り伏せた己の実力に静かに高揚していた。


 俺がわざわざ最初に目覚めた洞窟まで戻ってきた理由は二つ。設備が充実していることと、少女になにかあろうともここの魔物ならさっきのように素手でも十分に相手できるからだ。さすがにあの森の世界で少女を魔物から助けるとしたら腕の一本は犠牲にでもしないとだめだろう。逃げるとしたら命の覚悟もしないといけない。保険に保険を重ねてこの世界へと戻ってきたのだ。



――





 割と趣味で作った上質な毛皮のベットに少女を寝かせ、今回も割りと大きめな心の古傷を開きながらもスペアの服を着せることに成功した。

 少女の規則正しい寝息をBGMに静かにとある魔道具を作りながら少女との意思疎通をちゃんとこなせるか心配に思う。




 なんせ人と会うの700年ぶりだからな。しゃべり方を忘れてるかもしれないな。

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